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風のように

ゆらり 気ままに 過ごすとき
頭の中は妄想がいっぱい
錯覚の中で生きるのが楽しみ

粋な成吉っつぁん

2020-06-16 19:28:18 | こころ
成吉っつぁんが戦地から戻ってみると
父は死んでいた

家は従姉家族が住まい
成吉っつぁんの姿を幽霊を見るかの如く眺めた

戦地で踏んだ地雷の破片の幾つかは取り出せないまま
時々成吉っつぁんを苦しめた

義眼の片目はよく見ないと
義眼だとは気づかないほど手術は成功していた

痩せこけてはいるが五体満足に帰って来た
父に会いたいと戻ってきた

父の最後の一部始終を聞いて
成吉っつぁんは従姉夫婦に頭を下げた

従姉が田畑の一部と農作業小屋を成吉っつぁんに
戻したいというのを固辞して

数日ののち住み込みの職人見習いの仕事を見つけて
先祖の位牌を包んでもらい家を出た

戦地で死の淵を彷徨い生きた
ほとんどの戦友を亡くし成吉っつぁんは生きた

それこそ罪だった
帰ってきた罰だと家を出た

位牌は懐にある
墓地に行けば埋葬された先祖の墓があった

まだ盛り上がり木の墓標の建つ父の墓
その隣に母の墓

祖父母の墓の間に幼く死んだ叔父たちの墓
幾つもの墓に感謝と別れを告げた

先祖の幾つもの墓のひとつひとつを
愛おしく撫ぜて回った

なるようになると故郷を出た
ケセラセラという気分だったに違いない
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成吉っつぁんの仕事

2020-06-16 02:23:28 | こころ
成吉っつぁんの仕事は桶職人見習い
桶職人とは桶や樽の製造職人だ

木を割り板にする
同じような寸法の板を何枚も作り

その板に緩い丸みをもたせ
何枚も何枚も横並べにして円筒形にするのだ

釘や接着剤を使わずに樽や桶は作られる
その形状を保つのは箍だ

長い竹を鉈や竹割で割り滑らかに削り
円形の箍を編み並べた桶板に咬ます

酒樽
漬物桶
お櫃
風呂桶
手桶
脚濯ぎ
防火用水桶
寿司桶
たらい
醤油樽
肥樽

酒造用の大きなものから
手桶まで大小さまざま形も様々

板も竹も成吉っつぁんの手に掛かれば
箍を編むときなんざ

割った竹が新体操のテープのように
よじれを戻し踊る踊る

ばらばらの緩いカーブの板はゆるみなく
その張力は箍で止められ樽や桶になる

しかし
成吉っつぁんが一人前になったころ

いいえ
戦後その仕事についた頃には桶屋は斜陽産業

さまざまな樽や桶はプラスチック容器へと変わっていった
それでも桶にこだわる漬物屋さんや酒屋さんの

需要にこたえ成吉っつぁんの仕事は桶修理と
近代化した酒蔵や漬物工場から引き取った桶の転売

そのうち大樽は焼肉店の個室になったり
映画製作の時代劇のセットとして

桶そのものの使用目的は本筋から離れて
古いものがまっさらの桶よりも重宝された


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