言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

中国の労働問題と、予想される当局の対策

2010-05-31 | 日記
株式日記と経済展望」 の 「人民元の切り上げが無くても賃金の上昇で中国における生産メリットは無くなる。

◆外資企業が不満のはけ口に? 中国の賃金問題 5月30日 マーケットハック

ホンダのトランスミッション(変速機)工場でのストライキが話題になっています。

(中略)

しかし今回はそういう肝心かなめの工場が見事にストップしてしまいました。

しかも普通中国では労働争議に関する報道は厳密に報道管制されており、ストライキの情景が「ダダ漏れ」になることは稀です。

ところがホンダにおけるストライキは:

And perhaps most remarkably, Chinese authorities are letting the strike happen ? in a very public way. (特筆すべきは中国の当局がこのストライキが起こるままに黙認しており、しかもデカデカと報道されているという点である)

とニューヨーク・タイムズもその異例さに驚いています。

中国では最近物価が高騰しており低所得者の暮らしは苦しくなっています。また不動産バブルでマイホームの夢は遠のくばかり。

そんな事で工員さんたちの不満はだんだん鬱積しているのかも知れません。

もちろんホンダだけが労使問題を抱えているわけではなく、先週はアップルの下請をしているフォックスコン(台湾企業)でも相次ぐ従業員の飛び降り自殺問題で経営陣が台湾から急遽工場を訪れ、記者会見を開くという事件がありました。

だからこの問題は特定の企業の問題というよりもマクロ経済のイシュー(争点)として捉えるべきだと思います。

賃金上昇圧力は食品価格の高騰や原油の値上がりなどの様々なインフレの中でも最も厄介なインフレです。なぜなら賃金インフレのエクスぺクテーション(期待)はスティッキー(粘着質=つまり一度それが発生すると抑え込みにくい)だからです。

◆宮崎正弘の国際ニュース・早読み 5月31日

ホンダ中国広東工場では「50%の賃上げ」を飲まされるだろう
  台湾系「鴻海精密」の冨士康も20%の賃上げを認めた

 そもそも中国へ無造作な進出そのものに問題があるのだが、そのことは論じない。
 ホンダ仏山工場をおそった山猫ストは、依然として工場閉鎖のまま、生産は止まっている。

インタナショナル・ヘラルドトリビューン(5月31日付け)に拠ればホンダは50%近い賃上げを飲む様子だが、ストライキがおさまる気配はないという。
背後には共産党の細胞があるが、経営側が対抗して工場閉鎖、撤退というシナリオに進む場合の用意はないようだ。

 仏山市は広州の衛星都市で、筆者も二回、取材に行ったことがあるが、なかなか落ち着いた街で、広州の飛行場にも近い所為か、外国企業の進出が多い。香港から160キロ北方に位置し、華橋系の部品メーカーもひしめき合っている。
 
 近郊の工場地帯を歩けば、シャッター通り、閉鎖された工場が目立つ。
 つまり深刻な不況である。

 今回のホンダのストライキは日本企業がねらい打ちされたとばかりは言い切れない。
 深センの台湾系マンモス企業の冨士康では、過労<?>といわれて従業員の飛び降り自殺が連続した。(前号の9名からさらにひとり増えた)。
このため、対策が急がれ、工場側は雇用側の不満が原因であるという説を打ち消すために20%の賃上げを認める。

 最大の原因として考えられるのは大学新卒に職がなく、ブルーカラーとして勤務するしか手段がない学生も夥しいこと。高卒ならびに職業学校出身でホンダの場合、訓練期間中の月給が900人民元。これが1380元になる(53%の賃上げ)。
 熟練工は1500元から、さらに上昇する。

 こうした山猫スト、華橋系、台湾系の部品メーカーでは日常茶飯、まったく報道されないが数千件の規模で広東各地で起きている。
 中国では報道管制が敷かれ、外国企業に賃上げスト頻発のニュースは封じ込められた。

 在香港米国商工会議所のビルステーケ会頭はヘラルドトリビューンの取材に答えて「ストライキ頻発のはるか以前から外国企業は、労賃上昇がつづけば中国で創業する意味が薄まり多くはベトナム、カンボジアへの代替案を熟慮中です」と明言している。

 中国進出企業は移転代替地さがしに躍起となった。


 中国では、労働者のストが各地で起きている。中国当局はストライキを黙認しており、しかもデカデカと報道されているという、異例の状況になっている、と書かれています。



 「日本企業がねらい打ちされたとばかりは言い切れない」と書かれていますが、「外資企業が狙い撃ちされている」と読むことは、可能だろうと思います。というか、そのように読むべきではないかと思います。なぜなら、「労働運動に対する中国当局の態度」でみたように、2006 年 3 月、胡錦濤総書記が外資企業における労働組合設立を促進すべしとの指令を出しているからです。

 また、中国において労働者の給与が急激に上昇していることは、以前、「中国製品の価格上昇と、高度経済成長の終焉」に記しました (引用しました) が、上記引用によれば、このところ、賃金の上昇ピッチはさらに急激になってきているのではないかと思われます。

 中国においては、賃金が急上昇しても、消費がそれに応じて急激に増えるとは考え難いと思います。したがって中国国内の内需拡大には、限界があると考えられるのですが、

 そのような状況下で、
 在香港米国商工会議所のビルステーケ会頭はヘラルドトリビューンの取材に答えて「ストライキ頻発のはるか以前から外国企業は、労賃上昇がつづけば中国で創業する意味が薄まり多くはベトナム、カンボジアへの代替案を熟慮中です」と明言している。

 中国進出企業は移転代替地さがしに躍起となった。
とあるように、中国進出企業が中国から撤退し続ければ、中国の高度成長は、確実に終焉を迎えることになる、とみてよいと思います。



 問題は、中国進出企業が中国から撤退した場合、そこで雇用されていた人々の受け皿がないのではないか、ということです。

 いったん勢いがついた労働運動は、なかなか下火にはならないと思われます。したがって、中国共産党としては、国内の治安の維持・安定のために、なんらかの対策をとることが必要になってくるはずである、と考えられます。

 対策として、いちばんよいのは雇用を創出することですが、賃金が急上昇しているなか、労働者を満足させうる雇用を創出することは、不可能に近いだろうと予想されます。

 だからこそ、対策として、「外資企業狙い撃ち」がなされているのではないかと考えられるのですが、当の外資企業が次々に撤退すれば「外資企業狙い撃ち」も早晩、通用しなくなります。



 それでは、次はどのような対策がとられるのか。

 もともと、「外資企業狙い撃ち」には、労働者の待遇を改善するという目的のほかに、労働者の不満をそらすという目的があるのではないかと考えられます。なぜなら、「外資企業における待遇改善」には、「当局は、労働者の待遇改善のために努力している」というアピールが含まれているからです。

 したがって、根本的な対策、すなわち、労働者の待遇改善が不可能に近い以上、現行政策の延長線上に存在する政策として、労働者の不満をそらす政策が本格的にとられる可能性が高いのではないか、と考えられます。

 このような観点でみれば、朝鮮半島の問題 (情勢) にも、「中国内部の事情」が影響してくることは避けられないのではないかと思います。すくなくとも、その可能性は十分にありうると思います。

 すなわち、中国の労働問題は、中国の対外政策 (姿勢) に影響を及ぼすとみられます。その場合、根本的な原因が中国内部にあるだけに、中国の姿勢は簡単には変わらないはずである、と予想されます。