高知県メタンハイドレート開発研究会講演会(2013/7/25)、於:高知会館
活力は土佐沖の海底より出づ
~高知と海底資源~メタンハイドレートを中心に~
鈴木 朝夫(高知工科大学・東京工業大学名誉教授)
4月26日(金)に資源エネルギー庁から出された「海洋基本計画」が閣議決定された。これによると「平成30年代後半(2023~28年)に民間が主導する商業化プロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ技術開発を進める。」となっている。
5月18日(土)のNHK週間ニュース深読み「注目の海洋エネルギー」を見た人も多い と思う。地球深部探査船「ちきゅう」が愛知・三重沖での試験掘削に大成功した後、 佐渡沖に移動していると報じていた。浮体式洋上風力発電の可能性にも触れていた。
8月に開催されるマンガ甲子園の一つのテーマは「海底資源」である。どんな作品が 生まれるか楽しみである。
5月26日(日)のKUTVの「夢の扉+NEXT DOOR」で、{世界初成功!次世代エネ ルギー「メタンハイドレート」海洋産出!、 ~日本をエネルギー自給国に!、海面 下1300m、男たちの12年の闘い~}の放映があった。ご覧の方も多いと思う。
メタンハイドレートを中心に各種エネルギーの世界的な事情を述べ、宝の海の鉱物資 源にも話を進める。子供・孫達のためには何を成すべきか、過疎化が進む高知だから の可能性を探ることになる。
{蓄積エネルギー資源の掘削法} 固体の石炭:固体を掘り出す。液体の石油:液体が湧き出る、液体を汲み出す。気体の天然ガス:気体が噴き出す、気体を吸い出す。固体のメタンハイドレート:固体を気体(メタン)と液体(水分子)に分離し、気体として地上に取り出す。石炭、石油、天然ガスの従来のエネルギー資源との大きな違いがここにある。
{MH21フェーズ2} 研究開発の第2段階に相当する2010年からは海洋産出試験の実施に向けた事前調査や設備検討などの準備段階に入る。2012年後半から東部南海トラフ上の渥美半島沖で1000mの海底から300m掘削し、メタン採取を行う予定である。また、東部南海トラフ以外の海域の調査、長期生産性や生産障害の解決、経済的・効率的な産出技術の確立が目標となっている(2009~2015)。商業的産出が目的の「フェーズ3」に移行する予定である。(2016~2018)。
{減圧法によるメタン回収} 日本のMH21開発計画では減圧法が採用されている。ハイドレート堆積層に水平抗を堀り、発生する水を汲み上げて圧力を低下させ、これにより発生するメタンを吸い上げる。この分解は吸熱反応であり、周囲の温度を低下させる方向に動く。しかし堆積層の周囲の地熱により溶解が進み、圧力低下を持続させる。問題は減圧効果の範囲と持続時間にある。生産性障害になるのは、氷の生成であり、自己保存性が裏目になる。温水圧入や抗井加熱などの加熱法との併用が試みられている。出砂も問題であり、海底や地上に大量の堆積粒子汚泥を取り出すことになる。
{加熱法(その場局所加熱)の新掘削法} 高知県企業からのこの特許のメタンハイドレート分解・回収装置の基本は「加熱法」である。掘削先端・その場局所燃焼加熱・超臨界水循環・減圧・押上圧送方式と呼べる。地上からは、空気(酸素)、可燃ガス(スタート時)、水、そして制御信号を送り込み、地上へは、回収メタンガス、燃焼排気ガスを取り出すことになる。掘削先端近くに置いたガスタービン発電装置で、その場で発生のメタンを地上からの酸素で燃焼し、それで電力を供給し、各種の熱エネルギー発生装置の電源とする。ヒーター熱による蒸気発生、高周波加熱による過蒸気生成、メタン押し上げのための超臨界水の発生、衝撃波発生によるMH層の破砕、マイクロ波発生などの各種の刺激の電源になる。
{自己保存効果} ハイドレートが安定に存在できない常温・常圧であっても、メタンを放出して残された水は氷結して表面を覆う。これは、メタンと水に分離する反応が吸熱であることによる。この氷が保護被膜の作用をして反応を遅らせ、常温でも比較的安定である。しかし、このことがメタン採掘に際して抗井を氷結閉塞させる可能性を孕んでいる。
{固体・液体・気体} 一般に、物質に圧力を加えれば、体積は小さくなる。そして、気体は固体に変化(相転移)し、体積を減少させていく。物質の温度を下げれば、体積は縮小する。気体は液体に、液体は固体に相転移し、その時は発熱を伴なって温度を一定に保とうとするかのように振舞う。自然界では、外界からの変動を、自分自身を変化させて緩和しようとしている。
{安全保障} 国産のエネルギー資源、鉱物資源があることは極めて有利である。安全保障上だけではなく、外交交渉の切り札として有効である。
{NPO21世紀構想委員会とは} 真の科学技術創造立国を確立するため、研究テーマを掲げて討論する場として1997年にスタートした。会員はベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加している。会員数は約100人である。理事長は馬場錬成氏(東京理科大学大学院 知財財産戦略専攻 教授、元読売新聞論説委員)である。
{高知県メタンハイドレート開発研究会} 2011/7/18(海の日)に、平朝彦氏、臼井朗氏(高知大学教授)、木川栄一氏をお招きして記念講演会を開催し高知県での研究会を発足させる運びになった。2012/2/16には、木川栄一氏(海洋開発機構・高知コア研究所所長から海底資源研究プロジェクトのリーダーに栄転)に海洋資源の講演を頂いた。2012/7/7には設立一周年を記念して、木下正高氏(高知コア研究所所長)から、また門馬義雄氏(高知工科大学名誉教授)より「環境とエネルギーから見た50年後の地球」と題する講演を頂いた。
昨年(2012/10/31)、グランキューブ大阪で開催された「計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球」で鈴木が招待講演を行った。タイトルは「新エネルギー資源の使い方~メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ」である。
昨年の末には、洲本商工会議所から十数名の視察を受け入れた。海洋開発機構・高知コア研究所の視察を中心にして、高知県の海洋開発に関連する意気込みの説明を行った。
2013/3/9にはミニ講演会とし、「海底資源をめぐる最新情報(JAMSTECの海底資源研究)」題する木川栄一氏のお話を頂いた。
本日、7月25日(木)、高知会館において、経済産業省・資源エネルギー庁・燃料部石油・天然ガス課課長補佐 上条剛氏に「メタンハイドレート開発の状況と今後の見通し」、と題し、高知市副市長中嶋重光氏に「高知市新エネルギービジョンと土佐湾沖のメタンハイドレート」と題し、それぞれ講演を頂く運びとなった。
国の行う壮大なプロジェクトに対して、高知県の民・産・官を挙げての受け皿は整った。この動きを隣接する沿岸地域だけではなく、県内全域にも伝え、あらゆる分野の県内企業の協力も得て、県民の智恵をお借りして、広く連携を図って行くことになる。
{地の利、高知} 滑走路2500mの高知龍馬空港・拡張の余地を残す高知新港(FAZ)・これらを結ぶ高速高知道、そして香南市・香美市・南国市・高知市・いの町が位置する香長平野は広い。これらは生産設備・試験設備・備蓄基地などの各種施設の立地条件を充分に満足するものである。今は、海洋研究開発機構所属の地球深部探査船「ちきゅう」の寄港が出来ることが素晴らしいことである。正に「活力は土佐沖の海底より出ず」である。
{海の利、土佐} 土佐湾沖の南海トラフのメタンハイドレートとそれに伴うリチウムの回収だけではなく、200海里の排他的経済水域内には各種の有望な海底鉱物資源の存在する可能性が高い。Ni、Co、Ptなどを含むコバルトリッチ・クラスト、Ni、Cu、Mnなどを含むマンガン団塊、そしてAu、Ag、Zn、Pb、Cuなどを含む熱水性鉱床である。
{人の利、龍馬} 高知には知の利がある。海洋研究開発機構(高知コア研究所)、高知大学、高知工科大学、県立高知大学、高知県産業技術委員会他がある。県内企業からの掘削に関する特許が認可された。付随した関連特許が山のように出てくるであろう。様々な関連するベンチャー企業も生まれてくるだろう。第二の龍馬たちに、第二の弥太郎たちに期待したい。
{日常的な情報共有} 本会では、メーリング・リストのメンバーを増やし、日常的に意見交換に参加できる場を充実していく使命がある。多くの方の登録カードへの記入をお願いする。参加費は無料である。(設立時にご寄付頂いた百万円が当面の運転資金である。)
{有識者会議の設置と活動} 県・県内自治体組織、県議会・市町村議会議員、経済・産業界、各種団体・知識人など各界の皆様によって設置するこの組織はメタンハイドレートを掘り出す国家プロジェクトを、高知県に誘致することが当面の目的である。日常的な情報交換により県民挙げての大きな運動として盛り上げていく役割を持っている。
{皆の智恵、心のゆとり} 芭蕉が奥の細道を旅することが出来たのは何故か。円空が木の中から仏を掘り出しながら各地を歩くことができた理由は。社寺に掲げる算額が各地で盛んに行われたのは何故か。能や歌舞伎の伝統芸能が各地に継承された意味は。八重咲き、枝垂れ、変わり葉が珍重され、茶の湯が行き渡る風流の文化の姿は何故。江戸時代は、武士、農民、職人、商人を問わず、あらゆる分野で智恵と知識と風流を共有していたのである。このような土佐を創りたいものである。
{産業振興計画} 橋本県政の始まった20年前から、県勢浮揚策を進めてきたが、低下傾向を最小に留める効果は認められる。そして、尾崎県政になり、「本県経済に重くのしかかる『積年の課題』」の解決に向けて、平成20年度に策定された産業振興計画の基本は県外市場に打って出る「地産外商」である。さらに今年度に追加されたのは「移住促進により、活力を高める」である。これを超える動きが期待できる。
{期待される変化} 国家プロジェクトの進展により、インフラの整備が進むことは確実に期待できる。人が集まる様々な核が発生することになる。中小企業として何を予想し、心の準備を進めるかは各人の智恵であり、研ぎ澄まされた感性による情報の察知である。
{それぞれの役割} 本年3月に策定された「高知市新エネルギービジョン」では、市民も、事業者も「新エネルギーの情報を自発的にキャッチし、理解を深めること」であり、行政は積極的な関わりを示すこととなっている。
----201□年の情報は----
本会発足時に予定していた「メタンハイドレート国際戦略部会」は「有識者会議」の 義を経て201□年7月15日に発足した。メンバーは東京に本拠を置く「NPO21世紀 構想委員会」を始めとして、県内外の有識者で構成されている。エネルギー問題の世 界戦略について活発な議論を展開している。
なお、同様に発足時の計画にある「メタンハイドレート開発技術部会」は既に各部門 の専門家を交え、さらに県内企業を加えて既に発足している(201□/6/1)。
7月3日の政府発表によれば、より高度化した高知新港の埠頭の本格的な増設工事が 始まった。また来年度予算で深海掘削船「ちきゅうⅡ」の建造が決まったとのことで ある。
201□年3月15日付の新聞によれば、メタンハイドレートおよび海底資源掘削に関する採掘権申請のためと称して投資詐欺が発覚したことを報じている。儲け話には注意が必要である。
水熱合成の装置を利用してメタンハイドレートを人工的に作り出し、小学生から高校生を含む子供達にメタンハイドレートで遊んで貰うイベントが県内各地で開かれ、その様子がしばしば報道されるようになっている。
高知県メタンハイドレート開発研究会講演会(2013/7/25)、於:高知会館
第6回講演会・・・その1 開会と資源エネルギー庁の上條課長補佐の講演
第6回講演会・・・その2 中嶋高知市副市長の講演と鈴木朝夫理事長の講演
活力は土佐沖の海底より出づ・・・高知と海底資源~メタンハイドレートを中心に~
第6回講演会・・・その3 私の主張 山本忠さん、前田祐司さん
第6回講演会・・・その4 質問コーナー、そして閉会
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