りなりあ

番外編 12 4/7 UP 
ありふれた日常 4/8 UP
ありふれた日常 5/30 UP

約束を抱いて 第二章-2

2006-12-18 20:30:40 | 約束を抱いて 第二章

ビルの正面から入るのを避け、駐車場に向かったむつみは、男性を見つけて会釈をした。
「久しぶりだね。電話の声で想像はしていたし噂にも聞いていたけれど、綺麗になったね。」
数年ぶりに会う高瀬に言われて、どんな言葉を返せばいいのか、むつみには分からなかった。
「碧さんも自慢の娘だろうね。」
「…母には、似ていないでしょう?」
彼の言葉を素直に受け取れず、可愛くない反応をしてしまう。

「似ていないけれど、星碧の娘だと分かるよ。」
何を見てそう思うのか分からないが、彼は嬉しそうに頬を緩めていた。
高瀬に連れられてエレベーターに乗り、部屋へ案内される。途中ですれ違う大人達の視線が気になっていたむつみは、室内に入った時に安堵の溜息を出した。
「ところで先日の話だけれど、むつみちゃんの要望は変わらず、かな?」
「はい。あの…条件は良くなったと思いますが。」
勧められた椅子に、むつみは座った。

◇◇◇

「困ったな…それは無理な相談だよ。」
むつみの前に座る高瀬が持っていたペンを机に置いた。
「むつみちゃん未成年だろ?それにこの話を進めるのに、碧さんに黙っていることなんて不可能だよ。すぐに彼女の耳に入る。」
「母は反対しないと思います。」
「碧さんはね。…新堂さんには伝える必要がないと言えばそうだけれど、あとで新堂さんの耳に入って揉めるのは困るんだよ。」
彼は困った顔をしている。
「むつみちゃんから電話を貰った時は嬉しかったんだけど。やっとその気になってくれたって。でも、君1人じゃないっていうのも…。」
「…無理ですか?」
「いや、まぁ、無理って事じゃないけれど、確かに知名度は上がったし。ただ、彼が関わるのなら、なおさら新堂さんに…。」
むつみは何も言えず黙ってしまった。
「彼の場合はね、既にSINDOが動いているんだよ。」
「え?」
意味が分からず顔を上げたむつみに、高瀬は説明する。
「SINDOが彼の仕事を探している。」
「仕事?」
「そう。だからむつみちゃんと彼がCMに出て、金銭を得る、それはちょっと難しくなってきたね。」
「あの…その、SINDOが探している仕事というのは、実現しそうですか?」
高瀬が溜息を出す。
「やっぱりね。むつみちゃんが芸能界に興味を持ってくれたわけではなく、橋元優輝にお金が必要、そういうことか。」
高瀬は呆れた顔でむつみを見ると、厳しい表情になる。
「こんな事は今後はやめたほうがいい。僕はね、碧さんと付き合いが長いし、斉藤先生にもお世話になっている。むつみちゃんが生まれる前から知っている。そんな僕でも、君は〝商品〟になる。そういう目で見てしまうんだ。自分自身が望んでいない事なら、二度とこんな軽はずみな行動はとるんじゃない。変な大人に利用されるよ。」
むつみは何も言い返せなかった。
「君が本当に望んでいるのなら、碧さんを説得するし新堂さんにも直談判してもいい、そう思っているけれどね。」
高瀬の部屋の内線が鳴る。
彼が話をしている間、むつみは自分の考えた方法が無駄に終わりそうな気がしていた。
電話を終えた高瀬が椅子に座らずにむつみに言う。
「当分は、彼の保護下から抜け出せないみたいだね。」
その言葉が終わると同時にドアがノックされ、開いたドアから新堂晴己が姿を見せた。