雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

儚きことばかり

2019-03-23 08:18:33 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語 
               儚きことばかり

故関白殿の忌日とて、中納言の君がお勤めをなさいましたが、若い女房などは、
「ねえ、その数珠を貸して下さいな。私もお勤めをして、関白さまの結構なご運にあやかりたいのです」
などと、まるで楽しげに笑ったりしているのです。まあ、それでも、お勤めはお勤めですから結構なことではありますがねぇ。
中宮様も、その騒ぎをお聞きになって、
「あの世で仏になられたのですから、このような世で関白でいるよりはましでしょう」
と、微笑まれました。私はそのご様子に感動しまして、大夫殿をひざまずかせた時の故関白殿の素晴らしさを繰り返し申し上げますと、
「また、そなたの贔屓の人の話ね」
と、お笑いになられました・・・。

この時私は、あの時の故関白殿の御姿がいかに素晴らしかったかを申し上げたのですが、中宮様に、まっすぐには伝わらなかったようでございます。それが残念で仕方がございません。
まして、私が道長殿贔屓などといわれるのも悔しうございます。私にとって誰よりも大切なのは中宮様であり、その御父であられる故関白殿でございます。道長殿と親しくお話させていただくこともございましたが、それは、あの方を尊敬するに足るお方と思ったからでございます。
今日の道長殿の御姿を御覧になられたら、中宮様もご納得いただけると思うのですが・・・。

何もかも、儚きことばかりでございます。


(第百二十三段・関白殿黒戸より出でさせたまふ、より)

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