雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

卑しげなるもの

2014-09-24 11:00:31 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百四十二段  卑しげなるもの

卑しげなるもの。
式部丞の笏。
黒き髪の筋わろき。
布屏風の新しき。古り黒みたるは、さるいふかひなきものにて、なかなか何とも見えず。新しう仕立てて、桜の花多く咲かせて、胡粉・朱砂など彩りたる絵ども描きたる。
遣戸厨子。
法師のふとりたる。
まことの出雲筵の畳。


下品なもの。
式部丞(シキブノジョウ)の笏(シャク)。
黒い髪の毛筋がよくないもの。
布屏風の新しいもの。古くなって黒ずんでいるものは、もともとどうというものではないので、かえって気にならない。しかし、新しく仕立てた布張り屏風に、桜の花をたくさん咲かせて、胡粉・朱砂(ゴフン・スサ・ともに彩色用)などで彩色した絵を描いているもの。
遣戸(ヤリド・引き戸のこと)の厨子。
法師が太っているの。
本当の出雲筵の畳。



「卑しげなるもの」を下品なものとしましたが、その内容からは、少納言さまがひどく軽蔑しているものというものでもないようです。
内容を若干補足させていただきますと、
式典などを担当する式部省の丞(三等官。六位相当)の持つ笏は、その裏に式次第などの備忘用の紙片を貼り付けているが、何度も剥がしたり張ったりしているので汚くなっている。
絹張りに対して布張り(麻や葛などの布)の屏風は安手のものなのに、大げさな絵などで飾り立てるのはむしろ下品だという意味で、少納言さまらしい観察です。
厨子(収納箱)の扉は観音開きが普通で、引き戸は下品に見えたのでしょうか。
出雲筵の畳が下品というのは意味がはっきりしません。「目が粗い」とか「『まことの』ではなく、『まこもの』が正当で『真菰』製は質が落ちる」などの説があるようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする