暮れてゆく向かいの山里を眺め慌てない旅にしても
今日の宿の段取りもせずに眠り込んだ自分を悔やんだ
猪や熊に出会うかもしれない
谷に落ちるかもしれない暗闇をおもい青年は
走って土塀に立て掛けた自転車を取って戻ると
サクサクと落ち葉を踏んで本堂の前を通り庫裡を探した
銀杏②
「お前は医者になれ!学費は俺が出す」と言う
兄の言葉に反発しながらも青年は医学の道に進んだ
寺の過去帳によれば16代目に当たる兄は
青年にとって血の繋がらない祖父の後継者であった
後妻の子である青年は兄とは隔てられて育った
それは青年が生まれた家と血縁がないというよりも
兄が長兄であるということでしかないとしても
生活のすべてに隔たりを感じて育ってきた
父は婿養子で最初の妻はこの家の跡取り娘であった
娘二人と息子一人が生まれて数年
素人ながら受け継いだ家業が面白くなり始め
使用人たちの信頼を得るようになった頃
妻はあっけなくこの世を去った
舅の悲しみは相当なものであった
妻を亡くした婿養子は後妻を迎えた
そして青年が生まれた
異母兄弟と歳の離れた青年とその母は
親戚や使用人たちからうける他の兄弟との
差別を感じて過ごしてきた
老いた血の繋がりのない祖父だけがこの孫を
わが孫として接し続けた
青年の記憶に残る祖父は
家業に忙しい父母に変わり幼い青年を
側において話し相手とした
今日の宿の段取りもせずに眠り込んだ自分を悔やんだ
猪や熊に出会うかもしれない
谷に落ちるかもしれない暗闇をおもい青年は
走って土塀に立て掛けた自転車を取って戻ると
サクサクと落ち葉を踏んで本堂の前を通り庫裡を探した
銀杏②
「お前は医者になれ!学費は俺が出す」と言う
兄の言葉に反発しながらも青年は医学の道に進んだ
寺の過去帳によれば16代目に当たる兄は
青年にとって血の繋がらない祖父の後継者であった
後妻の子である青年は兄とは隔てられて育った
それは青年が生まれた家と血縁がないというよりも
兄が長兄であるということでしかないとしても
生活のすべてに隔たりを感じて育ってきた
父は婿養子で最初の妻はこの家の跡取り娘であった
娘二人と息子一人が生まれて数年
素人ながら受け継いだ家業が面白くなり始め
使用人たちの信頼を得るようになった頃
妻はあっけなくこの世を去った
舅の悲しみは相当なものであった
妻を亡くした婿養子は後妻を迎えた
そして青年が生まれた
異母兄弟と歳の離れた青年とその母は
親戚や使用人たちからうける他の兄弟との
差別を感じて過ごしてきた
老いた血の繋がりのない祖父だけがこの孫を
わが孫として接し続けた
青年の記憶に残る祖父は
家業に忙しい父母に変わり幼い青年を
側において話し相手とした