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風のように

ゆらり 気ままに 過ごすとき
頭の中は妄想がいっぱい
錯覚の中で生きるのが楽しみ

銀杏(続)

2019-12-13 07:14:09 | こころ
暮れてゆく向かいの山里を眺め慌てない旅にしても
今日の宿の段取りもせずに眠り込んだ自分を悔やんだ

猪や熊に出会うかもしれない
谷に落ちるかもしれない暗闇をおもい青年は

走って土塀に立て掛けた自転車を取って戻ると
サクサクと落ち葉を踏んで本堂の前を通り庫裡を探した


銀杏②

「お前は医者になれ!学費は俺が出す」と言う
兄の言葉に反発しながらも青年は医学の道に進んだ

寺の過去帳によれば16代目に当たる兄は
青年にとって血の繋がらない祖父の後継者であった

後妻の子である青年は兄とは隔てられて育った
それは青年が生まれた家と血縁がないというよりも

兄が長兄であるということでしかないとしても
生活のすべてに隔たりを感じて育ってきた

父は婿養子で最初の妻はこの家の跡取り娘であった
娘二人と息子一人が生まれて数年

素人ながら受け継いだ家業が面白くなり始め
使用人たちの信頼を得るようになった頃

妻はあっけなくこの世を去った
舅の悲しみは相当なものであった

妻を亡くした婿養子は後妻を迎えた
そして青年が生まれた

異母兄弟と歳の離れた青年とその母は
親戚や使用人たちからうける他の兄弟との

差別を感じて過ごしてきた
老いた血の繋がりのない祖父だけがこの孫を

わが孫として接し続けた
青年の記憶に残る祖父は

家業に忙しい父母に変わり幼い青年を
側において話し相手とした


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