りなりあ

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指先の記憶 第二章-20-

2008-12-30 16:11:09 | 指先の記憶 第二章

早速、翌日から“先輩達”が私の勉強を見てくれる事になった。
朝の時間に1時間を確保するのは無理だからと、時間を50分と決めたのは須賀君。
先輩達に“指示”するのは、後輩として問題があると思うけれど、なんとなく楽しそうな先輩達。
気が進まないのは私だけだ。
でも、そんな本心を見せたくはないし、見せてはいけないと思うし、それに、とても嬉しい事だと…思う。
先輩達は2週間で、どうにかすると言った。
そう言われてしまうと、張本人である私は、どうにかしなくてはいけない。

◇◇◇

1日目は瑠璃先輩だった。
とても緊張した。
でも、その緊張感は貴重だった。
須賀君に対しては、当然のように消えてしまった緊張感。
それは絵里さんに対しても同じだった。
最初は凄く緊張していたのに、いつの間にか消えている。
だから先輩と後輩という関係が生む緊張感は、心地良いものではないけれど、少し懐かしいような恥ずかしいような、そんな気持ちだった。
使われていない教室には時計がなく、カレンさんが贈ってくれた時計で時刻を確認すると、教室に行く時間が迫っていた。
「瑠璃先輩。ありがとうございました。次のテストは高得点をとれそうな気がします。」
「…とってもらわないと困るけど。」
「そ、そうですね。」
荷物を鞄に入れて立ち上がろうとしたけれど、瑠璃先輩は座ったままだった。
「姫野さん。」
「はい?」
「放課後は時間、あるの?」
「放課後ですか?」
「この状況だと2週間では難しそうだから。」
瑠璃先輩が困ったように私を見る。
「…えぇっと、でも。放課後までお世話になったら…迷惑、だと思うし。」
「私は構わないわよ。期間限定だから。姫野さんは大丈夫なのかしら、と思ったの。」
「私ですか?」
有難い申し出を断る理由など、ない。
「部活が終わった後…ほら、この前。来てくれた人がいるでしょう?彼女と会う予定とか、あるの?」
瑠璃先輩は絵里さんの事を話しているようだった。
「週に2回ぐらい家に来るように、そう言われているんですけれど、でも今回の事を話したら、まずは勉強が第一だって言ってくれて。とりあえずは保留、という感じです。」
「週に、2回?」
瑠璃先輩が不思議そうに私を見た。
「そうなんです。色々と教えたいことがあるから、とか言われていて。何を教えられるのか想像できる部分もあるけど、分からない部分もあって。」
「随分と親しい、のね。」

瑠璃先輩が驚いた表情を私に見せた。
「…笹本絵里さん、よね?」
「絵里さんのこと、御存知だったんですか?」
今度は私が驚く番だった。
「杏依の結婚式の時に。」
「杏依ちゃんの?」
「だって彼女、倉田直樹さんの婚約者、よね?あの時、一緒にいた人、倉田直樹さんでしょ?新堂さんの従弟の。」
「そうみたいですね。須賀君から聞きました。」
ふと、不思議に思った。
どうして、須賀君は直樹さんが新堂晴己の従弟だと知っていたのだろう?
車で送ってもらったのだから、そういう会話をしたのだろうか?
「姫野さん。もし放課後に予定がないのなら、今夜は、私の家で一緒に夕食を食べない?」
瑠璃先輩の誘いに、私は迷うことなく頷いた。

◇◇◇

「おはようございます。」
私が慌てて立ち上がった拍子に、机の上の消しゴムが床に落ちて転がった。
「おはよう。」
松原先輩が消しゴムを拾って机の上に置いてくれる。
「あ、ありがとうございます。」
背の高い松原先輩を見上げると、とても首が痛い。
考えてみれば、松原先輩と2人っきりになるのは、初めてだ。
この緊張感は、昨日の瑠璃先輩とは比べ物にならない。
「す、すみません。松原先輩!私、先輩と勉強するの…じゃなくって、先輩に教えてもらうのは無理な気がします。絶対に無理です!」
松原先輩は、椅子に座って机の上に広げられている私の教科書とノートを見ていた。
「聞いてます?先輩。私、今、とっても緊張して」
松原先輩が私を見上げた。

その視線に、思わず足が後ろに動いた。