まい、ガーデン

しなしなと日々の暮らしを楽しんで・・・

あるあるな話『おいしいごはんが食べられますように』高瀬 隼子著

2023-06-20 08:58:35 | 

「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
「わたし芦川さんのこと苦手なんですよね」って、押尾さん。

押尾さん、私が一緒にいじわるしてあげる。
私も芦川さんのような人、苦手だから。
芦川さん、最強。天然か意図としているのか分からないが、その生き方は最強。
だけど、芦川さんのような人は好きになれないわ。



タイトルに惹かれて読みだしたら全く関係ない違う話。
ちょっとざわついて、でも、あるあるよどこの職場も一緒だよと。
弱い者仕事ができない者が「できません」と堂々とアピールして「仕方ないよな」などと
思われるなんて。そのとばっちりを受ける努力してできる者にとっては邪魔くさいしかない。
しかも罪滅ぼしに職場にお菓子なんか持ってきたりしていい人アピール。
むかつくよね、ってな話。私は押尾さんに肩入れして応援したの。

じゃあ、芦川さんてどんな人なのかと。押尾さんは言う。

「芦川さんが予定外のことが苦手ってやつ、別に芦川さんがそう言っているわけじゃない
ですか。わたしはこれが苦手でできませんって表明しているわけじゃない。でもみんなが
分かっているでしょう。それで配慮している。それがすっごい、腹立たしいですよね。」

「頭痛薬飲めよって思いません?片頭痛がしんどいから帰りますって、それを言うなら
わたしも片頭痛持ちですよ。職場の引き出しに頭痛薬置いています。頭痛いくらいで帰ら
れちゃ仕事になんなくないですか」

芦川さんは無理をしない。できないことはやらないのが正しいと思っているの。
押尾さんのルールとは全く違う。それでは押尾さんてどんな人か、って。
「高校時代やっていたチアリーダー、別にチアが好きなわけじゃなくて、真面目ででき
ちゃったからしてただけ。途中でやめるのが苦手」この言葉に集約される。

頭が痛いので帰りますと当たり前のように言ってのける、仕事が忙しくなる定時で帰れな
い、他の人の残業が続いても、平気で18時から19時の間に帰宅する芦川さん。

芦川さんには休まれるよりはいいということで、18時を過ぎると、みんなが「そろそろ帰った
方がいいんじゃない」と芦川さんに声をかける。

職業人として普通に考えると、ありえないよね、みんなが残業していれば自分もなんとか
頑張ろうと思うって。
ところが芦川さん、当たり前に帰って、おやつを作ってくる。みんなより先に帰して
もらっているからと手作りのお菓子を持参する。おいしいと褒められれば喜んで、
持参する頻度が増えてくる。ケーキ、マフィン、ホールのショートケーキ、タルト・・・

もう何考えてるんだとむかつくわ。押尾さんじゃないけれどもらいたくないわ。
お菓子なんか持参する前に仕事やれっつうの。と代わりに私が吠える。

1日三食カップ麺を食べてそれだけでいい同僚の二谷。芦川さんが泊りに来て夕飯を作って
くれても、芦川さんが寝た後カップ麺をこっそり食べる、そんな二谷。
芦川さんと押尾さんの間を行ったり来たりの煮え切らない男なのよ。
仕事面では押尾さんの言うことはもっともだよなと思いつつ、芦川さんも可愛いなと
憎からず思っているわけ。こんな男がいるから困る、えらい迷惑。

たとえば押尾さんの愚痴を聞いて
「職場で同じ給料もらってて、なのに、あの人は配慮されるのにこっちは配慮されないって
いうかむしろその人の分までがんばれ、みたいの、ちょっといらっとするよな。分かる」

「みんながみんな、自分のしたいことだけ、無理なくできることだけ、心地いいことだけを
選んで生きて、うまくいくわけがない。したくないことも誰かがしないと、仕事は回らない」
なんて立派なことを言う。もっともじゃない、正解じゃないの。分かってるじゃないの。
そう思っているのに芦川さんをかばう二谷。ああイライラする。

で、それからおやつゴミ捨て問題が起きる。
ゴミ箱におやつを捨てたのは押尾さんに違いないってつるし上げをくうわけ。

「ゴミ箱に捨てられているお菓子を、わたし、回収してたんです。それで、それを、
こっそり芦川さんの机に置いていました。」押尾さんがしたことはそれだけ。なのに。

新年会翌々日。
「芦川さんがいつも手作りのお菓子を持ってきてみんなに配っていますが、それを
ゴミみたいに袋に入れて、芦川さんの机に置いている人が、います。」

皆の視線は押尾さんに。押尾さんは芦川さんの背中に。二谷は何も言わない。
当然芦川さんも言わない。だいたいのことが分かっているのに言わない。

4月の人事異動で二谷は千葉に。
押尾さんは退職して新しい職場に就職する。よかったわ押尾さん、最良の選択だわ。

押尾さんが負けて芦川さんが勝った。
正しいか正しくないかの勝負に見せかけた、強いか弱いかを比べる戦いだった。
当然、弱いほうが勝った。そんなの当たり前だった。

いやあすごい、これがすごい。でも私も経験上あるあるな話。えてしてそういうものよね。

押尾さんと二谷は最後に食事に行く。
「二谷さんと食べるごはんは、おいしい」
「二谷さんは目の前にある食べ物の話をほとんどしないから、わたしも、これおいしいで
すねとか、すごいふわふわとか、いちいち言わないですんで、おいしくても自分がおいし
いって思うだけでいいっていうのが、すごくよかった。
おいしいって人と共有し合うのが、自分はすごく苦手だったんだなって、思いました」
そう思う押尾さんも、ま、一筋縄ではいかない人かもしれないわね。

「押尾さんがつるし上げられたあの日、芦川さんの机にゴミ袋に入れたお菓子をおいたのは
おれだよ、芦川さんも分かったはず」とは二谷の告白。つるし上げくってる時に言えって
言うの、今頃になって卑怯でしょ。でも押尾さん、
「一緒に、芦川さんにいじわるしましょうって言ったの、わたしですから」のひと言。

送別会の日の押尾さんの挨拶。
「頭痛ががひどくって、せっかくなんですけど、送別会は遠慮させていただこうと思って
います。でも、ちょっと行きたくなかったので頭痛くなってラッキーとも思っています。
(略)ただ噓をつくのだけはやめようと思って。それだけです。頭痛もほんとです。
片頭痛持ちでしょっちゅう、痛くなるんです。普段は我慢して仕事したり飲み会に行ったり、
してましたけど、辞めるのにもう無理しなくていいかなって」

おお、押尾さん、よくぞ言ったわね。普段からそんなふうに言えばよかったのに、って。
でも、それはあなたのルールからは外れるのよね。

その送別会の日、芦川さんは大きなケーキを作ってくる、プレートまであるおいしそうな
ケーキ。
二谷は食べたくないのに「めっちゃおいしい」と言ってたべる。
その席で「俺たち結婚すスンのかなあ」なんて。
芦川さん「わたし、毎日、おいしいごはん作りますね」なんて。
幸福そうなその顔は、容赦なくかわいい。そう感じる二谷、ああむかつく。
「おいしいごはん」なんてなんの興味もないのに。

秀逸なタイトル。
「おいしいごはん」がもたらす人間関係があぶり出されていて、いちいちムカついて
イライラして、そうだそうだと応援して、うん、そんなことあるあるだよと共感して。
ざわついてなかなかに不気味な話だけれど、読後感は悪くなかったわ。
職場の愚痴を言う子どもたちにも薦めているの。

 

 


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