新型コロナ後遺症は「体内で目覚めた別のウイルスが原因」と示される - ナゾロジー (nazology.net)
最近、World Organizationの研究者たちにより『Pathogens』に掲載された論文によれば、新型コロナウイルスによる長引く後遺症が「EBウイルス」と呼ばれる、既に体内にある別のウイルスの再活性化によって引き起こされていることが示されました。
新型コロナウイルスに感染すると、体内で潜伏状態にあったEBウイルスが目を覚まし、「脳の霧」に代表される、長期的な後遺症を発症させていたようです。
つまり人類が戦っていたのは、新型コロナウイルスとEBウイルスの両方だった可能性が高いのです。
人類の体内に潜むEBウイルスとはどんなウイルスなのか?
そしてEBウイルスが新型コロナウイルスによって目覚めるのは、なぜなのでしょうか?
新型コロナウイルスによるパンデミックが発生して以降、奇妙な症状が知られるようになってきました。
体内から新型コロナウイルスが消えて肺炎が収まったにもかかわらず、患者の30%が、頭に霧がかかったように思考が遮られてしまう「脳の霧」や極度の倦怠感、不眠症、頭痛、発疹、喉や腹部の痛みなどの後遺症が、数か月以上に渡って続くことがわかってきたのです。
そこで世界各地の医師たちは、この奇妙な後遺症の正体についてずっと調べを続けてきました。
最初に手掛かりを掴んだのは、武漢大学人民病院の医師でした。
この医師は、新型コロナウイルスにみられる肺炎以外の脳の霧や倦怠感、不眠症、頭痛、発疹などといった症状が、「EBウイルス」の感染症状に非常によく似ていると気付きました。
そして2020年の1月9日から2月29日にかけて、67人の入院患者に対して調査を行ったところ、55.2%の患者においてEBウイルスが活発に働いていることを発見します。
ただこの時点では、新型コロナウイルスとEBウイルスが重複感染している場合が多いことを示したのみで、後遺症との関連性は不明でした。
ですが同様のEBウイルスの検出事例は、世界各地で起きていました。
イタリアでは、新型コロナウイルスに感染してICU入りした重症患者の95.2%でEBウイルスの再活性化を確認。
またフランスでもICU入りした重症患者の82%、オーストリアにおいても、ICU入りした重症患者の78%でEBウイルスの再活性化が確認されます。
これらの結果は、新型コロナウイルスによるパンデミックの陰で、EBウイルスによるパンデミックも起きており、人類は2種類のウイルスの連合軍と戦っていたことを示します。
しかしEBウイルスとは、いったいどんなウイルスなのでしょうか?
EBウイルスは唾液に潜むウイルスであり、新型コロナウイルスと同じくエンベロープを持つ、ヘルペスウイルスの1種です。
また人類の成人の95%は既にEBウイルスに感染していることが知られています。
感染のほどんどは幼児期から思春期にかけて、両親や友達・恋人などの唾液を通じて行われますが、子供が感染しても症状は現れません。
一方、成人してからキスなどを介して感染した場合は、倦怠感や不眠症、頭痛、思考がはっきりしない脳の霧といった、新型コロナウイルスの後遺症とソックリの状態が、数か月以上にわたって続くことが知られています。
そのため古くからEBウイルスによる症状は「キス病」とも言われてきました。
ですがEBウイルスの恐ろしさは症状の長さや俗称の恥ずかしさだけではありません。
EBウイルスは活動レベルを落として潜伏状態に入ることで、生涯にわたって口や喉の粘膜に残存し続けることができるのです。
さらにEBウイルスには潜伏だけでなく「再活性化」するという特徴があります。
人体がストレスなどを感じると、低活動状態から目覚めて、体内で急激な感染拡大を引き起こすのです。
新型コロナウイルスが新しい体外からの脅威であるならば、EBウイルスは既にある体内からの脅威と言えるでしょう。
しかし何より問題なのは、この両者の感染場所と潜伏場所がかぶっていたことでした。
これまでの研究で、新型コロナウイルスとEBウイルスが人類を同時攻撃してきていることは示されていました。
しかし新型コロナウイルスの後遺症がEBウイルスによって引き起こされているかどうかという因果関係の詳しい調査は不十分でした。
そこで今回、World OrganizationのジェフリーE・ゴールド氏らは、新型コロナウイルスの後遺症に悩む人々とそうでない人々のEBウイルスの活性度の違いを改めて確かめてみました。
すると、後遺症に悩む66.7%の患者の体内においてEBウイルスが再活性化している一方で、後遺症がない患者の体内では、EBウイルスの再活性化している確率はわずか10%に過ぎませんでした。
また新型コロナウイルスの後遺症を頻度順に調べた結果、倦怠感58.6%、不眠症48.3%、頭痛44.8%、筋肉痛44.8%、錯乱と脳の霧41.4%、脱力感37.9%、発疹31.0%、咽頭炎24.1%、腹痛24.1%となり、この全てがEBウイルスの症状にもみられることが判明します。
この結果は、新型コロナウイルスの後遺症がEBウイルスの再活性化の結果であることを示します。
また研究者たちは、EBウイルスの再活性化が起きたのは、新型コロナウイルスの感染場所である口や喉が、EBウイルスの潜伏場所(口と喉)と被っていたことが大きな要因であると結論しました。
EBウイルスが潜伏する細胞に新型コロナウイルスが感染して増殖がはじまると、細胞内の環境が激変するだけでなく、やがて免疫細胞が感染した細胞を殺しに来ます。
そのため、潜伏状態を維持していたEBウイルスも、生き残りをかけて再活性化して増殖モードに移行する必要があったと推測されます。
過激な新参者のせいで古参の住民が苦労するということが、人間の細胞内でも起きていたのかもしれません。
今回の研究により、新型コロナウイルスの後遺症が、既に体内に潜伏しているEBウイルスの再活性化によることが示されました。
EBウイルスの再活性化率は重症化率と緊密に関連しているだけでなく、後遺症の発症率とも関連していたのです。
また追加の分析では、後遺症の発症率は重症度よりもEBウイルスの再活性化率に影響を強く受けていることも示されます。
つまり新型コロナウイルスに感染し「無症状」で済んだとしても、EBウイルスが再活性化してしまった場合は、EBウイルスの感染症状としての「後遺症」が発生する確率が上がります。
そして「無症状なのに後遺症に悩まされる」という不思議な現象が起こり得ます。
このややこしさは、重症化は新型コロナウイルスとEBウイルスの合作で、後遺症はEBウイルスの単独犯になりがちという、組み合わせの複雑さにも起因します。
そこで気になってくるのが、場合によっては新型コロナウイルスよりも厄介になり得るEBウイルスも、ワクチンによってどうにかきるかどうかという部分です。
EBウイルスはワクチンで予防したり再活性化を抑えることはできるのか?
答えは残念ながら、難しいと言わざるを得ないでしょう。
新参者の新型コロナウイルスと違って、EBウイルスは潜伏の達人です。
それに既に感染しているEBウイルスを、免疫が一生かけても排除できない時点で、免疫力に頼ったワクチンの効果は、現状では薄いと言わざるを得ません。
なにより、公の場で常に口元をマスクで隠すことはできても、私的な場での会食やキスを禁止することはできないからです。
人類が親子や友人と食卓を囲む習慣やキスの習慣を捨てない限り、EBウイルスを完全に滅ぼすことはできないでしょう。
見知らぬ外敵よりも、内情を知り尽くした身内に潜む敵のほうが厄介なのは、生物の世界でも同じなのかもしれません
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