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MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

シベリウス 交響曲第1番 ②

2009-03-21 00:01:33 | 私のオケ仲間たち

03/21  私の音楽仲間 (34) ~



私のオーケストラ仲間たち (11) シベリウスの交響曲第1番 ②






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 雪女の呪い ~チ(ャ)イコーフスキィ の 『冬の日の幻想』 第Ⅲ楽章
                  眠り姫の呪い
               『眠れる森の美女』組曲







 前回は、神奈川大学管弦楽団で現在取り組んでいる、

シベリウス交響曲第1番、その第Ⅱ楽章を聴いて

いただきました。



 この第Ⅱ楽章は、アンサンブル上、色々な問題が潜む、いい
実例なので、もう一度ご一緒に聴いてみたいと思います。



 もしスコア、パート譜などがお手元にある場合には、ご用意
いただければ幸いです。

 いえ、お手持ちの場合の方が少ないと思います。 そのとき
は以下の音源から、様々な楽器が奏でる色々なリズムにも
着目してお聴きください。




 ここで取り上げる、曲の前半の部分では、テンポに多少の
変化はあるものの、基本的にはゆっくりな 2/2拍子です。

 演奏者はその一拍の中に、様々な数の細かい音符、
色々なリズム
を、正確に入れなければいけません。




 音源 [



 以下のは、楽譜に記された練習記号です。



 また数字は、(ここで取り上げた音源の場合に限り、)

時間的経過をで記したものです。



        これらは参考に過ぎないので、
     目をつぶって聴いていただくだけでも充分です。





 曲は基本的に 2/2拍子。 よほどのことが無ければ、大体

どの指揮者も (一小節を) ゆっくりな二つに振ります




 [D (2'22") ] までには、多少テンポが上がっています。



 [E (2'35") ]、音量は大きくなりますが、まだ二拍子系です。



 [TempoⅠ(2'55") ]、独奏チェロ以外は全員 6/4拍子になり
  ます。 指揮者は、ほぼ同じテンポで一小節を二つに振った
  ままなので、演奏者は一拍の中に、今度は3つの音符
  入れなければなりません。



 [F (3'23") ]の直前に、Violin には八分音符が出てきます。
  一拍に6つずつを入れることになります。 さらにその音符
  には、"二つ目から三つ目の音符へ" というようにスラー
  ついており、一種のシンコペーションになっています。

   この音源の演奏では、プロのオケと言えども、かなりここで
  遅くなるように感じられます。 音符の数が正確に入ってなく、
  若干はみ出ているのです。 指揮者の指示で遅くなったとも
  考えにくい箇所なのです。 私の勝手な解釈では、ここは
  むしろ軽やかに聞こえた方がいいと思うのですが、あなたは
  どうお感じですか?



 [G (3'46") ]の直前から、Viola が十六分音符の装飾音形を、
  連続して演奏し始めます。 一拍に12個を正確に入れるのは、
  かなり難しい作業です。 直前の八分音符と、無意識に混同
  してしまいやすい箇所でもあります。 弾き始めてからでは、
  もう遅いのです。

   木管にも細かい三連符や十六分音符、ハープにも細かい
  音符が出てきて、アンサンブルはだんだん難しくなります。

   指揮者は相変わらず二つに振ったままです。



 [H (4'08") ]頭に音符の無いシンコペーション
  弦に現われました。 (「遅れているのに気付いていない」
   と、学生さんたちが私に叱られてしまった箇所です。)




 [Tempo (4'37") ]やっと単純な 2/2拍子に戻ったかと
  思ったら、一部のピツィカート弦楽器は 6/4 拍子
  (3/2 拍子) のまま。 (但し、音量が元々小さい奏法なので、
   よほど工夫しないと聞こえません。)


   フルート始め木管には、ソリスティックな細かい音形が
  現れます。



 [I (4'51") ]を過ぎると、pizzicato の6/4拍子は、いつのま
  にか、ホルンのシンコペーションに変わっています。
   (この音源ではまったく聞こえません。)


   そしてテンポは上がり、



 [K (5'33") ]になって、やっとアンサンブルの難しさは
  一息つきます。



 しかしここで息切れしてしまっては駄目。 この後は、
個々にとって技術的に難しい部分が続きます。 まさに
"追い打ち" !

 北国の気候のように激しく変わる、シベリウスの音楽。
これは、後に作曲者自身が認めていることです。

 弾きながらそれを聴いて味わう余裕は、演奏者には
あまりありません。 ステージの上で、自然の猛威に
翻弄されっぱなしです。





 (続く)



シベリウス 交響曲第1番 ①

2009-03-20 00:00:50 | 私のオケ仲間たち

03/20  私の音楽仲間 (33) ~



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 個々の技術を "向上" させて "うまい" オケを作るためには、
一体どうすればいいのか、これまでご一緒に悩んできました。



 「必要以上の厳しさ、甘さは禁物」、

 「向上の意志だけでは無理がある」、

 「専門的な分析、助言が必要」、



 などと、色々難しいことを言われてしまい、これでは
"八方塞がり" ですよね。 はっきり言って、 一朝一夕
にはとても無理です。

 特に、"上から押し付けられた" 場合には。




 と言って、指導者としての専門家の存在を、常には
当てには出来ない
難しさを、前回では見てきました。




 技術の中には、一人だけで集中的に練習しさえすれば
"ものになる" ものもあります。

 しかしその一方で、"集団の中でなければ改善できない
こと" も、また多いものです。 また、"その方が重要だ" と
言える場合さえあります。

 特にオーケストラに関わる場合には。



 と申し上げると、「また別の課題や難しさが増えるのか…」
と、がっかりされるかもしれませんね。



 確かに "別のこと" には違いありません。

 しかしそれは単に、結果として練習時間が足し算的に増える
だけなのでしょうか? むしろ、逆に個々や全体が向上する
のに役立つような面は、無いのでしょうか?

 いわゆる "相乗効果" です。




 そのことに触れる前に、これまで私が勝手に引き合いに出した
学生オーケストラさんに、もう一度登場していただきましょう。



 神奈川大学管弦楽団では、現在、シベリウス交響曲
第1番
に取り組んでいます。



 このうち、ここで取り上げる第Ⅱ楽章は静かな歌で始まり、
また歌で終わります。

 しかし、途中で景色は刻一刻と変わります。 音量、リズム、
楽器の音色…。


 
 速くて激しい後半部分は、どの楽器にも細かい音符が多く、
一人でじっくり練習しないと "弾けない" 部分です。 誰でも
こちらを懸命にさらうことでしょう。




 一方、これに先立つ前半の歌の部分は、個々のパート譜を
眺めただけでは、特に問題があるようには見えません。

 しかしここには、様々なリズムが複雑に絡み合った部分が
あります。 それも、歯切れのいい、聞きやすい音符は少なく、
渾然一体と溶け合うように書かれているのです。

 そう、目立たないながら、アンサンブル上の大きな難所なの
です。 その上、"縦の線" をただ合わせればいいのではなく、
"横に"、つまり音楽的に歌うことも要求されているのです。



 テンポはゆっくりめで、それほど大きく変化せず、指揮者は
ほとんどいつも、一小節を "二つに" 振っているだけです。




 音源 [




 (続く)



急がば回れ ②

2009-03-19 00:02:48 | 私のオケ仲間たち

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 学生オケに限らずアマチュア・オケでは、入団して初めて
楽器を手にする方々が少なくありません。

 それも色々な事情から、主に弦楽器に多いようです。
「幼少時から始めないとモノにならない」と一般に言われて
いる Violin、それに類似楽器の Viola にしても、例外では
ありません。

 そのような方々の様子を近くで目にし始めてから、私は
実はもうすぐ40年になります。




 前回は、向上意欲や意志だけではままならないのが
楽器演奏であり、また合奏技術だと申し上げました。

 それには研鑽と慣れが必要なので、即効薬や近道は
ありません。



 しかし、"回り道" と "真っ直ぐな道" の違いはあるように、
私には思われます。




 物事を効率的に修正、改善するには、多面的なステップが
必要ですね。 私流に、敢えて図式的に挙げれてみれば、



  ①まず "何かがおかしい" と察知すること

  ②"何が悪いか" を把握すること

  ③"どういう方向に修正すべきか" を判断すること

  ④そのためには、"どういう手順が必要か" を考えること

  ⑤身体と心が楽になる状態を少しでも多く経験し、
   耳を開きながら練習すること

など、自分の状態を客観的に感知し、考え、やりとおそうとする
継続的な意志が必要になります。



 "非効率的" でもよければ、時間に任せ、ただ "さらえばいい"
のですが、そうも言っていられません。




 もとより、以上を一人でやるのは大変ですね。 そこで必要に
なってくるのが "先生" の存在です。

 いい先生は、ただ "さらえ" とは言いません。 生徒の置かれた
状況を理解し、忍耐して改善を待ち、成果を共に喜び、次の
ステップに導いてくれるはずです。



 以上は、個人レッスンに限らず、指導する側と指導される側の
両方がいる場であれば、どこでも当てはまることでしょう。




 指導する側は、相手が上記の①~⑤のどの段階にいるのか
を、まず理解してあげなればなりません。 それに応じて必要な
助言を与えるのでなければ、「互いに努力はしたけどね…」という、
その事実だけしか残りません。

 そのためには、指導者自らが自分に課してきた、音楽に対する
態度が重要なことは、言うまでもありません。




 指導者から流れ出るものは、知識ばかりではありません。
楽器奏者である場合は、その音自身が多くを語ります。

 言葉以上に。



 また指揮者の場合では、振り方一つを見ただけで、楽譜上の
音の一つ一つに、その人がどういうイメージを抱いているのかが
判ります。

 いや、それに止まりません。 指揮者も含めて、指導に当たる
者たち自身が、

というものは本来 "楽" に出るものだ」
というふうに理解しているか、それとも、

「一つ一つの音を出すのは苦しくて大変だ
と思っているかどうかまでも、外部へ表われてしまうのです!

 これも一つの "表現" です。 無意識ながら。 音は正直です。




 脇道にそれてしまいました。

 音楽も含め、専門技術が絡むことには、それ特有の難しさ、
悩みがあります。 "楽器自体に親しみ、上達すること" だけ
を短期間の目標にする限り、無理があるようです。

 いい指導者が身近にいようといまいと。

 指導者の存在を絶えず当てにすることは出来ないのですから。




 それでは、個々の技術を "向上"させたり、

"うまい" オケを一足飛びに目指すのではなく、

他に何か "攻略法" は無いのでしょうか?




 (続く)



急がば回れ ①

2009-03-18 00:10:00 | 私のオケ仲間たち

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               『眠れる森の美女』組曲







 私が初めて合宿にお邪魔し、神奈川大学管弦楽団とご一緒
してから、20余年があっという間に過ぎました。



 大昔の話ですが、私などが現役の頃は、学生オケの指導者陣は
指揮者だけ、あるいは、せいぜい弦楽器にトレーナーが一人だけ
ということが、珍しくありませんでした。

 しかし最近の学生オケでは、トレーナーの先生方の人数も増え、
ほぼ "一パートに一人" というのが珍しくないようです。



 このオケでも新しくお目にかかる先生方が増え、いつの間にか
自分も "古株" になってしまったようです。 ただチェロのT.先生、
私に声をかけてくれた、トロンボーンのY.先生は、私より以前から
おいでになる方々です。



 トレーナーの数が多く、パートごとに行き届いている一方で、
その "管理" はさぞ大変でしょう。 合宿に限らず、練習計画
その他、苦労が多いはずです。




 運営面に限らず、パート・リーダーなど、技術面に携わる者も
また、意気込みに燃えています。 自分だけでなく、パート内外
仲間の面倒も見なくてはならないのですから、大変です。

 しかし、具体的な指導方法となると、制約も多いものです。




 この団体との初めての合宿の際、コンマス君と一対一で
練習したことをお話ししましたが、このような少人数の場合は、
誰がやるにしても注意が必要です。 特に仲間同士の間では。



 もちろん、厳しさも必要なのですが、不幸にして、教わる側が
その場で出来ないことがある場合には、逃げ道を残しておいて
あげなければなりません。 いくら "いいオケを作るため" とは
言え、スパルタ式特訓が行き過ぎると、相手は自信や向上意欲
を失ってしまうかもしれません。

 かと言って、指導する側が、「アマチュアだから、このまま下手
でも仕方が無い」という姿勢に偏り過ぎると、何のための練習
なのか、分からなくなります。




 私がよく耳にする、学生さん同士のやり取りに、

(トレーナーなどから) 一度指摘されたことは、もう同じことを

言われないように
、自分たちでしっかりやろう!」

というのがあります。



 素晴らしいことです! でもそれを耳にすると私は、そっと
目をつぶり、下を向いてほほ笑むのです。



 なぜかと言えば、そこには、

 「よし、それぐらいの気持ちでやってくれ! 嬉しいよ。」

という気持ちと、

 「自分の場合だが、一つのことを修正するのに、これまで
一体どれほど時間がかかったろう? 30年かかっても、
まだ途上にあることが、幾つもあるのに…」

という心情の、両方があるからです。



 ほんの一例ですが、もし私が Violin や Viola の人たちに、

「それでは3、4の指の音程が低くならないようにしてね」

と頼んだら、すぐに直るのでしょうか?



 私はすでに毎回のように指摘し、具体的な方法まで指示
しているのですが直りません。 一向に。 20年経っても…。





 意欲は尊い。 しかし、意志だけではままならないのが
楽器演奏であり、合奏であり、また他の諸々の分野の
事柄です。



 (続く)



チャィ5 第Ⅱ楽章

2009-03-17 00:00:38 | 私のオケ仲間たち

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   チ(ャ)ィコーフスキィ 交響曲第5番 第Ⅱ楽章







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 神奈川大学管弦楽団の、初対面の合宿での光景、

その続きです。




 食事を前にしての、一瞬の恐怖。 しかしそれは、

「お帰りになる前に、一言コメントを」という依頼でした。




 そこで私は、深夜の到着の際の出迎えに対して、心からの
感謝を伝えました。

 さらに、すれ違う際の礼儀正しい挨拶、仲間同士の意思
疎通を確認する、はっきり大きな声での返事、そして、練習の
途中で休憩のたびごとに出される、コーヒーや紅茶に対しても、
称賛や感謝を。

 自分たちは口にせず、指導者にだけ出してくれる、その
心遣いに対しても。

 その後20数年間、これらの良い伝統に、基本的な変化は
ありません。




 実は食事前のこのとき、もう一つ頼まれごとがありました。

それは、自分たちは久しく合奏をやっていないので、
「今度は棒を持ってもらえないだろうか」というものでした。



 チ(ャ)ィコフースキィの交響曲第5番、第Ⅱ楽章の練習を
見てほしいということなので、私は即座に答えました。

 「棒は持たないけど、いい?」と。



 実は私の場合、指揮をする際に、すでにこの頃は棒を使わ
ないようにしていたので、上のような返事になったわけです。

 必要無いのです。 弓と違って。

 インスペクターさん、私の返事を聞いて一瞬びっくりしたよう
でしたが。




 この交響曲には、個人的に幾つも思い出がありますが、
私の場合、その最初の体験は幼少時に遡ります。

 おそらく小学年低学年の頃だったでしょう。 この曲の一節を
耳にした折に、「何て綺麗な曲なんだろう!」と感激し、その後
いつまでも印象に残っていた覚えがあります。

 もちろん、曲名などは長い間わからずじまいでしたが。



 それがこの交響曲第5番のどの部分かと言うと、第Ⅱ楽章
冒頭の、有名なホルンのソロが終わった後の、オーボエの
ソロ
が初めて奏でるメロディーです。

 始まってから2分ほどして登場する。 そしてその後、弦楽器
にも幾度となく、ニ長調で出てくる、あのふしです。

 コントラバスを除いて…。



 最初に現れるときは、嬰へ長調という遠隔調で。 "Con moto"
(停滞せずに) と記された、この上なく優美なメロディーです。
まさにオーボエの音色にピッタリの。

 この部分を耳にするとき、私は "貴婦人" が滑るように足を
運ぶような姿を思い浮かべずにはいられません。




 毎日夕方になると、作曲者は好物のヴォトカ (ウォッカ) 片手に
物思いに耽ったと言われます。

 夢、慰め、憂鬱、そして突如襲いかかる恐怖。 それらが
この楽章にも、とりとめもなく去来します。




 またまたそれてしまいました。

 私の幼ない頃から大好きな、この第Ⅱ楽章。 ここでまた
接することの出来る嬉しさを思うと、ただ単純に喜びを感じ
ざるを得ないのです。

 演奏を共にする仲間がだれであれ。 また、自分がそこで
何を担当するのかにかかわらず。




 その後の合奏の2時間は、あっと言う間に過ぎ去りました。
細かい記憶もありません。

 ただ一つだけ覚えているのは、トランペットを手にした
インスペクター君が、うっとりしながら、仲間の演奏に
聴き入っていた姿です。

 いともにこやかな表情で。 斜めに傾きながら、半身に
なって。

 この楽章は休みが多いので、彼らとしては、普通は退屈
してしまいがちなのですが。



 私はそれを見て、また別の幸せを実感したのです。

 「ああ、多少ともお役に立てたようだ。
 はるばる来た甲斐があった」と。




 この楽章の雰囲気に引かれたのか、窓の外はすでに暗く
なっていました。 部屋の中では練習が終わりに近づき、
(ほの) かな灯を思わせるような二本のクラリネットの音が、
消え入るように遠ざかっていきます。



 まもなく私は奥志賀を後にしました。




 第Ⅱ楽章の音源です。



 [Leningrad Phil / Evgeny Mravinsky /1960] 中途まで



 [全曲盤はこちらにたくさんあります




 (続く)