06/09 頭の体操 (106) 漢字クイズ
これまでの『音楽演奏・体の運動』目録 です。
(5) スタカーティシモ (O) 酢多過低下
スタカートって、どうやって演奏するんですか?
「書かれた音符の、1/2 の長さで演奏します。」
じゃ、スタカーティシモは?
「…1/4 の長さで…。 四分音符なら、16分音符だ…。」
?? どうして最初から16分音符で書かないんですか?
「……。」
スラーと一緒に書かれた、スラー スタカートは?
「………3/4 の長さで…。」
じゃあ、どうして…。
以上のうち "1/2 の長さ" は、楽典の教科書でも見かける
もので、音楽学校でも堂々と教えられることがあります。
この場でも何度か扱ってきましたが、音の "有無" を問題に
するだけでは、スタカートは決して処理できない音符記号です。
関連記事 『スタカートの誘惑』 など
(11) トーマス君 (F) 父増訓
Violin、Viola の楽器には、肩当てという備品があります。 楽器
を "持ちやすく" するためで、色々な商品があります。 楽器の裏
にブリッジのように取り付けるのが普通です。
使い心地には大きな差があるので、各々が自分に合ったものを
楽器店で探します。 私も何十年か前に、ありとあらゆる物を買い
集めました。 しかしそのうちに気が付いたのは、顎当てによって
も、弾き心地が違うということです。 こちらは楽器の表面に取り
着ける備品。
楽器職人さんたちがよく言うのは、「その材質や重さによって、
楽器自体の振動が変わる」…という現象です。 なるほどね。
しかしそれは、弦が一旦振動してしまってから後の話です。 私
が問題にしたのは、その前の段階。 通常は "テクニックの練習"
で処理すべき事柄です…。
顎当てには様々な形状があります。 厚さも違えば、取り付け
位置にも差がある。 私が気付いたのは、同一の顎当てでも
「取り付け位置次第で、結果に大きな差がある」…という事実
でした。 左⇔右、奥⇔手前。 たった1㎜ずらすだけで、音量
にも音質にも、また左手の機能にも、恐ろしいほどの差が生じた
のです。
「こりゃあ、少しでもいい条件でさらわないと、時間と努力が
無駄になるぞ!」
以来、今度は顎当ての買い集めが始まりました。 手元の
Violin、Viola に、色々なものを取り付けての実験です。 特に
4台の Viola は、大きさや厚みが様々で、試すのにも時間が
かかります。
「ここの出っ張りは、無い方が弾きやすいんじゃないか…?」
そう思うと、邪魔な膨らみの部分を削り始めます。 木工やすり、
プラスチック用やすり、時には鋸まで用意して。
気が付くと、いつしか自分で試作を始めていました。 材料は
既成の商品の残骸、アクリル樹脂など。 もっとも苦労したのは
楽器への取り付け方。 既成の金具を用いても、それを自分の
"作品" と一体化するのは、いつも至難の業でした。
そして、色々なパッセジを弾きながら、試行錯誤の連続です。
高弦は弾きやすいが、低弦はやりにくい。 高いポジションは
いいが、低いポジションが駄目だ…。 音質も大問題です。
裏側の肩当ての方は、元々薄いものを好んでいましたが、
これはさらに薄くなって行きました。 エアクッション式のもの
だったので、空気を抜けば調節できるのです。
そんなことをしているうちに、30年があっという間に過ぎ去り
ました。 さて研究の成果は…? 最後の作品は、厚さが1㎜
の、平たい板になっていました。
「なんだ。 これじゃぁ、無いのと同じじゃないか…。」
楽器の奏法自体には、以前とそれほど差がありません。
「その弾き方が、もっと楽に出来るようになるには、どうしたら
いいか?」
「それを見つけるために、人体実験を30年間続けていた」…
と言った方が正確でしょう。
一時は、出来た作品を実用新案で出願し、審査に通ったこと
もあります。 しかし認可された頃には、私自身も変わっていま
した。 "自分が進歩した" と言えるのかどうか、とにかく "作品"
の不備に気付き、結局無駄になったのです。
これ、金儲けと言うより、「自分の思い付いたものを他人に盗用
されたくない」…という思いが強かったからです。 商品化しても、
それほど売れるはずがないと思っていましたし。
現在は、顎当ても、そして肩当ても、まったく使っていません。
その代わりに、100円ショップで売っている商品が一つ。 私の
最高の武器です!
「じゃあ、30年間も無駄をしただけじゃないか。」 そうお考え
ですか? いいえ、「顎当ても肩当ても無くていい。」 「むしろ
無い方がいい」…ということが解っただけで、充分なのです。
上記のエジソンの解説サイトのエピソード欄には、次のような
一節が後半で見られます。
『数千回の実験を行い、その全てが失敗に終わっても、彼は
これを決して無駄とは見なさず、「実験の成果はあった。 これ
ら数千種類の材料が全て役に立たないという事が分かったの
だから」と語っていたという。 因みにエジソンが生涯で最も
手間と費用をかけた発明は自動車用のアルカリ蓄電池で、
これを完成させるまでに5万回を超える実験を繰り返したと
語っている。』
これ、私にとっては、"父マス訓" ならぬ発明王の、貴重な訓示
となりました。 自分の演奏は30年前よりは、ずっとマシになった
と、勝手に思っています。 幸か不幸か。
06/09 頭の体操 (106) 漢字クイズ
『これまでのカタカナ語句』には、
カタカナ部分のみが 各回ごとに載っており、
それぞれの記事に飛ぶことも出来ます。
「古い記事 (トップ) → 新しい記事 (奥)」 の順に並んでいます。
『頭の体操 漢字クイズ』 カテゴリーでは、
『問題・解答』の全文が直接ご覧になれます。 こちらは
「新しい記事 (トップ) → 古い記事 (奥)」 の順です。
03/03 ~ 03/25 に登場した外国語の人名、地名、用語が、
カタカナ表記で (1) ~ (21) に、登場した順に並んでいます。
また、(A) ~ (U) に並んでいるのは、それぞれを漢字で
表記しようとしたものですが、どう読めばいいでしょうか?
(1) ストレート (2) バイエル (3) ミクローシュ・ヨージェフ
(4) ヴュルテンベルク (5) スタカーティシモ (6) トタン
(7) セイレーン (8) マチェラータ県 (9) コムーネ (10) アル
(11) トーマス君 (12) ネストス川 (13) プトレマイオス
(14) アカデミック (15) ハープシコード (16) リンタン
(17) ロザムンデ (18) キプロス (19) ヘルミーナ・フォン・シェズィ
(20) オイリアンテ (21) クルト・ヴェス
(A) 臨堪 (B) 亜流 (C) 頭嘆 (D) 馬嫌 (E) 声麗艶
(F) 父増訓 (G) 来訪米酢 (H) 大入餡輝
(I) 切符紛失 (J) 露寒脱出 (K) 恋夢憂寝
(L) 待選他犬 (M) 酢摂意図 (N) 冬流天鈴狗
(O) 酢多過低下 (P) 釡穫米落酢 (Q) 悪果出身苦
(R) 恥悪父子呼脅 (S) 寝過通過我話
(T) 満苦労酒酔自重父 (U) 減実名本誌絵図入
[解 き 方]
・ 漢字を読み、主にその音を用いて、原語での発音を表わそうと試みた
ものです。
・ 音読み、訓読みが混ざっています。 必要な場合は、濁点(゛)、
半濁点(゜)、送り仮名を補ってください。
・ 従来のカタカナ表記による読み方とは、必ずしも一致しない場合が
あります。
・ 音ではなく、単語の意味を外国語に置き換え、その発音を用いる
こともあります。 「星 → スター」、「太陽 → サン」のようにです。
今回は2箇所あります。
・ 口語的、俗語的にくだけた読み方をすることもあります。
(例) 「汚 → きたねぇ」、「社長 → ボス」。
今回はありません。
・ 漢文もどきに、順番を入れ替えて読む場合もあります。
(例) 「不読 → よまず、よまん、よまない」。
今回はありません。
・ 人名漢字の中には、“姓”、”名” ともに含まれている場合もあります。
姓に加えて "first name" をご自分で補ってください。
(例) 「ヨーゼフ・シュトラウス」。
今回はありません。
・ 音や意味とは無関係で、漢字から連想しないと解けないものも!
今回はありません。
・ 厳密に見るといい加減なものもありますが、そこは冗談の世界。
お見逃しくださいませ。
解答
↓
以下、03/03 『ひとこと多い Brahms』より
(1) ストレート (M) 酢摂意図
「身体にいい」…と言われる、お酢。 貴女はダイエットに使って
おられますか? 内蔵脂肪低下、血圧低下、血糖値上昇抑制、
抗酸化、栄養吸収力増進、血液サラサラ…などの効果があると
聞きます。
血圧が高めの私。 一頃は黒酢を試してみましたが、これだけ
では駄目。 「貴方は立派な高血圧です。」 そう診断され、通院
し始めてから一年余が経ちました。
「もっと運動しなさいよ。」 先生には、いつもそう言われます。
あの、上半身の運動だけは絶やさないんですけど…。 これ、
楽器を弾くのと、パソコンに向かうのと。
「そんなの、運動のうちに入らんでしょ! 次回までに、もっと
値を下げてらっしゃい!」
そんなやり取りが毎回続き、最近は先生も少々諦め顔です。
以下、03/06 頭の体操 (97) 漢字クイズ 問題/解答より
(2) バイエル (D) 馬嫌
作品はほとんどがピアノのもの。 今日では教則本で名
が残る、フェァディナント・バイァー。 様々な表紙、装丁の
"バイエル" が見られます。
"子供のバイエル" があるのに、"大人のバイエル" は
無いの? "やさしいバイエル" があるなら、"難しいバイ
エル" もあるんだろうな…。 周りの女の子たちが抱えて
いた教則本を眺めながら、いつも疑問に思っていました。
ピアノには無縁の、小学生時代の私です。
1950年代後半の話ですが、ピアノはまだほとんど普及
していませんでした。 「家にグランドがある」…なんて子
がいたら、もう大変。 なぜって、普通の家庭にはアップ
ライトさえ置けず、あの足踏みオルガンで練習し、本物の
ピアノに触るのはレッスンのときだけ…。 そんな時代で
したから。
おや!? "お菓子のバイエル"、"鉄のバイエル" も
あるぞ! まるチャン、何だ? これ?
(3) ミクローシュ・ヨージェフ (T) 満苦労酒酔自重父
ハイドンが30年間楽長として務めた主君です。 しかし1790年
に亡くなってしまうと、後継者は音楽に理解の無い息子、アンタル
(1738?1794)。 ハイドンがロンドンへの旅に踏み切るきっかけ
ともなりました。
以後、作曲家の本拠地はヴィーンとなり、亡くなったのは1809
年5月31日。 ナポレオンによって市が陥落を迎える前日のこと
でした。
(4) ヴュルテンベルク (N) 冬流天鈴狗
生まれはプロイセン王国北東部 (現ポーランド領)、育ちは南西
部の辺境 (現フランス領)。 そして17歳を控えてロシアに渡り、
パーヴェルⅠ世の妃となったのが、ゾフィー・ドロテア・フォン
・ヴュルテンベルクです。
旅立つ直前にはヴィーンに住み、ピアノを習っていました。
先生はハイドンでしたが、このニュースには、師もさぞ驚いた
ことでしょう。
関連記事 『師に誘 (いざな) われた人生の旅』
ハイドンのショックは癒えるどころか、驚きは増すばかり。
そして15年後にロンドンで作曲されたのが、かの "びっくり
交響曲" だったということです (ウソ)。
以下、03/10 『無視される スラー スタカート』より
(5) スタカーティシモ (O) 酢多過低下
スタカートって、どうやって演奏するんですか?
「書かれた音符の、1/2 の長さで演奏します。」
じゃ、スタカーティシモは?
「…1/4 の長さで…。 四分音符なら、16分音符だ…。」
?? どうして最初から16分音符で書かないんですか?
「……。」
スラーと一緒に書かれた、スラー スタカートは?
「………3/4 の長さで…。」
じゃあ、どうして…。
以上のうち "1/2 の長さ" は、楽典の教科書でも見かける
もので、音楽学校でも堂々と教えられることがあります。
この場でも何度か扱ってきましたが、音の "有無" を問題に
するだけでは、スタカートは決して処理できない音符記号です。
関連記事 『スタカートの誘惑』 など
以下、03/14 頭の体操 (98) 漢字クイズ 問題/解答より
(6) トタン (C) 頭嘆
用途は主に自動車、コンテナ関係、土木建築関係、電気機器
などだそうです。 基本的には、鋼板に亜鉛めっきをほどこした
もののことですが、アルミ亜鉛合金が用いられることも。
"めっき" ということは、液体の状態で "付着させる" ことに
なりますね。 方法としては、溶融、電気、塗装。 いずれに
しても電気が不可欠のようです。
こういう分野は特に苦手。 固い頭が、トタン板の形状のよう
に波打ちそうです…。
(7) セイレーン (E) 声麗艶
アルファベット表記で "Seiren"。 「海の航路上の岩礁から
美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせる。
歌声に魅惑されて殺された船人たちの死体は、島に山をなした
という。」…と記されています。 ギリシャ神話にも登場し、あの
サイレン (siren) の語源だとか。
でもサイレンは、警笛、号笛、警報。 とても美しい音とは
言えず、大きいのだけが取柄です。
それに警報なら、「気をつけなよ、危険だよ!」でしょ? これ、
矛盾する…。
美声の誘惑には無縁。 いくら考えても理解不能の私でした。
(8) マチェラータ県 (L) 待選他犬
イタリアは約20の州から成り、それを構成する県の数は110
ほどになります。
中部のマルケ州には5の県があり、マチェラータはその一つ
です。
ウチの "まる" チャンは、駄ケンの一種です。
あ、怒って跳んで来た! ごめんごめん、本当はメイ犬です!!
ちょっとマチェガエタだけだよ…。
咬んだりすると、他犬を選んじゃうぞ。
(9) コムーネ (K) 恋夢憂寝
県を成す小さい単位の自治体です。 ローマもミラノもコムーネ
の名、そして県名でした。
さて私もそうですが、眠りたいのに "恋夢憂寝" と無関係な方
は、コムーネの名前でも一緒に呟きましょう。 数えながらね…。
コムーネが一匹、コムーネが二匹…。
その数は 8,000 を越えるそうです。
(10) アル (B) 亜流
…え? 貴方は "恋夢憂寝" と関係がアル? それは失礼
しました。
これ、Thomas Alva Edison のミドルネームです。 大発明王
に対して "亜流" なんて、大変失礼しました。
(11) トーマス君 (F) 父増訓
Violin、Viola の楽器には、肩当てという備品があります。 楽器
を "持ちやすく" するためで、色々な商品があります。 楽器の裏
にブリッジのように取り付けるのが普通です。
使い心地には大きな差があるので、各々が自分に合ったものを
楽器店で探します。 私も何十年か前に、ありとあらゆる物を買い
集めました。 しかしそのうちに気が付いたのは、顎当てによって
も、弾き心地が違うということです。 こちらは楽器の表面に取り
着ける備品。
楽器職人さんたちがよく言うのは、「その材質や重さによって、
楽器自体の振動が変わる」…という現象です。 なるほどね。
しかしそれは、弦が一旦振動してしまってから後の話です。 私
が問題にしたのは、その前の段階。 通常は "テクニックの練習"
で処理すべき事柄です…。
顎当てには様々な形状があります。 厚さも違えば、取り付け
位置にも差がある。 私が気付いたのは、同一の顎当てでも
「取り付け位置次第で、結果に大きな差がある」…という事実
でした。 左⇔右、奥⇔手前。 たった1㎜ずらすだけで、音量
にも音質にも、また左手の機能にも、恐ろしいほどの差が生じた
のです。
「こりゃあ、少しでもいい条件でさらわないと、時間と努力が
無駄になるぞ!」
以来、今度は顎当ての買い集めが始まりました。 手元の
Violin、Viola に、色々なものを取り付けての実験です。 特に
4台の Viola は、大きさや厚みが様々で、試すのにも時間が
かかります。
「ここの出っ張りは、無い方が弾きやすいんじゃないか…?」
そう思うと、邪魔な膨らみの部分を削り始めます。 木工やすり、
プラスチック用やすり、時には鋸まで用意して。
気が付くと、いつしか自分で試作を始めていました。 材料は
既成の商品の残骸、アクリル樹脂など。 もっとも苦労したのは
楽器への取り付け方。 既成の金具を用いても、それを自分の
"作品" と一体化するのは、いつも至難の業でした。
そして、色々なパッセジを弾きながら、試行錯誤の連続です。
高弦は弾きやすいが、低弦はやりにくい。 高いポジションは
いいが、低いポジションが駄目だ…。 音質も大問題です。
裏側の肩当ての方は、元々薄いものを好んでいましたが、
これはさらに薄くなって行きました。 エアクッション式のもの
だったので、空気を抜けば調節できるのです。
そんなことをしているうちに、30年があっという間に過ぎ去り
ました。 さて研究の成果は…? 最後の作品は、厚さが1㎜
の、平たい板になっていました。
「なんだ。 これじゃぁ、無いのと同じじゃないか…。」
楽器の奏法自体には、以前とそれほど差がありません。
「その弾き方が、もっと楽に出来るようになるには、どうしたら
いいか?」
「それを見つけるために、人体実験を30年間続けていた」…
と言った方が正確でしょう。
一時は、出来た作品を実用新案で出願し、審査に通ったこと
もあります。 しかし認可された頃には、私自身も変わっていま
した。 "自分が進歩した" と言えるのかどうか、とにかく "作品"
の不備に気付き、結局無駄になったのです。
これ、金儲けと言うより、「自分の思い付いたものを他人に盗用
されたくない」…という思いが強かったからです。 商品化しても、
それほど売れるはずがないと思っていましたし。
現在は、顎当ても、そして肩当ても、まったく使っていません。
その代わりに、100円ショップで売っている商品が一つ。 私の
最高の武器です!
「じゃあ、30年間も無駄をしただけじゃないか。」 そうお考え
ですか? いいえ、「顎当ても肩当ても無くていい。」 「むしろ
無い方がいい」…ということが解っただけで、充分なのです。
上記のエジソンの解説サイトのエピソード欄には、次のような
一節が後半で見られます。
『数千回の実験を行い、その全てが失敗に終わっても、彼は
これを決して無駄とは見なさず、「実験の成果はあった。 これ
ら数千種類の材料が全て役に立たないという事が分かったの
だから」と語っていたという。 因みにエジソンが生涯で最も
手間と費用をかけた発明は自動車用のアルカリ蓄電池で、
これを完成させるまでに5万回を超える実験を繰り返したと
語っている。』
これ、私にとっては、"父マス訓" ならぬ発明王の、貴重な訓示
となりました。 自分の演奏は30年前よりは、ずっとマシになった
と、勝手に思っています。 幸か不幸か。
(12) ネストス川 (S) 寝過通過我話
同じ30年ほど前の笑い話ですが…。 私は東京の山手線に
乗っていました。 平日の昼下がりで、車内は閑散としていた
のを覚えています。 お花見シーズンだったでしょうか。
目的駅に着きました。 さて降りようかな。 電車のドアが
開き、駅のアナウンスがプラットフォームに響き渡ります。
「上野~、うえの~!」
すると、それまで私の正面の座席で横になり、眠っていた
男性が、おもむろに起き上がりました。 どうするのかな?
ひょっとして、降りたいのかしもしれない…。
私は、ドアが閉まらないように、楽器のケースを抱えたまま
体を張り、彼が降りられるようにしてあげました。 自分の片足
をホームに、もう片方は車内に残して。
しかしそれは、どうも "余計なお世話" だったようです。 彼
は、こう呟くなり、同じその座席に寝込んでしまったから。
「また上野か…。」
(13) プトレマイオス (P) 釡穫米落酢
昼日中の山手線なら、まだしも…。
東京には中央線もあり、新宿、中野、三鷹、立川を通って西へ
延びていて、終着駅の高尾では、乗り過ごした酔っ払いさんたち
が起こされます。 「もしもし、お客さん! 車庫へ入りますよ。」
上り方面の電車がまだある時間帯なら、まだしも、深夜となる
と問題は深刻です。 「タクシー代? そんなもん、ねえよ…。」
ホームの待合室は、「そんな "お客さん" のために、終夜開放
されている」…と聞いたことがあります。
かく言う私も要注意。 都内の西の外れに住み、新宿から西
へ延びる小田急線を利用していますが、駅にして二つ、三つを
乗り越したことが何度かあります。 寝込んだり、考え事をして
いたり。
幸いにも、「小田原~、おだわら~!」…という経験は、まだ
ありませんが。
先ほどのネストス川は、ブルガリアに発し、ギリシャ北部を
南下して、エーゲ海に注ぐ、今日のメスタ川です。 これなら、
寝過ごして駅を乗り越す心配はありません。 眼擦多ガワ。
ネストスは、2,000年ほど前にプトレマイオスが作った地図
での呼び名でした。
(14) アカデミック (Q) 悪果出身苦
"犬棒カルタ" というのがありますね。 「犬も歩けば…」という、
あれです。 昔々、小学校へ上がるかどうか…の年齢の子供たち
と、これを一緒にやりました。 多少の教育的意味も込めて。
その中にあったのが、"身から出た錆"。 絵札の方に描かれて
いたのは、江戸時代の牢獄と思しき中で、膝を抱えて座り込み、
嘆いている人物。 今でもよく覚えています。
ところが以来、私が何かと失敗して落ち込むたびに、二人が口
を揃え、「身から出た錆!」 どうやら教育的効果が功を奏し過ぎ
たようで…。
これも "身から出た錆" か…。
(15) ハープシコード (R) 恥悪父子呼脅
チェンバロ、クラヴィチェンバロ、クラヴィーア、クラヴィコード、
クラヴサンなどとも呼ばれ、ピアノの前身の鍵盤楽器を指すの
が普通です。
中学校のときの、音楽の授業。 私はこれらの名前を聞いた
ことがありませんでした。 そのときに教師が使った言葉が、
クラヴサン。 説明を聴き逃したのか、楽器の名前かどうかも
解りません。
クラヴさん? どんな人かな…? トランプなら、クラブの3が
あるけどな…。
数十年後に、この場でこんな事を書くことになろうとは、思い
もよらなかった私です。
(16) リンタン (A) 臨堪
大バッハの作品には、"クラヴィーアのための曲集"、いわゆる
"平均律" です。
イギリスへ渡ったヘンデルには、ハープシコードのための曲集
があります。 その中で有名なのが、『調子の良い鍛冶屋』。
ところが、これは作曲者が名付けたのではない。 リンタンなる
人物の仕業で、鍛冶職人からバス歌手を経て、楽譜出版者に
なりました。 一曲だけ取り出してこう名付けたのは、売り上げを
伸ばし、儲けを増やすため。 私がこれを知ったのは、つい先日
のことです。
「音楽の母ヘンデルはね、盛んに働く鍛冶屋さんを見て、それを
音楽にしたんですよ? 解りましたか? 皆さん。」 ハ~~イ!
せっかく小学生低学年のときから、これだけはちゃんと忘れな
かったのに、嘘ばっかり…。
以下、03/23 『書いてない横のバランス』より
(17) ロザムンデ (J) 露寒脱出
キプロスの女王ロザムンデ。 舞台作品です。 付随音楽
としてこれに曲をつけたのが、シューベルト。
その間奏曲にはとても美しいメロディーがあります。 弦楽
四重奏曲で、第Ⅱ楽章のテーマとして再利用されたほどです。
また『4つの即興曲』 (D935) 第3曲の変奏曲でも、主題として
使われています。
以下、03/25 『意中のメロディー』より
(18) キプロス (I) 切符紛失
地中海の東端にあるキプロス島。 今日では実質的に分断
国家となっています。 南北で対立する、ギリシャ系、トルコ系
の住民たち。 おまけに首都自体が分割されてしまっており、
かつてのベルリンを思わせます。
[Libraria Musica]には、戯曲『ロザムンデ』について、次の
ように記されています。
「当時の新聞記事などから大体のストーリーを推察すると…。
キプロス王の娘ロザムンデは、訳あって幼少より貧しい未亡人
のもとで育つが、18才の時に正当な王位継承者として紹介され
る。 時の統治者は権力を維持するために結婚をせまったり
毒殺を試みたりするが、一人の好青年が登場してロザムンデ
を救う。 実はこの青年は幼少の時に定められた彼女の許婚
の王子様だった。 めでたし、めでたし。」
"切符紛失" ならぬ、台本紛失で、戯曲の詳細は今日では
解りません。 上演の際は数名のナレーターを伴い、演奏会
形式で行われます。
(19) ヘルミーナ・フォン・シェズィ (U) 減実名本誌絵図入
初演は大失敗。 二日間上演されただけで打ち切り。 「戯曲
の出来が悪かったからだ」…と言われていますが、別の原因も。
それは彼女が音楽好きだったからです。 その事情は次の(20)
に記しますが、いずれにせよ、「音楽のお蔭で、名が辛うじて後世
に残っている。」 …それが定説になっています。
(20) オイリアンテ (H) 大入餡輝
『ロザムンデ』は彼女の二作目の戯曲に当りますが、実は第一
作目も失敗していました。 それが、この『オイリアンテ』。
"大入り" ならぬ "不入り" の原因は、やはり "台本の稚節さ"
だと言われています。 ところで、この付随音楽を依頼されたの
がヴェーバーでした。 「あら、失敗しちゃったわね…。 じゃあ、
今度はシューベルトに頼もうかしら!」
こんな微妙な立場に置かれた作曲家二人が、『ロザムンデ』
の初演の直前、ヴィーンで鉢合わせ! さあ、黙っていられな
かったのが、ヴェーバーのファンたち。 「二作目の初演を台無し
にしてやろうと陰謀を巡らし、暗躍した」…のだそうです。
『オイリアンテ』の方は台本が残っていますが、歌劇全体が
上演されることはほとんどありません。 せいぜい序曲だけの
ようです。
歌劇の内容は、「貞節な妻オイリアンテが、陰謀であらぬ嫌疑
をかけられ、夫の冷たい仕打ちに遭う」…という物語です。
どうも陰謀だらけのようで…。 でも歌劇の最後は大団円です。
話は変わって小惑星。 その中には、以下のように命名された
ものがあります。 年度は発見年で、発見者は M. F. ヴォルフ
です。
(339) ドロテア 1892年、 (412) エリザベータ 1896年、
(471) パパゲーナ 1901年、 (509) イオランダ 1903年、
(514) アルミーダ 1903年、 (515) アタリア 1903年、
(524) フィデリオ 1904年、 (527) オイリアンテ 1904年、
(529) プレチオーザ 1904年、 (530) トゥーランドット 1904年。
歌劇、劇音楽に登場する人物で、どれも女性ですね。 でも
厳密に言うと、男性名が一つだけあります。 さて、それは…?
(21) クルト・ヴェス (G) 来訪米酢
幾度も来日し、主に在京のオケを指揮されました。 その際
何度か、私が図々しくスコアを持参し、質問に伺ったのですが、
一つ一つ丁寧にお答えになり、アドヴァイスしてくださいました。
教えていただいた曲の中に、劇音楽の『ロザムンデ』があった
というわけです。
当時の演奏曲目で印象に残るのは、ブルックナーの交響曲
第3番。 跪かんばかりの姿勢で指揮されたのを覚えています。
その他では、ワルツ王シュトラウスの数々の作品が。 中でも
忘れられないのは、『クラップフェンの森で (Im Krapfenwald'l)
Op.336』というポルカ。 カッコウの鳴き声を思わせる小道具の
笛を、ご自分で吹かれました。 ヴェスさんのにこやかな表情が
今でも…!
お疲れさまでした。