03/11 私の音楽仲間 (24) ~
私のオーケストラ仲間たち (1) 深夜の儀式
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お迎えが来たようです。 薄着で出ると、外は底冷えが
していました。
夜中の零時、頃は二月の下旬。 場所は富士山の麓
(ふもと) です。
建物へ入ると、10人ほどが待ち構えていました。
と言っても、これから私が袋叩きになるわけではなさそう
です。 ご安心を。
でもこんな夜更けに、一体何をするつもりなのでしょうか。
私以外は、みな若い人たちのようです。
さあ、いよいよ始まります。 さっそく私は何人かを指名
しました。
すると呼ばれた三人は、怪しげな呪文が予め書かれて
いる紙を、それぞれ前に広げ、腰を下ろします。 手に
しているのは、瓢箪 (ひょうたん) のように奇妙な形をした、
茶色い木の塊や、馬の尾っぽをちょん切った白い毛です。
私もその中に加わります。 ひょっとして、魔術か祈禱
でも始まるのでしょうか?
なにやら音が鳴り始めました。
[Ⅲ] [Ⅲ]
そう、みなさんには、先日何度もお聴きいただいた曲です。
でも、いったいなぜ、こんな深夜に? それも、わざわざ
富士山のふもとで。 ちなみに、すぐそばには、凍りついた
湖や、有名な青木ヶ原樹海もあります。
やはり、山梨県外から侵入してきた、怪しい集団なの
でしょうか。 また、讃えるのが "皇帝" でないとしたら、
一体何を讃えるのでしょうか。
以上は、ある学生オーケストラの面々で、ちょうど
夜の儀式が始まったところです。 と言っても、まだ
"恒例の…" とまでは行かず、慣れない様子ですが。
ひょっとすると生贄 (いけにえ) にされるのではないかと
怖がり、この場に近づかない人も多いのでしょう。
ヒーターを点けながらも寒い室内では、ハイドンの
美しいメヌエットが、ゆったり流れています。 楽器を
弾いている者たちはもちろんのこと、それを見守る
仲間たちの表情からは、真剣さが伝わってきます。
一緒に Violin を弾く私は、そんな様子を目にして、
はるか大昔の出来事を思い出していました。
そのときも、やはり、同じ深夜のことでした。
そしてその情景は、20数年が過ぎ去った今でも、
私にとっては決して忘れられない光景なのです。
(続く)