言語空間+備忘録

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中国人労働者の意識変化

2010-05-14 | 日記
アレクサンドラ・ハーニー 『中国貧困絶望工場』 ( p.170 )

 中国が対外開放路線に変更してから二〇年間、労働者の大半は世界の製造業界にとって理想的な人材であった。どれほど過酷な職場環境であっても、従順かつ勤勉で、しかも最少の賃金で最大限に働く意欲を示す人々であった。だが、世紀の変わり目を迎えるに際し、中国の労働者は変わり始めた。
 改革開放後の出稼ぎ労働者は第二世代となり、その多くが一人っ子政策の下で生まれ育った小家族の人間であり、世界の工場におけるリスクや報酬に対する意識を多少は持ちながら、工場で働くようになった。というのも、彼らは第一世代出稼ぎ労働者の子ども、姪、甥または隣人であり、汚くて危険な工場、詐欺師のような工場経営者、機械に巻き込まれて失った指などの話を聞きながら育ってきた。そして、将来関わるようになるそんな世界とのうまい折り合いのつけ方を理解するようになったのである。
 このような知識が広まってくると、中国の製造業に従事する労働者も他国の労働者と似てくるようになる。以前に比べると、現在の中国の労働者は劣悪な労働条件の工場には行きたがらず、抗議活動やストライキを起こし、雇用主に対して訴訟を起こす傾向が強まっている。
 これらのすべてが中国の競争力に悪影響を及ぼすのは避けられない。中国の対外開放後の最初の二〇年間において、中国の優勢な競争力に貢献してきた低賃金、不公平な法の執行、労働者の権利に対する抑圧などの要素は労働者の不安を掻き立てることになり、従来の競争力が弱体化し始める条件を作り出している。香港を拠点に展開している調査・コンサルティング会社CSRアジアのスティーブン・フロストは言う。
「あるサプライチェーンの場合、労働者の抗議行動などを経験している工場は別に珍しくはない。だが、会社を訴える労働者は別の問題だ。ブランド業者や小売業者は個別に対応する必要がある」
 中国以外の国における労働者の権利擁護運動の基準によれば、中国で進行中の変化はとらえにくい。全国的な労働運動が存在しないからだ。全国規模で組織されたストライキや座り込みもなければ、工場労働者が日常的に闘争を仕掛けるような集団意識もない。カリスマ的な指導者もいない。中国は労働運動の活動家を厳しく取り締まっており、ある一線を越えた活動家には、嫌がらせをしたり、逮捕したり、刑務所にぶち込んだりする。このような当局の努力が功を奏してか、労働者の多くは依然として法律で保障された権利に対する認識が低いのか、あるいは恐怖心が強すぎて自分たちの権利が侵害されても何も行動を起こそうとしないのである。
 しかしながら、労働者の間にはデモなどの実力行使を重視する積極行動主義が盛り上がり、すでに国内の製造分野に対して挑戦状を叩きつけている。さらには抗議行動の発生件数が増加している。かつて労働者が仕事を求めて並んでいた広東省周辺の工場では、今では「支援を求む」と書かれた横断幕が本格的に掲げられている。
 労働者の積極行動主義の高まりを見て、政府は労働契約法の起草を急ぐようになり、労働組合の全国組織である中華全国総工会がウォルマートの各店を嚆矢として外資企業に各支部を設立することを促した。
 移動人口が減少して労働力の供給が逼迫してくるに伴い、労働者側の発言力は強まるばかりである。中国の一人っ子政策により、若年労働力の減少傾向はすでに始まっている。あと一〇年足らずで世界最大の製造業国になると予想され、すでに無数の消費財の主要な供給先となっているこの国において、前述のような変化は国際的に重要な意味を持つ。中国の労働問題とは世界の労働問題なのである。


 中国の労働者は次第に権利意識を強め、中国当局が「ある一線を越えた活動家には、嫌がらせをしたり、逮捕したり、刑務所にぶち込んだりする」にもかかわらず、抗議活動やストライキ、雇用主に対する訴訟を起こし始めている。政府は慌てて労働契約法の起草を急ぎ始め、外資企業に労働組合の設定を促した。また、中国では労働力の供給が逼迫しつつある、と書かれています。



 中国の労働者は、権利意識を強め、自らの待遇改善に向けた行動を強め始めた、というのですが、

 それまでは要するに、( 雇用主にとっては ) 「愚か」で「利用しやすい」存在だった、ということだと思います。



 中国の競争力は、「どれほど過酷な職場環境であっても、従順かつ勤勉で、しかも最少の賃金で最大限に働く意欲を示す人々」によって維持されていた。つまり、「安い」製品価格によって維持されていた。とすれば、

 労働者が権利意識に目覚め、抗議・交渉を始めたこと。法制度が整い始めたこと。労働組合が設立され始めたこと。これらすべては、製品価格の上昇に直結します。

 したがって日本の労働者にとっても、労働条件が改善する…はずなのですが、実際には、そうなっていません。これはおそらく、製品価格の上昇を抑えるために、中国企業が努力しているからだと思います。もちろん、その努力のなかには、効率化などの正攻法のほか、「工場ぐるみの不正」なども含まれています ( 「中国当局は怖くない?」参照 ) 。



 「中国の失業率」は高いので、労働力の供給が逼迫しつつある旨の記述を、どう受け取ればよいのか、すこし迷いますが、

 傾向的には、中国における労働条件は改善しつつあり、したがって日本などの労働者にとっても、労働条件が改善する方向に向かう可能性がある、と考えてよいと思います。

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