今回はJohn Carney氏の「Fruit Cup」と「Carney's Caffeinated Cups & Balls」の紹介です。John Carney氏は1958年生まれのアメリカのクロースアップマジシャンです。マジックキャッスルの年間最優秀マジシャン賞を7回も受賞し(史上最多?)、1988年と1991年にはFISMで受賞(「マイクロマジック」部門)するという実力派マジシャンです。
Wikipediaではヴァーノンに師事したとありますが、松田さんの「世界のマジシャン・フーズフー」では「ロジャー・クラウスに師事するが…」と書かれており正確なことは私は把握できておりません(;^ω^)。ジェイミー・イアン スイスの記事にもヴァーノンに師事と書いてありますし、写真にあるように氏の本の表紙には切り絵があり、このような切り絵を表紙に持ってくるのはバーノンの切り絵の可能性が高いので、深い交流はあったと思われます。
何冊かの本や何本かのDVDが出ています。現在ではなかなか(特に日本では)入手は難しいかと思いますが、いくつかの商品は氏のweb storeで購入できます。
お 映像はダウンロードできるものが多いですが、本は絶版で入手難しいものもあります。
写真にある「John Carney's Carneycopia」は1991年にL&Lから出版されて長らく絶版でしたが、去年(2024年)再販がされて、ダウンロード版も販売されています。
「John Carney's Carneycopia」の後に出た「The Book of Secrets: Lessons for Progressive Conjuring」も名作(のよう)ですが、現在は入手が難しく、高い値段でebayなどに出ています…
さて、本題(?)に入ります(笑)。私が把握している氏のカップ&ボールに関する手順は、「Fruit Cup」と「Muscade Magic」そして「Caffeinated Cups & Balls」です。「Muscade Magic」は「The Book of Secrets」に収録されており、私がその本を所有していないため、紹介できません(T_T)(ヴァーノン・ルーティンから観客の関与部分を省いた手順のようです…)ので、残り2つについて紹介します。
<Fruit Cup>
1つの借りたコップと借りた紙幣を使ったカップ&ボールの手順です。まずは動画をご覧ください。
実質1分ちょっとくらいの非常にコンパクトな手順です。観客から借りた紙幣でボールを作ります。カップも借ります(もちろん用意しても良い)。握ったボールが消えて、カップに戻ります(2度)、ポケットに入れても戻りますが、最後はレモンが出てきます。レモンを切ると観客から借りた紙幣のボールが出現します。
チョップカップのような手順ですが、チョップカップではありません。もちろん、以前紹介したCraig Petty氏の「Chop」を使った方が観客の手のひらの上に落ちるなど、より不思議でクリーンな現象はできますが、こちらは借りたカップと借りた紙幣でできますので、レモンを出したりするのに事前準備は必要ですが、お手軽といえばお手軽にできます。
Chop by Craig Petty - カップ&ボールのカップ中心にいろいろ紹介
解説は「Carneycopia」にありますし、動画ですと「Classic Carney」に収録されています。
1800年代前半ボスコがティーカップと角砂糖を使ったカップ&ボールのワンカップ版を披露しており、ワンカップルーティンは古典であると言えます。同様にビルインレモン(ビルインカード)も古典であり、「Carneycopia」では、これら古典2つををJohnが融合した、と書かれています。この2つの融合は今から思うと非常に自然なことで、John Carney氏の発表が初めてであったとすると意外と最近であることに驚きます。
レモンの準備さえしていれば、レストランなどで気軽に行える手順ではないでしょうか。ナイフをウォンドとして扱い、それで最後にレモンを切っているのも合理的ですね(;^ω^)

<Caffeinated Cups and Balls>
次に紹介するのは,「Caffeinated Cups and Balls」という3つのコーヒーカップを使ったカップ&ボールの手順です。PVを示します。
単品で販売されており、DVDなら$35、Vimeoなら$30です。最近ではカップ&ボールの手順単体での販売も珍しいですが、さらにこの値段での単品手順の販売も珍しいと思います。その分、内容はしっかりしており、カップ&ボールの歴史的な話をわりとしっかりした後、手順の実演、手順の解説、そして、一般的なバーノンの手順のいくつかの現象について氏のやり方などを解説しています。全体時間は70分以上あり、ワンテーマですが十分のボリュームです。
このカップ&ボールの最大の特徴は取っ手の付いたカップを用いることです。このカップは(口を上にした)スタックもできなくてはいけませんし、薄い焼き物のカップは割れてしまうかもしれないことを考えると、適切なカップを選ぶのにすこし時間がかかるかもしれません。取っ手の付いたカップを用いることで、ウォンドを必要としなくなっています。また、取っ手に指をかけてクルっと回してひっくり返すという動きもできます。ただし、一般的なカップ&ボールのカップで用いるような口を下にしたスタックはできません。
コーヒーカップを使った本格的な手順はチャーリー・ミラー(Charlie Miller)が初めて(もしくはかなり初期)のようです。また、マイケル(マイク)・スキナー(Michael Skinner)も師匠であり、友人であるミラーの影響を受けてかコーヒーカップを使った手順を行っています。
この手順では使われるボールもすこし変わっており、ブドウの実(もちろん偽物)を使っています。マイク・スキナーがチェリーを使っていたことに影響を受けているようです。(ちなみにマイク・スキナーは「Carneycopia」の序文で推薦文を書いています)ブドウは完全な球体では無いので、取っ手付きのカップ同様使える動作に少し制約ができると思われまれますが、両方ともその辺にある自然なものという印象を与えることは強みでしょう。また、ブドウを使うことで、「手から消えてカップに戻る」のではなく、「食べたのにカップに戻る」という演出が可能となります。このことはウォンドを使わなくて済む一つの手段となります(う~ん、よく考えられている…)。
手順は(おそらく)6段からなっています。さすがに上手いです!無駄な動きがなく、非常になめらかです。これまでのカップ&ボールに比べて特別派手な現象はありませんがコーヒーカップを上手く使い、あれっ?と思う現象を起こしています。
非常に興味深いのはこの手順が2017年にリリースされていることです。こんなことを言っては失礼極まりないかもしれませんが、FISMで受賞したのが1990年ごろ、その後、多くの本やDVDを出して、出し切った感があってから10年以上経ってからこの手順が販売されていることです!いくつになっても前に進めるって凄いですね…。
ちなみに2017年といえば日本でカーニー氏がレクチャーを行った年でした。この手順を日本でのレクチャーでもされてます。レクチャーを詳しく紹介いただいている「教授の虚言」サイトを示します。
DVDでは、手順を解説した後、バーノンの手順のいくつかのポイントというか氏のやり方、考え方などを解説しています。この時は、ティーカップではなく、普通の(?)カップを使っているのですが、ポール・フォックスタイプではなく、ロス・バートラムタイプでした。チャーリー・ミラーカップでしょうか…。そっち派なんですね(笑)と思いました。
カーニー氏が影響を受けたというマイク・スキナーの手順の映像を見つけましたので紹介します。さすがにスライドハンドの名手、きれいなバニッシュですね。手順としてはバーノンの手順の部分的なものに少し違うシーケンスが入った感じです。私などはどうしても同じ手を使ってバニッシュを行いますが、このように少し手を入れ替えると変化が出ていいと思いました。
チャーリー・ミラーのコーヒーカップを使った実演映像は見つけられませんでしたが、このDVDの中でカーニー氏が「Great Secrets of the Master Magicians」の中にあると言ってましたので、古本屋で購入しました。
Great Secrets of the Master Magicians by Elliot, B.(コピーライトは1953年の本です)
この本では最後の章に何人かのマジジャンのカップ&ボールの手順が解説されており、その中に確かにチャーリー・ミラー氏のコーヒーカップ(またはティーカップ)を使った手順が解説されてました。ここまでしっかり氏の手順が書いてあるのは珍しいかと思いました。ちなみにこの本には当時のアメリカのマジシャンが行うTOP20が書かれていました。カップ&ボールは入っていました(笑)

