琴の音が語る ・ 今昔物語 ( 5 - 12 )
今は昔、
天竺に国王がいらっしゃった。五百人の王子を持っていた。
国王が行幸される時、この五百人の王子を行列の先に立てていらっしゃったが、一人の比丘(ビク・仏僧)が現れて、この五百人の王子が進む前を琴を弾奏しながら渡った。
その時、五百人の王子は、一斉に進み出てこの比丘に会った。すると、五百人の王子はすぐさま出家して戒を受けた。
国王はその様子を見て、驚いて大騒ぎされた。
その時、一人の大臣が国王に申し上げた。
「王子方の御前を一人の比丘が琴を弾奏しながら渡りました。この琴の音を聞いて、五百の王子方はたちまちのうちに出家なさいました。その琴の音は、『有漏諸法如幻化、三界受楽如空雲』(ウロショホウニョゲンカ、サンガイジュラクニョクウン・・・穢れたこの世の一切の現象は実体のない幻のようなものである、生きとし生ける者がこの世で味わう安楽は空の浮き雲のように空しくはかないものである。)と言っておりました。この琴の音を聞いて、五百の王子方はたちまち生死の無常(ショウジのムジョウ・生あるものは必ず死に、常在不変の存在は何一つない。)を観じ、この世の受楽を厭って出家なさったのです」と。
その琴を弾奏して渡った比丘は、今の釈迦仏である。その五百人の王子というのは、今の五百人の羅漢である、
となむ語り伝へたるとや。
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