雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

親不孝の天罰 ・ 今昔物語 ( 20 - 32 )

2024-06-19 08:13:03 | 今昔物語拾い読み ・ その5

      『 親不孝の天罰 ・ 今昔物語 ( 20 - 32 ) 』


今は昔、
古京(コキョウ・藤原京、飛鳥京を指す。)の時に、一人の女がいた。孝養の心がなく、母を養おうとしなかった。

その母は寡婦で、家には食糧も乏しく、ある時、家で飯を炊かなかったので、「娘の家に行って、飯をもらって食べよう」と思って訪ねて行き、「ご飯はあるかい。食べさせておくれ」と言うと、娘は、「今のところ、夫とわたしの分はありますが、お母さんに食べていただくご飯はありませんわ」と言って与えなかった。
母は幼い子を連れていた。その子を抱いて家に帰ろうとしたが、その途中で、道端を見ると、包まれたご飯があった。母はそれを拾い、家に持ち帰って、食べたので飢えが治まった。
「今夜は食べる物がなくてひもじい思いをするだろう」と思っていたので、これを食べることが出来たので、喜んで寝た。

ところが、その夜の真夜中を過ぎた頃、誰かが戸を叩いて大声を出して、「お前の娘が、今大きな声を挙げて『私の胸に釘が刺さっている。今にも死にそうだ。助けてくれ』と叫んでいるぞ」と告げた。
母はその声を聞いたが、真夜中のことなので、すぐには行かなかったので、その娘は遂に死んでしまった。
その為、母と会うことなく死んだのである。

これは、実に愚かな事である。母に孝養を尽くすことなく死んだので、後世において、また悪道(アクドウ・・死後に生まれ変わるとされる六道のうちの、地獄・餓鬼・畜生の三道をさす。)に堕ちることは疑いない。
飯がなければ、自分の分を譲って母に食べさせるべきなのに、自分と夫の二人して食べて、母に食べさせないまま死んでしまったことは、これ、天罰を蒙ったからである。その日のうちに、報いを受けたとは哀れなことである。

この世に生を受けている者は、やはり、ぜひとも父母に孝養を尽くすべきである、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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