りなりあ

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約束を抱いて 第二章-7

2006-12-23 13:41:25 | 約束を抱いて 第二章

学校からの帰り道で、むつみは立ち止まった。
友人達と別れて1人で歩いていたが、周囲を見渡して首を傾げる。
視界に入る何台かの車を見る。
停車している車に見覚えがあり、むつみはその車に向かって足を進めた。
ドアの近くに立つと、ゆっくりと後部座席の窓が開く。
「気付かれるなんて思わなかったのに。」
車中の人が残念そうに笑う。
「感が良いものね、むつみちゃんは。」
「…だって、この車、目立つわ。」
それに、少し前までむつみ自身が毎日乗っていた車だったから、すぐに目に止まった。
「外の空気が入るから…乗ってもいい?」
むつみが尋ねると、車中の新堂杏依が微笑んだ。

◇◇◇

杏依は実家からの帰りらしく、この後に予定があるわけではなかった。それを聞いたむつみが家に誘うと、杏依が嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、むつみは罪悪感を感じてしまう。
杏依と晴己にとって大切な時期なのに、迷惑をかけてしまったことを杏依はどう思っているだろう?
『むつみちゃんには、もう入る隙間なんてないのよ?』
笹本絵里の言葉が突き刺さる。
絵里の言っている事は正しいと思う。幼い頃から絵里に投げつけられた言葉は、むつみを傷つけてきたが、彼女の言っている事は正しい。自分が新堂晴己の生活を邪魔しているのは、嫌というほど分かっている。
だけど、そこから抜け出せない自分が情けない。
「杏依様。お久しぶりでございます。お体は如何ですか?」
「和枝さん。とても元気よ。」
杏依の答えに和枝が顔を綻ばせる。
「むつみちゃんの好きなチョコレートケーキを作ったんですよ。御心配なく。むつみちゃんの好みに合わせて糖分は控えめですから。」
「そうよね、これぐらいの甘さは許されるわよね?糖分は控えているつもりなのよ?それなのに晴己君ったら、何もかもダメだって言うのよ?」
「晴己様の心配性は異常ですから。」
和枝は昨日と同じ台詞を言い、杏依と和枝が顔を見合わせて笑う。
確かに晴己は色んな事を心配しすぎだと思う。
だけど、彼の意見は何も間違っていないし、とても正当性があると思う。むつみは晴己の過保護な部分や過干渉な性格が自分に向かなくなってしまったら、とても寂しく感じるだろう。晴己の好意を鬱陶しいと思う気持ちはなかった。
それよりも、晴己からそれだけの好意を受けている事に申し訳なさを感じてしまう。晴己から離れなければ、自立しなければ、そう思っているのに、晴己の温もりを手放すのが怖かった。
「それでは、杏依様ごゆっくりと。」
和枝がリビングから出て行き、むつみは杏依と2人だけになった。取り留めのない話をし、むつみの気持ちも和んだ時に、杏依がポツリと言う。
「良かった。」
「え?」
突然の彼女の呟きに、むつみは問いかける。
「姿だけ見て帰ろうと思っていたの。元気な姿を見れれば充分だから。でも、こうして話せて良かった。もう…むつみちゃんに会えないような気がしていたから。」
「そんなこと…」
むつみは、はっきりと否定できずにいた。
「むつみちゃんが遠くに行っちゃうような気がしたの。歩いているのを見た時に、余計に思ったわ。数ヶ月会っていなかっただけなのに、凄く綺麗になっていて。」
杏依の掌がむつみの頬を撫でる。
「それなのに…悲しそうな顔をしているんだもの。」
杏依がもう一方の手でむつみの髪を撫でた。
「1人で我慢しないで。」
杏依の声に、むつみの心が締め付けられる。
「杏依さん…」
今の杏依に涙を見せたくなかった。迷惑をかけたくなかった。

「ごめんなさい…」
「言ったでしょう?謝らなくていいのよ。むつみちゃんは何も悪くないわ。」
流れ落ちた涙が杏依の指を濡らす。
「辛かったでしょう?何も力になってあげられなくてごめんね。」
杏依の腕がむつみを抱き寄せた。