言語空間+備忘録

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司法試験合格者の就職難は弁護士増員反対の根拠にならない

2012-10-24 | 日記
 弁護士増員に反対している人々は、「激増」であると強調し、いかに増員が「不当」なものであるかを印象づけようとしています。そこには、世論を増員反対に誘導しようとする意図が見え隠れしています。

 どの程度をもって「激増」であるというのか、その感覚は人それぞれなのですが、「激増」であると主張される根拠の一つが、「司法試験に合格した者のうちに、法律専門家として就職できない者がいる」であるようです。

 そこで論者は、「だから、合格者数を減らせ」と主張しているわけですが、それを簡単に言うと、次のようになります。
  1. 司法試験に合格した者は優秀である(はずである)
  2. したがって法律専門家として就職し、安定した高収入を得るのが当然である
  3. しかるに、合格者のなかには、法律事務所等に就職できない者がいる
  4. したがって合格者数を減らせばよい。減らすべきである
 この主張に説得力はあるでしょうか?



 あきらかに説得力がありません。

 顧客・市民の立場に立って考えれば、「優秀である弁護士に依頼できればそれでよい」のであり、合格者が法律事務所等に就職できるかどうかは、(基本的には)どうでもよいことだからです。

 そもそも、合格者の一部に法律専門家として就職できない者がいることをもって、合格者数を減らせ、といった主張が成り立つなら、次のような主張も成り立つことになります。
  • 大学を卒業した者のなかには大卒(相当以上)の仕事につけない者がいるので、大学の定員を減らせ
  • 高校を卒業した者のなかには高卒(相当以上)の仕事につけない者がいるので、高校の定員を減らせ
 あきらかに、司法試験の合格者数を減らせ、といった主張が成り立たないと言ってよいと思います。



 おそらく、合格者数を減らせ、という主張の裏に隠れているのは、「優秀である以上はそれに見合った収入が得られて当然である」という気持ちなのでしょう。

 しかし、「人為的に」合格者数を「操作」することによって、「それに見合った収入」を保証しようとするところに、問題があります。そこにあるのは、「弁護士の利益」であって、「顧客・市民の利益」ではない、と言ってよいと思います。

 本当に優秀であるなら、「人為的な操作」をせずとも、弁護士は「能力に見合った収入」を得るでしょう。資格取得後ただちに法律事務所等に就職できなくとも、弁護士にはただちに独立する道(即独)もあるのですから、次々に能力を発揮し、次第に「能力に見合った収入」を得てゆくと思います。

 かりに「能力に見合った収入」が得られない弁護士がいるとすれば、ありていに言えば、「勉強はできるけど、(社会に通用する)能力はなかった」ということになるのではないかと思います。少なくとも世間はそう捉えると思います。



 そもそも、顧客・市民の立場で考えれば、合格者(弁護士)の全員が安定して高収入を確保できるなら、かえって困ることになります。なぜなら、弁護士には、合格後に能力を高めようとする必然性がなくなるうえに、弁護士に依頼する場合の料金が高くなってしまうからです。その場合、弁護士は「能力は低いけど、料金は高い」ということになってしまいます。



 なお、言うまでもないことですが、司法試験は「資格試験」であって、「就職試験」ではありません。合格者の全員が法律事務所等に就職できないとしても、とくに問題にするほどのことはないと思います。資格試験とは本来、そういうものではないでしょうか?



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