minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

愛人 その10(完結編)

2005年03月21日 | 官能私小説「愛人」
「社長の出張は、いつまでだった?」
 わたしは、ひとみに彼のスケジュールを確認した。
「3日後の最終便で帰ってくる予定です。会社には戻らず、多分、空港からここに直接帰ってくるのではないかと思います。空港着が予定では6時20分、空港からここまでが約40分・・・・・・」
「今日が14日の火曜日だから、15、16、17日・・・・・・、タイムリミットは金曜日の午後7時ね。それなら、なんとかなるわ。明日は忙しくなるわよ。今日はシャワーを浴びて、もう休みましょう」
 わたしは、ひとみにそう言った。ひとみは、「はい」と短く応え、自室に戻った。今晩は一緒にいてあげようかとも思ったけれど、わたしにはまだすることがあったのだ。
 わたしは、パソコンを開いて、わたしとひとみのために飛行機のチケットとホテルの予約をした。
 行先は、沖縄。
「これでよしと。あとは、ドライスーツやレギュレーターの点検ね」
わたしは、前回の沖縄行きでダイビングの免許を取った。いずれ近いうちに沖縄に潜りに行こうとは思っていた。傷心のひとみを慰めるためにも、沖縄の青い海と開放的な空気は効果があるだろう。それにしても、まさかこんなことのために沖縄に行くことなろうとは思いもしなかった。

 翌朝、わたしは早起きをして、ひとみを部屋まで起こしに行った。あんなことのあった翌日である。さすがに心配だったのだ。
 案の定、部屋は電気もついておらず、真っ暗だった。ひとみは、まだベッドの中にいる。
「ひとみ。起きて。手伝って貰いたいことがあるの」
「・・・・・・」
 ひとみは、眠っていなかった。目の下に隈ができている。
「大丈夫?」
「はい。今、起きます」
 彼女は、ようやく起き上がった。
「さあ、着替えて。わたし、下のリビングで待っているわ。朝食は市内のホテルでとりましょう」
 10分後には、わたしたちは車を走らせていた。運転はひとみに任せた。わたしは電話をかけなければならなかったからだ。
「なんだ、こんな朝っぱらから」
 電話の相手はヒロシである。
「実は、お話したいことがあって・・・・・・。これから迎えにお伺いしてもよろしいかしら」
「何ぃー、これからだって。馬鹿言うな。昨日、何時に寝たと思ってるんだ。もう少し、寝かせろ」
「判りましたわ。じゃあ、11時にもう一度、お電話しますから、起きていてくださいね」
「11時か・・・・・・。判った。そのかわり、判ってんだろうな。俺さまを呼び出すんだから、それなりの覚悟はしておけよ」
「判っています。わたしの身体で十分にお相手させていただきますし、飲み物も食べ物もお金もたっぷり用意しますから」
「なんだか、気持ち悪いな。お前、なんか企んでいるんじゃねえか」
「いいえ、滅相もない。あさってには、ご主人様が出張からお帰りになるのです。鉢合わせすると困るので、そのご相談です」
「なるほどな。俺が大人なしくお前たちの言うことを訊くかどうかは、今日のサービス次第だ。よーし、俺はもう一寝入りするから、電話してこい。判ったな」
「はい。それじゃあ、ごきげんよう」
 わたしは、携帯を切った。
 ひとみが不安そうな顔をして、わたしを見ている。
「大丈夫よ。ひとみ、あんたには指一本触れさせやしないから。そのかわり、わたしの言うとおりに動いてね。まず、買い物よ。ヒロシの奴、思ったとおり、すぐには起きてこなかったから、助かった。この先の産業道路をまっすぐに行って。問屋街に用事があるの」
 15分ほどで目指すショップに着いた。わたしはひとみに車で待っているように言って、店の中に入った。
 買い物は、20分ほどで終わった。わたしが教育実習生か何かに見えたようで、親切な店主は最新式のボンベ(小型運搬容器)を貸し出してくれたうえで20リットルほどの液体窒素を売ってくれた。容器だけでも12~3キロある。新型容器は台車付で操作性も改善されていたので、非力なわたしたちにとって本当にありがたかった。
「いったん、家に戻ることにするわ。急いでね」
 わたしはひとみに命じた。
 家に着くと、10時を回っていた。思ったよりも、時間がかかっている。液体窒素の詰まった容器を2階に上げる必要があったが、非力な女2人には大仕事である。わたしとひとみは、ふうふう言いながら階段を上った。
「ねえ、美奈さん、これは、一体何に使うの」
 やっと階段を上りきり、肩で息をしながら、ひとみは訊いてきた。
「あいつを懲らしめるのに使うのよ。さあ、この物置の中に運んびこんで」
「物置の中にしまっちゃうの?」
「ううん。そうじゃないのよ。この真下は、何になっているか知ってる?」
「確かバスルームじゃないかしら」
「そう。そのとおり。あいつがバスルームに入って、シャワーを浴びだしたら、この床下にある換気口から、この液体窒素を流し込んでやるのよ。するとね・・・・・・」
「すると、どうなるの?」
 液体窒素とは、沸点マイナス196度、融点マイナス210度の極めて低温かつ無色無臭の液体なのである。これを温水を使用しているバスルームに投入すれば、気化熱により凄まじい低温化現象が起こる。マイナス196度の世界は、バナナで釘が打てるのだ。
「あいつを凍死させるのね」
「ふふふ。まあね」
 凍死などという悠長な方法では、ごきぶりのような強さを持ったヒロシは殺せやしない。わたしの狙いは、もっと別のところにあった。
「さあ、ヒロシを迎えに行くわよ」
 車の中で、わたしたちは、最後の打ち合わせをした。
 ヒロシを連れ帰ったら、わたしが挑発的な格好で、ヒロシの関心を惹く。そのうえで、お酒を飲ませ、ほろ酔い気分にさせたところで、わたしがベッドインを促し、ひとみがシャワーをすすめる。2階にいるわたしと1階のひとみとは、あらかじめ繋いでおいた携帯電話で連絡を取り合い、ヒロシがシャワーを浴びている最中に、バスルーム天井の換気口から用意した液体窒素を流し込む。この一連の作業を迅速に行わなければならない。
 失敗は許されない。わたしは、俄かに心配になってきた。
 液体窒素の量は足りるだろうか。液体窒素は、気化すると一気に700倍にも膨張すると言うが、たった20リットルで、並みのマンションのリビングルームよりも広いバスルームを十分に満たせるだろうか。
 今更、こんなことを悩んでも仕方がない。
 気持ちを切り替え、わたしは、ヒロシに車の中から電話をした。
「お迎えに参りました。マンションから出て、大通りまで来ていただけませんか。コンビニの前に車を止めて待っていますから」
「よし。判った。今から部屋を出る」
 ヒロシは、わたしたちが罠を仕掛けているとも知らず、のこのことやってきた。
 恐らくは、わたしと思う存分セックスできると信じて、股間を膨らませているに違いなのだ。お生憎さま。わたしたちだって、やられっぱなしじゃないのよ。追い詰められれば、何だってするの。
「来てやったぜ」
 ヒロシは、わたしの左の席に乗り込んでした。
「お嬢ちゃん、どうだい、女になって、初めて迎える朝の気分は。わははははは」
 なんてデリカシーのない男なんだろう。ひとみの指先が怒りと屈辱でぶるぶると震えている。
「ひとみちゃんが運転しているのよ。交通事故でわたしたちと心中したいのなら別だけれど、そんな神経を逆撫でするようなことは言わないでくれる?」
 思わず、わたしも強い口調で言ってしまった。
「ふん。なんだよ。お前が来て欲しいというから、出てきたんだ。帰ってもいいんだぜ」
「・・・・・・」
「なんだよ。だんまりかよ。判った、判った。もう云わないよ」
 ヒロシはそう言うと、あつかましくも、わたしのスカートの中に手を突っ込んできた。
 わたしは汚辱感から、全身に鳥肌がたったけれど、その手を振り払いもせず、必死で耐えた。
「足を開けよ」
 ヒロシの要求は、さらにエスカレートした。
 わたしは、黙って脚を開いて、片足は、ヒロシの太腿に乗せ上げた。
「ふふん。素直じゃないか。どうやら、俺に付きまとわれるのが、本当に困るらしいな」
「ええ、そうよ。だから、ルールを決めて欲しいの。絶対に、彼には知られたくないの。こんなことが彼に知られたら、わたし、彼に捨てられてしまう」
「俺は、金とこの身体をたまに味あわせてくれるのなら、お前に協力してやるよ」
「本当ね」
「ああ、誓って本当だ」
「じゃあ、この身体、好きにするといいわ。でも、ひとみは駄目。それは、約束してほしいの」
「でもなあ、俺の下半身は、俺のいうことを訊いてくれないかもしれないぜ」
「ひとみは、もし、貴方がそういう態度に出るのなら、社長に言ったうえで、訴えると云っているのよ。ことが露見すれば、社長に捨てられるかもしれないという弱みがあるわたしと違って、ひとみは泣き寝入りはしないわ」
「おお、怖い怖い。判ったよ、そちらのお嬢さんには、指一本、触れやしないよ」
 傍若無人なヒロシの指先は、そんな話をしている間も、パンストしか付けていないわたしの下半身を好きなように荒らしまわっていた。
 社長がわたしのために用意してくれた山荘は、車庫に車を入れたら、他人の眼を遮断するように作られているため、乗り降りを人に見られる心配がない。わたしたちがヒロシを山荘に連れ込んだことが他人に知られることは、何としても避けたかった。だから、途中ですれ違う車がないか、びくびくしていたが、幸運なことに一台の車にも出会わなかった。
 わたしは賭けに勝ったと思った。
 後は、腕によりをかけて、ヒロシを料理するだけだ。
「さあ、着いたわよ」
 わたしの身体を弄り回して喜んでいるヒロシを車から降ろすのも一苦労である。
 わたしは、やんわりとわたしのスカートの中に潜り込んでいたヒロシの腕をとった。
「それなら、ここで服を脱いで身体を晒して見せろよ」
 まるで駄々っ子のようだ。
「判りましたわ」
 わたしは、ヒロシの命令どおりに、車の中で服を脱いだ。ジャケットを脱ぎ、シャツとスカートを脱ぐと、下着をつけることの許されないわたしは、パンスト1枚のあられもない姿になった。
「これで満足かしら」
「ああ、美奈さん。そんなことまで・・・・・・」
 見ると、ひとみは涙ぐんでいる。
「何、辛気臭い顔してんだ、お前は。美奈は俺にこうされて、感じているんだよ。 その証拠に、あそこは洪水なんだぜ」
 ヒロシは、ひとみに悪態をついた。
「そうなのよ。だから、気にしないで。ひとみちゃん、お願い。脱いだ洋服を持ってきて」
 わたしはそう言って、パンストにハイヒールの格好で車から降りた。わたしを抱くようにヒロシもついてきた。左手はわたしのお尻を、そして、右手はわたしの右乳房を鷲掴みにして悦に入っている。
・・・今に思い知るがいいわ・・・
 わたしはこれからヒロシに起こることを想像して、気持ちが昂ぶっていた。確かに、ヒロシが言うように、わたしの股間は洪水のようになっていたのだ。
 リビングルームに入ると、わたしはヒロシに飲み物を用意するからと言って、席を外した。この時のための衣装に着替えるためだ。大して今の格好と変るわけではなかったが、どうしても外せない重要なことがあったのだ。わたしは別室に用意しておいた全身タイツに着替えた。ストッキングと同じ素材のそれは、胸と股間がくりぬかれていた。そして、肘の上まである長い皮手袋をつけた。腰にも黒の幅広ベルトをしめ、ブーツも履いた。
 その格好で、ヒロシの前にシャンパンを運んだ。
「おおお、気合が入っているじゃないか。なるほど、そういうことなら、俺にも情けっていうもんがあるぜ」
「さあ、どうぞ。最高級のドンペリよ」
 わたしは、ヒロシにシャンパンを勧めた。
「おう、いいねえ」
 ひとみは、離れた場所に座って、わたしたちを見ている。
「美奈、お前も飲めよ」
「ええ、いただくわ」
 わたしは、ヒロシにシャンパンを注いで貰った・・・・・・。つまみは、クラッカーくらいしか出さなかったが、わたしの身体に注意がいってしまっているヒロシには、そんなことは気にならないようだった。わたしは自分では極力飲まないようにして、ヒロシにシャンパンフルボトルのほとんどを飲ませることに成功していた。
「あああ、酔ってしまったみたい。わたし、先に寝室に行っているわ。貴方は、ひとみにバスルームを案内して貰って、シャワーを使ってから、寝室に来てね」
「おおう、そうだな。そうするか・・・・・・」
 わたしは逸る気持ちを抑えて、液体窒素を隠している物置部屋に急いだ。
 容器のバルブを全開にして、携帯電話に繋げたイヤホーンから流れる1階の様子に全神経を集中させた。
「お嬢ちゃん、バスルームはどこ?」
「こちらです」
 順調に事は運んでいるようだ。やがてバスルームの引き戸が開閉する音がした。
「美奈さん、あいつは、今、バスルームに入りました。シャワーを使おうとしています」
「判った」
 いよいよだ。わたしは容器を静かに傾けて、床板が外され剥き出しとなった換気口に注ぎ口を近づけた。液体窒素は、少しずつ気化している。だから、容器で保存する際も、密閉保存してはならない。そんなことをすれば、膨張した窒素の圧力に容器が耐えられなくなって破裂する恐れもあるのだ。また、一気に気化させると、700倍にも膨張するので、換気の悪いところだと、酸素が押しのけられて、窒息する恐れもある。幸い、この物置部屋は換気扇が2つもついていたから、安心して作業することができた。
「ひとみちゃん、バスルームの換気扇を切って」
「はい。今、スイッチを切りました」
「いくわよっ」
 わたしは、渾身の力を込めて、換気口に液体窒素の入った容器の注ぎ口を突っ込んだ。
 超低温の液体窒素は一気に気化し、周囲の熱を奪いながら、バスルームの中を窒素で満たした。もうもうと立ち上る白い冷気。超低温の液体窒素は、一旦、バスルームの最下部に溜ってから猛烈な勢いで膨張して、一瞬で上部の暖かい酸素をバスルームから追い出した。
 人間は、空気中の酸素を吸って生きている。通常の空気中に含まれている酸素は約21%前後である。空気中の酸素濃度が8%以下になれば、失神昏倒し、やがて死亡する。6%以下ともなれば、即失神し、心肺停止、短時間で死亡するのだ。それが瞬間に100%窒素に置き換えられたのである。 
 ヒロシは、あっという悲鳴すら上げることができず、その場に昏倒した。
「美奈さん。あいつは、頭から倒れました。後頭部を強打したようです。ぴくりともしません。バスルームの中が、みるみるうちに凍り付いていきます。シャワーも凍りついて、止まってしまいました」
「成功よ。あいつは、死んだわ。ひとみ、何にも触っちゃだめよ。そのまま、動かずにそこにいて」
 わたしは、急いで階下に駆け下りた。
 この眼でヒロシの死に様を確認しなければ、安心できなかった。
 確かに、ヒロシは死んでいた。恐らく、直接の死因は、後頭部の強打による頭蓋骨骨折だろう。そうでなくとも、窒息しているはずだ。死因など、大した障害にはならない。毒物反応も首を絞めた跡もないのだ。液体窒素による殺人なんて、誰にも判るはずがない。
「やったわ」
 わたしは感無量で涙が溢れてきた。
「でも、これで安心しちゃ駄目なの。アリバイ工作がうまくいって、やっと作戦完了なのよ」
「アリバイ工作?」
「ええ。超低温で凍りついたヒロシの体を検死すると、死亡推定時間は大幅にずれるはずなの。多分1日か2日くらい。だから、わたしたちは、これから沖縄旅行に出発する。留守中に押し入ったあいつが、勝手に飲み食いして、勝手にバスルームで転倒、後頭部を強打して死亡したというシナリオよ。わたしとあなたが帰宅して、死体を発見。第一発見者が疑われるというけれど、わたしたちには、鉄壁のアリバイがあるというわけ」
「それじゃあ、その格好をしたのは・・・・・・」
「そうよ。シャンパングラスにわたしの指紋を残さないため。それとね、液体窒素を取り扱うのに、皮手袋を着用するのは常識なの。だって、水を通す素材だったら、液体窒素が沁み込んで、手が凍傷になってしまうでしょう。わたしは意味のないことはしないわ」



エピローグ

 沖縄から帰ってきたわたしたちは、バスルームに不審者が倒れていると警察に通報した。
 やがて到着した県警は、わたしたちの思惑通りヒロシがわたしたちの留守をいいことに、無断で家屋内に入り込み、飲み食いをした挙句、風呂場で転倒、後頭部を強打して死亡したとの見方を示した。
 死亡推定時刻は、昨晩の6時過ぎ。
 予定通りである。本当の死亡時刻よりも36時間以上ずれている。ヒロシの死亡推定時刻には、わたしたちは、沖縄のリゾートホテルのガーデンパーティに出席していた。証人は何人もいて、そのアリバイを疑う者は、ひとりもいなかった。
死亡していたのは、女を食物にしていたちんぴら1人なのである。そんな社会のダニともいうべき男が死んだところで、誰も悲しまない。
そして、県警に少なからず影響力を持つ彼・・・社長の村上の愛人宅で発生した事件であったことも、捜査官たちに遠慮する気持ちを生じさせていた。結局、形ばかりの捜査が行われたに過ぎなかった。
 しかし、社長の村上だけは、そんなことでは納得しなかった。男がわたしのヒモだったヒロシだったからだ。わたしの貞操を疑っているのだ。むしろこのほうが厄介だった。
「どうして、やつがわたしの別荘で死んでいたんだ。美奈との間で何かあったのではないのか」
「・・・・・・」
 どう言い逃れしようかとわたしは必死で考えていた。第一、彼に無断で沖縄旅行をしてしまった。ヒロシに渡したお金のことも追求されるだろう。
 わたしが返答に困っていると、突然、ひとみが話し始めた。
「わたし、あいつに犯されたんです。わたし、処女だったのに」
「なんだって」
 さすがに彼も驚きを隠せなかったようだ。
「あいつが突然侵入してきて、わたしは組み伏せられました。美奈さんも助けてくれようとしたんですが、駄目でした。わたしを獣のように犯した後、美奈さんも襲われそうになりましたが、わたしがお金をかき集めて、あいつに渡して帰ってもらいました」
「なんだって。じゃあ、君は、自分はそんな目に遭っていながら、美奈の貞操を守り通したというのか」
「はい、せめて美奈さんだけでもと思って。ううう・・・・・・」
 ひとみは、最後は嗚咽で言葉が続かなくなった。
 彼は、そんな彼女を優しく抱きしめた。
「そうだったのか。よくやったぞ」
 わたしは、ひとみの演技に唖然としていた。
「その働きに報いなければいけないな。何でも言ってみなさい。わたしにできることなら、適えてあげよう」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。わたし、もう、社長の会社に勤める気はなくなりました」
「うむ。そんな辛いことがあったのでは当然だろうな。君のような優秀な部下を失うのは辛いが・・・・・・」
「それで、わたしも社長の愛人にしてください」
「な、何」
 ひとみのその言葉には、わたしも社長も驚いて、叫んでしまった。
「特別退職金が1千万円。このくらいは、出していただいても罰は当たらないと思いますわ。それと毎月のお手当ては美奈さんと同じでいいです。わたし、若いだけで、まだ経験不足ですから。でも、美奈さんにいろいろと教えて貰って、社長さんを夢中にさせてみせます。ここで美奈さんと一緒に暮らして、いろいろなことを教えてもらいたいな」
「ひとみ君、それはちょっと・・・・・・」
「駄目というのなら、どうせ汚れた身体。風俗にでも行って働くわ」
「それは駄目」
 今度は、わたしが叫ぶ番だった。そんな安易な考えでは、とても勤まらないのは、わたしにはよく判っている。愛人のほうがよほどましだ。
 彼の顔を窺うと、どうやら、ひとみの提案は受け容れざるを得ないようだった。彼は、ひとみの大胆な申し出にたじろいたものの、処女同然の彼女を愛人にできることと、わたしを含めた3人でのめくるめくような官能プレイに早くも想いを馳せている様子だったからだ。
 ひとみと彼との共同生活。それもまんざら悪くはなさそうだ。
 わたしがひとみの裸体を愛撫している、そんな妖しい情景がわたしの脳裏を過ぎった。
(了)



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3 コメント

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あれ? (猫姫少佐現品限り)
2007-01-09 01:00:57
なんか、駆け足になっていない??
mina外伝に集中するため?
返信する
猫姫様へ (mina)
2007-01-09 05:37:49
急ぎすぎたかなぁ
最初のプロットを「その6」で組み立てなおして、
結末は先につくっていたのよね
書き始めた時は、借金苦で自殺者が多いという社会問題を追求したいと思って書き始めたんだけれどね。
やっぱり全面的に書き直すべきね。
mina外伝は、愛人よりも長くなりそうです。
返信する
全面的に書き直しました (mina)
2007-01-27 07:12:18
構成をがらりと変えて、削るところは削り、その上で、加筆しました。
返信する

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