最近は、
落ち着いていたのだけれど・・・
おはようございます。
昨日は、あと小一時間で終業という時刻、父さんからSOSの電話が鳴った。
「後で行くね。」
と伝えたが、父は、
「早く来てくれた方がいいと思う。」
と訴える。
たしかに、私は常々、早めに連絡してくれていいと、父にはそう伝えていた。
こじれ切った後では、面倒が長引くからだ。
母はいい。問題はいつも、父だ。
かずこさんは、怒る。
何を怒るのかといえば、それはいつだって同じだ。
一人の人間として尊重して欲しい。
それだけなんだ。
「わしをバカにして、自分だけ正しいように偉そうなものの言い方されるのが嫌や。」
かずこは、そう言って怒り狂う。
私は、長年、両親を見て来たから思う。
母の怒りは、間違っていない。
認知症になったせいで、我慢が利かなくなっただけだ。
男というだけで、仕事しかしてこなかった人間が、
なぜ偉そうなものの言い方をするのだろう?
私は、仕事をしながら、家事や育児に追われてきた。
なのにどうして、こんなやつに偉そうに命令されるのか?
分からない!腹立たしい!!謎だ!!!
と、かずこは純粋に感じている。
まったく、間違っていない訳だ。
そんな自分の妻が、認知症を患い苦しんでいる現状でも、
まだマウントしてくる父は、私からすれば、もはや哀れだ。
哀れ過ぎて、アドバイスが出来ない。
「尊重をしてやるだけでいいの」
と言ったところで、父にはまったく理解が出来ない。
おそらく、思考の出発点の段で、すでにまったく違うのだろう。
根本は、認知症じゃない。
いつだって、認知症が根本なのではない。
社会の矛盾や、下らない常識や、それぞれの凝り固まった固定観念が、
母の認知症のおかげで、浮き彫りになっているだけだ。
だから私は、悩んでしまう。
そして父の前でも母の前でも無言になる。
母は間違っていない。
だからといって、父が悪い訳じゃない。
私だけが正しいわけでは決して無いのだから。
「わし、もう出ていくつもりなんや!」
実家へ駆けつけて1時間で、この言葉を15回聞かされた時、
私は思わず、溜息のように吐き出した。
「あたしこそ、出て行きたい。」
すると、闇雲に捲し立てていた、かずこさんが敏感に反応した。
「なんでや?どうしたんや?
お前、出て行くんか?なんでや?何か嫌なことがあったんか?」
おや?
しめしめか?
かずこさんが興奮している時、
私は毎度、どう落ち着かせるか考えながら、
かずこさんの意味不明は言葉の羅列を探っている。
そこから拾い上げた言葉を機に、怒りや興奮を逸らし鎮めていく。
いつもは、なるべく楽しい話へ逸らせるのだけれど、
今日は、ここか?!と気付いた。
「うん、もう引っ越そうかと考えてる。
私は、こんな母さんの姿を見るのが、もう辛いんだもん。
よし、決めた。あたし、逃げる!」
わざと大げさに宣言すると、かずこさんは、
「お前が行きたいんなら、そりゃ行けばええ。
お前はお前の幸せを考えたらええんや。
わしのことは、そんなに考えんでもええんや。
ちょっと、ジジと喧嘩するくらい、屁でもねーわ、はっはっは。
わしは、負けんでな。」
と言って、ベッドに胡坐をかいて俯いた。
あんなに総毛だって見えた背中も、しょんぼりしぼんだ。
日はすっかり暮れて、かずこさんの部屋は薄暗くなったが、
かずこさんの足の爪が伸び切っているのは、かろうじて見えた。
「母さん、そろそろ、爪切らんといかんね。」
「ほやな。」
かずこさんは、まだ俯いている。
この人は、もう自分で爪さえ切れない。
そう思ったら、私は、さっき吐き出した自分の言葉に自分の胸を刺された。
あぁぁ、謝りながら抱きしめたい!
そんな衝動にかられた。その代わりに、
「そろそろ、晩酌する時間じゃないの?」
と、さらに話を逸らしてみた。
すると、かずこさんは、
「そうやそうや、お前も一緒に呑んでけ。」
と笑って、立ち上がった。
食卓では、父がとっくに晩酌を始めていた。
母と父の、ちょっとぎこちないながらも、普段のやり取りが始まった。
私も、何事もなかったように冗談を飛ばす。
何発も何発も飛ばしながら、
私は、心の中で、
母さん、ごめんね。ありがとう。と唱えていた。
そんな我が家の猫達は、
晩御飯が遅くなってしまって、ごめんなさい。
のんちゃん?
だからって、それはないんじゃない?
たれ蔵は、生きているのかい?
大丈夫なのかい?
のん太「ちらない」
知らないとか言わないのぉ!