雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

愛しきもの

2014-09-22 11:00:12 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百四十四段  愛しきもの

愛(ウツク)しきもの。
瓜に描きたる乳児の顔。
雀の子の、鼠鳴きするに躍り来る。
二つ、三つばかりなる稚児の、いそぎて這ひ来るみちに、いと小さき塵のありけるを、目ざとに見つけて、いとをかしげなる指にとらへて、大人毎に見せたる、いと愛し。
     (以下割愛)


かわいらしいもの。
瓜に描いてある乳児の顔。
すずめの子が、チュッチュッと鼠の鳴き声のような声で呼ぶと、ピョンピョンとやってくるの。
二歳か三歳くらいの幼児が、急いで這ってくる途中で、とても小さなごみがあるのを目ざとく見つけて、とてもかわいい指でつまんで、大人たちに見せているのは、とてもかわいらしい。

頭を尼削ぎ(アマソギ・髪を肩のあたりで切りそろえたもの。尼と同じような髪形なのでこう呼ばれた)にした幼女が、目に髪がかぶさっているのを、掻きのけるようなことはしないで、顔を傾けて物などを見ている姿は、とてもかわいらしい。
大柄ではない殿上童(公卿の子弟で、元服前に清涼殿の殿上の間に作法見習いに出仕している童)が、装束を立派に着せられて歩き回っているのも、かわいらしい。

人形遊びの道具。
蓮の発芽したばかりの浮葉のとても小さいのを、池より取り上げたもの。
葵のとても小さいもの。
何であっても、小さなものは、とてもかわいらしいものです。

とても色白で、ふっくらとした乳児の二歳(数え年)ぐらいなのが、二藍の薄物などの着物の丈が長くて、たすきで結んでいる姿ではい出してきたのが可愛く、また、小さな幼児がまるで袖ばかりが目立つのを着て歩き回っているのも、みなかわいらしいものです。
八つ、九つ、十ばかりの男の子が、声はいかにも幼げで、漢籍などを読んでいるのも、とてもかわいらしい。

鶏の雛が、足を長く出したみたいに、白く愛らしい様子で、着物を短く来ているみたいに、「ぴよぴよ」と、やかましく鳴いて、人の後先につきまとって歩くのも、おもしろい。また、親鳥が一緒に連れ立って走るのも、みなかわいらしい。
かるがもの卵。瑠璃製の壺。どれもかわいらしい。



かわいらしいものが数多く列記されていますが、いずれも現在の私たちが十分理解できるものばかりです。
さすがの少納言さまも、このようなテーマになると優しい雰囲気が感じられます。
コメント
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