歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪映画『ある愛の詩』と英語≫

2021-12-21 18:09:05 | 語学の学び方
ブログ原稿≪映画『ある愛の詩』と英語≫
(2021年12月21日投稿)


【はじめに】


今回は、英語の読み物として、映画『ある愛の詩』を解説してみたい。
 エリック・シーガル『LOVE STORY』(講談社インターナショナル株式会社、1992年)を参照にした。

【エリック・シーガル『LOVE STORY』(講談社インターナショナル株式会社)はこちらから】

ラブ・ストーリィ―Love story (Kodansha English library)

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風間研氏による「恋愛」の解説


まず、その前に、簡単に恋愛文学について、風間研『大恋愛―人生の結晶作用―』(講談社現代新書、1990年[1995年版])をもとにみておこう。

 人は「大恋愛」と言われたら、どんな文学作品を思い出すのであろうか。恋愛の極めつきとして、『ロミオとジュリエット』と『トリスタンとイズーの物語』を挙げている。この選択に異議をはさむ人は少ないだろうと風間研氏はコメントしている。
『トリスタンとイズーの物語』については、コクトー自ら現代風にアレンジし直して、「悲恋」という題名で(原題は「永劫回帰」だが)映画化しているほどで、このケルト人の伝説はヨーロッパ人なら誰でもが、愛の原型として知っている話であろうようだ。オペラ・ファンなら、ワーグナーの壮大な悲劇をすぐに思い出すことだろう。
『ロミオとジュリエット』は、仇同士の家の息子と娘が恋に落ちる話である。ロミオのモンタギュー家と、ジュリエットのキャプレット家とが長い間、犬猿の仲だというのが障害である(風間研『大恋愛―人生の結晶作用―』講談社現代新書、1990年[1995年版]、54頁~55頁)。
【風間研『大恋愛―人生の結晶作用―』講談社現代新書はこちらから】

大恋愛―人生の結晶作用 (講談社現代新書 982)


『ロミオとジュリエット』について


『ロミオとジュリエット』の恋愛は単純である。というのも、これは純粋な初恋だからである。それも出会いの部分しか物語になっていないからであると風間研は解説している。二人は恋愛で苦しむ前に死んでしまう。つまり相手の美しい部分しか見ていないうちに悲劇が訪れてしまう。
なにしろ出会いからして衝撃的で、一目見た途端に愛し合ってしまう。二人の結びつきは理屈ではなく、物に憑かれたように、発作的である。一瞬にして一目惚れで恋に落ちる。
ミュージカル映画の「ウエストサイド物語」の大筋は『ロミオとジュリエット』と変わらず、仇同士の家の息子と娘が恋に落ちる話である。
『ロミオとジュリエット』は何度も映画になっているが、中でも、オリヴィア・ハッセーが主演したのは名作であろう。風間研は「彼女は無条件に可愛かった。なるほどジュリエットという心地良い響きの名前に、彼女はピッタリのキャスティングだった」と回想している(風間研『大恋愛―人生の結晶作用―』講談社現代新書、1990年[1995年版]、58頁~60頁)。

「おお、ロミオ、ロミオ!なぜあなたはロミオなの?」
これは、屋敷の二階にある自室の前のバルコニーでの、有名なジュリエットの独白である。一目惚れとは、何よりも「目」の勝負なのであると風間は考えている。言葉の助けなんか借りなくても、目を見ていれば、自ずと分かるものなのである。ただ「一目惚れ」は思春期の少年少女なら誰にでも起こりうるありふれた「恋愛」の典型であり、純粋に一目惚れの恋愛だけを物語にするというのは難しいという。
邪魔とか妨害は、恋愛物語の大きな要素であり、作者が一目惚れの恋愛を描こうとした場合、結婚の障害に執着するのは、当然と言えば当然だろうと説明している(風間、1990年[1995年版]、62頁~63頁)。

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映画『ある愛の詩』について


物語の書きだしは次のようにある。
What can you say about a twenty-five-year-old girl
who died?
Then she was beautiful. And brilliant. That she
loved Mozart and Bach. And the Beatles. And me.
Once, when she specifically lumped me with those
musical types, I asked her what the order was, and
she replied smiling, ‘Alphabetical.’ At the time I
smiled too. But now I sit and wonder whether she
was listing me by my first name ―in which case I
would trail Mozart ―or by my last name, in which
case I would edge in there between Bach and the
Beatles. Either way I don’t come first, which for
some stupid reason bothers hell out of me, having
grown up with the notion that I always had to be
number one. Family heritage, don’t you know?
(エリック・シーガル『LOVE STORY』講談社インターナショナル株式会社、1992年、5頁)

Erich Segal(Retold by Rosemary Border), Oxford Bookworms Library: Love Story, Oxford University Press, 2008.
What can you say about a twenty-five-year-old girl who
died?
You can say that she was beautiful and intelligent. She
loved Mozart and Bach and the Beatles. And me. Once, when
she told me that, I asked her who came first. She answered,
smiling, ‘Like in the ABC.’ I smiled too. But now I wonder.
Was she talking about my first name? If she was, I came last,
behind Mozart. Or did she mean my last name? If she did,
I came between Bach and the Beatles. But I still didn’t come
first. That worries me terribly now. You see, I always had to
be Number One. Family pride, you see.
(Erich Segal(Retold by Rosemary Border), Oxford Bookworms Library: Love Story, Oxford University Press, 2008, p.1)

板倉章氏は次のように訳している。
どう言ったらいいのだろう、二十五の若さで死んだ女のことを。
彼女は美しく、そのうえ聡明だった。彼女が愛していたもの、それはモーツァルトとバッハ、そしてビートルズ。それにぼく。
いつだったか、こういった音楽家の連中とぼくとをことさらいっしょに並べたとき、どういう順番になっているのか、きいてみたことがある。すると彼女、にっこり笑って「アルファベット順よ」と言ってのけた。あのときはぼくも苦笑してしまった。
でも彼女のいない今、ぼくは腰をおろし、あの順番のなかに組みこまれたとき、苗字と名前と、どちらで入れられていたのだろうかと、考えてみる。名前だったらモーツァルトのあとになるし、苗字だったらバッハとビートルズの中間に入ることになる。いずれにしてもばかげた理由で一番になれなかったのかと思うと、むしょうにしゃくにさわってきた。子供のときから、ぼくはなにごとにつけナンバーワンでないと気がすまないという性質(たち)だった。
わが家の家風というやつだ。」
(エリック・シーガル(板倉章訳)『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、5頁~6頁)。
Notes
・brilliant 聡明な
・specifically lumped me with those musical types こうした音楽家の連中とぼくとを、ことさらいっしょに並べた
・trail Mozart モーツァルトのあとになる
・edge in~ ~に割り込む
・bothers hell out of me 無性にしゃくにさわる
・Family heritage 家風
(エリック・シーガル(板倉章訳)『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、150頁)。


原島一男氏もこの書きだしに注目している。
“She was beautiful. And brilliant. She
loved Mozart and Bach. And the Beatles. And me. “
「彼女は美しかった。頭脳明晰だった。彼女は愛していた。モーツァルトとバッハ、それいビートルズ。そしてぼくを」
オリバーが、ジェニーを偲んで、雪景色のスケート場に向かって語りかける言葉である。
(原島一男『映画の英語』ジャパンタイムズ、2002年、99頁)。


【原島一男『映画の英語』ジャパンタイムズはこちらから】

映画の英語

この部分を解説しておこう。
ジェニファ・キャブラリ(Jennifer Cavilleri)は美しく聡明であった。彼女の愛していたものは、モーツァルトとバッハ、それにビートルズ。そしてぼく(オリバー・バネット、Oliver Barrett)だったという。
25歳の若さで亡くなった彼女に、生前に、音楽家たちとオリバーの中で、どういう順番で好きなのかを尋ねたことがあったというのだ。すると、彼女はアルファベット順だと答えた。その好きな順番が、どうなのか、死後の現在、気になったというのである。
オリバー・バネット(Oliver Barrett)という苗字と名前では、その順番が変わってくることに気付く。
① つまり、名前(Oliver)だったら、モーツァルト(Mozart)のあとになる。
② 苗字(Barrett)だったら、バッハ(Bach)とビートルズ(Beatles)の中間にはいることになる。つまり、バッハのBac、バレットのBar、ビートルズのBeaというアルファベット順になる。
しかし、オリバーは苗字・名前をいずれもアルファベット順にしても、彼女の一番好きなものに自分が入らなかったことになり、無性に癪にさわってきたというのである。オリバーはハーバード大学の学生で何事につけ、ナンバーワンでないと気がすまないという性質(たち)であり、それが家風であったので、余計に腹が立ったというのである。
このあと登場するオリバーの父親(バレット3世)は、1928年のオリンピックで、シングルのボートレースに出場したことがあった(Segal, 1992, p.36. 板倉訳、1972年[2007年版]、48頁)。
さらに、オリバーのひいじさん(曽祖父、great-grandfather)はハーバード大学のバレット講堂を寄贈した人物であったという設定である(Segal, 1992, p.9. 板倉訳、1972年[2007年版]、11頁)。
このように、バレット家は、名門の家柄で、エリート主義の一家であった。このことがかえって、オリバーとジェニーの結婚に障害となった。
オリバーの両親から縁を切られても、オリバーとジェニーの愛の絆と結婚への決意は揺るがず、二人はささやかな結婚式を挙げ、質素なアパートでの生活が始まる。
その後、オリバーの父親から60歳の誕生日パーティの招待状が届いたとき、ジェニーはそろそろ和解の時期が来たとオリバーを説得しようとする。しかし、二人はこの件で大喧嘩をして、ジェニーは家を飛び出す。
そしてオリバーが追いかけてゆき、「悪かった、許して」と謝るオリバーに、ジェニーが言う言葉が、有名なセリフである。
“Love means not ever having to say you’re sorry.”
(エリック・シーガル『LOVE STORY』講談社インターナショナル株式会社、1992年、105頁、149頁)
(原島一男本では、“Love means never having to say you’re sorry.” 原島一男『映画の英語』ジャパンタイムズ、2002年、98頁~99頁)

直訳すると、「愛とは許されるのがわかっているので、謝る必要がないものだ」となるという。この言葉は、後でもう一度出てくる。つまりジェニーが白血病で亡くなった後、オリバーが自分の父親に同じ言葉を言っている。原島一男は、こちらの方は、言葉は同じでも、むしろ「愛とは、後悔する必要のないものです」に近いのではないかと解説している。
(原島一男『映画の英語』ジャパンタイムズ、2002年、98頁~99頁)。
ともあれ、アメリカ東部のボストンで男女の学生が出会い、恋に落ちるというストーリーのこの映画は、若さのもつ“純粋さ”を教えてくれる。ただ一途に相手を愛し、そのために生き、散っていく姿をみると、純愛という言葉の真の意味が伝わってくる(原島、2002年、93頁)。

作家の富島健夫とエリック・シーガルが純愛について対談した際に、8年前に日本で『愛と死をみつめて』という書簡集が出版されて大ベストセラーになったことを話した。
この『ラブ・ストーリー』の主人公とよく似ているが、日本では残された男の人がその後結婚する段になって、読者は大変非難したことも話した。
そして残されたオリバーはその後どういう生き方を歩むと思うかと質問したのに対して、主人公のオリバーは結婚するかもしれないが、その想像は読者自身に委ねたいと思うと答えた。
ただオリバーに言えることは、ある意味でこれからの彼の人生が始まるとも言えると付言した。

ところで、その『愛と死をみつめて』の著者であり、主人公の河野実(まこと)は、この『ラブ・ストーリー』について次のように語っている。
「ぼくも『ラブ・ストーリー』を通読しました。ぼくの体験とあまりによく似てるんで驚きました。ぼくも愛する人を失ったときは、ほんとに自分ももう終わりだ、と思いました。でも、あれは青春の終わりで、決して人生の終わりじゃなかったということが、あとになってわかったのです」と。(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、221頁~222頁)。

青春と人生とを区別して考えている点が注目できる。
訳者板倉章によれば、本質的な定義づけをするなら、青春とは単純性と純粋性であろうと主張している。
そして、この『ラブ・ストーリー』で若者たちを泣かせたものは、いったい何だったのだろうと問いかけている。
その問いに対して、『ラブ・ストーリー』が出版された時、若者が共感したのは、彼らのかくありたいと思う青春があったからであると答えている。つまり若者がもつ純粋性と単純性が、この本に書かれてある純愛(純粋で単純な愛)と、周囲の大人の世界との戦いに共鳴したのだと理解している。
オリバーは父親に代表される偉大なアメリカ(実は人々から自由と生命力を奪っていくだけのインチキな社会)と戦い、絶対的な力であるジェニーの死に対してさえも戦いを挑むのである。青年は荒野をめざす、という青年の夢をかなえていたからであると板倉は解説している(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、214頁~215頁)。


この小説は実話であり、主人公にはモデルがおり、エリック・シーガル自身、これほどのベストセラーになろうとは考えていなかったと、1971年1月に来日した時のインタビューで答えている。
エリック・シーガルが教えているイェール大学の研究室に、大学の生徒が、エリックを訪ねてきて時に話してくれたことを基にして小説化したという。その学生の友達の奥さんは学生結婚をした夫のために日夜働いて彼を卒業させた。就職して、いざこれからという時に、その奥さんは先天性の病気で亡くなったという。

エリックはこの話に感動して、生徒が話し終えて研究室を離れていった時、無意識にタイプに向かい、1968年12月15日から、1969年1月15日までに書き上げたという。つまり、イェール大学文学部教授の時、教え子が語った実話に触発されて、わずか1ヶ月で本書を書き上げたといわれる。
本書は、1970年2月に発売されて、1年間でアメリカ国内で1200万部突破という大記録を打ちたてた。同年12月に公開された映画(ライアン・オニールとアリ・マッグロー共演)も世界的にヒットする。

しかしこの小説が出版されようとも、ましてこれほどのベストセラーになろうとも考えていなかったと、訳者板倉のインタヴューで答えている。
というのはベストセラーの三大要素といわれている、暴力もセックスもペシミズムもないからである。この小説にはマリファナも戦争もフリーセックスも、そして黒人問題もない。だが、この手の小説はアメリカではここ百年というもの出版されたことがなかった。セックスをことさら書かなかったこの純愛小説のために、少女小説と笑われることを、エリック・シーガルは大変恐れたようだ。この小説を発表するのには、そういう意味での勇気が必要だったらしい。
ところで、フランスのル・モンド紙はこの『ラブ・ストーリー』に次のような賛辞を贈った。
「エリック・シーガルは世界中が待ちわびていながら、唯一人としてそれを書く勇気のなかった本を与えてくれた」と。まさにエリックの内心を見透かしたような賛辞であった(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、209頁~213頁)。

清水真弓氏の解説~ジェニファーの名科白にこめた意味


また清水真弓氏は「ラブ・ストーリーについて」という解説を記している(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、196頁~207頁)。

エリック・シーガルという作者の胸には、中世の恋物語の美しさが去来したのかもしれないと想像している。
古典や比較文学の研究家であるエリック・シーガルの中に、現代の『ロミオとジュリエット』を描こうとする意図があったのではなかろうかと清水真弓は捉えている。
今日ではラブ・ストーリーそのものが大人の童話となりつつある。愛をてれずに描くことが出来たのも、作者が才人であるというよりも、大人であるからかもしれない。その意味で、彼は失われた青春の夢を愛惜したともいえるだろうという(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、206頁~207頁)。
青春には負担が多すぎ、生涯のどの時期よりも、傷つきやすいものである。
清水は、このことを示すために、2つの小説を挙げている。すなわち、『卒業』(チャールズ・ウェッブ著)と『ライ麦畑でつかまえて』(J.D.サリンジャー著)である。
つまり、『卒業』の主人公ベンジャミンの行動が、大人や世間の常識というモノサシで計ったら、不可解で支離滅裂であろうと、彼にとって、そのとき、そのときの行動が真実なのである。また、『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデンはインチキを嫌悪し、常識に反抗するが、これらも青春の純粋さの生んだ潔癖感ともいえると清水はいう。ベンジャミンやホールデンの彷徨は、大人への一種の甘えであるかもしれないが、子供から大人になる季節の途中で、自己の存在証明を何によって得るかを模索していると捉えている(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、198頁)。

この『ある愛の詩』という小説は、どうあるべきかなどという文学的な問題ではなく、どんなふうに感じるかをただ書き記した小説であると清水真弓は捉えている。素朴な“愛の象(かたち)”として。
その“愛の象(かたち)”をこの本は一つの事例として示したにすぎないかもしれないという。
「愛とは決して後悔しないことよ」
“Love means not ever having to say you’re sorry.”
(エリック・シーガル『LOVE STORY』講談社インターナショナル株式会社、1992年
、105頁、149頁)

作者はジェニファーにいわせたこの言葉の中に、一つの解答を与えようとしたのではなかろうかという。未練なんかないと言い、愛とは決して後悔しないことを彼の心に残していったのであったと清水氏は理解している(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、199頁)。
また清水は、『ある愛の詩』という小説は、ある意味で、武者小路実篤の『愛と死』に似通った雰囲気をもった作品であるという。『愛と死』は、昭和14年(1939)、作者が55歳のとき書かれたものであるが、若い読者に読み継がれてきているのは、愛の純粋性が描かれているからであろうと清水は推察している。『ある愛の詩』と同じように、僕という語り手の回想形式で書かれている。
一人の女との出会いから、その死に至るまでの過程が描かれているが、作品の魅力はその女主人公にあるといわれる。男が外遊し、帰国を待ちわびる最後の手紙が、無邪気でいじらしく、素直に読者の心に感動を呼ぶ。だが、男の帰国を目前にスペイン風邪で急死してしまう。

一方、『ある愛の詩』の最大の魅力も、イタリア系のラドクリフ女子大学であるジェニファ・キャブラリという女の子に、みずみずしい実在感を与えているところにあると、清水はみている。つまり、最初のふたりの出会いで、オリバーに無関心を装うことで、奇妙に入り交じった感情を抱かせる小悪魔的な面と、そのくせ男の自尊心をくすぐるいじらしさを兼ねそなえた女の子であると、清水は分析している。
『ある愛の詩』は、もっとも現代的な、それでいて、愛の理想的な物語であると捉えている(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、199頁~201頁)。

アンディ・ウィリアムスの名曲「ある愛の詩」


ところでアンディ・ウィリアムスが切々と、そして朗々と歌ってヒットした。
作詞はCarl Sigman、作曲は「男と女」「白い恋人たち」で有名なFrancis Laiであった。
その歌いだしは
Where do I begin to tell the story of
how great a love can be,
The sweet love story that is older than the sea,
The simple truth about the love she brings to me?
Where do I start?
(松山祐士『魅惑のラブ・バラード・ベスト100』ドレミ楽譜出版社、1994年、90頁~91頁)

【松山祐士『魅惑のラブ・バラード・ベスト100』ドレミ楽譜出版社はこちらから】

魅惑のラブバラード100 (メロディ・ジョイフル)

岩谷時子は、エディット・ピアフが作詞したシャンソンの名曲「愛の讃歌」などの訳詞で有名である。その岩谷時子の訳詞では
「海よりも美しい愛があるのを教えてくれたのはあなた。この深い愛を私は歌うの。」としている。

「ある愛の詩」の歌詞について、その歌いだしは、
“Where do I begin to tell the story of how great a love can be,”である。
これは明らかに、小説の書きだし、つまり
“What can you say about a twenty-five-year-old girl who died?”
(どう言ったらいいのだろう、二十五の若さで死んだ女のことを。)
に対応した歌詞であることがわかる(Segal, 1992, p.5. 板倉訳、1972年[2007年版]、5頁)。

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アンディ・ウィリアム ベスト・オブ・ベスト (ケース付)


著者エリック・シーガルについて


ところで、著者のエリック・シーガルについては、次のように略記されている。
Erich Segal was born in America in 1937, and studied at
Harvard University. Love Story, his first novel, was written in
1970. It became a world-wide bestseller, with over 21 million
copies sold in 33 languages. A film of the book was made in the
same year, starring Ryan O’Neal and Ali McGraw. This was
also an immediate success. It had seven Oscar nominations,
and won Segal a Golden Globe award for his filmscript.
Segal wrote many other bestsellers, and several of them
were also filmed. One of his most well-known films was the
Beatles’ Yellow Submarine. In 1977 he wrote Oliver’s Story,
which is about what happens to Oliver Barret after Jenny’s
death. Other popular novels were The Class, Doctors, and
Only Love.
As well as novels, Erich Segal wrote many serious works
about Latin and Greek. For many years he was a Classics
Professor at Yale University in America, and he was also a
Fellow of Wolfson College, Oxford. The last part of his life
was spent in England, and he died at his home in London in
2010.
(Erich Segal(Retold by Rosemary Border), Oxford Bookworms Library: Love Story, Oxford University Press, 2008, p.68.)

作者エリック・シーガルは、1937年に、ニューヨークで生まれ、ハーバード大学に学んだ。そして33歳の若さで、イェール大学の教授として古典と比較文学を教え、ギリシア、ローマの遺物について数冊の本を出した俊英の学者であった。
その一方で、ビートルズの「イエロー・サブマリン」のシナリオを書き、ハリウッドの人々の興味を惹起した。『ラブ・ストーリー(ある愛の詩)』は、彼の処女作で、アメリカで発売されるや、大ベストセラーになり、この作品一作で、1970年代の新人作家として迎え入れられた(エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]、204頁~205頁)。

ビリー・ジョエルの大ヒット曲「オネスティ(HONESTY)」



Erich Segal(Retold by Rosemary Border), Oxford Bookworms Library: Love Story, Oxford University Press, 2008には、次のような質問がある。

What do you think is important when you choose someone to marry?
A good husband or wife should…
・be good-looking
・be from a rich family
・be fun to be with
・have the same interests as you
・be younger or older than you
・be kind
・be intelligent
・be honest
・be loving
・be patient
10項目から選択するというものである。
(Erich Segal(Retold by Rosemary Border), Oxford Bookworms Library: Love Story, Oxford University Press, 2008, p.66.)

「be honest」という項目を結婚する相手に求める点を挙げているのに興味がひかれる。というのは、ビリー・ジョエルの大ヒット曲である「オネスティ(HONESTY)」を思い出すからである。
If you search for tenderness,
it isn’t hard to find.
You can have the love you need to live.
But if you look for truthfulness,
you might just as well be blind.
It always seems to be so hard to give.

Honesty is such a lonely word.
Everyone is so untrue.
Honesty is hardly ever heard,
and mostly what I need from you.
(やさしさが欲しいなら
それはたやすく見つかるだろう
生きていくのに必要な愛を得ることもできるあろう
けれど 正直さを捜そうとなると
いっそ目をつぶってしまいたくなる
正直であるというのはそれほど難しいことだ

誠実とは何と寂しい言葉だろう
誰もが不実な世の中さ
誠実という言葉はめったに聞かれないが
それこそ僕が君に求めるもの
訳 内田久美子)
(羽田健太郎『NHK趣味百科 英語ポップス歌唱法Ⅱ』日本放送出版協会、1995年、96頁)
“Honesty is hardly ever heard, and mostly what I need from you.”(誠実という言葉はめったに聞かれないが、それこそ僕が君に求めるもの)とビリー・ジョエルは心の叫びとして歌っている。
ビリー・ジョエル自身、ニューヨークのブロンクスに生まれた。この歌は都会に住む大人の歌である。つまり、この歌は誠実さがなければ他に何を持っていても、本当に幸せにはなれないと歌っている。この曲は、アルバム『ニューヨーク52番街』の中に収められている曲である。
アメリカ人は、愛する二人に誠実さを求める。

【ビリー・ジョエルのCDはこちらから】

ビリー・ザ・ベスト


《参考文献》
風間研『大恋愛―人生の結晶作用―』講談社現代新書、1990年[1995年版]
鈴木晶『グリム童話―メルヘンの深層』講談社現代新書、1991年[1998年版]
松山祐士『魅惑のラブ・バラード・ベスト100』ドレミ楽譜出版社、1994年
Erich Segal(Retold by Rosemary Border), Oxford Bookworms Library: Love Story, Oxford University Press, 2008.
エリック・シーガル[板倉章訳]『ラブ・ストーリー ある愛の詩』角川文庫、1972年[2007年版]
エリック・シーガル『LOVE STORY』講談社インターナショナル株式会社、1992年
フォーイン・クリエイティブ・プロダクツ編『麗しのサブリナ』フォーイン・クリエイティブ・プロダクツ、1996年[2004年版]
マーク・ノーマン、トム・ストッパード(藤田真利子訳)『恋におちたシェイクスピア―シナリオ対訳本』愛育社、1999年
別冊宝島編集部『「武士道」を原文で読む』宝島社新書、2006年
清水俊二『映画字幕の作り方教えます』文春文庫、1988年
戸田奈津子『男と女のスリリング―映画で覚える恋愛英会話』集英社文庫、1999年
原島一男『映画の英語』ジャパンタイムズ、2002年
原島一男『オードリーのように英語を話したい!』ジャパンタイムズ、2003年
塚田三千代監修『モナリザ・スマイル』スクリーン・プレイ、2004年
フォーイン・クリエイティブ・プロダクツ編『幸福の条件―名作映画完全セリフ集』フォーイン・クリエイティブ・プロダクツ、1997年







羽田健太郎『NHK趣味百科 英語ポップス歌唱法Ⅱ』日本放送出版協会、1995年






最相葉月『青いバラ』小学館、2001年
最相葉月『絶対音感』新潮文庫、2006年[2009年版]

フランシス・チャーチ(中村妙子訳)『サンタクロースっているんでしょうか』偕成社、1977年[1988年版]
中村妙子編訳『クリスマス物語集』偕成社、1979年[1985年版]

高橋大輔『12月25日の怪物』草思社、2012年
葛野浩昭『サンタクロースの大旅行』岩波新書、1998年[2005年版]



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