りなりあ

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約束を抱いて 第四章-30

2008-04-15 01:14:13 | 約束を抱いて 第四章

腕を伸ばす舞の動作に、むつみは首を傾げた。
「むつみちゃん、無理しなくていいのよ。」
鈴乃の声は、とても優しい。
「重いから。」
その言葉に、舞が絵里と杏依に向かって腕を伸ばしていた光景を思い出した。
「大丈夫…だと、思う。」
何度も抱き上げて貰った事はあるが、逆の立場というのは記憶にない。少し戸惑いながらも、むつみは舞の身体を自分の腕で包む。
舞は思っていたよりも軽い気がするし、思った以上に重い気もした。その感覚が不思議で、ただ、とても温かいと思った。
「おねえちゃん。やくそくしよう。」
「約束?」
「うん。」
舞がむつみの耳元に囁く。
「まいね、おねえちゃんみたいに、きれいなひとになるわ。それでね。おねえちゃんみたいに、やさしいひとになるの。」
舞の言葉に、むつみは少し戸惑った。
「それからね。まい、なかない。まいがなくと、ままは、とてもかなしそうだから。」
むつみの肩に両手を置いていた舞は、右手を離して小指を見せた。だが、むつみは、片腕だけで舞を抱える事が不安で、そっと舞を下ろす。
「だから、おねえちゃんも、なかないで。」
舞の掌が、むつみの頬を撫でる。
「やくそくよ。」
むつみは舞と小指を絡めた。
「分かったわ。約束。」
このまま、ずっと舞の体温を感じていたいと思うが、むつみは舞の手を鈴乃へと導くと、絵里の姿だけが消えた笹本一族へと向かった。
「斉藤。」
恩師だった笹本氏が、むつみの前に立つ。
「絵里の事、父親の私から謝らせてもらう。申し訳ないが、絵里本人が君に」
むつみは首を横に振る。
「絵里さんは何も間違っていませんから。」
「だが」
むつみは笹本を見上げ、再び首を横に振った。
「まだ分からない事が多くて受け止められないけれど、ここから離れる事が出来たら、その時に絵里さんの言葉が分かる気がします。」
むつみは一歩下がり、笹本一族を見た。
「みなさま…いままで、ありがとうございました。」
深々と頭を下げる。
「いつでも遊びに来なさい。」
豊造氏の言葉に、むつみは顔を上げた。
「おじさま…まだ私には、お抹茶は苦いです。」
「それならお茶菓子を用意するわ。」
豊造氏の妻が言う。

「私の若い時の着物だけど、むつみちゃんに似合うと思うの。今度、見に来て。」
鈴乃の母の言葉に、むつみは笑顔を返す。
「きっと、舞ちゃんに似合うと思います。」
遠回しな断りの言葉に、鈴乃の母は目を伏せた。
「御迷惑、たくさんおかけしてしまって…でも、私、小さい時、ここで皆様と会える事がとても楽しみでした。」
鈴乃の手が、むつみの肩に置かれる。
「むつみちゃんの気持ち、ちゃんと…大人である私達が受け止めるべきね。でも、いつでも。私達で力になれる事があったら、いつでも会いに来てね。」
「はい。」
諦めた表情で互いに頷き合う笹本一族は、むつみの視線が動いたのを見て、晴己と杏依が戻ってきた事に気付いた。
むつみから離れた笹本一族が、晴己に深々と頭を下げる。
豊造氏が祝いの言葉と、そして鈴乃達の事について晴己に感謝の言葉を述べるのを聞きながら、むつみは彼等から離れた。

◇◇◇

笹本一族が去ると、杏依が瑠璃に駆け寄って来た。
「瑠璃ちゃーん。ねぇ、今日は泊まって?」
「…明日、月曜日だから。」

「でも。ねぇ、むつみちゃんも。」
杏依がむつみへと手を伸ばす。

「…学校、あるから。」
困ったな、と思って瑠璃とむつみは目を合わす。
「そっかぁ。残念。あぁっ!どうしよう。」
「ど、どうしたの?杏依?」
瑠璃は驚いて杏依に問う。
「おなか空いちゃった。なーんにも食べてないもん。」
やはり杏依は緊張感がない。
「瑠璃ちゃんは?ねぇ、むつみちゃんは?食べたの?」
言葉に詰まったむつみの反応が答えだった。
「これから一緒に食べましょ。むつみちゃんの部屋で。」
杏依に手を取られた瑠璃は、今までの緊張が解けていく気がした。



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