minaの官能世界

今までのことは、なかったことにして。これから考えていきます。

mina 第1章

2005年03月21日 | 官能小説「mina」
 その晩、わたしはいつもよりも多く飲んで、確かに少しハイテンションだったことは認める。だけど、だからといって、これほど酷い目に遭うことはないと思うのだ。
 あれは、アーリーというショットバーで飲んでいた時のことだった。
その店は女性バーテンが二人で切り盛りしていて、女性客も多く、女一人でも気軽に入れる店だったから、わたしも良く利用していた。女バーテンたちは、女性らしい細やかな気配りで女性客にさりげなく気を使ってくれるので、わたしはその店がとても気に入っていた。
その晩も、わたしはいつものようにカウンターに座って、顔馴染みとなった女バーテンの一人と会話を楽しんでいた。会話の内容は、いつもと同じ、会社の上司や同僚、とりわけ了見の狭い男たちをこき下ろすことから始まって、やがて理想の男性像について語り合うという他愛もないものだったが、彼女が聞き上手だったのだろう、わたしはいつになく気分が高揚していた。そして、彼女の作ってくれるカクテルが美味しいことも手伝って、どんどんと酒がすすみ、いつの間にか飲み干したカクテルグラスの数は4杯目を超えていた。カクテルは口当たりは良いくせに、しっかりとアルコール分を含んでいるから、まだ9時を回ったばかりというのに、わたしは呂律さえ怪しくなっていた。
ふと気が付くと、もう一人の女バーテンが目配せしている。何だろうと思って隣を見ると、周囲まで暗くなるような陰気臭いおじさんが座っていた。
ははあっとわたしは思った。時々、彼女はわたしにカモを教えてくれるのだ。いや、なに、それほど酷いことをするわけではない。むしろ、慈善事業と言ってもよいくらいのことだ。
今、隣に座っているような冴えないおじさんに、ちょっと気のあるそぶりをみせて、それなりに楽しく盛り上がって、ついでにそれまでわたしがここで飲み食いした代金を奢って貰うというだけのことなのだ。
バーテンの彼女たちが言うには、わたしはとても男好きのする顔をしていて、例えば、女優で言うと、伊藤美咲・・・彼女は女のわたしから見ても、うっとりとするほど綺麗だ、そんな彼女に譬えられるなんて、彼女に申し訳ないと思う、無論、わたしも彼女の大ファンだ、・・・に雰囲気が似ていて、そのわたしが、この隣で飲んでいる絶対女性にもてたことがないようなおじさん族の話し相手になってあげれば、相手はとても幸せな気持ちになるに間違いなく、お金に余裕のあるおじさん族にしてみれば、わたしの飲み代を払うくらい、ちっとも構わないような気分になると言うのだ。それどころか、次回からもわたしに会いたいばかりに、このお店に通うようになるから、お店としても大歓迎だと言う。彼女のウィンクはそういう意味なのだ。
そこで、わたしはすっとその男に擦り寄り、彼の肩にとんと軽くぶつかった。
「きゃっ、ごめんなさい。ちょっと酔っ払ったみたい。グラス、大丈夫ですか。」
「い、いや。別に、構わないよ・・・。なんともないから・・・。」
男はわたしが声をかけたものだから、みっともないくらい狼狽している。
「おひとり?」
わたしは男の顔を見詰めながら、思わせぶりな表情をして言った。
「ああ。会社の連中と飲んでいたンだが、はぐれちゃってね・・・。」
・・・ふふん、同僚にまで見放されたのか。かわいそうな男・・・。そうよね、見るからに、面白みのない男だもの。
わたしは、傲慢にも会ったばかりの彼を、数秒で見定めてしまった。
・・・でも、わたしなら、こんな男でも十分、楽しんであげる。
そもそも、そういう考え方が間違っていたのだ。だが、この店のもつ独特な雰囲気と、それまでそうやって楽しんできたことが、わたしを麻痺させていた。
いつの間にか、二人の女バーテンのうち、目配せした方の女バーテンが私たちの前に待機していた。全くあうんの呼吸だ。彼女の名前は、美幸と言う。この調子で男を嵌めるんだから、大抵の男は簡単に篭絡されてしまうわけだ。
美幸は、絶妙のタイミングで会話に割り込んできた。
「ねえ、ミナちゃん。こちらのお客様とお知り合いなの?」
・・・よく言うよ。自分でセットしておいて・・・。
わたしは半分呆れながらも、美幸に口裏を合わせた。
「いいえ、今日、初めてお会いしたのよ。」
「ミナって言う名前なの?」
・・・おいおい、わたしは飲み屋の姉ちゃんじゃないのよ。いきなり呼び捨てにすンなって。
でも、むっとしたことなんて、おくびにも出さずにわたしは彼ににっこりと微笑んでやった。
「ええ。ミナって言います。みんな、わたしのことを「ミナちゃん」て呼んでいるわ。」
「ふーん。ミナちゃんか・・・。かわいいねぇ。OLかい?」
男は、露骨に興味を示してきた。おじさんまるだしだ。それでも、そんなふうに思っていることを、顔に出さないくらいのことはわたしにだってできる。だてに、何年もOLしているわけじゃない。
「OLに見えますか?」
「うーん。どうだろう。判らないなぁ。」
ここで、すかさず美幸が合いの手を入れた。
「石本さん、彼女を口説こうとしても駄目ですよ。普通のお嬢さんなンですからね。」
・・・ふーん。こいつ、石本って言うのか。そう言えば、ウチの近所に石本カルチャースクールって、大きな会社があったなぁ。自動車免許教習所やスイミングスクールやいろんなものをやってるところだけれど、こいつ、そこと関係あるのかなぁ。まさかね。
「ミナちゃん、こちら石本さん。石本カルチャースクールの社長さんよ。」
・・・ブッ。
わたしは咽て、飲みかけていたカクテルを噴出しそうになった。こんな冴えないおじさんが、あんな大会社の社長なのっ。男は見かけによらないものだ。
でも、だからと言って、わたしはこの男になびくつもりはない。
見損なわないで。
でも、仲良くなったら、格安の特別料金で運転免許を取れるようにしてくれるかしら。
それなら、ちょっと考えてみてもよいけれど・・・。
なんてね、馬鹿みたい。そんなこと、ある訳ないじゃない。
「石本カルチャースクールの社長さんなンですかぁ。すごぉーい。」
とにかく、ここはおだてておいて損はない。
「いや。大したことないよ。それより、ミナちゃんはどこに勤めているの。」
「ふふふ。OLもしてるけれど、本職は違うのよ。」
「えっ・・・?」
美幸がまたしてもウィンクしている。頑張れというサインだ。わたしは首をすくめた。
「昼間は、都市銀行のOLをしてます。」
「銀行に勤めているのか。やはりねぇ・・・。」
なんだ、こいつ。銀行に勤めてると悪いのか。でもなぁ、最近、銀行って印象悪いから・・・。
「やはりって、どういう意味ですかぁ。」
わたしは、わざと馬鹿女みたいな口調で訊いてやった。
「いや、なんとなくね。ほら、銀行に勤めてる女性って、みんなキャリアウーマンみたいな、そんな感じがするじゃないですか。それに、君みたいな綺麗な女性が多いし・・・。」
おいおい、そんなふうに気楽にお前に「君」って呼ばれたくないよ。でも、一応、褒め言葉だし、お礼のひとつも言っておくか。
「わたしなんて、そんな褒めて貰えるほどじゃないです。」
恥じらいを演出すべく、俯いてもじもじしながら言った。
「いやぁ、本当に君は綺麗だよ。君ほど綺麗な女性はモデルでもそうそういないよ。」
石本氏は目を瞬かせて言った。
・・・弱ったなぁ。こいつ、わたしを口説き始めている。ちょっと奢って貰うだけのつもりだったンだけれど・・・。あまり絡むと危ないかなぁ。
「ねえ、石本さん。わたしも一杯、いただいてよろしいかしら?」
頃合とみたのか、美幸が営業を始めた。しっかりしているよ、彼女は。
「ああ、もちろんいいよ。それと、彼女にも、何か作ってあげて。」
おお、餌をまき始めたわね。勿論、いただくわよ。
「ええっ、わたしにも奢ってくださるのですか?」
わたしはすかさず言った。
「ああ、好きなものを注文していいよ。今日は僕に奢らせてほしい。」
石本氏は、鷹揚に言った。
美幸は軽く会釈をして、
「ありがとうございます。じゃあ、わたしはビールを頂きます。ミナちゃんはどうする?」
とわたしに振ってきた。
「本当によろしいのですか?」
ここは念押ししとかなくっちゃ。それと、一応は遠慮というものも見せておかないとね。
「全く問題ないよ。どんどん頼んで。」
石本氏はすっかりご満悦の様子だ。わたしは心の中で、ぺろっと舌を出した。
「それじゃあ、遠慮なくいただきます。」
わたしは石本氏の腕をとって、ちょこっと頭を下げた。
このくらいは、サービスよ。
石本氏は目を細めている。わたしは少し怖いなぁと感じた。でも、ここまできたら、引き下がるのも癪だし・・・。まあ、大丈夫よね? 今までだって、何度もこうして上手くやってきたンだもの。わたしは、そんなに深く考えることなく、美幸に注文した。
「いつものカクテルを作って頂戴。」
「ミナコリンズね。」
「うん。」
この店には、わたしの名前を付けたカクテルがあるのだ。美幸がいろいろと試して、わたし好みの味付けと色で作ってくれた。このカクテルがあるから、わたしはこの店、アーリーに通っているといってもいい。ミナコリンズは、ジンベースでとても綺麗な水色をしている。甘酸っぱくてエキゾジックな味だと思う。さっぱりした後味で、いくらでも飲めてしまうところが怖い。
シャカッ、シャカッ、シャカッ・・・
美幸がシェーカーを振り始めた。
彼女は、背筋をまっすぐに伸ばして、まじめに一生懸命振ってくれる。アクロバット的なことは一切しないけれど、わたしは彼女のそういうところが気に入っているのだ。
「ミナコリンズって何だい。」
石本氏が不思議そうな顔をして訊いてきた。
「わたしのオリジナルカクテル。いいでしょう。」
わたしはちょっと得意顔になって、石本氏に返事した。
「僕も飲んでみたいのだが、作ってくれるかい?」
わたしは首をすくめた。美幸がわが意を得たりという表情で、
「かしこまりました。この後、すぐお作りします。さあ、ミナちゃんの分はできたわよ。」
「ほほう。綺麗な色だね。なるほど、ミナちゃんにぴったりのカクテルだ。」
「そうでしょう。」
わたしはそう言いながら、コリンズグラスを持ち上げ、ライトに透かして見た。
紺碧の海と遥かな水平線に溶け合うように青い空・・・。
その空の水色が「ミナコリンズ」のテーマだ。
こうして光にかざしこの不思議なブルーを眺めると、わたしは一瞬、南の島にトリップしたような気分になる。風にざわめく椰子の葉。打ち寄せる波。誰もいない浜辺・・・。
わたしは、潮騒が聞こえたような錯覚にとらわれた。
カランッ。
グラスに氷がぶつかる音が、わたしを現実に呼び戻した。
「どうしたのよ、ぼぉーとして。変なミナちゃん。さあ、石本さんの分もできたわよ。」
美幸は、見事な水色に発色した「ミナコリンズ」を石本氏の前に差し出した。
「ミナちゃんに、乾杯っ。」
石本氏ができたばかりの「ミナコリンズ」のグラスを掲げた。
「乾杯。」
わたしもグラスを掲げ、石本氏の持つグラスにカチンっと合せた。
「それで、昼間は銀行員だとして、夜は何をしているの。」
石本氏は興味津々で訊いてきた。
美幸がコホンと小さな咳払いをした。あなたの腕の見せどころよというサインだ。
さて、今晩は何になろうかしら。いたずら心が一気に湧き上がってくる。いつも口からデマカセでいろんなものになりすましてきた。売れっ子ホステスやモデルになったこともあったし、弁護士や税理士にもなったことがある。歌が下手なくせにデビューしたばかりの歌手と言ってしまい、その後、辻褄合わせで、随分、苦労したこともある。風俗嬢だと言った時には、店の名前や料金をしつこく訊かれ、また、急に馴れ馴れしく身体に触ってきたので、これは使えないなぁと思った。その時は、ほうほうの体で逃げ出したものだ。
「実はね、わたし、特殊な力があるの。」
えっという表情で美幸がわたしの方を見た。事情を知っている美幸を驚かすことができたので、わたしはちょっと良い気分になった。
「わたしが念じれば・・・。」
わたしは右手を石本氏の額にかざし、左手で彼の腕をとった。
「こうして、気を送り続ければ・・・。」
石本氏はびっくりしたようにわたしを見ている。
「そして、わたしを信じ、あなたが本当にそれを望めば・・・。」
美幸がビールを飲みながら、わたしの方をいつになく心配そうに見ている。こんなの今晩が初めてだからね、無理もないか。でも、わたしの演技もなかなかのものなンだわ。だって、みんな、わたしに注目している。
「わたしね、ぽっくり教の教祖なの。」
「なに? ぽっくり教? そんなの初めて聞いたわよ。」
美幸が素っ頓狂な声をあげた。
「無理もないわ。隠していたンだもの。だって、わたしの能力には限界があるし、その一方で、なんとか「ぽっくり教」に入って、救われたいと願う人間はとても多いから・・・。」
わたしはもっともらしく、できるだけ威厳を保って喋った。
「一体、君にどんな能力があるというンだい?」
石本氏はちょっと怯えたような表情で言った。いいわ、この調子よ。わたしが危ない女だと思ってくれれば、わたしと親密になりたいなんて思わないだろうし、今晩は奢らすだけ奢らせて、後腐れがなければそれにこしたことはない。今日は絶好調だわ。
「お望みなら、ぽっくり死なせてあげる。全く苦痛なく、知らないうちに、あっという間に楽に死ねるのよ。世の中、死にたいと願う人は大勢いるわ。首を吊ったり、薬を飲んだり・・・。でも、みんな、その前にある苦痛が怖いのよ。だから、死ねない。ぽっくり教の信者になれば、わたしの特別な能力で、ぽっくり死を叶えてあげることができるのよ。ただし、本人が本当にそれを強く望んでいることが必須条件ね。それと、わたしに対する信頼。わたしを信じ、こうやってわたしから送る気を受け止める修行を積めば、満願叶ってぽっくり逝くことができるのよ。」
わたしはもう一度、石本氏の額に手をかざした。どうしたことか、目の錯覚だと思うが、一瞬、わたしの手から光が放たれたような気がした。多分、美幸がライトを調節したのだ。石本氏は目を見開いたまま、硬直したように動かない。今のは、効いたわね。演出効果満点だわ。
「凄い・・・。君の手から、不思議な力を感じるよ。」
かわいそうな石本さん。完全にわたしたちの策略に落ちたわね。美幸は笑いを噛み殺している。デマカセの思い付きがこうも見事に決まると、一種の快感が沸き起こってくる。
よし、駄目押しの必殺技をかけてやるか。ミナの特別サービスよ。
「身体を密着させれば、さらに強力に確実に気を送ることができます。最高に確実なのはセックスです。性行為の絶頂時には、気も最高の状態になりますから、いわゆる腹上死を遂げることができるのですわ。」
わあ、わたしってえっちぃ。なんてこと、言っちゃったのかしら。この間、週刊誌を読んで仕入れたエロネタじゃない。サービスしすぎかも・・・。でも、美幸はイケイケの合図を送ってくる。
「ああ。素晴らしい。本当にそんなことが可能なンだったら、僕も君の「ぽっくり教」に入信したい。どうすれば、入信させてもらえるのだろうか。」
石本氏は真剣だった。
「私は、会社もつくり、財産も地位も得た。しかし、不老不死ばかりは手に入れることはできない。毎日、死の苦痛に怯えながらの生活は、もう願い下げだ。人生で得たものが多ければ多いほど、万人に平等にやってくる死への怯えも大きいのだということに最近、気づいたのだよ。楽に死ねるのならば、それが約束されるのならば、もはや怖いものはない。ぽっくり死を私に約束してくれるのなら、君の望みのものをあげよう。どうかお願いだ。私も君のぽっくり教に入れてくれ。」
石本氏はわたしの手をかき抱いて訴えた。おおっ、危ないなぁ。こんな眉唾の話に簡単に騙されるなんて。大会社の社長さんでもこんなものか。ちょろい、ちょろい。
「だめです。さっきも言ったように、たくさんの人が順番を待っているのです。途中で割り込みなんて、できませんよ。」
わたしは少しだけ厳しい口調で言った。
「割り込みなどしない。ちゃんと順番を待つから。・・・そうだ。君は、昼間、銀行に勤めているのだろう? だから、時間が足りないのだ。銀行は辞めたらいい。私が銀行のお給料くらいの費用は出してあげよう。住む場所だって、用意しよう。それでどうだね。」
美幸がサインを送っている。これは、何か情報がある時のサインだ。こんな場合は、トイレに行くふりをして、情報交換をすることにしている。
「いいお話だけれど、すぐには、お返事できませんわ。」
「すぐでなくていい。じっくり考えてくれ。」
私は首をかしげて、少し考える格好をした。それから、おもむろに、
「ええ・・・。ちょっと、席を外してよろしいかしら。」
石本氏は、ぼうっとしている。
ああ、鈍感。トイレくらい、気が付けよ。これだから、おじさんは嫌いだ。
「ちょっと、トイレに行ってきます。」
「えっ? ああ。どうぞ。」
わたしは、席をたった。
アーリーの化粧室には、既に美幸が待っていた。わたしが入っていくなり、美幸は言った。
「ミナちゃん。反対に嵌められたら、駄目よ。」
「えっ? どういうこと。」
「馬鹿ね。石本さんはプレイボーイで有名なのよ。あれは、要するに、愛人にならないかっていう打診なの。毎月のお手当てと高級マンション・・・。ミナちゃんは素人だし、若くて綺麗だから、石本さんは幾らでもお金を出すと思うけれど、受けるつもりなの?」
わたしは、かーーっと頭に血がのぼった。そんなつもりは全くないっ。第一、彼はわたしの好みでは断じて、ないっ。彼の薄くなった頭部と弛んだお腹、いつも怒っているようなゲジゲジ眉は最低だ。そんな男に抱かれるなんて、想像もできない。うまく嵌めたと思ったのに、さすがに社長ともなると一筋縄ではいかないということかしら。狡猾老獪な手練手管にあやうく騙されるところだったわ。
「なにを馬鹿なことを言っているの。わたしがあいつの愛人になると思う?」
「だったらいいの。でも、注意してね。彼、随分としつこいわよ。多分、あなたが承知するまで、つきまとうわよ。」
「ええーーっ。うそっ。そんなことになったら、嫌だわ。そんなこと知っているのだったら、どうして紹介したのよ。」
「ごめん。まさか、素人のミナちゃんを口説くとは思わなかったンだもの。」
「まあ、いいか。あいつも酔っているし、そんなに本気じゃないと思うンだ。あと少しの時間、あいつにお付き合いしたら、わたし、帰る。いいでしょう? 美幸、あなたの責任でもあるのだから、上手くまとめてよね。」
「判った。」
美幸は頷き、短く答えた。
席に戻ると、石本氏は待ちかねたように、切り出した。
「君の勤めているのは、どこの銀行だね。」
「ふふふ、ひ・み・つ。」
冗談じゃないわ。うっかり喋って、付きまとわれたら大変だもの。金輪際、プライベートな情報は言わないわよ。
「そうか。教えてくれないか。残念だ。」
「そんなこと知って、どうするつもりなンです。」
「いや、別に・・・。単純に知りたかっただけだよ。」
嘘ばっかり。つきまとうつもりなンでしょう。
残念そうな石本氏の横顔を見ながら、もうそろそろ潮時かな、わたしは思った。
「ああっ。もう、こんな時間。わたし、そろそろ、帰ることにするわ。」
「えっ。もう、帰るの。」
「ええ。明日、早いし・・・。」
「そうですよ。ミナちゃんは、普通のOLなんですからね。石本さんのように、夜通しで飲むわけにはいかないのだから・・・。当然、今日は、石本さんの奢りよねっ。」
美幸が助け船を出してくれた。
「ああ。勿論だ。こんなに綺麗な娘と飲めたンだから、そのくらいは出させて貰う。」
おおっ、気前だけは良いじゃないですか。
「本当ですか? ありがとうございます。」
わたしは間髪要れずにお礼を言った。
「最後にお願いがあるのだが・・・。」
石本氏が言い始めた。
「なんですか?」
「もう一度、気を送ってくれないだろうか。あれをやって貰うと落ち着くような気がするのだ。」
わたしと美幸は、顔を見合わせて苦笑した。本当に信じてしまったのだろうか。わたしは、なんだか申し訳ないような気がして、最後にその希望を叶えてあげることにした。どうせ、もう二度と会うこともないのだ。
「ええ。いいわよ。」
わたしは彼の額の上に右手をかざした。今度は、指先を額に直接、押し当てた。さらに・・・、そうね、今、思うとどうして、あんなことをしたのか自分でも理解に苦しむのだけれど、わたしも飲んでいたから、大胆になっていたのかも知れないわね・・・、左手を彼の股間に押し当てたの。彼は、身体中をびくっと震わせたわ。わたしは、そのままで、ほんの30秒ほど、じっと気を送るフリをしていた。彼の股間のものはおもしろいくらい反応して、むくむくと大きくなるのが服の上からでも判った。
「えいっ。」
最後に掛け声をかけて、それでおしまい。
彼は放心状態だったみたい。
「それじゃあ、ごちそうさま。」と言ってわたしが立ち上がっても、そのままだった。
美幸があわててカウンターから出てきて、外までわたしを送ってくれた。
「あれで、よかった?」
わたしが美幸に言ったら、美幸は、
「ひょっとしたら、ミナちゃんには本当に超能力があるのかも・・・。」
なんて言っている。
美幸はカウンターの下でわたしが彼にどうしていたのか見えていなかったのに違いない。
わたしはどうでもよくなって、
「じゃあ、美幸からもお礼を言っておいて。」
と言って、手をひらひらさせながら、タクシーに乗り込んだ。
(続く)


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2 コメント

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小説の書き方について (mina)
2007-07-28 18:06:49
参りました。
多分、書き方がなっちゃいないというご批判の意味でのTBなのだろうと思います。
以前は原稿用紙で書いていたのですが、ブログで書くようになってから、書き方のお約束事は一切無視してています。改行した場合の一字落すら、面倒なので修正しておりません。
というのも、ワードで書いたものをブログに貼り付けると、禁則処理等の設定が全て外れて、ベタ打ち状態になってしまうからです。また、縦書きと横書きの違いもあります。
最近は、出版社に原稿を送る場合ですら原稿用紙である必要がないし、手抜きと言えば手抜きですよね、ふうう。
登場人物の性格設定に関しては、わたしの場合、一人一人にモデルとなるべき人間がいて、その方をイメージしながら書いているので、かなり具体的です。そうでないと、セリフとか行動が決まらないし、書き難いのです。安易と言えば、安易な方法ですね。
どなたかは存じませんが、せっかくのご忠告ですから、今後の参考にさせていただきます。
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コメントしても大丈夫かな (塩海苔)
2008-02-25 03:22:46
初めまして、塩海苔です。
場所違いですが、この場でついでにお話させていただきます。
勝手ながら海猿2のトラックバックをさせていただきました。それでこちらにたどり着いたですが、女性が書いた官能小説?面白そうじゃない!と思って、期待しながら読ませてもらいましたが(笑)
とまぁ、正直に言いますとそういうシーンを期待してたわけで早く読んでみたかったですが、序章はどうしても登場人物の背景とか性格とかの、説明みたいなものというんですかね?いきなり本番に入るような書き方も引いてしまう人がいたりしますからね。
そんなわけで、ちょっと飛ばそうかなと思ったところ、バカみたいに「ぽっくり教」に振り回されてる社長さんのところを読んで、だんだん興味と好奇心が沸いてきて、どうなるんだろうなーって「官能」という二文字はいつの間にどっかに飛ばされてました(笑)

小説のルールとかは私にはよく分からないんですが、官能を意識しないで普通に何かのストーリーとして楽しんでいこうと思って読めば、面白いですよ、個人的には!
やばいと言えばやばいんですが、小学校頃から渡辺淳一氏の小説を読み始めハマっていたわけですが(笑)何と言うのかな…年齢の違い?minaさんの小説の会話は読みやすいと言うかより話し言葉に近いというか、入りやすいんです。そこは個人的にいいなって思いました。ド素人の私が意見を言うのも何なんですけどね(汗)
とは言え、まだ出ていない官能シーンにも期待しつつ少しずつ読み続けようと思います(笑)
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