夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『話す犬を、放す』

2017年04月10日 | 映画(は行)
『話す犬を、放す』
監督:熊谷まどか
出演:つみきみほ,田島令子,眞島秀和,木乃江祐希他

テアトル梅田にて2本ハシゴの1本目。

タイトルに惹かれて観ることに決めました。
熊谷まどか監督は、短編作品で数々の受賞歴を持つ人なのだそうです。
その監督の長編デビュー作。

43歳独身の下村レイコ(つみきみほ)は、劇団員養成所の講師を務めている。
みずから女優として映画に出演したこともあったが、今は鳴かず飛ばず。
寂しい思いはあるものの、若い俳優志望者たちに演技を教えるのは楽しい。

ある日、学生時代の芝居仲間との飲み会へ。
仲間のうち、俳優になったのはレイコと三田大輔(眞島秀和)だけ。
実際に役者になるなんて凄いともてはやされるが、大輔は売れっ子俳優。
大輔とレイコではキャリアに大きな開きがある。

そんな大輔から、彼が主演する映画に出ないかと声をかけられる。
売れない女優を憐れんでのことかと思いきや、
脚本を読んでこの役にはレイコしかいないと思ったというのだ。
女流監督(木乃江祐希)と会ってみると、
監督もレイコの顔を一目見ただけで採用を決定、出演が固まる。

そんな折り、実家で一人暮らしの母親ユキエ(田島令子)から頻繁に電話がかかるように。
レイコが子どもの頃に飼っていた犬のチロがしばしば実家に来るのだと言う。
チロはとっくの昔に死んでいるのに。

ユキエを病院に連れていったところ、レビー小体型認知症と診断される。
幻視や幻聴といった症状が起こるのが特徴で、
処方される薬をきっちり飲めば、かなり症状は抑えられるという。
しかし風邪薬等ほかの薬を一緒に服用した場合、副作用が起こりやすいらしい。
ユキエをひとりきりにすることに不安を感じながら、映画の撮影に入るのだが……。

これ、とてもいいです。
つみきみほが滑舌はっきりしすぎていて、芝居っぽいっちゃ芝居っぽいのですが、
字幕がほしくなるぐらい台詞を聞き取りにくい邦画も多いなか、
「い抜き」もなしの正しい日本語で気持ちいい。

認知症となると話が重くなりがち。
しかし本作は上手くつきあっていく方法を教えてくれるかのようです。
病院の先生の「症状の増減に一喜一憂しないこと」という言葉に、
私の従姉が話してくれた介護の極意を思い出しました。

ふきだしてしまうほど可笑しいシーンもいっぱいあります。
劇場全体がいい雰囲気に包まれていました。

名前を覚えていてくれなくたって、その言葉を覚えていてくれたなら。
自分の言葉が誰かの人生に良い意味で影響を与えていたと知ったときの嬉しさ。
生きていてよかったと思える瞬間かも。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする