「私の夢」

　本文を読む前に今日の嘘日記をご覧下さい。


　夢とは何だろうか。
　願望か？　目標か？
　……よくわからないが、とりあえず「現実性のある事柄に限る」と定義しておこう。
　なりたいもの……小説家――他に浮かばない。
「なりたいもの」と言ってしまうと、どうしても職業とかそういう既存のものになってしまう。だから、どうなりたいか、どうしたいか、と問うべきだろう。
　変わりたい。
　真っ先に出てくる言葉はそれだ。私は変わりたい。いや、変わらねばならない。
　今の私は、おそらく人間ですらない。
　他人の痛みがわからない。他人の心が理解できない。
　周りの皆は当然のことのように理解しているのに、私にはわからない。わからない。
　私には人間がわからない。
　人間とは、なぜそのようなことで傷つき、なぜ哀しみ、なぜ腹を立てるのか。わからない。
　私にとって人間は難しい。わからない。
　私の知らぬ間に泣いていた彼。私の知らぬ間に怒っていたアイツ。私の知らぬ間に消えていたあの人。
　すべて私のせいなのだ、と周りは言う。しかし私にその自覚はないのだ。
　説明をされてもいまひとつピンとこない。それはなぜか。
　私の中で何かが欠けているからだ。欠ける。欠けている。
　私には常識が欠けている。「当たり前」が欠如している。
　また。
　周りはそんな私の心を知らない。説明をすれば怒り出す。
　とくにアイツはそうなのだ。私を理解しようとしない。彼には私の言葉は通じない。
　意味不明、頭おかしいんじゃないか。そう言うだけ。
　そうだ。その通りだ。
　私は頭がおかしい。どうかしている。当たり前じゃないか。正常ならきみを怒らせたりなんかしないよ。
　そうだ。
　周りの人間は、私が異常者であることを知らない。私が普通でないことを知らない。
　だから。
　だから私と他人は相容れない。わかり合えない。
　お互いがお互いのことをまるで知らない。だから話がかみ合わない。うまくいかない。
　どうすればいい？
　簡単だ。
　私が普通になればいい。私が勉強して常識とやらを理解すればいい。
　私が人間を学べばいい。
　私が人間になればいい。
　どうせ人間は群れることでしか生きていけないのだ。私もこの世界に生きていく以上、普通でなくてはならない。私もひとりの人間にならなければならない。
　私の夢。
　それは人間になること。
　カッコ良くなくていい。器用でなくていい。優れていなくていい。
　私は人間になりたい。
　他人を理不尽に傷つけないですむような、当たり前の人間になりたいんだ。

　――ご清聴ありがとうございました。



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