りなりあ

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指先の記憶 第二章-16-

2008-12-13 20:54:43 | 指先の記憶 第二章

「姫野。知り合いで、いいのか?」
顧問の先生が私に確認する。
「すみません。御迷惑をおかけしました。すぐに車を移動しますので。」
絵里さんの答えに先生は頷き、その場を去って行く。

帰宅の為に私達の横を通り過ぎて行く部員や生徒達は、綺麗な絵里さんに視線を奪われていた。
その視線を気にしながら、私は自分の鞄を受け取る為に須賀君が立ったままの場所に戻った。
「須賀君。ちょっと絵里さんの家に行ってくるね。」
「姫野…あの人と…初めて会う…のか?」
「え?」
この状況だと、“あの人”は直樹さんの事だろうか?
「前に、一度だけ。ほら…カレンさんが出発した日に斉藤病院に行ったでしょ?その時に絵里さんと偶然会って。絵里さんは、むつみちゃん…えぇっと、斉藤先生のお嬢さんで小学生の子でね、その子を迎えに来ていたみたい。それで、あの人は絵里さんの婚約者で」
説明しているのに、須賀君は私を見なかった。
彼の視線は、直樹さんを見たままだった。
嫉妬しているのかな、直樹さんに。
やっぱり須賀君は絵里さんに対して、特別な感情を持っているのかな?
「姫野好美さん。」
振り向くと、直樹さんが私達の近くまで歩いてきていた。
「お隣さん、なんだろ?その彼。それなら一緒にどう?送って行くよ。」
「俺は…大丈夫です。帰れますから。」
「康太君も一緒にどう?一緒に来る?」
絵里さんの言葉が須賀君を誘う。
「い、いえ。俺は…姫野、姫野も今日は帰ろう。」
「え?」
須賀君が私の腕を掴んだ。
「帰ろう。」
須賀君の手に少し力が加わった。
でも、その須賀君の腕を直樹さんが掴む。
「送るよ。“好美さん”と絵里を笹本の家に送った後で“須賀康太君”を家に送る。」
「結構です。全然、そんなの…ついで、じゃないし。隣とか関係ない。」
須賀君が直樹さんの手を振り払おうとして、そして…諦めたようだった。

◇◇◇

絵里さんの家は、とても大きかった。
私と絵里さんを降ろすと、直樹さんは須賀君を乗せたまま、早々に去ってしまった。
「好美ちゃん。康太君とは、いつから知り合いなの?」
広いお屋敷の廊下を歩きながら絵里さんが私に問う。
「中学、です。入学式の日に。」
「…そう。小学校は一緒じゃなかったの?」
「一緒じゃ、ないです。須賀君が通っていた小学校の事、私も詳しく知らなくて。須賀君本人から聞いた事じゃないし。須賀君、転校が多かったみたいで。」
カレンさんが話してくれた内容を、私が勝手に絵里さんに話すのは間違っていると思った。
「ごめんなさい。好美ちゃん。答えなくていいわ。私が質問するのは間違っているわね。」
絵里さんが辿り着いた部屋の襖を開けた。
「私の従妹よ。一緒にお茶を飲みましょう。」
お茶。
でも、それは。
正座を必要とする、緊張感の伴うお茶、だった。
「絵里姉さん、おかえりなさい。」
茶室にいた和服姿の女性が立ち上がる。
「祥子。姫野好美さんよ。」
「…え?」
絵里さんの“従妹さん”が、驚いた視線を私に向けた。
その視線に、私は制服姿の自分を恥ずかしく思った。
「す、すみません。こんな格好で。絵里さん、お茶って…私、経験ないから。」
「いいのよ。今日は作法は気にしないで。」
「…今日は、ですか?」
絵里さんが、嬉しそうに微笑む。
どうやら次の機会には、厳しい作法を教えられるみたいだ。
「祥子。好美ちゃんには、舞がね、とてもお世話になっているの。」
「絵里姉さん?」
「好美ちゃん。以前…私が舞を預けに行った時、好美ちゃんに質問されたでしょ?私の事を、舞の母親なのかって。舞は、私の従姉の子供なの。舞の母親と私と祥子はいとこ同士。舞の母親、鈴乃という名前だけれど、鈴乃の母親と私の父親、そして祥子の母親がきょうだいなのよ。」
…別に、そこまで詳しく話してくれなくてもいいのに。
舞ちゃんの母親の事は知りたいと思うけれど、絵里さんの家族とか親戚とか、そんな事を説明されても困る。
「ごめんなさい。好美ちゃんには関係のない話だったわね。どうぞ。座って。」

絵里さんに促されて、私は祥子さんの隣に座った。