---国際戦略総合特区に係る提案及び必要な取組・事業---(1)
提案主体名 特定非営利法人21世紀構想研究会
(メタンハイドレート実用化研究委員会)
統括担当者名 NPO 21世紀構想研究会 理事長
馬場錬成(ばば れんせい)
(東京理科大学大学院、知的財産戦略専攻 教授)
実施担当者名 メタンハイドレート実用化研究委員会 委員長
平 朝彦(たいら あさひこ)
((独)海洋研究開発機構 理事)
提案プロジェクト名 メタンハイドレート実用化研究から資源大国へ
対象地域 都道府県名 高知県 実験・研究等
東京都 統括事務等
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① 関連する分野
環境及び近未来エネルギー
② 当該分野に係る地域の現状と課題並びに
国際戦略総合特区により目指す地域の方向性
政府の新成長戦略「強い経済」に向けた戦略は、科学・技術立国を戦略であると位置づけて、「世界をリードするイノベーション」、「中小企業の知財活用の促進」を図るとある。この申請の計画では、この方針に沿って、海洋分野などの新フロンティアの開拓を進め、シーズ研究から産業化にいたる実証実験を行い、イノベーション創出を図るものである。
メタンハイドレートは土佐湾沖を含む日本列島黒潮圏、南海トラフの日本近海では最大の賦存量が推定される。東海沖の3次元調査は終了している。日本近海での全体の賦存量は国内天然ガス使用量の約100年分があると推定されている。大量にあると推定される南海トラフの3次元調査はされておらず、土佐沖から九州沖の調査が急がれる。国家戦略として早急な調査に取り組むことが重要課題である。
このような状況下で高知県内の中小企業主の個人が、メタンハイドレート回収・採取の開発に関連して、特許権を申請した。近いうちに特許権が認可になると予想される。特許の名称や詳細は後述するが、「掘削先端での自家燃焼局所加熱により水分と堆積粒子汚泥とガスに分離し、超臨界水を媒体として減圧、そして押上圧送する方式」で、極めてユニークな発想に基づく発明である。特記すべきことは、分離堆積粒子汚泥をその場に残置させるので、地上にも、海底にも何らの環境汚染を発生させないことである。
高知県としてはこれに大きな関心を持っている。今、地域経済は苦難の道を歩んでおり、好転の兆しが見えていない。閉塞感が漂う中で、元気を出そう、その源がここにあるぞと示したのが、「メタンハイドレート実用化研究」である。莫大なエネルギー資源を商業ベースに乗せる実用化実証の拠点地域として、地の利を得たこれに相応しい場所、それが高知である。パイロットプラント実証実験から採取されるメタンガスを高知新港に陸揚げして、利活用促進を図るための実証実験の特別な地域としたい。
換言すれば、日本経済が、そして地方が、高知が、燃え上がり、生き返ることの出来る『燃える氷(MH)計画』である。
③ ②の戦略の実施が我が国経済の成長に寄与することの理由
日本は江戸時代以前は資源大国であった。かって、金や銀や銅などの鉱物資源の豊かさは世界に比類なきものであった。日本は資源の豊かな、「黄金の国、ジパング」であった。昔、「ジャポニズム」として、ヨーロッパ文化に大きな影響を与えたのは、日本人の精神性の豊かな暮らしであり、それは風光明媚な自然環境と四季の恵みのお陰である。そしてこれらは、地震・火山・台風と同じように、日本列島を作り出したプレート運動のお陰であると言っても過言ではない。室戸岬や佐川町、そして四国各地でジオパークへの国際登録をしようとの取組が盛んになっている。地質の名称には四国、特に高知の地名から取ったものが多い。例を挙げれば、四万十帯もその一つであるが、四万十帯とその北側にある秩父帯との断層は仏像構造線と呼ばれ、仏像は土佐市北部の小さな集落の名前である。
日本は、視点を変えれば、海の底を眺めれば、メタンハイドレート、熱水性鉱床、コバルト・リッチ・クラストに関して、世界トップクラスの賦存量を有し、眠れる海底資源大国なのである。ここで、メタンハイドレート採掘に伴う副産物の可能性に言及しておく必要がある。メタンハイドレートから分離した水にはリチウムが濃縮されている可能性がある。 四万十帯の上に乗った未固結泥が押し上げられて形成される「泥火山」では、その上のメタンハイドレート層をも押し上げて、海底に噴出している。メタンハイドレートがメタンを分離した水には、リチウムが濃縮していることが見い出されている。リチウム回収の有力な手段となる可能性が高い。
これらの数々の有用資源を採掘し、生産を行うには、探査・開発の研究を進める必要がある。これらの資源を経済的に有効活用するには、高い技術力が要請され、その技術開発には、莫大な投資が必要であると同時に、イノベーションが求められる。特許の産業化と言い直しても良い。メタンハイドレートの掘削に係わる直接の技術のみならず、この巨大プロジェクトから派生するであろう数知れない新発明や新発見は日本経済の成長に大きく寄与する副産物である。
さらにグローバル化の視点に立てば、高知のみならず、日本国の経済発展に寄与するだけではなく、極言すれば、この技術は世界の国々に大きな恩恵をもたらすものである。海底資源は日本周辺だけではないからである。
これとは逆に、大都市への一極集中の弊害を排除するという視点からは、分散型の多極へと変わる潮流を増幅させて行くきっかけとなれば、分散型社会を構築するテストケースとなる。高知に焦点を当てることが、その第一歩となることを期待し、そのような意味の社会実験になれば素晴らしいと考えている。先見の明を持って考えたい。
④ ②の戦略を当該地域で実施する必要性
高知から、この計画を申請する必然性は以下の4つの要因に基づいている。
A) 高知県沖から広がるメタンハイドレート層
南海トラフは、プレート運動によって東海・東南海・南海地震を引き起こすと懸念されているが、プレート運動によって、プレート上にたまった堆積物が次々と陸側斜面に付け加わり、いわゆる「付加体」を形成する。「付加体」形成に伴う地層中の流体移動によって、地層中の有機物から発生したメタンガスが集積し、メタンハイドレート層を南海トラフ斜面域全域に形成している。メタンハイドレート層は、海底下300m前後の温度・圧力条件下で水(H2O)とメタンガス(CH4)が合体して固体状(時には、シャーベット状)の層をなし、その下にメタンガスをトラップしたものである。石油、天然ガスと異なり、自噴しないので、斬新な採掘技術の開発が必要である。土佐出身の植木枝盛は「自由は土佐の山間より出づ」と言っているが、まさに「メタンハイドレートは土佐沖の海底より出づ」である。
B) 高知県の地理的条件、及び支援設備および人的資源
高知県が我が国全体の成長を牽引する地域の資質を備えていること、この提案が国全体の成長戦略に取って極めて重要であることを認識して欲しい。高知外洋港(FAZ)、2500mの滑走路を持つ高知龍馬空港、2車線化された高知高速道に加えて、海と空の港と陸の道を結ぶ高規格道路の建設が進み、四国8の字型高速道の目標に向かって進んでいる。高知市、南国市、香南市、香美市などは香長平野に位置し、適度な密度で都市を形作っている。広い土地の確保に大きな困難はない。この地域はこれらの交通拠点の至近距離に位置する。メタン運搬船や化学プラントとしての船舶が、台風などの大荒れに対して直ちに避難できる場所を提供している。また、国内港としてだけでなく、東南アジア、北米大陸などへの利便性から見て、国際競争力の点から、貿易港として極めて有利な立地条件を備えている。
C) 一人の高知県民の特許出願による優れた掘削システム
低温・高圧状態にあるメタンハイドレートは減圧、あるいは昇温によって分離するが、環境の温度によっては、分離した水分が凍結し、閉塞状態を発生する。それを打開するための方策が局所的加熱であり、超臨界水の流速変化による吸引、押し上げである。一言では難しいので、キーワード的に表現すれば、掘削先端・自家燃焼加熱・超臨界状態・減圧・押上圧送方式となる。メタンハイドレートを効率よく汲み上げ、地層を構成する堆積粒子汚泥は取り出さない方式であり、環境汚染を引き起こさないことは大きな利点である。この特許、は従来の考え方とは全く異なっている。実地検証を行って実際に公共の用に供したいとの出願人の沢山の思いが詰まっている。
D) 高知コアセンター(KU / JAMSTEC)の存在
海洋コア(柱状資料をコアと呼ぶ)の総合的な解析を通して,地球環境変動要因の解明や海洋底資源の基礎研究を行うことを目的として,2000年に海洋コア研究センターとして開設され.その後に高知大学物部キャンパス内に新たな研究施設が建設された.本センターは,海洋コアの冷蔵・冷凍保管を始めとし,コア試料を用いた基礎解析から応用研究までを,一貫して行うことが可能な研究設備を備える国内唯一、かつ世界有数の研究機関である。全国共同利用研究が本格的にスタートし,年間40件程度の研究課題が採択され,本センターの卓越した研究環境を生かした共同研究が行われている。また、総合国際深海掘削計画(IODP)の拠点として活動しており、昨年は5万点以上のコア資料を世界に配送した。本センターの名称は、海洋コア総合研究センター(高知大学)と高知コア研究所((独)海洋研究開発機構)との共同運用体制を示す愛称となっている。
世界各国からここに集う研究者は良き理解者として、また関心を持つ人材として有望である。将来はここを核として、メタンハイドレートの研究センターが誕生する可能性が高いように思われる。
⑤ ②の戦略の実現に向けた実施主体・運営主体の機能・役割
提案主体の「特定非営利法人21世紀構想研究会」は、知的基盤の強固な研究現場と産業振興の技術革新を実現し、真の科学技術創造立国を確立するため、適宜、研究テーマを掲げて討論する場として、1997年9月26日にスタートした。
研究会の会員は、主としてベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加し、毎回、活発な議論を展開して来た。研究会で得られた成果を社会に訴えて啓発をはかりながら、国の政策にも結びつくように活動するという目的も、回を追うにしたがって明確となり、政府審議会のパブリックコメントなどにも積極的に発言している。研究会は、2000年7月に東京都から特定非営利法人として認められ、さらに生命科学委員会(東中川徹委員長)、産業技術・知的財産権委員会(生越由美委員長)、環境・エネルギー安全委員会(千葉英之委員長)が下部組織として設立され、適宜テーマを定めて活動を続けている。
まだ世に知られていないベンチャー企業の優れた技術を、研究会を通して広く認識してもらったり、これまであまり接点がなかった中央行政官庁の官僚との交流を通じて、政策への提言をすることも活動の一つになっている。
会員数は現在約100人である。
アドバイザーとして、
荒井寿光氏(東京中小企業投資育成(株)代表取締役、元特許庁長官)、
安西裕一郎氏(慶応義塾学事顧問、慶應義塾大学理工学部教授)、
黒川清氏(政策研究大学院大学教授、前内閣特別顧問)、
銭谷真美氏(東京国立博物館館長、前文部科学省事務次官)、
利根川進氏(マサチュセッツ工科大学(MIT)教授)、
吉川弘之氏((独)科学技術振興機構研究開発戦略センター長、
前産業技術総合研究所理事長)
の方々にお願いし、適宜、活動への助言を頂いている。
「メタンハイドレート実用化研究」の中枢として、このプロジェクトの実施・運営主体として、幅広い、そして高度な視点からの的確な判断と実行力を期待できる受け皿としてこれ以上のものは見あたらない。そして、メタンを押し上げる技術の発明者とそれを出願する代理人がともにこの21世紀構想研究会のメンバーであることも大きな強みである。実行に当たっては、複数の部会を設けて、連携をとりながら、機能分担をする必要がある。
さしあたって、提案主体の「特定非営利法人21世紀構想研究会(メタンハイドレート実用化研究委員会)」内に直轄の
1)「メタンハイドレート(MH)国際戦略部会」、
2)「メタンハイドレート(MH)技術専門部会」
を置き、さらに高知県に
3)「高知県メタンハイドレート実用化研究委員会」
を置くことになる。
参考資料1:「特定非営利法人21世紀構想研究会 会員名簿」