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風のように

ゆらり 気ままに 過ごすとき
頭の中は妄想がいっぱい
錯覚の中で生きるのが楽しみ

銀杏⑤

2020-11-23 03:38:01 | こころ
廊下づたいに聞こえる物音で青年は目が覚めた
耳を澄ますと騒がしさのなかに住職の声

大丈夫か?大丈夫か?と聞こえる
昨夜[家内の具合が悪くて]と言っていた

青年は頭陀袋を引っ提げると庫裡へと向かった
すみません!すみませんと今度は庫裡の玄関ではなく

渡り廊下の庫裡の戸の前で何度も声をかけた
やっと出てきた住職は仏頂面で[はばかりなら▪▪]と

[奥様の具合が悪そうな気配が本堂に伝わって来ました。
私は医者です。もしよければ診させて頂きたいと▪▪]

住職は表情を一変させ奥に案内した
[何も考えずに旅して来い]と父に進められて出た旅

医者であること両親のこと祖父や兄のことなど
何も念頭に置かず旅に出る

迷ったけれど聴診器を頭陀袋にいれた
病人は横になることも苦しいらしく

布団のうえに丸まって座り辛さに耐えている
[どうされました?]という問いに

病人は苦しさの模様を喘ぎ喘ぎ答えた
仰向けに寝てはいられない

右脇腹を下に丸まるか坐位で丸まる
この痛さは尋常でない

車の手配ができる所まで小一時間
リヤカーに布団を敷き病人を乗せて

手伝い一人も加わって青年と住職と
病人は山を降りることにした



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