アレクサンドラ・ハーニー 『中国貧困絶望工場』 ( p.207 )
中国政府は、草の根の労働運動を妨害しつつ、全総の組合員数を増やそうとしている。しかし、全総は「本当の意味で労働者側の立場で彼らの利益を代弁する組織を目指して動いている兆しはどこにも見当たらない」と評されている、と書かれています。
草の根の労働運動を妨害しつつ、全総の組合員数を増やそうとしているのは、要するに、「政府の息のかかった全総であれば、労働者をコントロールしやすい」ということだと思われます (「全総 (中華全国総工会) の実態」参照 ) 。
組合員数を増やすにあたって、中国政府は、外資を優先する (狙い撃ちする) 方針を打ち出しています。引用文中に、
労働組合が設立され、労働者の待遇が改善すれば、当該企業の競争力は弱くなる (コストが上昇する) ことから、外国資本の企業において、労働組合設立を促進しようとしたものではないかと思います。
引用部冒頭の、
当局による妨害行為は、中国大陸で展開中の労働関係NGOの活動範囲を狭めている。報復を恐れ、香港人の労働者支援スタッフが匿名を条件に説明する。
「我々の活動は相変わらず狭い範囲に限られています。活動自体は継続できていますが、活動拠点がいつ閉鎖されてしまうのかわからないからです」
いくつかの香港NGOに本土の協力先はどこかと尋ねてみたが、いずれも断られた。「今はタイミング的に悪い」とのことであった。
だが、当局の監視体制は強化される一方なのに、労働者支援グループは依然として活動が許されており、国際組織が中国の労働団体に資金援助を継続することも認められている。当局は香港や大陸の労働運動支援者に対し、国境をスムーズに通過できる旅行許可証を発行している。また、大陸の労働者の権利を大胆に擁護する中国労工通訊 (中国労働者通信) のようなグループも、中国政府が労働者をいかに粗末に扱っているかを詳細に説明した報告書の発表を認められている。広東省で活動している中国人の労働運動家は国内で外国の外交官と面談できるし、研修や会議で発言するための海外渡航も可能である。大陸で動いている香港人の労働運動家も不思議に思っている。
「我々が刑務所送りになっていないのは素晴らしいことだ。今でも国内で活動しているよ」
(中略)
社会不安を抑え、労働者に対するコントロールを強化するために、全総は組合員を増やそうと注力している。特に、外資企業は草刈場として労働組合から長年注目されてきた。
中国法によれば、二五人以上の従業員を抱える企業は、従業員から要請があれば労働組合 (要するに「全総」) の支部組織を設置する必要がある。だが、中国では地域間での外国投資誘致合戦が激化していたので、外国投資家の嫌がる労働組合の支部設置はなかなか実現しなかった。輸出工場の多くでは労働組合の支部は設置されていない。特に台湾資本や香港資本の工場では皆無である。二〇〇六年の半ばまでを見ても、全総の支部を設置している外資企業は約三〇パーセントしかない。
二〇〇三年以降、労働組合は従来対象外としていた出稼ぎ労働者も積極的に加盟させるようになった。これに伴い、国際労働機関 (ILO) や労働・社会保障部と協力して失業労働者に訓練を施し、求職活動の支援や法的アドバイスを提供するセンターを開設している。また、未払い賃金を取り戻すための支援を行い、不当な処遇に対する苦情を受け付ける直通電話を設置している。二〇〇六年、全総は出稼ぎ労働者の貢献を認めようと、「模範労働者」の該当者を前年のわずか一名から一八名に増やして表彰した。
そして、外資企業に対する最近の加盟攻勢により、反労組で悪名高いウォルマートを取り込むことに成功した。これは国際的大金星である。二〇〇六年三月、中国の最高指導者である中国共産党中央の胡錦濤総書記は、労働者層に漂う不安定感に警鐘を鳴らし、外資企業における労働組合設立を促進すべしとの指令を出した。この頃、全総は外資企業における支部設立の比率を二〇〇六年に六〇パーセント、二〇〇七年には八〇パーセントにすることを目標に定めた。全総は前年からすでにウォルマートや他の外資企業を視野に入れており、支部設立を拒否すれば訴訟も辞さない構えを見せるなど相当な圧力をかけてきた。また、ウォルマート攻略に向けて北京からコンサルタントの支援を受けた成果でもある。
中国初のウォルマートでの労働組合支部設立に関しては、沿海部の福建省泉州市内にある店舗に勤務する精肉部門の一人の男性従業員からスタートし、今では三〇人にまで組合員が増加している。その年の夏の後半、ウォルマートは全総に対し、本部や配送センターも含め、全国の他の店舗にもすべて支部を設立することに同意した。
全総はかつてないほど全国に支部を設立する動きを見せ始めている。例えば、iPodを含め無数の消費財を製造している台湾資本のフォックスコンを説得し、深圳 (シンセン) にある同社工場での支部設立を認めさせている。マクドナルドも、広東省の店舗で法定の最低賃金を下回る低賃金で働かせているという地元メディアの調査報道を受け、いくつかの店舗で労働組合の支部設立を認めることに同意した。
以上のような動きがある一方、全総に対する疑念が消えたわけではない。中国労工通訊 (中国労働者通信) の調査担当役員であるロビン・マンローは指摘する。
「中国の労働組合は労働規律を守らせる従来の役割に加え、労働者の不安を緩和させる任務も課せられている。だが、その役割を適切にこなせる手段は与えられていない」
マンローの指摘は続く。
「将来的には、全総には中国人労働者の代表になってほしいと思っている。しかしながら、現状を見ると、本当の意味で労働者側の立場で彼らの利益を代弁する組織を目指して動いている兆しはどこにも見当たらない」
マンローは次のように結論付ける。
「真に労働者を代表する機関がなければ、労働者の権利に対する侵害は今後も続くであろうし、抗議活動もエスカレートの一途を辿るであろう。要するに、彼らの利益を代弁してくれる誰かの存在を認めない限り、社会的安定は得られないということだ」
中国政府は、草の根の労働運動を妨害しつつ、全総の組合員数を増やそうとしている。しかし、全総は「本当の意味で労働者側の立場で彼らの利益を代弁する組織を目指して動いている兆しはどこにも見当たらない」と評されている、と書かれています。
草の根の労働運動を妨害しつつ、全総の組合員数を増やそうとしているのは、要するに、「政府の息のかかった全総であれば、労働者をコントロールしやすい」ということだと思われます (「全総 (中華全国総工会) の実態」参照 ) 。
組合員数を増やすにあたって、中国政府は、外資を優先する (狙い撃ちする) 方針を打ち出しています。引用文中に、
「二〇〇六年三月、中国の最高指導者である中国共産党中央の胡錦濤総書記は、労働者層に漂う不安定感に警鐘を鳴らし、外資企業における労働組合設立を促進すべしとの指令を出した」とあります。これはおそらく、中国資本に比べ、外資の労働環境が劣悪だということではなく、
労働組合が設立され、労働者の待遇が改善すれば、当該企業の競争力は弱くなる (コストが上昇する) ことから、外国資本の企業において、労働組合設立を促進しようとしたものではないかと思います。
引用部冒頭の、
だが、当局の監視体制は強化される一方なのに、労働者支援グループは依然として活動が許されており、国際組織が中国の労働団体に資金援助を継続することも認められている。当局は香港や大陸の労働運動支援者に対し、国境をスムーズに通過できる旅行許可証を発行している。また、大陸の労働者の権利を大胆に擁護する中国労工通訊 (中国労働者通信) のようなグループも、中国政府が労働者をいかに粗末に扱っているかを詳細に説明した報告書の発表を認められている。広東省で活動している中国人の労働運動家は国内で外国の外交官と面談できるし、研修や会議で発言するための海外渡航も可能である。大陸で動いている香港人の労働運動家も不思議に思っている。という部分、評価が難しいところですが、とりあえず、
「我々が刑務所送りになっていないのは素晴らしいことだ。今でも国内で活動しているよ」
日本政府 (または政府から委託を受けたNGOなどの団体) が「中国人労働者に対する支援活動」を行うことも、中国当局は妨害しないと考えてよいと思います。