パーティが終わり、晴己達は来客者を見送っていた。
「「斉藤むつみさん。」」
自分を呼ぶ声が左右から聞こえて、むつみは両隣を見た。
「すみません。お先にどうぞ。」
声を出した右側に立つ男性を、むつみは知らない。
「いいえ。どうぞ。」
左側に立つ声の主には、見覚えがあった。
「すみません。すぐに済みますので。」
むつみを挟んで会話をする2人の男性を、むつみは交互に見た。
「あなたに、お礼を言いたくて。」
「私に、ですか?」
見上げた先にある顔を、むつみは知らない。
「はい。私の」
「すみませーん。」
言葉を遮る大声の主が駆けて来る。
「あ、ごめんね、むつみちゃん。ちょっと悪いけど。」
久保は、そう言うと男性の腕を取る。
「さっきの商品ですけど、もう少し他の色も見せてください。」
「あぁ。構わないですが。」
男性が戸惑いながら、でも久保の声に負けている。
「早速ですね。これから。」
「え?これからですか?」
久保に引き摺られるようにして、男性が去っていく。
その後姿を見ながら、むつみは首を傾げた。
「いいのかな?話が途中だったみたいだけれど。」
むつみは振り向いた。
「多分…というか、私、あの方にお礼を言ってもらうようなこと、覚えがないので。あの…私に何か?」
見下ろしてくる彼を、むつみは不思議に思った。
「あ…いや。ごめん。似ていたものだから。いや…似ていないかな?」
「母にですか?」
彼は答えない。
「母には似ていないと思います。似ているのは髪だけです。」
「そうだね。髪が…とても。」
また、彼は黙る。
「むつみちゃん?」
瑠璃の声がして、むつみはホッとした。
例え碧の親しい知り合いでも、男性に見つめられるのは抵抗がある。
「今度、撮影を見においで。」
彼は背中を向けるが、すぐに振り向き、またむつみを見た。
「…監督さんと、知り合い?」
「ううん。あの時、お母さんのホテルで一緒に食事をしただけ。」
「行きましょう。」
瑠璃は怪訝に思ったのだろう。
むつみの手を取り、その場から離れた。
◇◇◇
「むつみちゃん。」
加奈子と杉山が香坂純也に連れられて会場を後にし、優輝と涼の姿も見えなくなった頃、鈴乃がむつみの名を呼んだ。
鈴乃と、彼女の夫である早川修司と、そして舞が並んで立っている。
「おねえちゃん。まいね、とってもたのしかったの。もっと、おねえちゃんと、おはなしがしたいの。また、あえる?」
舞の問いに、むつみは確信のない答えを返す。
「会えるわ。私も舞ちゃんと、もっと、たくさん、話がしたいわ。」
舞の髪には小さな花が飾られている。
それを見て、初めて新堂のパーティに来た時の杏依を思い出す。
「可愛いわ。舞ちゃんの髪。」
「いいでしょう?あいちゃんがしてくれたの。」
舞が嬉しそうに笑う。
杏依の中に、あの時の出来事が、しっかりと残っている事に、むつみは嬉しくなる。
修司と舞が、その場を離れると、鈴乃がむつみの手を取った。
「ありがとう。」
鈴乃の言葉を聞いても、泣いてはいけない、そう思った。
パーティは終わっているし、残っている人も少ない。
泣いても許される状況だが、むつみは出来る限り耐えようと思った。
「鈴、さん?」
だが、むつみの手を包む鈴乃の両手に雫が落ちる。
「ごめんね。むつみちゃん。あなたに何も言わず、何もしてあげられなくて。ごめんね。」
「いいえ、つらかったのは…鈴さん達ですから。」
「絵里を…許してあげて。」
涙を流す鈴乃に、むつみは答えられなかった。
「私が言うのは間違っているわよね。絵里を追いつめたのも、絵里に重荷を背負わせたのも私なのに。」
「鈴さん。私は大丈夫です。」
「むつみちゃん。私と絵里はね、あなたが幸せでいてくれるのなら、凄く嬉しい。」
「鈴さん?」
「それだけじゃないわ。私達も…救われる。」
むつみは鈴乃の言葉を聞いて、過去に縛られているのは自分だけではないのだと、改めて感じた。
続き、楽しみにしてます♪
色んな人を登場させてしまいました…。
系図を近々書き直しますね。