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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

ロココの主題による変奏曲

2009-03-16 00:07:03 | 私のオケ仲間たち

03/16  私の音楽仲間 (29) ~



  私のオーケストラ仲間たち (6)

   チ(ャ)ィコーフスキィ 『ロココの主題による変奏曲』







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 20数年前、神奈川大学管弦楽団の合宿に初めてお邪魔
した様子をお読みいただいているわけですが、なかなか先に
進みません。

 前回は、アマチュア・オーケストラ、特に学生オケによくある、
"アンバランス" の幾つかを見てきました。



 しかし、アマチュア・オーケストラならではの素晴らしいメリット
も、また数多くあります。 その一つが、トレーナーの先生方との
交流関係です。




 このオーケストラには、チェロのパートを以前から教えて
おられる、T.先生という素晴らしい方がおられました。
人格的にも技術的にも。 もちろん現在でも引き続き、
任に当たっておられます。



 その先生を独奏者に迎え、チ(ャ)ィコーフスキィの

ロココの主題による変奏曲』が、演奏会プログラム

の二曲目として計画されていたのです。




 そしてこの日の午後は、私は Viola パートにお邪魔して、
この曲に接することになりました。

 ちなみに、私はいまだにこの曲を "演奏する側" となった
ことがありません。




 この日 Viola パートには、男性一人、女性二人の、極めて
意欲的で、また礼儀正しい方々がおられました。 そして私も、
この一度しか無い機会を何とか有効に生かすため、一緒に
なろうと懸命になった覚えがあります。



 ただこの曲の場合、難しいのは "弾くよりも数える" ことです。
特に、ソロとのかけあいが極めて頻繁にあり、一小節ごと、また
一拍ごとに反射神経を総動員しなければなりません。

 しかしそれは、ソロがいるからこそ、練習が可能なことです。
アマチュア・オケの場合、全体合奏が毎回あるわけではなし、
ましてや、独奏者が一緒の練習は、ほんの数回に限られます。



 このようなパート練習では、まず重点箇所ごとに部分品を
磨き上げ、ある程度慣れた頃を待って、今度は "譜面どおり
に流す" ように、二段構えで行かねばなりません。 その際、
必要ならばソロ・パートをこちらが弾いたり、せめて口ずさむ
ようにしないと、練習の能率は上がりません。



 でもこの日の練習は、今を去る 20数年前のこと。 練習
内容の詳細な記憶はありません。




 もう一つ残念なことがあります。 それは独奏者のT.先生の
演奏には、練習・本番とも、一度も接する機会が無かったこと
です。

 またT.先生に直接お会い出来るまでには、実はこのあとも、
かなりの期間を待たなければならなかったのを覚えています。

 ちなみに先生はその後も、サン=サーンスの協奏曲第一番、
ドヴォジャークの協奏曲を、この団体と共演しておられます。




 午後の三時間も、あっという間に過ぎました。

 夕食後は夜のコマ。 そしてそれを終えると、残念ながらこの
奥志賀を後にしなければなりません。



 目の前には、おいしそうな夕食が待ち構えています。 いくつ
になっても、食事前のこの瞬間は幸せなものですね。



 するとそのとき、練習計画を統括するインスペクター役クンが、
私の方に近寄ってきました。 よりによって、これからみんなで
一緒に「いただきます」をしようという、直前になって!

 なんだろう? 「教え方が悪いから、食べるな」とか…。

 まさかそんなことはないでしょうが、なにやら胸騒ぎが。




 ちなみに、突然イヌの話になりますが、"お預け" は、かなり
厳しい仕打ちのようです。

 ましてや一旦食べ始めた場合は、「止めろ」と命令しても、
なかなか言うことを聞きません。 どんなに忠実なイヌでも、
敵意に近い感情を抱くとか…。 噛み付きそうな剣幕で。



 私も "まる" と大して変わらないのでしょうか。

 ( ⇒ 『星に願いを』)




 肝心の音源です。



  [Mstislav Rostropovich] (静止画像) (1) (2)



  [Rocco Rilippini]      (1) (2) (3)



  [Soo Bae]          (1) (2)



  [Sifei Wen]         (1) (2) (3)




 (続く)



大いなるアンバランス

2009-03-15 00:05:51 | 私のオケ仲間たち

03/15  私の音楽仲間 (28) ~



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 初対面の学生オケとの、合宿の一日目。 その、朝の練習が
終わったところまでお伝えしました。

 オーケストラの名前は神奈川大学管弦楽団でした。



 『リュイ・ブラース』序曲では、コンマス君と二人で苦闘して
いるうちに、曲のお話で横道にそれてしまいました。



 ついでに、お昼ごはんの前に、もう少しだけ…。




 メンデルスゾーンのこの、いわば "マイナー" な曲が、なぜ
演奏会の曲として選ばれたのでしょうか?

 弦楽器が上から下まで、まるで名人ピアニストの両手のように
扱われ、その上、軽やかな動き、美しい音色を要求されるような、
"地獄のような" 曲が。

 その鍵は、やはり "三本のトロンボーン" にあるのでしょう。




 アマチュア・オケの事情に詳しい方には、申し上げる必要が
無いことですが、選曲にはどの団体も大変苦労します。 その
悩みの原因の一つに、"金管楽器の出番" の問題があります。



 これが、もしプロのオーケストラで、出ても出なくても賃金に
変わりがなければ、誰でも喜んで休みを取ります。 私のよう
な、弦楽器セクションの人間でさえ。

 ところがアマチュアの場合は違います。 好きでやっている
のですから。 出番はある程度多いに越したことはありません。

 「同じ団費、部費を払っているなら公平に…」という問題も
あります。 その上、貴重な愛好家の仲間同士なのですから。



 しかし金管、打楽器奏者が要求される人数は、曲目によって
大幅に異なります。 特にトロンボーンにとっては、出番自体が
「有るか無いか」
という、まさに死活問題です。

 極端な場合には、一つの演奏会に "音符は数個" ということも
あります。

 有名な『新世界より』では、シンバルは一発だけ。 他の楽器
との掛け持ちが許されなければ、出番はこれのみです。




 私はかつて、トロンボーンがいないのに "チューバが一人"
というオケとご一緒したことがあります。

 他のパートを見ると、Viola は0、Contrabass も0、オーボエ、
ファゴットも0…。

 さらにややこしいことに、そのチューバ君は、また唯一の
Contrabass 君だったのです。



 選曲に苦心したすえ、ホルン2、トランペット2、そして
トロンボーンがバス・トロンボーンだけという曲を引っ張り出し、
チューバにその低音パートを回してしまったことがあります。

 「作曲者さん、ごめんなさい。 吹かせてあげてください…」
と詫びながら。

 その作曲者とは、かのグリンカでした。




 出番の少ない金管楽器に比べ、片や弦楽器の方は、一つ
の演奏会だけを取ってみても、楽譜に書かれた音符の数
おそらく何千、いや、それ以上あるでしょう。

 アマチュアの場合、一人が一曲 "仕上げる" には、プロの
数倍も練習時間が必要です。 音符が多ければ多いほど
大変です。




 その上、弦楽器の一つのパートには (管、打楽器の一パートと
違って)
複数の人間が要求されます。 少なく見積もっても
5~10人ずつ、それが上から下まで五つのパート、それぞれ
に必要になります。

 おまけに、弦楽器の人数が充分足りている団体の方が、
一般的には少ないと言えます。

 足りない弦楽器と、余り気味の管楽器。 この、おそろしい
格差。 音量バランスにも、大きく影響します。




 そしてその "バランス" には、もう一つ重要な問題が関係して
きます。

 経験年数が浅い場合、弦楽器奏者一人一人が出す音量
は、プロの奏者と比べると "格段に" 小さいというのが、これも
一般的実情です。 残念ながら。

 技量の問題、また、"楽器の良し悪し" という要因もある
のでしょう。



 結果として、ただでさえ音量が豊富な金管楽器には、
ほとんどの場合太刀打ちできません。

 指揮者のバランス感覚の見せ所なのですが、かと言って、
穴だらけの弦楽器セクションの、空席を埋めてくれる "応援
部隊" に頼ろうにも、彼らは本番間近にならなければ来て
くれないのが現実です。




 したがってどのオーケストラも、"大いなるアンバランス"
の諸々に、常に悩まされつつ、選曲や練習には毎回苦労
しているというのが実情なのです。



 この神奈川大学管弦楽団の場合、学校全体の規模は
必ずしも大きくありません。 弦楽器の人数に限ってみても、
毎回多くの応援 (エキストラ) を外部から招いています。

 かつてブルックナーの交響曲第4番『ロマンティック』を
取り上げた際には、Viola のメンバーがいませんでした。

 頑張り屋さんの、遠距離通学の女性一人以外には。




 (続く)



『リュイ・ブラース』序曲

2009-03-14 00:08:01 | 私のオケ仲間たち

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 この、フェリックス・メンデルスゾーン

序曲『リュイ・ブラース』 (1839) は、ヴィクトル・ユーゴー

五幕物の悲劇、"Ruy Blas" という戯曲 (1838)

のために書かれました。 舞台は中世スペインです。




 奴隷同然の召使、リュイ・ブラースは、国の女王に秘かに
思いを寄せています。 それを知ったその主人は、彼を面白
半分に宮廷に送り込みます。 もちろん、その身分を隠させ、
貴族の身なりをさせてです。

 ところが予想に反し、リュイ・ブラースは、その知性と人望で
頭角を現わし、首相にまで登りつめます。 そして、成し遂げ
た改革の数々が功を奏し、ついに女王の心まで奪ってしまう
のです。

 面白くないのはその主人。 ついにリュイ・ブラースが卑しい
"召使の身分" であることを暴露し、衆目の前で彼にひどい
侮辱を加えるのでした。

 それはまた、女王を侮辱することをも意味します。

 ブラースの取るべき道は、ただ一つ。 彼はついに主人を
殺し、自分は毒を仰ぎます。 女王の名誉を守るためには、
自らの存在を消し去るしかないのです。

 死を迎えるブラースに、女王は赦しの言葉を与え、ブラース
を愛していたことを、今や公然と明らかにするのでした。




 この戯曲は悲劇でありながら、また喜劇的側面も持つ通俗劇
と言われます。 また、17世紀スペインの政治社会を巡る矛盾、
葛藤を巧みに織り込んだ、作者ユーゴーの名作でありながら、
そのわりには初演の反響が少なかったそうです。

 フランスの名女優、サラ・ベルナール (Sarah Bernhardt
1844~1923) は、この女王役で大きな名声を博したと言われ
ます。



 またこの戯曲は、フランスの名優、ジャン・マレエの主演で
映画化
(1947) されています。
    ↑
 なおこのサイトには、ジャン・コクトオジョルジュ・オーリク
ダニエル・ダリューなど、オールド・ファンには懐かしい名前が
見られます。




 以下の音源と短い紹介は、前回と同じ内容です。

 [Sir Thomas Beecham - 45rpm (1951年)



 重々しい何度かのファンファーレに続いて、Allegro molto、
ハ短調の主部に入ります (1'00" 過ぎ)。

 (上記の演奏は、私の感覚では、この部分以後が速すぎ、Vn. や
 フルートが追いまくられ、曲の哀切感が充分に伝わってきません。)




 怒涛の渦巻く威圧的な箇所、ファンファーレ、チェロ主体の歌
の部分などがこれに交錯し、最後はハ長調で締めくくられます。



 (続く)



人も曲も初対面

2009-03-13 00:00:48 | 私のオケ仲間たち

03/13  私の音楽仲間 (26) ~



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 雪女の呪い ~チ(ャ)イコーフスキィ の 『冬の日の幻想』 第Ⅲ楽章
                  眠り姫の呪い
               『眠れる森の美女』組曲







 それは、暗い中に一つだけ浮かんだ、希望のようでした。

 何時間も暗闇の中を運転してきて、着いたらまた真っ暗闇。
その中で、一つだけ玄関先に明かりの灯ったホテル。

 私ならずともホッとするでしょう。



 思わず、吸い寄せられるように車を近づけていくと、外には
何人か立っているようです。 こちらを見ています。

 ひょっとして、私を迎えに出てくれているのかもしれない。



 そう。 彼らは、夏とは言え、夜の冷えた空気の中で、私の
到着をずっと待ってくれていたのでした。

 「明かりを点けていれば、目標になるだろう。」

 またおそらく、「それでも間違って通り過ぎてしまうといけない」
との配慮から。 目立つように、何人もが。

 いつ私が来るのかも判らずに。 外に立ったまま。 ずっと。



 それは一体、どのぐらいの時間だったのでしょうか。




 これが彼らとの初めての出会いの様子です。




 朝食後、初めての仕事は、コンマスのM.君との "二人練習"
でした。

 要するに Vn.Ⅰのパート練習なのですが、合宿のこの日には、
要員は彼一人だけだったのです。



 曲は、フェリックス・メンデルスゾーン

    序曲『リュイ・ブラース』です。




 曲の内容については次回に触れますが、日本では今日
めったに演奏されない曲で、私も今まで、 Viola でせいぜい
一、二度しか弾いた経験がありません。

 それも、この日を迎えるまでは、弾いた記憶がありません。
つまり私にとっては、これが曲との初めての出会いということ
になります。



 編成は、ホルン 4、トランペット 2、それにトロンボーンが3。
Timpani も参加し、重々しいファンファーレが何箇所かある
ものの、木管は二本ずつです。

 予め、手元にあったポケット・スコアで予習はしておきました
が、さて、いざ一緒にパート譜を眺めてみると、やはり大変
難しいのです。



 基本的には弦楽器が主体の曲です。 何といっても Vn.Ⅰ
が軽やかに、またあるときは、激しく動き回ります。 それに
チェロにもメロディーがあります。

 この作曲家のアイディアすべてが、名ピアニストの両手同然
に、弦楽器に任せられているのです。



 それにメンデルスゾーン特有の、あの響きの美しさ。

 「そこまで手が回らない」というのは、愛好家の方々ばかり
でなく、専門家たちにとっても同じ悩みです。




 コンマス君と私は、一緒にパート譜をゆっくり練習しました。

 Fingering (指使い)Bowing (アップ/ダウンの弓使い) を、一か所

ずつ検討しながら。



 「僕はコンマスなんか務める技量は無いです。」

 M.君の謙虚な言葉が、いまだに耳に残っています。




 午前中の練習時間の (当時) 三時間は、あっという間に
過ぎて行きました。

 さあ、お昼ごはんです。 午後はどういう仕事が待ち構えて
いるのでしょうか。




 音源 [Sir Thomas Beecham - 45rpm (1951年)



 重々しい何度かのファンファーレに続いて、Allegro molto、
ハ短調の主部に入ります (1'00" 過ぎ)。

 (上記の演奏は、私の感覚では、この部分以降が速すぎ、Vn. や
 フルートが追いまくられ、曲の哀切感が充分に伝わってきません。)




 怒涛の渦巻く威圧的な箇所、ファンファーレ、チェロ主体の歌
の部分などがこれに交錯し、最後はハ長調で締めくくられます。



 またこの曲には、ルメアという人による、オルガン用の編曲も
あるそうです。




 (続く)



深夜の到着

2009-03-12 00:00:25 | 私のオケ仲間たち

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 今を去る20数年前。 あと数週間で、関越自動車道が
やっと全線開通を迎えようとする頃のことです。

 私はひとりで車を飛ばしていました。 九月の夜更け、
目的地は奥志賀高原です。



 「ある学生オーケストラの合宿があるのだが、あいにく
指揮者も、弦楽器を教えるトレーナーの先生も、今回は
誰も来ない。 よかったら…。」

 当時自分が在籍していたオーケストラの同僚から、その
ような話がありました。 私がまだお邪魔したことのない
団体です。



 東京を発ったのは、夜の九時過ぎ。 自分のスケジュール
の関係で、どうしてもこの時間になってしまったのです。

 翌朝あらためて出直してもいいのですが、同じ日の夜には
再び東京に向かわねばならず、却ってきついので、そのために
このような形になってしまいました。

 今夜のうちに到着すれば、明くる日は朝から練習にご一緒
出来ます。




 渋川で関越を降り、一般道を西へ。

 運転しながら、私は不安でした。

 「こんな夜中に着いても、目的地のホテルが判るだろうか?」

 もちろん、ホテル名は聞いています。 しかし場所は山の中。
直前になって決まった話なので、学生さんたちとは、連絡を
直接取る時間がありませんでした。



 そろそろ急な山道に差し掛かります。 長野原から北へ。
草津温泉を抜けます。

 心配は尽きません。

 明るい昼間なら、現地の案内地図も道端で見られるし、
遠くからホテルの看板も探せるでしょう。 しかし、今は
深夜です。

 直接連絡を取ろうにも、携帯電話の無い時代です。
とにかく、行くよりほかありません。



 白根山です。 窓を閉め切っているのに、何と強烈な硫黄
の臭いでしょう。 このあたりは確か "危険、駐停車禁止" の
標識があるはずです。

 「今ここで事故っても、明日の朝まで誰も通らないな。
まずいぞ…。 硫化水素中毒死体で発見か。」

 だんだん心細くなってきました。 それに、折からのひどい
霧。 ライトを照らしているのに、場所によっては数メートル
先も見えません。 白い塊がふわふわと、魔物のように、
目の前に襲い掛かります。 スピードを落とせ、落とせと
言わんばかりに。

 険しい上り坂。 目の前に押し寄せる急カーブの連続。

 それ以上に怖かったのは、視界が悪くて気付かぬうちに、
勾配が急に下りになり、あっという間にスピードが上がって
しまった瞬間でした。 ちょうどジェット・コースターの頂点で
投げ出される、あの感じです。 直線だからまだよかった
ものの、これにはぞっとしました。

 今度は下り坂の連続。 こちらも怖い。スピードが落ちず、
カーブを曲がり切れなければ、今度はガード・レールを突き
破って転落です。 とにかく見通しが悪くて。



 何とか無事に危険地帯を通り抜けました。 やがて視界が
開け、道も平らに。 再び順調です。

 渋峠丸池発哺と、道はまた登りに。

 そして山ノ内町一の瀬。 もう少しです。




 ついに奥志賀に入りました。

 しかし夜更けの一時過ぎのこと。 
目的地は判るでしょうか。



 しばらくゆっくり行くと、道の左に大きな広場のようなものが
あります。 そして中央にはロータリーでしょうか。 その奥
には、どうやら何軒かホテルが並んでいるようです。

 でも真っ暗です。昼間なら見えるはずでも、やはりホテル
名は、まったく見えません。 近寄って、車中から一軒一軒、
探すしかないのでしょうか。

 さすがの私も、だんだん心細くなってきました。 本当に
この周辺でいいのでしょうか。



 そのときです。 周りはみな真っ暗なのに、中で一つ
だけ、玄関先に明かりの点いているホテルが、遠くに
小さく見えました。



 (続く)