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歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪漢文の句形~三宅崇広『きめる!センター 古文・漢文』より≫

2023-12-17 18:00:27 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪漢文の句形~三宅崇広『きめる!センター 古文・漢文』より≫
(2023年12月17日投稿)

【はじめに】


  漢文の勉強法について考える際に、現在、私の手元にある参考書として、次のものを挙げておいた。
〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]
〇幸重敬郎『漢文が読めるようになる』ベレ出版、2008年
〇小川環樹・西田太一郎『漢文入門』岩波全書、1957年[1994年版]

これらのうち、受験に特化し、効率的な勉強法を説いた参考書としては、次の2冊である。
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]
 
 今回のブログでは、次の参考書について、紹介しておきたい。
(共通テストにかわったが、センター試験の過去問は良問が多いともいわれるので、練習のつもりで取り組んでもらえたらと思う)
〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]
 とりわけ、漢文の句形に関する問題、再読文字、使役、反語、抑揚についてみておこう。
 あわせて、解釈の問題、語意を問う問題についても練習してみよう。

なるべく数多くの漢文の文章に触れて、漢文の句形や内容を知ってほしい。
(返り点は入力の都合上、省略した。白文および書き下し文から、返り点は推測してほしい。)



【三宅崇広『きめる!センター 古文・漢文』(学研プラス)はこちらから】
三宅崇広『きめる!センター 古文・漢文』(学研プラス)





〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』
【目次】漢文編
攻略法0 センター漢文攻略のためのルール

<句形別攻略法>
攻略法1  再読文字
攻略法2  使役
攻略法3  受身
攻略法4  否定
攻略法5  疑問
攻略法6  反語
攻略法7  比較
攻略法8  限定
攻略法9  累加
攻略法10  仮定
攻略法11  抑揚
攻略法12  禁止
攻略法13  詠嘆
攻略法14  その他の句形

<設問別攻略法>
攻略法15  読み方・書き下しの問題
攻略法16  解釈の問題
攻略法17  語意を問う問題
攻略法18  漢詩の規則を問う問題

漢文総合問題
漢文総合問題 解答・解説
 
<コラム>目で見る漢文① (儒家)
<コラム>目で見る漢文② (道家)
<コラム>目で見る漢文③ (法家)
<コラム>目で見る漢文④ (三国志)
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、8頁~9頁)




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・漢文編~三宅崇広先生(駿台予備学校)の言葉
・攻略法1 句形別攻略法 再読文字
・攻略法2 句形別攻略法 使役
・攻略法6 句形別攻略法 反語
・攻略法11 句形別攻略法 抑揚

・攻略法16 設問別攻略法 解釈の問題
・攻略法17 設問別攻略法 語意を問う問題
【補足】頻出漢文重要語~副詞






三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』



〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]

漢文編~三宅崇広先生(駿台予備学校)の言葉



・センター試験の漢文は満点がとれるテストであると、三宅崇広先生はいう。
 本書で十分な対策を講じて、第一志望合格という栄冠を勝ちとってほしいという。

〇センター試験で問われる「漢文の力」とは?
 センター試験の漢文の配点は50点。ほかは現代文50点×2題、古文50点。
 試験時間は国語全体で80分だから、漢文の配分は20分程度。
 文章の長さは180~220字程度で、大学入試の漢文としては、比較的長い文章が出題されている。

・文章の内容は、逸話・説話か随筆がほとんど。
(特別な思想や時代背景等の知識を必要とするものは出題されない)
 やや長い文章が出題されてはいるが、それだけ筋や主張のはっきりした素直な文章・読みやすい文章が選ばれている。
※高校課程修了時の受験生の、標準的な国語力・読解力が備わっているかどうかが、問われてくる。

・特別何も勉強しなくても文章が読めて満点がとれるかと言えば、そうはいかない。
 「漢文」を読むためのハードルをクリアしなければならない。
 現代文などとは比較にならないほど単純明快な筋の話でも、それを読むための道具である知識を持っていなければ、太刀打ちできない。
 日本人としての教養の一つである、「漢文」を読む方法の基礎を身につけているかどうかも、もちろん問われている。
 
・対処する方法
①漢文を読むための基本的な道具である、句形・語法を覚えること。
 漢文はある程度覚えることを必要とする科目であるが、裏を返せば、知識が得点に直結し、努力したことが報われる科目でもあるという。
 しかも、使役や再読文字はほとんど毎年のように出題されている。
 的を絞ることができ、覚えることも決して多くはない。
 その意味では、漢文ほど短期間での得点アップが可能な教科はほかにないとも言える。
 
 センター試験で毎年出題されている読み方や解釈の問題でも、そのほとんどでポイントになっているのが、句形・語法。
 ⇒漢文編の「攻略法1~14」を活用して、漢文を読むための道具を身につけよ。
 (これは、同時に国公立二次試験や私大の漢文対策としても不可欠)

②「国語力=語彙力=漢字力」を養うことが必要。
 漢文も「国語」のなかの一分野であるから、日本語としての語彙力で決まる設問も、若干出題されている。
 実は例年、最も正答率が低いのが、このタイプの問題であるようだ。
 語彙力の不足というのが現代の受験生の最大の弱点になっている。
(正答率が低い設問であるから、万一失点しても大きな影響はないかもしれないが、漢文は満点をとれる科目である。ここで満点をとって差をつけたい人には、この対策も怠ることは許されない。)
⇒漢文編の「攻略法17 語意を問う問題」と「別冊 漢文重要語」はそのためのもの

【まとめ】漢文で満点を取るために必要なこと
①漢文を読むための基礎を身につける
 基本的な句法・語法を覚え、活用する。
②標準的な国語力を養う
 語彙力・漢字力をつける。
③センター試験特有の攻略法を身につける
 本書の攻略法をしっかりマスターする。

〇センター試験の漢文の設問とは?
・センター試験の漢文の設問は、6~7問程度。
 枝問が設けられることがあるが、それでも1問当たりの配点は他教科に比べて高いから、注意が必要。
・設問の内容の平均的な構成:
傍線部の「読み方」「書き下し」を問うものが1問。(枝問の設定で2問になることもある)
 傍線部の「解釈」「意味」を問うものが3問。
 語句の意味を問うものが1問。(枝問の設定で2問になるのが普通)
 文章全体の「趣旨」「論旨」を問うもの(内容一致問題)が1問。

・「読み方」「書き下し」の設問に対処するためには、句形・語法の知識が必要。
 その知識があれば、傍線部を見ただけで正解が得られる設問が少なくない。
 「句形別攻略法1~14」で前提となる知識を、「攻略法15 読み方・書き下しの問題」で実戦的な解法をマスターしてほしい。

※漢文を読むかぎり、句形・語法の知識は必須だから、「句形別攻略法」は「解釈」「意味」を問う問題に対しても、有効な対策となる。
 ただし、もちろん、いわゆる「文脈」を読み取る必要のある問題も出題されるから、「攻略法16 解釈の問題」でセンター試験の出題のツボを把握しておくこと。
・語句の意味を問う問題には、「攻略法17 語意を問う問題」と別冊の「漢文重要語」が役立つ。

・文章の「趣旨」「論旨」を問う問題(例年、一番最後の設問)は、「句形別攻略法」で漢文を読むための正しい道具を身につけた人には、恐い問題ではない。

※センター試験の漢文は、現代文などとは比較にならないほど、単純明快な筋の話が出題されるのが普通だから、漢文を現代文にまで引きずり降ろせる力を持っていれば、文章の「趣旨」「論旨」など簡単につかめるはずだという。
 「攻略法16 解釈の問題」に示すように、
①まず最後の設問に目を通して話題をつかむ
②それとの整合性を確かめながら、全体を読み進める
③最後に設問相互のつながりをチェックして(矛盾する答えを除外して)解答を決定する
このような方法はぜひ実践してほしいという。
 最後の設問でも、必ず大きな手がかりとなるはずである。
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、16頁~20頁)

攻略法1 句形別攻略法 再読文字



攻略法1 句形別攻略法 再読文字
・再読文字といえば、漢文の基本中の基本。
 センター試験の問題にも毎年のように登場する。
 この項目は、再読どころか再三読んでほしい。
 特に読み方を混同しないように注意することが大切。

<センターのツボ>
①【構文】未
【読み方】いまダ~ず
【訳し方】まだ~しない。

②【構文】将
【読み方】まさニ~ントす
【訳し方】~しようとする/~することになる。

③【構文】且
【読み方】まさニ~ントす
【訳し方】~しようとする/~することになる。

④【構文】当
【読み方】まさニ~ベシ
【訳し方】④~⑦はすべて、「~しなければならない」または「~するに違いない」と訳す

⑤【構文】応
【読み方】まさニ~ベシ
【訳し方】④~⑦はすべて、「~しなければならない」または「~するに違いない」と訳す

⑥【構文】宜
【読み方】よろシク~ベシ
【訳し方】「~するのがよろしい」のように訳すこともある。

⑦【構文】須
【読み方】すべかラク~ベシ
【訳し方】「~することが必要だ」のように訳すこともある。


⑧【構文】猶
【読み方】なホ~ごとシ
【訳し方】まるで~のようだ

⑨【構文】盍(何不~)
【読み方】なんゾ~ざル
【訳し方】どうして~しないのか/~したらよかろう

<注意>
・②と④を混同する人が多い。
 「将来」「当然」という熟語で覚えておこう。
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、180頁~181頁)



再読文字の読み方「且」 
問1 「不得、且笞汝」はどう読むか。最も適当なものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
① えず、なんぢをむちうつべし
② えず、かつなんぢをむちうたんとす
③ えざるも、まさになんぢをむちうつべし
④ えざれば、まさになんぢをむちうたんとす
⑤ えざれば、しばらくなんぢをむちうつべし
⑥ えざること、なほなんぢをむちうつがごとし

【解説】
・「且」が「将」と同様に「まさに~んとす」と読む再読文字であることを覚えていれば、答えは簡単である。
 ①は「べし」が不適。
 ②は「かつ」が不適。
※副詞として「かつ」と読む場合は返り点がつかないし、「かつ~んとす」という読み方そのものが誤りである。
 ③のように「まさに~べし」と読むのは、「当」と「応」。
 ⑤のように、「且」を副詞として「しばらく」と読むことは稀にあるが、「しばらく~べし」という読み方はあり得ない。
 ⑥の「なほ~ごとし」という読み方をするのは、「猶」である。

【解答】④
【口語訳】「手に入らなければ、(罰として)おまえを鞭(むち)打つことにしよう。」



再読文字の読み方「当」 
問2 「士窮達当有時命」の読み方として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
   (注)「時命」…時のめぐりあわせ、さだめ
① 士の窮達は当に時命有らんや
② 士の窮達には当に時命有るべし
③ 士の窮達には当に時命るべけんや
④ 士は窮するや達して当に時命有らんや
⑤ 士は窮するも達しては当に時命に有るべし

【解説】
・「当」は「まさに~べし」と読む再読文字だから、②と⑤に絞れるはず。
 ①や③のように、文末を「~んや」と結ぶと反語の読み方になってしまう。
 ④は「まさに~んとす」と読む再読文字「将」・「且」と混同させようというヒッカケの選択肢である。
 ②と⑤で少々迷うかもしれない。
 「窮達」が現代語と同じく「困窮と栄達」の意味であること、注にある「時命」の意味などから、②が正解。
【解答】②
【口語訳】「役人が困窮するか栄達するかには、運の善し悪しがあるに違いない。」



再読文字の読み方「須」 
問3 「先須熟読、使其言皆若出於吾之口」の書き下しとして最も適当なものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
① まづまさに熟読し、その言をして皆吾の口より出づるがごとからしむべし。
② まづよろしく熟読し、その言の皆をして吾の口に出づるがごとからしむべし。
③ まづすべからく熟読し、その言をして皆吾の口より出づるがごとからしむべし。
④ まづまさに熟読し、その言の皆をして吾の口に出づるがごとからしむべし。
⑤ まづよろしく熟読し、その言をして皆吾の口より出づるがごとからしむべし。
⑥ まづすべからく熟読し、その言の皆をして吾の口に出づるがごとからしむべし。

【解説】
・「須」は「すべからく~べし」と読む再読文字だから、③と⑥に絞る。
 ここからが少々難しい。
 
 ③と⑥を比較すると、「言をして皆」と「言の皆をして」の違いに気づく。
 これは使役の読み方にかかわる部分である。

※使役の「使(しむ)」の後につづく使役の対象は、名詞でなければならない。
 名詞だからこそ、格助詞の「をして」がつけられるのである。
 ところが漢文の「皆」はすべて副詞であり、名詞にはならない。
 よって、⑥のように「皆をして」と送り仮名をつけて読むことはできないのである。

・しかしここまで受験生に要求するのは、かなりの難題といえる。
 なお、「ごとし」に「ごとから」という未然形はないから、「ごとからしむ」という読み方も好ましくないという。「ごとくならしむ」の方が正しい読みであるようだ。
※「センター試験でも、時として悪問が出題されることがある」という覚悟はしておこうと、編者はいう。

【解答】③
【口語訳】「まず最初に、書物の言葉がすべて自分の口から出たもののようになるまで、熟読する必要がある。」
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、184頁~187頁)

攻略法2 句形別攻略法 使役


攻略法2 句形別攻略法 使役
・「王が臣下に~させる」「将軍が兵卒に~させる」など、使役は漢文で最もよく使われる表現の一つである。
 センター試験でも、かなりの頻度で出題されている。
 使役を制するものがセンターの漢文を制する、と言っても過言ではないようだ。
・「『使・令』を見たら『をして』と『しむ』」がポイント

<センターのツボ>
・構文:使(令)AB
 読み方:AをしてBしむ
 訳し方:AにBさせる
 ※「使(つかフ)」「令(れいス)」と動詞に読む場合もある。
≪漢文の要素≫
・A(使役の対象を表す名詞)…「をして」を送る。
・B(使役の内容を表す名詞)…「しむ」に接続させるために未然形になっている。

≪例文≫
①使人笑。    人をして笑はしむ     「人を笑わせる」
②令弟読三国志。 弟をして三国志を読ましむ 「弟に三国志を読ませる」

【注意点】
①「使・令」(しム)は、設問の書き下し文では常にひらがなになっている。
②使役の対象を表す名詞(A)は、省略されていることもある。
③使役の内容を表す動詞(B)のあとには、2番目の例文のように目的語がつくことが多い。
④「使・令」の他に、「教・遣・俾」も使役の「しむ」になることがあるが、センター試験ではふり仮名がつき、設問にはならないことが多い。
⑤「使・令」等を使わずに、文脈から使役に読むこともあるので、書き下しの選択肢に、「―しむ」が補われているものが含まれていたら、念のために文脈を確認する。



【例題】(使役を表す文字)
問「令」と同じ意味、用法を持つ語はどれか。最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①使
②雖
③被
④非
⑤猶

【解説】
・覚えていれば簡単だし、私大でも頻出するタイプの問題。
 当然、正解は①。他の選択肢も重要な語ばかりなので、確認しておこう。
・②雖(いへども)は、仮定あるいは確定の、逆接接続詞。
③被(る・らル)は受身の助動詞。
④非(あらズ)は「~ではない」と否定的判断を示す語。
⑤猶には、副詞の「なホ=尚」と、再読文字の「なホ~ごとシ」の二つの用法がある。

【解答】①



【例題】(「使役」表現の読み方)
問「孰能使之然」の読み方として、最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①孰ぞ能(よ)く之を然らしめん。
②孰の能(のう)か之(ゆ)きて然らしめん。
③孰か能(よ)く之をして然らしめん。
④孰んぞ能(よ)く之を然りとせしめん。
⑤孰れの能(のう)か之をして然らしめん。

【解説】
・使役の読み方である「をして」と「しむ」がそろっているかどうかで、③と⑤に絞る。
 ところが「能」は、「不」・「未」のついた否定文の場合には、「あたハず」と読み、そうでなければ「よク」と読むのが原則であるから、③が正解。
・センター試験の読み方の設問は、傍線部の中の句形・語法の知識だけで正解が得られるものが少なくない。ただし、最後に前後の文脈を確認することもお忘れなく。

【解答】③
【口語訳】誰がこれをそのようにすることを可能にしたのか。



【例題】(使役表現を含む文の読み)
問「聖人不レ能レ使鳥獣為二義理之行一」は、どう読むか。最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①聖人も鳥獣を使ひて義理の行ひをなすことあたはず。
②聖人も鳥獣をして義理の行ひをなさしむることあたはず。
③聖人も鳥獣のために義理の行ひをなさしむることあたはず。
④聖人も鳥獣をして義理の行ひをなすことあたはざらしむ。
⑤聖人も鳥獣をして義理の行ひをなさしむることあたはざらんや。

【解説】
・選択肢を一見しただけで、使役の読み方の「をして」と「しむ」から、②・④・⑤にしぼれる。
 ところが、④の「あたはざらしむ」は、原文の返り点から見ても不可能な読み方。
・センター試験の「読み方」・「書き下し」を問う設問では、このように返り点がポイントとなるケースがあるので注意すること。
・⑤は「あたはざらんや」が不適。文末に「~んや」がつくと反語の読み方になってしまう。
・「使」を「つかフ」と読むこともあるが、下に動詞があれば「しむ」に接続させて「~させる」と訳してみることが大切。

【解答】②
【口語訳】聖人でも鳥や獣に道理にかなった行いをさせることなどできはしない。




【例題】
問 傍線部に送り仮名を記せ。
 「吾瑟鼓之能使鬼神上下」

【解説】
・このような問題があった時、どうやって送り仮名を入れたらよいだろうか。
 「使」は使役の「しム」なので、迷わずに「ム」と送り仮名をつける。
・「使」の直後の名詞は、使役の対象ではないかと考えて、「ヲシテ」を送って読んでみることが肝要。
・最後に、「上下」は使役の内容を表す動詞として、未然形にした上で送り仮名をつけるべきことが分かる。
 ちなみに鬼神とは幽霊のこと。

【解答】
 使一ム鬼神ヲシテ上下二セ

(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、188頁~193頁)

攻略法6 句形別攻略法 反語


攻略法6 句形別攻略法 反語
・「夢をあきらめない」という否定表現より、「どうして夢をあきらめたりしようか(いや、そんなことはない)」という反語表現のほうが意味が強まる。
・筆者や登場人物の主張が端的に表現されるのが反語である。
 センター試験で頻出する「豈」と「安」には、特に注意すること。


【例題】(「反語」の読み方)
問「豈為是哉」の読み方として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①あにぜとなさんや。
②あにぜをなさんかな。
③あにこれをなさんかな。
④あにこれがためなるかな。
⑤いづくんぞぜとなさんや。

【解説】
・反語として文末だけを見て、すんなりと①と⑤に絞れる。
 反語表現では、「んや」があるものを選べれば知識は確実なものとなっている。
 正解は①で、⑤は「豈」の読み方が間違っている。基本はしっかり押さえるべきだ。
・①の解釈は、「どうして正しいと判断しようか、いや正しくはない」。
※とにかく、センター試験では<文末の「んや」は反語>が得点につながる。
 ただし「~か」「~んか」と読んで「ひょっとしたら~か」と訳す推量表現になることもあるので、念のため、文脈を確認しよう。
<ポイント>
・文末に「ん(や)」があれば反語⇔反語表現は必ず「~ん(や)」と読む!
【解答】①



【例題】(「反語」の解釈)
問「城中安得有此獣」の解釈として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①城中にこんな獣がいて安全といえるのだろうか。
②城中は安全なのでこんな獣が多いのだろうか。
③城中にこんな獣がいるはずがないではないか。
④城中にどうしてこんな獣がいるのだろうか。
⑤城中にこんな獣がいるのは当然ではないか。

【解説】
・「安」は反語の副詞。
 ①②の「安全」はよくあるヒッカケ。
 ④は疑問の解釈になっている。
・「安得~」という反語表現は、事実において「不得~」という否定表現と同じになる。
 よって、「安得有~」は、「不得有~」(~有るを得ず)、つまり現代語の「ありえない」と同じ意味になる。ここから、この部分だけを見ても正解は③とわかる。

【解答】③
【書き下し文】城中安んぞこの獣有るを得んや

<ポイント>
・反語の解釈で迷ったときは、反語の副詞を否定詞に置き換えてみよう!
(a)どちらも「笑わない」という事実については、かわりはない。
   安笑(安んぞ笑はんや)=不笑(笑はず)
(b)「笑ってはいけない」という事実については、かわりはない。
   豈可笑(豈に笑ふべけんや)=不可笑(笑ふべからず)
・センターの反語問題で、「どうして~しようか、いや~しない」という、公式どおりの解釈が正解になることは少ない。
 「~するはずがない、~するわけがない」のように、強い否定として訳すものが正解となることが多い。反語は強い否定だと認識しておこう。

(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、220頁~227頁)

攻略法11 句形別攻略法 抑揚


攻略法11 句形別攻略法 抑揚
・抑揚形で大事なのは、「況」と文末の「をや」。


【例題】(句形の判別)
問「天尚如此、況於君乎」には、どのような句形が用いられているか、最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①受身
②疑問
③反語
④抑揚
⑤限定

【解説】
・この問題を、「簡単なレベルだ」と思うくらいになろう。
 ちなみに「抑揚」とは、英語のイントネーションの意味ではない。
 一方を「抑え」、それとの対比で他方を「揚げる」という意味の強調表現なのである。
【解答】④
【書き下し】天すら尚ほ此の如し、況んや君に於てをや
【口語訳】「天でさえこのようなのだ、まして君主ならなおさらだ」



【例題】(「抑揚」表現を含む文の大意)
問「許市井人耳。惟其無所求於人、尚不可以勢屈。況其以道義自任者乎」の大意として、最も適当なものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
(注)許=人名
①自由気ままに生きる民間人は、他人の拘束を極度にきらい、権威に対する反抗心がつよいものだ。まして道義を信条とする知識人たちが権力の統制をきらうのは当然のことだ。
②知識を求める意欲のない民間人は、たとえ宰相が命令してもそれに従わせることはできない。まして自分に道義があるとうぬぼれている人間は手のつけようがない。
③名もなく地位もない民間人であっても、名利をすてた人間は、たとえ宰相の力でも命令に従わせることはできない。まして自分に道義を大切にする人間を権勢でおさえこむことなど不可能だ。
④すでに名の知れわたった民間人は、いまさら他人の評判を気にすことなく、権勢に気がねすることもない。まして道義ある人として評価の定まった人間が他人の目など気にせず自由に生きるのももっともだ。
⑤礼儀作法をわきまえない民間人は、ひとたび他人から期待されなくなると自暴自棄となって、もはや宰相の力でもおさえることができない。まして道義を求めている人物が権威に失望したら何をやるかわからない。
⑥とるにたらない一介の民間人であっても、弁舌のすぐれた人間であれば無法な行動も許され、宰相の権威もそれをとめることはできない。まして道義を求めることを自分の使命としている者の行動は自由にすべきだ。


【解説】
・一見手強そうだが、落ち着いて読めばさほどでもない。
 もちろん最大のポイントは、「A尚~、況B乎」という抑揚表現である。
 あとは、本文と選択肢を丹念に比較しつつ、不適切な表現を含む選択肢を除いていく。
・①は「知識人たちが」、②は「知識を求める意欲のない」、④は「名の知れわたった」「評価の定まった」、⑤は「礼儀作法をわきまえない」「自暴自棄」、⑥は「弁舌のすぐれた人間であれば無法な行動も許され」が明らかに誤り。
 「市井の人」とは「民間人」のことである。
【解答】③
【書き下し】許は市井の人のみ。惟だ其の人に求むる所無きものすら、尚ほ勢を以て屈すべからず。況んや其の道義を以て自ら任ずる者をや
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、256頁~261頁)

攻略法16 設問別攻略法 解釈の問題


攻略法16 設問別攻略法 解釈の問題

・いわゆる傍線部解釈の問題は、センター試験では平均3問程度出題されている。
 決して「なんとなく」で答えを決めてはいけない。
 それでは「なんとなく」の得点にしかならない。
「センターのツボ」を「しっかりと」理解して、「しっかりと」した根拠を見つけた上で、正しい答えを選択し、「しっかりと」得点するようにしたい。

「センターのツボ」 「解釈」の設問、解法マニュアル
①選択肢を横に見渡して、出題のポイントを把握する。
 「読む」のではなく、「見渡す」と、訳し方の違う部分があることに気づく。それが設問のポイントであるという。
②(傍線部中の)句形・語法をふまえて直訳してみる。
 漢文独特の句法・語法ならば、その原則的な解釈をふまえて、選択肢を見ずに自分で訳してみる。いきなり選択肢を読むと、もっともらしい選択肢のワナにかかることがある。
③(傍線部中の)対句・対応表現をチェックする。
 傍線部中の句形・語法のポイントが見当たらないときは、前後に対句はないか、少し離れた位置に対応表現はないかを検討してみる。
④指示語が含まれていれば、指示内容に注意する。
 傍線部中に指示語が含まれているときは、その指示内容を吟味することが必要。
 漢文の指示語は「之(これ)」も「其(そノ)」も直前を指すのが普通なので、直前からさかのぼるように見ていく。
⑤読み方(送り仮名)に注意する。
 どう読むかで、どう訳すかが決まる。送り仮名がポイントになることも少なくない。
⑥(注)を利用して解釈する。
 (注)とは本来、文章を読む上での「解説」の意味だが、センター試験の漢文においては、設問を解く上での注意点だと心得ておくこと。(注)の存在に気づいたとたんに、答えが決まるという設問も、しばしば出題されているという。
⑦設問の選択肢を利用して解釈する。
 句法・対句・(注)等を吟味しても分かりにくい言葉が含まれる場合に、他の設問の選択肢がヒントをくれることがある。
 他の設問の選択肢がその分かりにくい言葉の解釈をさり気なく教えてくれていることがあるようだ。
⑧最後の設問とのつながりを確認する。
 「漢文」の問題で、最後の設問は全文の趣旨にかかわるものとなる。
 これを最初に見ておくことで話題がつかめるし、他の設問のヒントになることがある。
 最後の設問とのつながりを意識して、解釈を決めること。



【例題】(文の意味)
問「吾使左右如数以銭畀之焉」(吾左右をして数の如く銭を以て之れに畀(あた)へしむ)の意味として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 私は行き交う漁師たちに適正な値段をつけさせ、お金を渡した。
② 私は傍らの漁師に魚の大小に応じて値段をつけさせ、お金を渡した。
③ 私は傍らの漁師に魚の数に見合っただけの値段をつけさせ、お金を渡した。
④ 私は傍らの従者に命じ、求められた金額どおりお金を渡させた。
⑤ 私は傍らの従者に命じ、魚の数と大小とを考えあわせてお金を渡させた。

【解説】
・センター試験の漢文で最頻出の句法の一つである「使役」が含まれていることがわかる。
 「使役の訳し方」がポイント。
 使役の構造を理解していれば、「左右」が使役の対象(「だれに」させるのか)、「如~之」が使役の内容(「なにを」させるのか)であるとわかる。「焉」は断定の助詞。
・ここで、「お金を渡させた」と最後まで使役の内容として解釈している④と⑤に絞れる。
 もちろん「左右」が「側近」の意味だと知っていれば、「従者」という解釈で、なおさら④と⑤に絞りやすくなる。
・④と⑤を分けるのは、「如数」の解釈。
 「如」を「ごとク」と読んでいるからには、「~どおり」と訳している④のほうが自然な解釈であると傍線部だけでも察しがつくが、この点は文章全体を見れば、ハッキリと判断できる問題である。

【解答】

<書き下し>
吾左右をして数の如く銭を以て之れに畀(あた)へしむ




【例題】(文の意味)
問「理明矣、而或不達于事。識其大矣、而或不知其細」(理明かなるも、或いは事に達せず、其の大を識れるも、或いは其の細を知らず)の傍線部はどういう意味か。最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 理念としては分かっているが、最後まで仕事を成し遂げられない場合がある。
② 理念ははっきりしていても、その実践が時宜にかなっていない場合がある。
③ 理解の仕方が鮮明であっても、それが大事業の達成に至らない場合がある。
④ 物事の処理には明るいが、肝心なことには手の及ばない場合がある。
⑤ 道理には明らかでも、実際の事に通じていない場合がある。

【解説】
・傍線部には特別の句法・語法は含まれていない。
 選択肢を横に見渡してみれば、句法・語法は設問のポイントではないことがはっきりする。
・こんな場合は、傍線部の前後に対句はないかと検討してみること。
 対句があれば、その部分と比較してみると、答えが決まることが多い。
・この問題では、直後の一文がほぼ対句になっている。
 選択肢を見れば、「理」・「明」・「不達」・「事」をどう訳すかがポイントであるから、その解釈を対句の部分と比較する。
 「理」=「大」、「明」=「識」、「不達」=「不知」、「事」=「細」の関係に気づく。
 対句は、同内容か対立内容のどちらかになるのが普通。
 この場合は、「同内容」である。
 あとは、この関係に矛盾する選択肢を除外していけばよい。
 なお、漢文で出合う「理」は、たいてい「道理」の意味である。これはセンター試験の頻出事項の一つ。

【解答】

<書き下し>
理明かなるも、或いは事に達せず、其の大を識るも、或いは其の細を知らず
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、288頁~294頁)

攻略法17 設問別攻略法 語意を問う問題


攻略法17 設問別攻略法 語意を問う問題
・例年、最も正解率の低い問題に、漢字・熟語の意味や読みを問う問題がある。
 これは一言で言えば、語彙力の問題である。ぜひ語彙力のアップを図ることにコツをつかんでほしいという。

語彙問題解法マニュアル
①本書の「漢文重要語」(➡別冊参照)を覚える
 特に、「名詞」と「動詞」は意味が、「熟語・慣用表現」と「副詞」は読みがよく問われる
②問われている語の品詞を確認する
 同じ品詞のものを選ぶと正解になることが多い
 意味よりまずは、品詞をチェック!
③解釈に迷う語は、二字の熟語に置き換えてみよう
 その字を含む熟語を思いつくかぎり並べてみて、後は文脈に最適のものを選ぶこと
④熟語で出題された問題なら、その熟語の構造を検討する
 出題される熟語は、同内容(〇=◎)または対立内容(〇⇔×)であることが多い
⑤漢字には、読み方によって意味が異なるものがある。そこで、意味が問われている問題でも、読み方を考えよう
 「読み方の違い」が、つまりは「意味の違い」である問題も頻出している
⑥問題文中に同内容・対立内容の語があればチェックする
⑦(注)、とりわけ同内容・対立内容の語に(注)があれば注意する
 
【例題】(語の意味)
問(ア)「竟」・(イ)「乃」・(ウ)「安」の読み方の組み合わせとして最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①(ア)ついに (イ)すなはち (ウ)いづくんぞ
②(ア)すでに (イ)なほ   (ウ)いづくにか
③(ア)ついに (イ)なほ   (ウ)いづくにか
④(ア)すでに (イ)すなはち (ウ)いづくんぞ
⑤(ア)ついに (イ)なほ   (ウ)いづくんぞ

【解説と解答】
(ア)~(ウ)ともに副詞である。最近のセンター漢文の語意問題は、副詞の読みや意味をシンプルに問うものが増えているという。
 これは、絶対に落とせない問題。
 ①が正解



【例題】(語の意味)
問「悪不衷也」の「悪」と同じ意味の「悪」を含む熟語を、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
 (注)衷……中正。偏らず正しいこと。
①好悪 ②険悪 ③害悪 ④悪習 ⑤悪徳

【解説と解答】
傍線部の「悪」が「にくむ」という意味であることは、ふり仮名から分かる。
熟語での「悪」という字は「わるい」の意味なら「アク」と読み(「善悪」「悪人」等)、「にくむ」の意味なら「オ」と読む(「憎悪」「嫌悪」等)。
それぞれ①コウオ、②ケンアク、③ガイアク、④アクシュウ、⑤アクトクと読む。
①の読み方は少々迷うかもしれないが、「好悪」の熟語の構造を考えてみる。
 明らかに対立内容(〇⇔×)の「このむ」と「にくむ」だと分かる。「悪」は頻出語。
 ①が正解
<書き下し>「衷(ちゅう)ならざるを悪(にく)めばなり」

【例題】(語の意味)
問「変易」の「易」と同じ意味で用いられているのはどれか。最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①簡易 ②交易 ③容易 ④難易 ⑤平易

【解説と解答】
まずは熟語としての読み方に注目しよう。「変易」は「ヘンエキ」
①カンイ、②コウエキ、③ヨウイ、④ナンイ、⑤ヘイイ と読む。実はこれで正解が決まる。
「易」は、「かえる、かわる」の意味なら「エキ」と読み、「やさしい」の意味なら「イ」と読む。
ついでに熟語としての構造も検討してみよう。
 「変易」は同内容(〇≒◎)で、どちらも「かわる、かえる」の意味。
 ①・③・⑤は同内容で「やさしい」の意味。②は同内容で「かわる、かえる」の意味。
 ④は対立内容(〇⇔×)で「むずかしい」と「やさしい」の意味。
 熟語の構造を考慮して意味を考えてみれば、答えは明確になる。「易」も頻出語。
 だから、②が正解。



【例題】(語の意味)
問「道先王法言」の「道」と同じ意味で用いられている語として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
(注)先王法言……昔の聖王が遺(のこ)した、のっとるべき言葉。

①人道 ②報道 ③道理 ④道程 ⑤道具

【解説と解答】
実際のセンター試験でも正解率が低かった問題であるという。
でも、「道」が「いふ」という動詞になることを知っていれば簡単。
また、熟語の構造に注目すれば、②「報道」は、同内容(報[ほう]ず=道[い]う)であると分かる。ほかの選択肢はそれぞれニュアンスは異なるものの、すべて「みち」の意味である。
⇒同じ漢字でも、品詞が違うこともあるから、注意!
 だから、②が正解。
<書き下し>「先王の法言を道(い)ひて」
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、296頁~301頁)

【補足】頻出漢文重要語~副詞


副詞は読めれば意味が分かる。読み方を覚えよう。
☆印は頻出するものを列挙しておく。
甚 はなはダ
益 ますます
愈 いよいよ
唯 たダ
惟 たダ
但 たダ
只 たダ

独 ひとり
尽 ことごとク
尚 なホ
猶 なホ
先 まヅ
蓋 けだシ
寧 むしロ
果 はタシテ
自 みづかラ/おのづかラ
私 ひそかニ
具 つぶさニ
凡 およソ
数 しばしば
嘗 かつテ
曾 かつテ
固 もとヨリ
既 すでニ
已 すでニ
若 もシ
如 もシ
苟 いやしクモ
且 しばらク・かツ
方 まさニ
常 つねニ
与 ともニ
請 こフ
願 ねがハクハ
即 すなはチ/すぐに
便 すなはチ/さっそく
乃 すなはチ/①そこで ②やっと ③なんと
輒 すなはチ/①そのたびに ②すぐに
則 すなはチ/その場合は
又 また/そのうえ
復 また/もう一度
亦 また/やはり
終 つひニ/けっきょく
卒 つひニ/けっきょく
竟 つひニ/けっきょく
遂 つひニ/①けっきょく ②そのまま
(三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]、別冊)


≪漢文について~田中雄二『漢文早覚え速答法』より≫

2023-12-10 19:00:13 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪漢文について~田中雄二『漢文早覚え速答法』より≫
(2023年12月10日投稿)

【はじめに】


  漢文の勉強法について考える際に、現在、私の手元にある参考書として、次のものを挙げておいた。
〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]
〇幸重敬郎『漢文が読めるようになる』ベレ出版、2008年
〇小川環樹・西田太一郎『漢文入門』岩波全書、1957年[1994年版]

これらのうち、受験に特化し、効率的な勉強法を説いた参考書としては、次の2冊である。
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
〇三宅崇広ほか『きめる!センター 古文・漢文』学研プラス、1997年[2016年版]
 
 今回のブログでは、次の参考書について、紹介しておきたい。
〇田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]
 田中雄二先生の主張とともに、受験の参考となる問題も添えておいた。
・私大の過去問~『世説新語』より
・共通テスト試行テスト~劉基『郁離子』より

なるべく数多くの漢文の文章に触れて、漢文の句形や内容を知ってほしい。
(返り点は入力の都合上、省略した。白文および書き下し文から、返り点は推測してほしい。)



【田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』(学研プラス)はこちらから】
田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』(学研プラス)





田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版
【目次】
早覚え速答法Ⅰ
10の“いがよみ”公式
いがよみ1 『使役』の公式
      「ヲシテ」と読めば使役はできる
いがよみ2 『受身』の公式
      「る」「らる」、活用しっかり受身形
いがよみ3 『比較』の公式
      「シカズ」と読めるに「シクハナシ」
     『受身』と『比較』の「於(おい)テ」の識別法
いがよみ4 『反語』の公式
      反語はこれだけ、語尾の「ンヤ」
      難解大学を受ける人への注意
いがよみ5 『詠嘆』の公式
      詠嘆は反語の親戚、語尾の「ズヤ」
いがよみ6 『疑問』の公式
      疑問の語尾は連体形
いがよみ7 『限定』・『累加』の公式
      みんな忘れる語尾の「ノミ」
いがよみ8 『部分否定』の公式
      部分否定は「ズシモ」と「ハ」
いがよみ9 『仮定』・『二重否定』の公式
      「ズンバ」と「クンバ」でルンバを踊れ
      超難関校を受験する人に
いがよみ10 『抑揚』の公式
      「スラ」すら覚えよ、語尾の「ヲヤ」
早覚え速答法Ⅱ これだけ漢字91
      「重要漢字」は見て慣れるだけでよい!!
早覚え速答法Ⅲ 受験のウラわざ
 1 出題者のひっかけを見抜く法
   熟語による翻訳と説明・注をマークせよ
 2 3分間記憶事項
   漢詩も文学史もほとんど出ないが、コレだけは…
 3 早覚え速答法・総集編
   10分で読め、60分で暗唱できるコレだけ漢文

田中先生のFAQ
Q1 漢字かなまじりの書き下し文はどうするか?
Q2 送りがなはどうする? 「安くんぞ」か? 「安んぞ」か?
Q3 「置き字」は覚える必要がありますか?
Q4 『疑問』の末尾は「や」? それとも「か」?
Q5 動詞の読み方がわからない。「臣とす」? 「臣す」?
Q6 「亦た楽しからずや」は『反語』か『詠嘆』か?
Q7 「是以(ここをもって)」はなぜ「これをもって」と読まないのですか?




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・10の“いがよみ”公式
・漢文速習のコツ
・受験のウラわざ
・私大の過去問~『世説新語』より
・共通テスト試行テスト~劉基『郁離子』より






10の“いがよみ”公式


 目次をみてもわかるように、本書の特色は、10の“いがよみ”公式を挙げていることである。
 漢字以外の読み、「いがいのよみ」、略して“いがよみ”と著者は称している。
 漢文の学習は、句形や漢字を一生懸命暗記するより、漢字以外の読みをおさえることが大切。
 ここで紹介する10個をおさえれば、漢文も制したも同然であると、著者はいう。
(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]、9頁)

例えば、「いがよみ1 『使役』の公式 「ヲシテ」と読めば使役はできる」について
・「AをしてB(セ)しム」というのが『使役』の形。
 ここで大事なことは、決して「使」を「使(し)む」と読むことでなく、名詞に「ヲシテ」をつけることである。
 つまり、漢字以外のヨミ(「いがよみ」と著者はいう)の「ヲシテ」を忘れずに正確な場所につけなければならない。
 また、「せしム」と訓読するように、サ変動詞の未然形「せ」に「使(し)ム」がつくことも、しっかり覚えておくこと。間違えやすいポイントである。
・『使役』では、「使」「令」「教」「俾」の4つの漢字に慣れればよい。
<まとめ>
〇「使(し)」「令(れい)」「教(きょう)」「俾(ひ)」(シレイキョウヒ!)
→全部「しむ」と読む

『使役』のいがよみの公式
使(し)ム二+A(名詞)ヲシテ+B(動詞)[セ]一
【読み】AをしてB(せ)しむ
【意味】AにBさせる

【ポイント】
①Aは使(令・教・俾)のすぐ下
②「名詞」+「ヲシテ」→いがよみをつける
③「未然形」+「使(し)ム」

【注意すること】
①「未然形」がわかりにくいときは、動詞の漢字に現代語の「せる・させる」をつけて読むと未然形がわかり、訳の練習にもなって便利。
②「ず」に「しム」がつく場合は「ざらしム」。
③漢字かなまじりで書き下すときは、「しム」が助動詞なので「使(し)」はひらがな。
④文脈から『使役』の訓読を問うことはない。
(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]、10頁~11頁)

漢文速習のコツ


「漢文速習のコツ」として、著者は次のようにいう。 

漢文は時間がかかる。漢字だけだし、ひっくり返って読むのはしんどい。
でも試験では時間がない。そこで早く読むにはどうするか?
暗記しても効果がない。コトバなのだから慣れればよいのだ。
そしてコトバに慣れる最も効果的な方法は音読であるという。
声に出して読むことだ。

どの語学でも基本は音読である。
1目で見て、2頭で理解するより、
1目で見て、2口に出して、3耳で聞いて、4頭で理解する方が、効果は二倍である。

〇しかも音読は楽だ。力んで覚えるのとは正反対。口に出して唱えるだけで自然と身につく」。
身につかないと感じたら、早口で言えるまで数回唱えることをおすすめする。
 スラスラ早口で言えるようになったら、その時はすでに体が覚えている。
<合格川柳>早口で 言えば もう身についている

〇全部を音読する必要はない。
 本書『早覚え速答法』なら問題だけ。過去問の復習なら傍線部だけ。
 読みにくいからこそ、傍線を付けられて問題になるのだ。だから、そこだけ早口で音読すれば、すぐに口が慣れてしまう。
<合格川柳>早口で いえば身になる 傍線部

丸暗記の知識は試験で使えない。
 しかし音読で「身についた」知識は使える。
 試験で勝つには「知っている」では足りない。時間があれば「解ける」でもまだ足りない。
 「早く解ける」レベルでやっと合格できる。早く解けるための知識は「身についた」知識だ。
 体が覚えている知識だ。学んだことが体に染みつているからこそ、スター選手は瞬時に妙技をくりだす。
 基本知識が身についているからこそ、声を出した受験生は変化技に対応できる。
(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、
 付録『共通テスト漢文攻略マニュアル+私大&記述対策』、1991年[2020年版]、30頁~31頁)

受験のウラわざ(早覚え速答法III)


3早覚え速答法・総集編 10分で読め、60分で暗唱できるコレだけ漢文

「試験に出る句形と重要な漢字だけで書かれた漢文があったら、さぞ便利だろう」という「コレだけ漢文」を、著者は友人の中国人および先輩と協力して作成したという。
 10分でザッと読み、残りの50分音読すれば、キッと頭に入るだろう。
 合格を保証する呪文の漢文だという。
 その漢文の使い方は、勉強の進度によって変わるらしい。
①漢文の得意な人→いきなり漢文を読み、わからないところを書き下し文と現代語訳で確認する。
②漢文の不得意な人→まず書き下し文を音読し、現代語訳を頭に入れて、漢文を読み始める。

漢文の内容は、受験の本質を体得した漢文教師「楊朱進」(著者と友人の中国人および先輩の総合ペンネーム)とマジメな受験生との対話である。

考試之道        楊朱進
問君。
「若使己常向机。何爲不措筆而休?
 世界広大、必有適所。何不往而探其
 処乎?」
對曰「如不過考試、則必爲人所輕。学
及十有八年而見侮、非本意也。豈避考
試求安楽哉!將又、童蒙且励学、況青
年乎!是以不可不学。」
(中略)
曰「足矣。考試之道莫若誦文。考試問
訓読。非問漢語。一誦文輒熟訓。於是
勉而誦文。」


最後に次のように締めくくっている。
「使口唇憶全文、自通考試。嗟呼、奈此善方何。」

【書き下し文】(※新旧の字体に慣れてもらうため、旧字は新字に変更したという)
君に問ふ。
「若(なんぢ)己(おのれ)をして常に机に向はしむ。何為(なんす)れぞ筆を措(お)いて休まざる? 世界は広大、必ず適所有り。何ぞ往きて其処(そこ)を探らざるや?」と。
対へて曰く「如(も)し考試を過ぎざれば、則ち必ず人の軽んずる所と為る。学ぶこと十有八年に及び侮(あなど)らるるは、本意に非ざるなり。豈に考試を避けて安楽を求めんや! 将又(はたまた)、童蒙(どうもう)すら且つ学に励む、況んや青年をや! 是(ここ)を以て学ばざるべからず」と。
(中略)
曰く「足れり。考試の道は文を誦するに若(し)くは莫し。考試は訓読を問ひ、漢語を問ふに非ず。一たび文を誦すれば輒ち訓に熟す。是に於て勉めて文を誦せよ」と。

「口唇をして全文を憶せしむれば、自(おのづか)ら考試に通らん。嗟呼、此の善方を奈何せん」と。

【意味】
試験の道
君に質問する。
「おまえはいつも自分を机にむかわせているが、どうして筆をおいて休まないのだ。世の中は広く、(勉強なんかしなくても)必ず自分にぴったりした場所があるはずだ。どうしてそれを探しに行かないのだ。」
君は答える。
「もし試験に通らなければ絶対に人に軽蔑されてしまいます。18年間も勉強して侮辱されるのは私の本意ではありません。どうしてテストを避けて安楽を求めましょうか。私はトコトンやります。また、ガキンチョでさえ一生懸命勉強しているのですから、青年が勉学に励むのは当然です。だから勉強しないわけにはいかないのです。」
(中略)
「(それで)十分だ。試験の道は文章を音読するのが一番だ。試験では訓読(日本語で読めること)を聞き、中国語(の知識)を質問するのではない。一度文章を音読すればそのたびごとに読みに慣れる。だから一生懸命音読しなさい。」

唇に全文を覚えさせれば(スラスラ口をついてこの漢文が出てくるようになれば)自然と試験に合格するだろう。ああ、このすばらしい方法をどうしようか。」

(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、1991年[2020年版]、186頁~197頁)

私大の過去問~『世説新語』より


私大の過去問を解いてみよう。
次の文章を読んで後の問いに答えなさい。
 魏文帝嘗令東阿王七歩中作詩、不成当行法。応声(a)便
為詩曰、「煮豆持作羹、漉豉以為汁。(A)萁在釜下(b)然、(B)豆在釜
中泣。本自同根生、相煎何太急。」帝深有慙色。
 <『世説新語』より 明治大・文>

<注>
・東阿王…文帝の弟。
・羹…あつもの。スープ。
・豉(し)…みそ。
・萁(き)…豆がら。
問一 傍線(a)「便」、 (b)「然」の読みを記せ。ただし、現代かなづかいでよい。

問二 「当行法」の意味として適切なものを、次のなかから選び出して、その番号をマークせよ。
① 当然法廷であらそうことになる。
② 当然法律で裁かれることになる。
③ 当然しきたりに従うべきである。
④ 当然おきてに照らして処罰する。

問三 傍線部(A)「萁」、(B)「豆」はそれぞれ何をたとえたものか。文中の語で答えよ。

問四 「何太急」とはどういうことをいっているのか。わかりやすく説明せよ。

問五 「帝深有慙色」といっているが、どういう心境からであろうか。次のなかから適切なものを選び出して、その番号をマークせよ。
① 予想に反して、自分の目的が達せられなかったのを残念に思って
② 詩に託された弟の心情に感動し、自分の非をさとって
③ 才能のある弟を苦しめることは、自分に不利だと思って
④ 弟の文才が、自分よりもすぐれていることを痛感して

【書き下し文】
魏の文帝嘗て東阿王をして七歩の中(うち)に詩を作らしめ、成らずんば当に法を行うべし。声に応じて便ち詩を為(つく)りて曰く、「豆を煮て持て羹(こう)を作(な)し、豉(し)を漉(こ)して以て汁と為す。萁(き)は釜下(ふか)に在りて然(も)え、豆は釜中に在りて泣く。本同根より生ず、相煎(い)ること何ぞ太だ急なる」と。帝深く慙(は)ずる色有り。

【現代語訳】
かつて魏文帝は弟の東阿王に、七歩あるく間に詩を作り、できなければ法律どおりに処罰すると言った。王は兄の命を受けるとたちまち次のような詩を作って答えた。
豆を煮てスープを作る
味噌を漉して汁を作る
豆がらは釜の下で燃え、
豆は釜の中で泣く
これらは同じ根から生えたのに
どうして激しく責めるのか
文帝は恥じ入った。

【解答】
問一 (a)すなわ(ち)、 (b)も(え)
問二 ④
問三 (A)文帝、(B) 東阿王
問四 文帝が弟の東阿王に、七歩のうちに詩を作らないと処罰すると言ったことに対する東阿王の嘆き。
問五 ②

【解き方】
・東阿王の父は、三国志で有名な曹操。
 詩才にすぐれ武将としても活躍した東阿王は、曹操の死後、兄の文帝に警戒され、死ぬまで地方を転々とした。原文の内容は、魏の文帝が弟の東阿王をいたぶり、最後に許すというお話。

※共通テスト漢文が論理展開を問うのに対し、私大の問題文はこの例題のように、内容自体はわかりやすい説話である。
 だから、最初の行から普通に読んでよい。
 ただし、制限時間内に問題を解くためには、解ける順から片付けるのが合理的。

問五
 弟から「兄弟なのに私をいじめるのはむごい」と言われた
 ↓
 兄は恥じた=慙
 =自分がまちがっていた
 ②「(兄は)自分の非をさとって」

(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、
 付録『共通テスト漢文攻略マニュアル+私大&記述対策』、1991年[2020年版]、37頁~46頁)

共通テスト試行テスト~劉基『郁離子』より


「2018年度共通テスト試行テスト」として、次のような問題があるので、解いてみよう。

次の【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】は、いずれも「狙公(そこう)」(猿飼いの親方)と「狙(そ)」(猿)とのやりとりを描いたものである。
 【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】を読んで、後の問い(問1~5)に答えよ。
 なお、設問の都合で送り点・送り仮名を省いたところがある。

【文章Ⅰ】
猿飼いの親方が芧(とち)の実を分け与えるのに、「朝三つにして夕方四つにしよう。」といったところ、猿どもはみな怒った。「それでは朝四つにして夕方三つにしよう。」といったところ、猿どもはみな悦(よろこ)んだという。
(金谷治訳注『荘子』)

【文章Ⅱ】
楚有養狙以為(1)生者。楚人謂之狙公。旦日必部分衆狙
于庭、A使老狙率以之山中、求草木之実。賦什一以自奉。或
不給、則加鞭箠焉。群狙皆畏苦之、弗敢違也。一日、有小狙
謂衆狙曰、「B山之果、公所樹与。」「否也。天生也。」曰、「非公不得
而取与。」曰、「否也。皆得而取也。」曰、「然則吾何仮於彼而為之
役乎。」言未既、衆狙皆寤。其夕、相与伺狙公之寝、破柵毀柙、
取其(2)積、相携、而入于林中、不復帰。狙公卒餒而死。
 郁離子曰、「世有以術使民而無道揆者、其如狙公乎。C惟
其昏而未覚也。一旦有開之、其術窮矣。」
(劉基『郁離子』による)

<注1>楚―古代中国の国名の一つ。
<注2>旦日―明け方。
<注3>部分―グループごとに分ける。
<注4>賦什一―十分の一を徴収する。
<注5>自奉―自らの暮らしをまかなう。
<注6>鞭箠―むち。
<注7>郁離子―著者劉基の自称。
<注8>道揆―道理にかなった決まり。

問1 傍線部(1)「生」・(2)「積」の意味として最も適当なものを、次の各群の①~⑤のうちから、それぞれ一つずつ選べ。
(1)「生」
①往生
②生計
③生成
④畜生
⑤発生

(2)「積」
①積極
②積年
③積分
④蓄積
⑤容積

問2 傍線部A「使老狙率以之山中、求草木之実」の書き下し文として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。(入力の都合上、問題文の一部を変更)
①老狙をして率ゐて以て山中に之き、草木の実を求めしむ。
②老狙を使ひて率(おおむ)ね以て山中に之かしめ、草木の実を求む
③老狙をして率(とら)へしめて以て山中に之き、草木の実を求む
④使(も)し老狙率ゐて以て山中に之かば、草木の実を求む
⑤老狙をば率(とら)へて以て山中に之き、草木の実を求めしむ

問3 傍線部B「山之果、公所樹与」の書き下し文とその解釈との組合せとして最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①山の果は、公の樹(う)うる所か
 山の木の実は、猿飼いの親方が植えたものか
②山の果は、公の所の樹(き)か
 山の木の実は、猿飼いの親方の土地の木に生(な)ったのか
③山の果は、公の樹(う)ゑて与ふる所か
 山の木の実は、猿飼いの親方が植えて分け与えているものなのか
④山の果は、公の所に樹(う)うるか
山の木の実は、猿飼いの親方の土地に植えたものか
⑤山の果は、公の樹(う)うる所を与ふるか
 山の木の実は、猿飼いの親方が植えたものを分け与えたのか

問4 傍線部C「惟其昏而未覚也」の解釈として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
①ただ民たちが疎くてこれまで気付かなかっただけである
②ただ民たちがそれまでのやり方に満足していただけである
③ただ猿たちがそれまでのやり方に満足しなかっただけである
④ただ猿飼いの親方がそれまでのやり方のままにしただけである
⑤ただ猿飼いの親方が疎くて事態の変化にまだ気付いていなかっただけである

問5 次に掲げるのは、授業の中で【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】について話し合った生徒の会話である。これを読んで、後の(i)~(iii)の問いに答えよ。
生徒A 【文章Ⅰ】のエピソードは、有名な故事成語になっているね。
生徒B それって何だったかな。(X)というような意味になるんだっけ。
生徒C そうそう。もう一つの【文章Ⅱ】では、猿飼いの親方は散々な目に遭っているね。【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】とでは、何が違ったんだろう。
生徒A 【文章Ⅰ】では、猿飼いの親方は言葉で猿を操っているね。
生徒B 【文章Ⅱ】では、猿飼いの親方はむちで猿を従わせているよ。
生徒C 【文章Ⅰ】では、猿飼いの親方の言葉に猿が丸め込まれてしまうけど……。
生徒A 【文章Ⅱ】では、(Y)が運命の分かれ目だよね。これで猿飼いの親方と猿との関係が変わってしまった。
生徒B 【文章Ⅱ】の最後で郁離子は、(Z)と言っているよね。
生徒C だからこそ、【文章Ⅱ】の猿飼いの親方は、「其の術窮せん。」ということになったわけか。

(i) (X)に入る有名な故事成語の意味として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① おおよそ同じだが細かな違いがあること
② 朝に命令を下し、その日の夕方になるとそれを改めること
③ 二つの物事がくい違って、話のつじつまが合わないこと
④ 朝に指摘された過ちを夕方には改めること
⑤ 内容を改めないで口先だけでごまかすこと

(ii) (Y)に入る最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 猿飼いの親方がむちを打って猿をおどすようになったこと
② 猿飼いの親方が草木の実をすべて取るようになったこと
③ 小猿が猿たちに素朴な問いを投げかけたこと
④ 老猿が小猿に猿飼いの親方の素性を教えたこと
⑤ 老猿の指示で猿たちが林の中に逃げてしまったこと

(iii)  (Z)に入る最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 世の中には「術」によって民を使うばかりで、「道揆」に合うかを考えない猿飼いの親方のような者がいる
② 世の中には「術」をころころ変えて民を使い、「道揆」に沿わない猿飼いの親方のような者がいる
③ 世の中には「術」をめぐらせて民を使い、「道揆」を知らない民に反抗される猿飼いの親方のような者がいる
④ 世の中には「術」によって民を使おうとして、賞罰が「道揆」に合わない猿飼いの親方のような者がいる
⑤ 世の中には「術」で民をきびしく使い、民から「道揆」よりも多くをむさぼる猿飼いの親方のような者がいる

【書き下し文】
※音読のためルビと送りがなの歴史的かなづかいは今のかなづかいに変更したという。
楚に狙を養いて以て生を為す者有り。楚人之を狙公と謂う。旦日必ず衆狙を庭に部分して、
老狙をして率ひて以て山中に之き、草木の実を求めしむ。什の一を賦して以て自ら奉ず。或いは給せずんば、則ち鞭箠(べんすい)を加う。群狙(ぐんそ)皆畏れて之に苦しむも、敢えて違わざるなり。一日(じつ)、小狙有りて衆狙に謂いて曰わく、「山の果は、公の樹(う)うる所か。」「否(しから)ざるなり。天の生ずるなり。」と。曰わく、「公に非ずんば得て取らざるか。」と。曰わく、「否ざるなり。皆得て取るなり。」と。曰わく、「然らば則ち吾何ぞ彼に仮(か)りて之が役を為すか。」と。言未だ既(つ)きざるに、衆狙皆寤(さ)む。其の夕、相い与に狙公の寝(い)ぬるを伺い、柵を破り柙(おり)を毀(こぼ)ち、其の積を取り、相い携(たずさ)えて林中に入り、復た帰らず。狙公卒に餒(う)えて死す。
 郁離子(いくりし)曰わく、「世に術を以て民を使いて道揆(どうき)無き者有るは、其れ狙公のごときか。惟だ其れ昏(くら)くして未だ覚(さ)めざるなり。一旦之を開くこと有らば、其の術窮(きゅう)せん。」と。

※注
・惟だ其れ~—~のためなのだ。「惟其」は「其」以後に示される原因をあらわす熟語。
 「其」以前の内容を示す指示語ではないので、「其(そ)の」とは読まない。

【現代語訳】
楚にサル(狙)を飼って生計をたてている者がいた。楚人は彼を狙公(そこう)と呼んだ。彼は毎朝、庭でサルたちをグループに分け、年長のサルに統率させて山に入らせ、草や木の実を探させた。狙公はその十分の一を取り上げて自分の食い扶持(ぶち)とした。実を取れないサル
がいるとムチ打った。サルたちは恐れ、この仕打ちに苦しんでいたが反抗しようとはしなかった。ある日、小ザルがみんなに言った。
「山の果実は、狙公が植えたものか?」
「そうではない。天が生んだのだ。」
「狙公でなければ取ることはできないのか?」
「そうではない。誰でも取ることができる。」
「それならばどうして私はあの人の代わりに実を取るのか?」
小ザルの言葉が終わらない前に、サルたちはみんな気がついた。その夜、狙公が寝たのをみんなで確かめ、柵を破り檻をこわし、蓄えられた果実を取り、手に手を取って林に入り、二度と戻らなかった。その結果、狙公は飢え死にした。
 郁離子は言う。
「術を用いて不合理に民衆を使う者は、狙公と同じだ! 人々は知識がなくまだわからないだけなのだ。からくりがわかってしまえば、その術は使えなくなるだろう。」と。

※訳注
・仮―(仕事を)代わりに行う。
・役―「労≒役」→仕事
・復た~ず―二度と~しない
・其如~乎(それ~のごときか)―~にほかならない! 「乎(か)は疑問詞ではなく感嘆詞。
・昏―知識がない。熟語:昏迷(こんめい)
・開―知識を得る。熟語:開明

【解答】
問1 (1) ②  (2)④
問2 ①
問3 ①
問4 ①
問5 (i) ⑤ (ii)③  (iii)①

(田中雄二『漢文早覚え速答法 共通テスト対応版』学研プラス、
 付録『共通テスト漢文攻略マニュアル+私大&記述対策』、1991年[2020年版]、73頁~82頁)



≪故事成語~菊地隆雄『漢文必携』より≫

2023-12-10 18:30:30 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪故事成語~菊地隆雄『漢文必携』より≫
(2023年12月10日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、次の副教材から、故事成語についてみてゆきたい。
〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
 目次を参照してもらえばわかるように、「【資料編】5 故事成語」には、代表的な故事成語が列挙されている。
 そのうち、次の故事成語に関しては、出典漢文が引用してある。
・青は藍より出でて藍より青し<荀子>
・杞憂<列子>
・虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
・助長<孟子>
・舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>

数多くの故事成語に接して、漢文の句形やその意味を知ってほしい。
(返り点は入力の都合上、省略した。白文および書き下し文から、返り点は推測してほしい。)
 国語力とは、最終的には語彙力が基礎となるから。

〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]



【菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)はこちらから】
菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)







〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
【目次】
本書の特色・凡例
【基礎編】
1 漢文とは何か
2 漢語の構造
3 訓読のしかた
4 書き下し文
5 再読文字
6 返読文字
7 漢文特有の構造
8 漢文の読み方

【句形編】
1 単純な否定形・禁止形
2 部分否定形
3 二重否定形
4 疑問形
5 反語形
6 詠嘆形
7 使役形
8 受身形
9 仮定形
10 限定形
11 累加形
12 比較形
13 選択形
14 比況形
15 抑揚形
16 願望形
17 倒置形

【語彙編】
・<あ>悪・安~<わ>或
・「いフ」と読む字
・「つひニ」と読む字
・「すなはチ」と読む字
・「また」「まタ」と読む字
・繰り返し読む副詞
・所謂(いはゆる)など
・以是(これをもつて)など

【読解編】
1 構文から読解へ
2 読解へのステップ
 ①故事・寓話 ②漢詩 ③史伝 ④思想 ⑤文章

【資料編】
1 漢詩の修辞
2 史伝のエピソード
3 思想
4 文学
5 故事成語
6 漢文常識語





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


【故事成語】(出典漢文あり)
・青は藍より出でて藍より青し<荀子>
・杞憂<列子>
・虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
・助長<孟子>
・舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>

【故事成語】
【故事成語の意味】







故事成語


5故事成語

出典漢文あり
青は藍より出でて藍より青し<荀子>
 学不可以已。青取之於藍、而
青於藍、氷水為之、而寒於水。…
君子博学、而日参省乎己、則智
明而行無過矣。

【意味】
学問は途中でやめてはならない。青色は藍草からとるが、藍草よりも青く、氷は水からできるが、水よりも冷たい。…学問修養に志す人が広く学問を学び、日々何度も自分を反省すれば、知恵が確かなものになり、行いにも過ちがなくなる。

杞憂<列子>
杞国、有人憂天地崩墜、身亡
所寄、廃寝食者。又有憂彼之所
憂者。因往暁之曰、「天積気耳。…
奈何憂崩墜乎。」…其人舎然大
喜。

【意味】
杞の国に、天地が崩れ落ちたら、身の置き所がないと心配し、寝られもせず、食べ物も喉を通らない者がいた。さらにまた、その人が心配していることを心配する者がいた。そこで出かけていって、「天はたくさん集まった大気にすぎない。…天が崩れ落ちることを心配することなどない。」と言い聞かせた。…その人は心がすっきり晴れ晴れとして大いに喜んだ。

虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
不入虎穴、不得虎子。当今之
計、独有因夜以火攻虜、使彼不
知我多少。必大震怖、可殄尽也。

【意味】
(班超の言葉)虎のいる穴に入らなければ、虎の子を手に入れることはできない。今とりうる策は、夜の間に乗じ火を放って匈奴を攻め、敵に我らの人数が少ないことを悟らせないことしかない。そうすれば敵を大いに震え恐れさせて、きっと全滅させることができるだろう。

助長<孟子>
宋人有閔其苗之不長而揠
之者。茫茫然帰、謂其人曰、「今日
病矣。予助苗長矣」其子趨而往
視之、苗則槁矣。

【意味】
宋の国の人で、自分の田の苗が伸びないのを心配して苗のしんを引っ張った者がいた。すっかり疲れて帰ってきて、家の人に「今日は疲れてしまった。わたしは苗が伸びるのを助けてやったよ。」と言う。その子が(変に思って)走って田に行ってみると、苗はみな枯れてしまった。

舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>
楚人有渉江者。其剣自舟中
墜於水。遽刻其舟曰、「是吾剣之
所従墜。」舟止。従其所刻者、入水
求之。舟已行矣。而剣不行。求剣
若此、不亦惑乎。

【意味】
楚の国の人で、長江を渡る者がいた。その剣が舟の中から水に落ちた。あわててその舟ばたに目印をつけて言うことには、「ここが私の剣が落ちた所だ。」と。舟が止まった。その目印をつけた所から水中に入って、剣を探した。舟はすでに動いてしまっている。しかし、剣は動いていない。剣を探し求めるのに、このようにするのはなんと見当違いなことではないだろうか。






故事成語


青は藍より出でて藍より青し<荀子>
圧巻<直斎書録解題 >
羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く<楚辞>
石に漱(くちすす)ぎて流れに枕す<世説新語>
衣食足れば則ち栄辱を知る<管子>
一炊の夢<枕中記>
井の中の蛙、大海を知らず<荘子>
韋編三絶(いへんさんぜつ)<史記>
燕雀安くんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや<十八史略>
温故知新<論語>
蝸牛(かぎゅう)角上の争い<荘子>
臥薪嘗胆(がしんしょうたん)<十八史略>
苛政は虎よりも猛なり<礼記>
隔靴搔痒(かっかそうよう)<無門関>
瓜田に履(くつ)を納(い)れず<古楽府(こがふ)>
鼎(かなえ)の軽重(けいちょう)を問う<春秋左氏伝>
画竜(がりょう)点睛を欠く<歴代名画記>
汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)<柳宗元「陸文通先生墓表」>
換骨奪胎<冷斎夜話>
完璧<史記>
管鮑(かんぽう)の交わり<十八史略>
木に縁(よ)りて魚を求む<孟子>
杞憂<列子>
牛耳を執(と)る<春秋左氏伝>
九仭(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く<書経>
漁父(ぎょほ、ぎょふ)の利<戦国策>
鶏口と為るも牛後と為る無かれ<史記>
蛍雪の功<晋書>
鶏鳴狗盗<史記>
逆鱗に触れる<韓非子>
後世畏(おそ)るべし<論語>
呉越同舟<孫子>
虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
五十歩百歩<孟子>
塞翁(さいおう)が馬<淮南子(えなんじ)>
四面楚歌<史記>
助長<孟子>
水魚の交わり<三国志>
推敲<唐詩紀事>
杜撰<野客叢書>
守株(しゅしゅ)<韓非子>
人口に膾炙(かいしゃ)す<林嵩「周朴詩集序」>
多岐亡羊(たきぼうよう)<列子>
他山の石<詩経>
蛇足<戦国策>
知音(ちいん)<列子>
朝三暮四<列子>
登竜門<後漢書>
蟷螂(とうろう)の斧<韓詩外伝>
泣いて馬謖(ばしょく)を斬る<三国志>
鶏を割くに焉(いず)くんぞ牛刀を用いん<論語>
背水の陣<史記>
白眼視<晋書>
白眉<三国志>
舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>
刎頸(ふんけい)の交わり<史記>
墨守<戦国策>
先ず隗(かい)より始めよ<十八史略>
矛盾<韓非子>
孟母三遷<列女伝>
羊頭狗肉(くにく)<無門関>
洛陽の紙価貴し<晋書>
梁上(りょうじょう)の君子<後漢書>
和光同塵(どうじん)<老子>






【故事成語の意味】


青は藍より出でて藍より青し<荀子>
弟子が師よりも優れていること。
※「出藍(しゅつらん)の誉れ」ともいう。

圧巻<直斎書録解題 >
①多くの詩文中最も優れたもの。
②書物や催し物で最も優れた部分。
※科挙(=中国の官吏登用試験)で、最優秀の答案をほかの答案の上にのせたことから。

羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く<楚辞>
失敗に懲りて必要以上に警戒心を強めること。
※熱い吸い物でやけどをした者がそれに懲りて、冷たいなますでも息を吹きかけて食べたことから。

石に漱(くちすす)ぎて流れに枕す<世説新語>
負け惜しみが強いこと。
※晋の孫楚が「石に枕し流れに漱ぐ」と言うべきところを言い違え、「流れに枕するのは耳を洗うため、石に漱ぐのは歯を磨くためだ」とこじつけて言ったことから。

衣食足れば則ち栄辱を知る<管子>
人は生活が安定してみてはじめて、名誉や恥を知るようになること。
「衣食足りて礼節を知る」のもと。

一炊の夢<枕中記>
人生の栄華のはかないこと。
※盧生(ろせい)という青年が、邯鄲(かんたん)の町で黄梁(こうりょう=粟)の炊ける間に一生涯の夢を見たことから。
「邯鄲の夢」「黄梁一炊の夢」ともいう。

井の中の蛙、大海を知らず<荘子>
見聞・見識の狭いこと。ひとりよがり。

韋編三絶(いへんさんぜつ)<史記>
書物を繰り返し読むこと。
※孔子が『易経』を愛読してなめし革(=韋)のとじ紐が何度も切れたことから。


燕雀安くんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや<十八史略>
小人物には大人物の気持ちがわからないこと。
※燕や雀のような小鳥には白鳥のような大きな鳥の心は理解できないことから。

温故知新<論語>
昔のことを研究して、そこから新しい知識や道理を見いだすこと。

蝸牛(かぎゅう)角上の争い<荘子>
つまらない争い。狭い世界での争い。
※蝸牛(かたつむり)の角の右と左とにいる者が戦って死者を多く出したという寓話から。

臥薪嘗胆(がしんしょうたん)<十八史略>
①復讐のため長い間苦労すること。
②将来の成功のため長い間苦労すること。
※呉王の夫差が越に対する恨みを忘れないように薪(たきぎ)の上に寝たことと、越王の勾践が呉から受けた恥を忘れないように苦い胆(きも)を嘗めたことから。

苛政は虎よりも猛なり<礼記>
厳しく残酷な政治は虎よりも恐ろしいということ。

隔靴搔痒(かっかそうよう)<無門関>
はがゆいこと。
※靴の外側から、足のかゆいところをかくということから。

瓜田に履(くつ)を納(い)れず<古楽府(こがふ)>
人から疑われるような行動はしない方がよいということ。
※瓜の畑で靴が脱げても、無用な疑いを招かないように靴のひもを結んだりするなということから。
「李下(りか)に冠を正さず」と同じ。

鼎(かなえ)の軽重(けいちょう)を問う<春秋左氏伝>
①王位をねらう下心があること。
②人の実力を疑うこと。
※天下への野心がある楚の荘王が、周の定王に周の宝である鼎の重さを尋ねたことから。


画竜(がりょう)点睛を欠く<歴代名画記>
最後の肝心な仕上げを欠くこと。
※竜を描いて最後にひとみを書き入れないことから。

汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)<柳宗元「陸文通先生墓表」>
蔵書が多いこと。
※車に積んで牛に引かせると牛が汗まみれになるほど、また家の棟木に届くほど、書物が多いことから。

換骨奪胎<冷斎夜話>
他人の詩や文をもとにして自分の創意を加え、新しく作品を作ること。

完璧<史記>
完全で欠けたところがないこと。
※藺相如(りんしょうじょ)が璧(たま)を無傷のまま持ち帰ったことから、「璧を完(まっと)うす」ともいう。

管鮑(かんぽう)の交わり<十八史略>
利害を越えた親密な交友のこと。
※管仲(かんちゅう)と鮑叔(ほうしゅく)の交友から。

木に縁(よ)りて魚を求む<孟子>
手段を間違えては何事も不可能なこと。

杞憂<列子>
取り越し苦労。無用な心配。
上記に資料

牛耳を執(と)る<春秋左氏伝>
集団の中心になって、自由に人を動かすこと。
※諸侯が同盟を結ぶ際に、盟主が牛の耳を切り、その血を回し飲みしたことから、「牛耳る」ともいう。

九仭(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く<書経>
積み重ねてきた努力が、ちょっとした失敗一つでだめになってしまうこと。
以前のブログ、囲碁に関連して

漁父(ぎょほ、ぎょふ)の利<戦国策>
両者が争っている間に第三者が利益を得てしまうこと。
※蚌(ぼう、どぶがい)と鷸(いつ、しぎ)が争っている間に漁師が両方を捕まえたことから、「漁夫の利」ともいう

鶏口と為るも牛後と為る無かれ<史記>
大きな団体の末端につくより、小さな団体でもリーダーになるほうがよいこと。
※戦国時代の遊説家、蘇秦の言葉から。

蛍雪の功<晋書>
苦学して成果を上げること。
※車胤(しゃいん)が蛍の光で、孫康が雪明かりでそれぞれ読書し、後に成功したことから。

鶏鳴狗盗<史記>
つまらない技芸を持った人のこと。
※斉の孟嘗君(もうしょうくん)が、鶏の鳴きまねのうまい男と犬(=狗)のように巧みにしのび込み物を盗む男を利用して難を逃れたことから。

逆鱗に触れる<韓非子>
君主の怒りを買うこと。目上の人に厳しくしかられること。
※竜の喉元にある逆さに生えた鱗(うろこ)に触ると、竜が怒って人を殺すということから。

後世畏(おそ)るべし<論語>
若い人は努力次第で大いに進歩向上するので、その進歩はおそれ敬うべきものがあるということ。

呉越同舟<孫子>
仲の悪い者どうしが同じ場所にいること。
※仲の悪い呉の人と越の人が同じ舟に乗り合わせたことから。

虎穴に入らずんば虎子を得ず<後漢書>
危険を冒さなければ大きな成果を上げることはできないこと。
上記の資料

五十歩百歩<孟子>
ほとんど違いがないこと。
※戦場で五十歩逃げるのも百歩逃げるのも同じであることから。

塞翁(さいおう)が馬<淮南子(えなんじ)>
人生の幸不幸や吉凶は予測がつかないこと。
※国境付近に住む老人の馬が一度逃げたが、その後名馬を連れて戻ってきたこと、また彼の息子が落馬して骨折したが、そのおかげで戦争に行かずに済んだことから。
「人間(じんかん)万事塞翁が馬」ともいう。「禍福(かふく)は糾(あざな)える縄のごとし」と同じ。

四面楚歌<史記>
自分の周囲がみな敵であること。
※楚の項羽が垓下(がいか)で漢の劉邦(りゅうほう、=沛公)の軍に囲まれたとき、劉邦の軍が項羽の出身地である楚の国の歌を歌うのを聞いて、驚き悲しんだことから。

助長<孟子>
不要な助けをしたために、かえって悪い状態にしてしまうこと。
上記の資料

水魚の交わり<三国志>
極めて親密な付き合い、間柄。
※蜀の劉備が、諸葛亮(しょかつりょう)との交際についていった言葉から。

推敲<唐詩紀事>
詩や文を作るとき、字句を何度も練り直すこと。
※詩人の賈島(かとう)が自分の詩の一句に「推」と「敲」の字のどちらを使うかで迷ったことから。

杜撰<野客叢書>
いい加減なこと。間違いの多いこと。
※詩人の杜黙(ともく)が撰(せん)した(=作った)詩に、作詩上の規則に合わないものが多かったことから。

守株(しゅしゅ)<韓非子>
古い習慣にとらわれて融通のきかないこと。
※農夫が木の切り株に当たった兎を手に入れたため、もう一度同じことがあるのではないかと切り株の番をしたことから。「株(かぶ)を守る」ともいう。

人口に膾炙(かいしゃ)す<林嵩「周朴詩集序」>
世間に広く知れわたること。
※膾(=なます)と炙(=あぶり肉)は誰からも喜ばれることから。

多岐亡羊(たきぼうよう)<列子>
①学問の道が多方面にわたり、真理を見失うこと。
②方針が多くあり迷うこと。
※逃げた羊を探す者が、分かれ道(=岐)が多くて見つけられなかったことから。

他山の石<詩経>
どんなつまらないものでも自分を磨くのに役立つこと。
「他山の石以(もっ)て玉を攻(おさ)むべし」から

蛇足<戦国策>
よけいな付け足し。
※楚の国で蛇を早く描く競争をしたところ、早く描いた人が蛇に足を描き加えたために負けてしまったことから。

知音(ちいん)<列子>
自分のことをよく理解してくれる人、親友。
※春秋時代、鐘子期(しょうしき)が伯牙(はくが)の弾く琴の音色で彼の心境をよく理解したことから。

朝三暮四<列子>
①目先の違いにとらわれて、同じ結果になることに気がつかないこと。
②ごまかすこと。
※宋の狙公(そこう)という者が猿にえさをやるのに、朝三個夜四個と言ったら猿が怒ったが、朝四個夜三個と言ったら猿が喜んだから。

登竜門<後漢書>
立身出世のための難しい関門。
※黄河上流の竜門は急流の難所で、ここを登りきった鯉は竜になるという伝説があることから。

蟷螂(とうろう)の斧<韓詩外伝>
自分の力量を考えずに強敵に向かうこと。
※蟷螂(かまきり)が前足を挙げて馬車に立ち向かったことから。

泣いて馬謖(ばしょく)を斬る<三国志>
規律を守るために、私情を断ち切って処罰すること。
※蜀の諸葛亮が命令に背いて失敗した罪を責め、泣きながら部下の馬謖を斬ったことから。

鶏を割くに焉(いず)くんぞ牛刀を用いん<論語>
小さな事を処理するのに、大人物を起用したり大げさな方法をとったりする必要はない。
※鶏を料理するのに牛を解体するような大きな包丁を使う必要はないという孔子の言葉から。

背水の陣<史記>
決死の覚悟で事に当たること。
※韓信(かんしん)が、わざと川を背にして陣を張り、勝利を収めたことから。

白眼視<晋書>
人を冷たい目で見ること。
※阮籍(げんせき)が、好ましい人には青眼(=黒目)で、気に入らない俗人には白眼(=白目)を向けて応対したことから。

白眉<三国志>
多くの中で最も優れている人や物。
※蜀の国に五人の優れた兄弟がいて、最も優れていた長男の眉に白い毛があったことから。

舟に刻みて剣を求む<呂氏春秋>
時の推移に気づかず、融通がきかないこと。
上記の資料

刎頸(ふんけい)の交わり<史記>
非常に親密な交際。
※廉頗(れんぱ)と藺相如(りんしょうじょ)が頸(くび)を刎(は)ねられても悔いがないほどの親交を結んだことから。

墨守<戦国策>
自説を固く守って変えないこと。
※墨子が公輸盤(こうしゅばん)との模擬戦争で、九度の攻撃から城を守ったことから。

先ず隗(かい)より始めよ<十八史略>
①大きな事業を行うにはまず身近なことから始めるのがよい。
②何事も言い出した者から実行せよ。
※郭隗(かくかい)が「優れた人材を集めたいなら、まずこの私を優遇せよ」と燕の昭王に述べたことから。

矛盾<韓非子>
つじつまの合わないこと。
※矛と盾を売っている人がその両方を自慢したため、話のつじつまが合わなくなってしまったことから。

孟母三遷<列女伝>
教育には環境が大事ということ。
※孟子の母が子のために三度転居し学校の近くに住んだことから。

羊頭狗肉(くにく)<無門関>
見かけと内容が異なること。
※店頭に羊の頭を掲げながら、実際には狗(いぬ)の肉を売ることから。

洛陽の紙価貴(たか)し<晋書>
著書がもてはやされ、よく売れること。
※晋の左思(さし)の文章「三都賦(さんとのふ)」を洛陽の人々が先を争って書き写したために紙の値段が上がったことから。

梁上(りょうじょう)の君子<後漢書>
盗賊のこと。
※後漢の陳寔(ちんしょく)が梁(はり)の上の盗賊を指し、「梁上の君子」と言ったことから。

和光同塵(どうじん)<老子>
自分の知恵を包み隠して俗世間に同化していくこと。
※「其(そ)の光を和らげ、其の塵(ちり)を同(どう)ず」から。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、182頁~186頁)

≪漢文の文章~菊地隆雄『漢文必携』より≫

2023-12-03 18:00:07 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪漢文の文章~菊地隆雄『漢文必携』より≫
(2023年12月3日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、次の副教材から、漢文の文章をみてゆきたい。
〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
 目次を参照してもらえばわかるように、「【読解編】2 読解へのステップ、①故事・寓話 ②漢詩 ③史伝 ④思想 ⑤文章」に収められた文章である。

具体的な作品としては、次のものである。
①故事・寓話~五雑組・事部四
②漢詩~杜甫の「曲江」
③史伝~史記・刺客列伝 
④思想~孟子・梁恵王上 
⑤文章~王安石「読孟嘗君伝」

数多くの漢文の文章に接して、漢文の句形や内容を知ってほしい。
(返り点は入力の都合上、省略した。白文および書き下し文から、返り点は推測してほしい。)



【菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)はこちらから】
菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)







〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
【目次】
本書の特色・凡例
【基礎編】
1 漢文とは何か
2 漢語の構造
3 訓読のしかた
4 書き下し文
5 再読文字
6 返読文字
7 漢文特有の構造
8 漢文の読み方

【句形編】
1 単純な否定形・禁止形
2 部分否定形
3 二重否定形
4 疑問形
5 反語形
6 詠嘆形
7 使役形
8 受身形
9 仮定形
10 限定形
11 累加形
12 比較形
13 選択形
14 比況形
15 抑揚形
16 願望形
17 倒置形

【語彙編】
・<あ>悪・安~<わ>或
・「いフ」と読む字
・「つひニ」と読む字
・「すなはチ」と読む字
・「また」「まタ」と読む字
・繰り返し読む副詞
・所謂(いはゆる)など
・以是(これをもつて)など

【読解編】
1 構文から読解へ
2 読解へのステップ
 ①故事・寓話 ②漢詩 ③史伝 ④思想 ⑤文章

【資料編】
1 漢詩の修辞
2 史伝のエピソード
3 思想
4 文学
5 故事成語
6 漢文常識語





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


①故事・寓話~五雑組・事部四
②漢詩~杜甫の「曲江」
③史伝~史記・刺客列伝 
④思想~孟子・梁恵王上 
⑤文章~王安石「読孟嘗君伝」







①故事・寓話~五雑組・事部四


2 読解へのステップ(162頁~170頁)
〇さまざまなジャンルの漢文を、句形や語彙、さらに主な構文に注意して、実際に読み解いてみよう。

①故事・寓話
〇「故事」とは、後世の言葉の起源になっている昔の事柄や物語をいい、「寓話」は教訓を含んだ「たとえ話」をいう。
 寓話には、当時の社会や生活の実態が生き生きと描かれている。そうした意味では、寓話は第一級品の資料である。

〇次の話は、実は、仕官したいと願いながら、その野心を隠そうとする人々を風刺した寓話なのである。

 有窮書生。欲食饅頭。計無従得。
一日見市肆有列而鬻者。輒大叫
仆地。主人驚問。曰、「吾畏饅頭。」主人
曰、「安有是。」乃設饅頭百枚置空室
中、閉之伺於外、寂不聞声。穴壁窺
之、則食過半矣。亟開門詰其故。曰、
「吾今日見此、忽自不畏。」主人知其
詐、怒叱曰、「若尚有畏乎。」曰、「更畏臘
茶両椀爾。」
<五雑組(ござっそ)・事部四>


【語句】
・窮書生―貧しい学生。科挙の試験勉強中の若者。
・市肆(しし)―店。
・鬻(ひさ)グ―売る。
・亟(すみ)ヤカニ―さっと。
・臘茶(らふちゃ)―福建省の銘茶。

【書き下し文】
窮書生(きゅうしょせい)有り。饅頭を食(く)らはんと欲す。計るに従りて得る無し。一日(いちじつ)市肆に列(なら)べて鬻ぐ者有るを見る。輒ち大いに叫びて地に仆(たふ)る。主人驚いて問ふ。曰はく、「吾饅頭を畏る。」と。主人曰はく、「安くんぞ是れ有らん。」と。乃ち饅頭百枚を設けて空室の中に置き、之を閉ぢて外より伺へば、寂(せき)として声を聞かず。壁に穴して之を窺(うかが)へば、則ち食らふこと半ばを過ぐ。亟やかに門を開きて其の故を詰ふ。曰はく、「吾今日此を見るに、忽(たちま)ち自づから畏れず。」と。主人其の詐(いつは)りを知りて、怒り叱(しつ)して曰はく、「若(なんぢ)尚ほ畏るるもの有りや。」と。曰はく、「更に臘
茶(らふちゃ)両椀を畏るるのみ。」と。




②漢詩~杜甫の「曲江」


②漢詩
〇「漢詩」には、厳格な規則に従って作られる「近代詩」と、それ以外の「古体詩」がある。
 この二つの形式に共通しているのは、韻を踏むこと。
・七言の詩は、大きく四・三に切って読み、前半の四はさらに二・二に分けて読まれることが多い。そして、律詩は二句(聯)ワンセットで意味をとっている。この点に注意して読んでみよう。

 曲江  杜甫
一片花飛減却春
風飄万点正愁人
且看欲尽花経眼
莫厭傷多酒入脣
江上小堂巣翡翠
苑辺高塚臥麒麟
細推物理須行楽
何用浮名絆此身
 
【語句】
・減却―減らす。「却」は動詞の後に付けて、動作の完成を表す。
・万点―無数の花びら。
・且―まあまあとりあえず。
・傷多―多すぎる。「傷」は「過」の唐代口語的表現。
・苑辺―曲江の西南にあった離宮芙蓉(ふよう)苑の辺り。
・臥麒麟―麒麟の石像が倒れていること。石像は墓道の両側に立っていた。麒麟は想像上の動物。
・何用―反語。どうして必要があろう。
・浮名―はかない名声
・絆―つなぎとめる

【書き下し文】
一片花飛びて春を減却し
風は万点(ばんてん)を飄(ひるがへ)して正に人を愁(うれ)へしむ
且(しばら)く看ん尽きんと欲する花の眼を経るを
厭(いと)ふ莫かれ多きに傷(いた)む酒の脣(くちびる)に入るを
江上の小堂に翡翠巣くひ
苑辺の高塚(かうちょう)に麒麟臥(ぐわ)す
細かに物理を推すに須(すべか)らく行楽すべし
何ぞ用ひん浮名もて此の身を絆(ほだ)すを



③史伝~史記・刺客列伝


③史伝
〇「史伝」とは、歴史書や個人の伝記をいう。代表的なものは、各王朝の『正史』。
 中でも「本紀」と「列伝」が、その柱となる。
・史伝には小説に勝るとも劣らないドラマチックな場面が数多く見られる。
 この文章は、秦の宮殿における謁見の場面である。荊軻(けいか)と秦舞陽が、土産物を持って参上する。二人は燕の太子丹に遣わされた剣客だった。
 手に汗を握る「史記」の名場面の一つである。

秦王謂軻曰、「取舞陽所持地図。」
軻既取図奏之。秦王発図。図窮而
匕首見。因左手把秦王之袖、而右
手持匕首揕之。未至身。秦王驚自
引而起。袖絶。抜剣。剣長。操其室。時
惶急剣堅。故不可立抜。荊軻逐秦
王。秦王環柱而走。群臣皆愕。卒起
不意尽失其度。
<史記・刺客列伝>

【語句】
・秦王―のちの始皇帝。
・匕首(ひしゅ)―短剣。太子丹がやっと求めた名剣で、毒薬をしこんであり、少しでも切られれば立ちどころに死ぬというもの。
・揕(さ)ス―刺す。
・惶急(くわうきふ)―恐れあわてる。

【書き下し文】
秦王軻に謂ひて曰はく、「舞陽の持つ所の地図を取れ。」と。軻既に図を取りて之を奏す。秦王図を発(ひら)く。図窮(きは)まりて匕首(ひしゅ)見(あらは)る。因りて左手もて秦王の袖を把(と)り、右手もて匕首を持ちて之を揕(さ)す。未だ身に至らず。秦王驚き自ら引きて起つ。袖絶つ。剣を抜かんとす。剣長し。其の室を操(と)る。時に惶急して剣堅し。故に立ちどころに抜くべからず。荊軻秦王を逐(お)ふ。秦王柱を環(めぐ)りて走(に)ぐ。群臣皆愕(おどろ)く。卒(にはか)に意(おも)はざること起これば尽く其の度を失ふ。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、166頁~167頁)



④思想~孟子・梁恵王上


④思想
〇「思想」の主なものは、春秋・戦国時代に出そろっている。「諸子百家」といわれる思想家がその担い手で、中でも儒家がその代表格。
・人を説得するのは難しいものである。ただひたすら正論を吐いていれば、それでうまくいくというものではない。では儒家の代表である孟子は、どのようにして王を説得したのだろうか。

(孟子)曰、「有復於王者。曰、『吾力足
以挙百鈞、而不足以挙一羽。明足
以察秋毫之末、而不見輿薪。』則王
許之乎。」曰、「否。」「今、恩足以及禽獣、而
功不至於百姓者、独何与。然則一
羽之不挙、為不用力焉。輿薪之不
見、為不用明焉。百姓之不見保、為
不用恩焉。故王之不王、不為也。非
不能也。」
<孟子・梁恵王上>

【語句】
・復―申し上げる。
・百鈞―周代の1鈞(30斤)は、7.68キログラム。
・明―視力。
・秋毫之末―秋になって先の細くなった獣の毛の先端。一説に毛が抜け落ち秋になって生えかわった細い毛の先端ともいう。ここではきわめて細いものやわずかなもののたとえとして用いられている。
・輿薪―車にたくさん積みあげられた薪。
・百姓―庶民。人民。官についていない人々のこと。


【書き下し文】
(孟子)曰はく、「王に復す者有り。曰はく、『吾が力は以て百鈞(ひゃくきん)を挙ぐるに足るも、以て一羽を挙ぐるに足らず。明は以て秋毫の末を察するに足るも、輿薪(よしん)を見ず。』と。則ち王之を許すか。」と。曰はく、「否。」と。「今、恩は以て禽獣に及ぶに足るも、功は百姓(ひゃくせい)に至らざるは、独り何ぞや。然らば則ち一羽の挙がらざるは、力を用ひざるが為(ため)なり。輿薪の見えざるは、明を用ひざるが為なり。百姓の保んぜられざるは、恩を用ひざるが為なり。故に王の王たらざるは、為さざるなり。能はざるに非ざるなり。」と。

【注目すべき点】
※孟子をはじめとして、各地の王を説いて回る遊説家といわれる人々は、巧みな比喩を用いる。
 百鈞の重さのもの(きわめて重いもの)を持ち上げられるのに、1枚の羽を持ち上げられない、先の細い毛を見分けることができるのに、薪が見えない、こんなことを王はお認めになりますか?
 孟子の言葉は、具体的でわかりやすく、しかも反論の余地がない。
「Aができるのに(それより簡単な)Bができない(のは変だ)」=「Aができるなら、当然Bができるはず」という論理である。

・次にこの論理を応用して、本題に入る。
 王の恩愛が鳥や獣にまで及んでいるのに、人民に及ばないのは、いったいどうしてでしょうか。
 孟子の言葉は鋭く王に迫る。
 1枚の羽が挙がらないのは「力」を、薪が見えないのは「視力」を、人民が安心して生活できないのは「王の恩愛」を用いないからです。
※このたたみかける文章の文末「焉」は、「断定」の強い語気を表し、孟子の自信に満ちた様子がうかがえる。

 最後にとどめを刺す。
 王が真の王でないのは、やらないからです、できないからではありません。
※この孟子の言葉には、「対句的な表現」が何度も使われている。
 たたみかける切れ味鋭い孟子の舌鋒は、「対句」の働きによって生まれている。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、168頁~169頁)



⑤文章~王安石「読孟嘗君伝」


⑤文章
〇「文章」は単に「文」といい、修飾に重きをおいたもの(「駢文(べんぶん)」など)と、実(中身)に重きをおいたもの(「古文」など)がある。
 世に伝わる有名な話に独自の見解を示し、人々の目を開かせる、これも文章家の大切な役割である。いったん広まって定着した話に異を唱えることは、容易なことではないからである。
 秦につかまって殺されそうになった孟嘗君を救うために、狗盗(くとう)が貴重な皮衣を盗み出して孟嘗君出獄の賄賂とし、鶏鳴が未明に逃げる孟嘗君一行の関所通過に力を発揮する。誰もが知っている「鶏鳴狗盗」の話であるが、古文復興運動の雄、王安石はこれを真っ向から批判を加える。

 世皆称、「孟嘗君能得士。士以故
帰之。而卒頼其力、以脱於虎豹之
秦。」
 嗟乎、孟嘗君特鶏鳴狗盗之雄
耳。豈足以言得士。不然、擅斉之強、
得一士焉、宜可以南面而制秦。尚
何取鶏鳴狗盗之力哉。
 夫鶏鳴狗盗之出其門、此士之
所以不至也。
<王安石「読孟嘗君伝」>

【語句】
・孟嘗君―戦国時代の斉の公子(王族)。三千人もの食客を抱えていたといわれる。
・士―ここでは、単に大夫の次に位する階級上の士としてではなく、事柄を処理する能力のある優れた人物の意。
・鶏鳴狗盗―鶏の鳴きまねのうまい男と、犬のように巧みにしのび込み物を盗む男。二人とも孟嘗君の食客。
・南面―南を向いて座る支配者をいう。ここでは、「秦」を制圧するということなので、諸侯の長、つまり「覇者」を指す。

【書き下し文】
世皆称す、「孟嘗君は能く士を得たり。士故を以て之に帰す。而(しかう)して卒(つひ)に其の力に頼(よ)りて、以て虎豹(こへう)の秦より脱す。」と。
 嗟乎(ああ)、孟嘗君は特(た)だ鶏鳴狗盗の雄のみ。豈に以て士を得たりと言ふに足らんや。然(しか)らずんば、斉の強を擅(ほしいまま)にして、一士を得ば、宜(よろしく)以て南面して秦を制すべし。尚(な)ほ何ぞ鶏鳴狗盗の力を取らんや。
 夫れ鶏鳴狗盗の其の門に出づるは、此れ士の至らざりし所以なり。

※世の人々は、孟嘗君が優秀な人材を集めていたからこそ、その力を利用し、虎や豹のような恐ろしい秦から脱出することができたといいます。
 本当でしょうか?
 いいえ、孟嘗君は、「鶏鳴」や「狗盗」という取るに足らない食客のボスであるだけです。
※「嗟乎」という語から、「違う、違う、まるっきり見当はずれだ」という王安石の気持ちがうかがえるという。
 どうして優れた人物を得たなどといえましょう。もし本当に優れた人物を集めていたのであれば、斉の強大な力を使い、諸侯の覇者として秦を制圧できたことでしょう。正攻法で十分、「鶏鳴」や「狗盗」などの力は必要なかったというのである。
 そもそも、変な食客の活躍こそ、まともな人物が集まらなかった証(あかし)、と断じる。痛烈な批判である。

※本来「宜」は「よろシク―ベシ」と再読するが、「可シ」が「宜」の直後にあるので、「宜」の「ベシ」は省略して読まないという。
 また、ここでは、「宜」は、通常の「―するのがよい」の意ではなく、「―するだろう、―でしょう」という推量の意で用いられている。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、170頁~171頁)
 


≪漢文の句形~菊地隆雄『漢文必携』より≫

2023-11-26 19:00:09 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪漢文の句形~菊地隆雄『漢文必携』より≫
(2023年11月26日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、次の副教材から、漢文、その句形などについて考えてみたい。
〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
 目次を参照してもらえばわかるように、漢文の代表的な句形には、次のようなものがある。
1 単純な否定形・禁止形
2 部分否定形
3 二重否定形
4 疑問形
5 反語形
6 詠嘆形
7 使役形
8 受身形
9 仮定形
10 限定形
11 累加形
12 比較形
13 選択形
14 比況形
15 抑揚形
16 願望形
17 倒置形

中でも、解釈にかかわる、5 反語形、7 使役形などをみておく。





【菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)はこちらから】
菊地隆雄ほか『漢文必携』(桐原書店)







〇菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]
【目次】
本書の特色・凡例
【基礎編】
1 漢文とは何か
2 漢語の構造
3 訓読のしかた
4 書き下し文
5 再読文字
6 返読文字
7 漢文特有の構造
8 漢文の読み方

【句形編】
1 単純な否定形・禁止形
2 部分否定形
3 二重否定形
4 疑問形
5 反語形
6 詠嘆形
7 使役形
8 受身形
9 仮定形
10 限定形
11 累加形
12 比較形
13 選択形
14 比況形
15 抑揚形
16 願望形
17 倒置形

【語彙編】
・<あ>悪・安~<わ>或
・「いフ」と読む字
・「つひニ」と読む字
・「すなはチ」と読む字
・「また」「まタ」と読む字
・繰り返し読む副詞
・所謂(いはゆる)など
・以是(これをもつて)など

【読解編】
1 構文から読解へ
2 読解へのステップ
 ①故事・寓話 ②漢詩 ③史伝 ④思想 ⑤文章

【資料編】
1 漢詩の修辞
2 史伝のエピソード
3 思想
4 文学
5 故事成語
6 漢文常識語





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・漢文と日本文
・【音読のすすめ】
・再読文字
・5 反語形
・7 使役形
・読解編 1 構文から読解へ
・「構文から読解へ」の練習問題






漢文と日本文


〇漢文と日本文の違いについて
・漢文とそれに対応する日本文を並べてみよう。
 (漢文)夜行逢鬼
 (日本文)夜行きて鬼に逢ふ。
※「夜」と「行」は、二つの文章とも語順は同じである。
 しかし、「逢」と「鬼」は日本文では逆になっている。
 その上「行」に「きて」、「鬼」に「に」、「逢」に「ふ」が付いている。
 ここに挙げた日本文は漢文を訓読(漢文を日本の文語文で翻訳)したものである。
 二つの文章の違いは、そのまま漢文を日本文に変換する方法を教えてくれる。
 その方法を整理しておく。
①語順を日本文に合うように直す。
②助詞や助動詞に当たるものを補う。
③活用語は活用させる。

〇なぜ漢文を学ぶのか?
・「現代文」は「古文」や「漢文」をもとにして出来上がった文章である。
 現在の日本の文章は、「古文」や「漢文」の語彙や構文に支えられている。
 「漢文」は過去の遺物ではなく、現代の文章の基底に生きている。
・では、漢文はどのような過程を経て、日本に定着したのか?
 日本と中国の間には、早い時期から交渉があり、文字のなかった日本に漢字で書かれた漢文が入ってきた。その漢文は、当初は中国大陸あるいは朝鮮半島からの渡来人の助けを借りて、中国語として音読されていたと考えられている。それが訓読という方法の発明によって、日本文として多くの人々に読まれるようになっていった。
 やがて、中国の漢文を摂取するだけではなく、日本人自身が漢文を書くようになる。また、漢文の影響を受けた小説や随筆、日記なども漢字仮名交じりの文章で書き始められる。
 こうして、中国の漢文の内容、文体双方の影響を受けて、日本の文章が形づくられてきた。

〇漢文学習の目標
①日本の文化に大きな影響を与えた中国の漢文を読み解けるようになること
(『論語』『史記』など)
②日本人の書いた漢文を読み解けるようになること
(江戸の漢詩や歴史上の各種の資料など)
③漢文の影響を受けて書かれた日本の古典をよりよく読めるようになること
(『源氏物語』『枕草子』など)
④さらに、訓読体を基調とした近代の文章(明治の文章や法律の文章など)を自由自在に読みこなし、漢文の語彙や言い回しを消化し、現代文の表現に活かせるようになること
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、8頁~9頁)

〇漢語の構造
・漢文を読むためには、漢語の構造についての理解が不可欠である。
 それは語順に敏感になることが欠かせないからである。
・そこで、二字の漢語の構造を、日本文と語順が同じものと違うものに分けて、整理してみた。
※日本文と同じ語順のものはわかりやすいが、語順の違うものは間違えやすいので、注意しよう。

【日本文と同じ語順の構造】
①主語+述語
(ア)日暮(にちぼ)―日が(主) 暮れる(述)――日暮(ひくル)
(イ)地震(じしん)―地が(主) 震える(述)――地震(ちふるフ)
(ウ)心痛(しんつう)―心が(主) 痛む(述)――心痛(こころいたム)

②修飾語+被修飾語
(ア)高山(こうざん)―高い(修) 山(被)――高山(たかキやま)
(イ)蛇行(だこう)―蛇のように(修) 行く(被)――蛇行(へびノゴトクゆク)
(ウ)山積(さんせき)―山のように(修) 積む(被)――山積(やまノゴトクつム)

③並列
(ア)出入(しゅつにゅう)―出る 入る――出入(いヅルトいルト)
(イ)難易(なんい)―難しい 易しい――難易(かたシトやすシト)
(ウ)天地(てんち)――――――――――天地(てんトちト)


【日本文と異なる語順の構造】
④述語+補語
(ア)即位(そくい)―即く(述) 位に(補)――即位(つクくらゐニ)
(イ)登壇(とうだん)―登る(述) 壇に(補)――登壇(のぼルだんニ)
(ウ)就任(しゅうにん)―就く(述) 任に(補)――就任(つクにんニ)

⑤述語+目的語
(ア)読書(どくしょ)―読む(述) 書を(目)――読書(よムしょヲ)
(イ)飲酒(いんしゅ)―飲む(述) 酒を(目)――飲酒(のムさけヲ)
(ウ)行政(ぎょうせい)―行う(述) 政を(目)――行政(おこなフまつりごとヲ)

⑥否定語を上にもつ
(ア)無力(むりょく)―無い(否) 力が――無力(なシちから)
(イ)不屈(ふくつ)―不(否) 屈せ――不屈(ずくつセ)
(ウ)非凡(ひぼん)―非ず(否) 凡に――非凡(あらズぼんニ)

<修飾語>…主語・目的語・補語・述語の内容を詳しく説明する語。
      「被修飾語」はその働きを受ける語。
<補語>…行為の行われている場所や原因を表す語。
     「ニ・ト・ヨリ」などを送ることが多い。
<目的語>…行為の対象を示す語。
     「ヲ」を送ることが多い。

【音と訓】
・漢語の読みには、音(おん)と訓(くん)がある。
 音は中国から伝わった読みであり、訓はその漢語に相当する日本語を当てた読みである。
 漢文を読むときには、一字の漢語は訓で読み、熟語の漢語は音で読むのが原則である。
 音には、「呉音(南北朝時代の呉の地方の音)」~例 世間(セケン)
    「漢音(隋、唐時代の長安地方の音)」~例 中間(チュウカン)
    「唐宋音(宋代以降の音)」~例 椅子(イス)
・漢文を読むときは、呉音を用いることもあるが、原則として漢音を用いる。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、10頁~11頁)

〇漢文特有の構造
・漢文には語形変化がなく、語順によって語の品詞が確定し、文の意味が決定される。
 したがって、「漢文特有の構造」とは、つきつめて言えば、語順のことである。
 基本的には、「漢語の構造」の発展形である。
 ただ、二字の熟語の場合と異なり、動詞の次にその補足語(「目的語」や「補語」に相当するが、漢文では便宜上分けているだけで厳密には分類しがたい)を二つ持つ場合がある。
・そしてまた、前置詞に相当する置き字を持つこともある。
・「補足の関係」においては、「S+V」の後に「O」や「C」が配置される。
 つまり、漢文の語順は、英語の語順に似ている。
 この構造をつかむことが、漢文読解の基礎となる。

【補足の関係】
①主語+述語+目的語 
CBヲ(BヲC[ス])
 越王好勇。<韓非子・二柄> 
【書き下し文】越王勇を好む。
【意味】 越の王が勇士を好んだ。
※目的語の場合は、「ヲ」を付けて上に返る。まれに置き字を伴うことがある。

②主語+述語+(於・于・乎)補語
C(ス)於Bニ /C(ス)Bニ(BニC[ス])
(剣)墜於水。<呂氏春秋・慎大覧>
【書き下し文】(剣)水に墜(お)つ。
【意味】 (剣が)水に落ちた。
 
 (荘公)問其御。<淮南子・人間訓>
【書き下し文】(荘公)其の御(ぎょ)に問ふ。
【意味】 (荘公は)御者に尋ねた。

※補語の場合は「ニ・ト・ヨリ」などを付けて上に返る。
 補語の前には「於・于・乎」などの置き字がくることが多い。

③主語+述語+目的語+(於・于・乎)補語
C(ス)Aヲ於Bニ /C(ス)AヲBニ(AヲBニC[ス])
 紀昌学射於飛衛。<蒙求・紀昌貫虱>
【書き下し文】紀昌射を飛衛に学ぶ。
【意味】 紀昌は弓を飛衛に学んだ。 

 (涓人)買之五百金。<戦国策・燕策>
【書き下し文】(涓人[けんじん])之を五百金に買ふ。
【意味】 (王の側近は)これを五百金で買った。

※目的語と補語の組み合わせでは最も多く見られる形。補語の前に置き字がくることが多い。

④主語+述語+補語+目的語
C(ス)AニBヲ(AニBヲC[ス])
 操遣権書。<十八史略・東漢>
【書き下し文】操権に書を遣(おく)る。
【意味】 曹操が孫権に手紙を送った。
※述語に授与動詞(「与・贈・授・語・教・加」など)が用いられる場合には、この形になることが多い。

⑤主語+述語+補語+(於・于・乎)補語
C(ス)Aニ於Bニ /C(ス)AニBニ(AニBニC[ス])
 (臣)見将軍於此。<史記・項羽本紀>
【書き下し文】(臣)将軍に此に見(まみ)ゆ。
【意味】 (私は)ここで将軍にお会いしました。

 我乗舟江湖。<十八史略・春秋戦国>
【書き下し文】我舟に江湖に乗る。
【意味】 私は江湖で舟に乗った。
※補語を二つ伴う形で、それほど多くは見られないが、「ニ」を二度重ねる読み方に慣れること。
 下の補語は場所を示す語であることが多い。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、24頁~25頁)

【音読のすすめ】


・内容の理解はひとまずおき、漢文を見ながら先生の読みの後について復唱することを「素読(そどく)」という。
 江戸時代の寺子屋などでは、この方法によって入門期の漢文学習が行われていた。
 いや、江戸時代ばかりではない。明治になってからも、漢文の手ほどきはこの「素読」によって行われた。鷗外も漱石も、大きな声を出して、「素読」に励んだことだろう。そして、いつの間にか、漢文の読解力を身につけた。
 
・ところが、今では、この方法はすっかり忘れ去られてしまった。
 正しい読みを聞いて(リスニング)、音読する(リーディング)という方法は、すべての語学学習の基本であるはずである。もう一度「素読」を見直す必要がある。
 しかし、そうはいっても、いつも先生の側で「素読」をするという環境を作ることは難しい。
 でも、先生の代わりに訓点付きの漢文を用い、音読するというのであれば、いつでも、どこででも、一人でできる。そしてこうした音読は、「素読」と同じような効用があると考えてよい。

・漢文を句法や語法から攻めていくというのは、もちろん必要なことだが、それで最初から最後まで押し通すというのは難しいものである。漢文を読むには、音読によって漢文の口調に慣れるということがどうしても必要なのである。口調に慣れることによって、不自然な読みをチェックすることもできる。音読は文章をまるごと感じられる格好の方法といえる。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、15頁)

・音読のテキストとしては、初めは教科書が最適であろう。
 訓点も付いており、字も大きく、授業で習ってすでになじみの作品もあるかもしれない。
 慣れてきたら、まとまった作品にチャレンジしたいものである。
・高校の漢文の代表的な作品といえば、『論語』『唐詩選』『十八史略』ということになろうか。
 よく知られた作品だけでなく、内容も多岐にわたっている。
 その中から手に入れやすいものを、と考えると、『論語』と『唐詩選』が挙げられる。
 この二つの作品は、安価な文庫本で求められる。

・では、さっそく『論語』から始めてみよう。
 孔子とその弟子たちの言行録で短い文章が多く、また誰にでも知られた言葉がいくつもある。
 吾十有五にして学に志す。
 とか、
 朋(とも)有り遠方より来たる、亦楽しからずや。
などという言葉なら、一度は耳にしたことがあるだろう。
 また、どこから始めてもよいし、どこで終わってもよいという点でも、音読にはぴったりの本である。

・『唐詩選』は、文字どおり唐詩の選集であるが、本家の中国よりも日本で流行した本である。
 牀前看月光 疑是地上霜
 挙頭望山月 低頭思故郷 <李白「静夜思」>
(牀前(しやうぜん)月光を看る 疑ふらくは是れ地上の霜かと
 頭(かうべ)を挙げて山月を望み 頭を低(た)れて故郷を思ふ)

などという詩なら、口ずさんだことのある人も多いのではなかろうか。
 これも絶句や律詩の短いものから入ればよい。
 ふと口をついて出るぐらいになるまで、音読してみよう。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、172頁)

再読文字


漢文を日本語として訓読するときに二度読む文字がある。
 これは、二度読んだほうが日本語としてわかりやすいからである。
 そうした文字を再読文字という。

【再読文字を訓読するときの注意点】
①一度目の読みは返り点を無視して副詞的に読み、書き下し文では漢字にする。
②二度目の読みは返り点に従って助動詞や動詞として読み、書き下し文では平仮名にする。
③二度目の読みの送り仮名は再読文字の左下に付ける。



再読文字







猶[由]
盍[蓋]


〇再読文字、読み・意味、例文・書き下し文、例文訳を挙げておく。


 いまダ―[セ]ず
 まだ―しない。
 未聞好学者也。<論語・雍也>
 未だ学を好む者を聞かざるなり。
 (顔回以外に)まだ学問を好む者(がいること)を聞いていない。


 まさニ―[セ]ントす
 ―しようとする。―するつもりだ。
 将順江東下<資治通鑑・漢・献帝>
 将に江(かう)に順(したが)ひて東に下らんとす。
 (今にも)長江の流れに乗って東に下ろうとする。


 まさニ―[セ]ントす
 ―しようとする。―するつもりだ。
 高祖且至楚。<史記・淮陰侯列伝>
 高祖且に楚に至らんとす。
 高祖(劉邦)が(今にも)楚の国に到着しようとしている。


 まさニ―[ス]ベシ
 ―すべきである。きっと―のはずだ。
 及時当勉励<陶潜「雑詩」>
 時に及びて当に勉励すべし
 時機を逃さず努め励むべきである。


 まさニ―[ス]ベシ
 きっと―だろう。―すべきである。
 君自故郷来
 応知故郷事。<王維「雑詩」>
 君故郷より来たる
 応に故郷の事を知るべし。
 あなたは私の故郷からやって来た、きっと故郷のことを知っているだろう。


 よろシク―[ス]ベシ
 ―するのがよい。
 宜従仲兄之言。<近古史談>
 宜しく仲兄の言に従ふべし。
 二番目の兄の言うことに従うのがよい。


 すべかラク―[ス]ベシ
 ―する必要がある。―すべきである。
行楽須及春<李白「月下独酌」>
 行楽須らく春に及ぶべし
 遊び楽しむのはぜひともこの春のよい季節にすべきである。

猶[由]
 なホ―ノ([スル]ガ)ごとシ
 ちょうど―のようだ
 過猶不及<論語・先進>
 過ぎたるは猶ほ及ばざるがごとし。
 度を越すのはちょうど足りないようなものだ。

盍[蓋]
 なんゾ―[セ]ざル
 どうして―しないのか、―すればよい。
 盍各言爾志。<論語・公冶長>
 盍ぞ各(おのおの)爾(なんぢ)の志を言はざる。
 どうして各人が自分の考えを言わないのか、言えばよいのだ。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、20頁~21頁)

反語形


5反語形
反語形とは、疑問の形を借りて、その文とは反対の内容を強調する句形。
 疑問形と共通の表現と反語形にだけ用いる表現とがある。
 文末に多く使われる「ン(ヤ)」の「ン」は推量の助動詞
①疑問詞を用いる形(文末の助字との併用もある)
何ヲカ[焉]―[セ]ン(や)
【読み方】なにヲカ―[セ]ン(ヤ)
【意味】 何を―だろうか、いや、何も―ない。

 夫何憂何懼。<論語・顔淵>
 夫れ何をか憂(うれ)へ何をか懼(おそ)れん。
 そもそも何を心配し何を恐れることがあるだろうか、いや、何も心配したり恐れたりすることはない。

何ぞ[胡・奚・曷・寧・庸]―[セ]ン(ヤ)
【読み方】なんゾ―[セ]ン(ヤ)
【意味】 どうして―だろうか、いや、何も―ない。
 
不有佳作、何伸雅懐。<李白「春夜宴桃李園序」>
佳作有らずんば、何ぞ雅懐を伸べん。
よい詩ができなかったら、どうしてこの風雅な気持ちを表せようか、いや、表すことはできない。

安クンゾ[悪・焉・烏・寧]―[セ]ン(ヤ)
【読み方】いづクンゾ―[セ]ン(ヤ)
【意味】 どうして―だろうか、いや、何も―ない。
燕雀安知鴻鵠之志哉。<十八史略・秦>
燕雀安くんぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや
つばめやすずめのような小さな鳥にどうして白鳥のような大きな鳥の心が理解できようか、いや、できない。

安クニ(カ)[悪・何・焉]―[セ]ン(ヤ)
【読み方】いづクニ(カ)―[セ]ン(ヤ)
【意味】 どこに―だろうか、いや、どこにも―ない。

我安適帰矣。<十八史略・周>
我安くにか適帰(てきき)せん。
私はどこに身を寄せたらいいのだろうか、いや、どこにも寄せられない。

誰カ[孰]―[セ]ン(ヤ)
【読み方】たれカ―[セ]ン(ヤ)
【意味】 誰が―だろうか、いや、誰も―ない。

夫誰与王敵。<孟子・梁恵王上>
夫れ誰か王と敵せん。
そもそも誰が王に敵対しようか、いや、誰も敵対しない。

②疑問詞と他の語を組み合わせた形(文末の助字との併用もある)
何為レゾ[胡為・奚為] ―[セ]ン(ヤ)
【読み方】なんすレゾ―[セ]ン(ヤ)
【意味】 どうして―だろうか、いや、―ない。
何為無人。<晏子春秋>
何為れぞ人無からん。
どうして人がいないことがあろうか、いや、いないことはない(=いる)。

何以テ(カ)―[セ]ン(ヤ)
【読み方】なにヲもつテ(カ)―[セ]ン(ヤ)
【意味】 どうして―だろうか、いや、―ない。
不然、籍何以至此。<史記・項羽本紀>
然らずんば、籍何を以て此に至らん。
そうでなければ、私(項籍)がどうしてこうするまでに至ろうか、いや、至りはしない。

如―ヲ何セン(奈何・若何)
【読み方】―ヲいかんセン
【意味】―をどうしたらよいか、いや、どうしようもない。
虞兮虞兮奈若何<史記・項羽本紀>
虞や虞や若(なんぢ)を奈何(いかん)せん
虞よ虞よおまえをどうしたらよいか、いや、どうしようもない。

如何ゾ―[セ]ン(ヤ)
【読み方】いかんゾ―[セ]ン(ヤ)
【意味】どうして―だろうか、いや、―ない。
対此如何不涙垂<白居易「長恨歌」>
此れに対して如何(いかん)ぞ涙垂れざらん
これに対してどうして涙を流さずにいられようか、いや、流さずにはいられない。

③文末に疑問の助字を用いる形
―乎[セ]ン(邪・耶・也・哉・与・歟・乎哉)
【読み方】―[セ]ン(ヤ)
【意味】 ―だろうか、いや、―ない。
食少事煩、其能久乎。<十八史略・三国>
食少なく事煩(わづら)はし、其れ能く久しからんや。
食事は少なく仕事は多い、長生きできようか、いや、できない。

④反語形特有の形
豈―[セ]ン(ヤ)(哉・乎・邪)
【読み方】あニ―[セ]ン(ヤ)
【意味】 どうして―だろうか、いや、―ない。
是豈水之性哉。<孟子・告子上>
是れ豈に水の性ならんや。
これがどうして水の本性だろうか、いや、本性ではない。

敢ヘテ―不ランヤ―[セ](乎)
【読み方】あヘテ―[セ]ざランヤ
【意味】 どうして―しないことがあろうか、いや、きっと―する。
敢不避大将軍。<杜子春伝>
敢へて大将軍を避けざらんや。
どうして大将軍を避けないことがあろうか、いや、きっと避ける。

独リ―[セ]ン乎[哉]
【読み方】ひとリ―[セ]ンや
【意味】 どうして―だろうか、いや、―ない。
独畏廉将軍哉。<史記・廉頗藺相如列伝>
独り廉将軍を畏れんや。
どうして廉将軍を恐れようか、いや、恐れはしない。

何[胡・奚・曷]不ル―[セ]
【読み方】なんゾ―[セ]ざル
【意味】 どうして―しないのか、―すればよい。
何不秉燭遊<文選・古詩十九首(生年不満百)>
何ぞ燭を秉(と)りて遊ばざる
どうしてともし火を手にして遊ばないのか、遊べばよいのに。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、52頁~57頁)


句形練習問題2

句形練習問題~反語形


反語形に注意して、次の傍線部の漢字の読みを送り仮名も含めてすべて平仮名で書きかえなさい。
また、現代語訳の( )の中に適語を補って文を完成させなさい。

①君子去仁、悪乎成名。<論語・里仁>
(君子が仁の道を離れたなら、( )(君子の)名が成り立とうか、いや、成り立たない。)

②安能為之足。<戦国策・斉策>
(( )これ(=蛇)の足を描き加えることができようか、いや、できない。)

③豈望報乎。<史記・淮陰侯列伝>
(( )礼など望もうか、いや、望みはしない。)

④田園将蕪。胡不帰。<陶潜「帰去来辞」>
「(故郷の)田園は荒れ果てようとしている。( )帰らないのか、帰るべきである。」

⑤騅(すい)不逝兮可奈何<史記・項羽本紀>
(騅が行かないのを( )、いや、どうしようもない。)

⑥不仁者可与言哉。<孟子・離婁上>
(仁のない者は共に語ることが( )、いや、できない。)

⑦君子何患乎無兄弟也。<論語・顔淵>
(君子は( )兄弟のないことを心配しようか。)

解答
①いづくにか(どこに)
②いづくんぞ(どうして)
③あに・や(どうして)
④なんぞかへらざる(どうして)
⑤いかんす(どうしたらよいか)
⑥や(できようか)
⑦なんぞ(どうして)

【書き下し文】
①君子去仁、悪乎成名。<論語・里仁>
 君子仁を去りて、悪(いづ)くにか名を成さん。
②安能為之足。<戦国策・斉策>
 安んぞ能く之が足を為(つく)らんや。
③豈望報乎。<史記・淮陰侯列伝>
 豈に報いを望まんや。
④田園将蕪。胡不帰。<陶潜「帰去来辞」>
 田園将に蕪(あ)れなんとす。胡ぞ帰らざる。
⑤騅(すい)不逝兮可奈何<史記・項羽本紀>
 騅の逝(ゆ)かざる奈何(いかん)すべき
⑥不仁者可与言哉。<孟子・離婁上>
 不仁者(ふじんしゃ)は与に言ふべけんや。
⑦君子何患乎無兄弟也。<論語・顔淵>
 君子何ぞ兄弟(けいてい)無きを患(うれ)へんや。



応用問題~反語形



反語形に注意して、次の傍線部を現代語訳しなさい。
①豈不爾思。<論語・子罕>
②籍独不愧於心乎。<史記・項羽本紀>
③吾何為不予哉。<孟子・公孫丑下>
 ※不予ナリ…不愉快だ。
④敢不受教。<枕中記>
⑤割鶏、焉用牛刀。<論語・陽貨>
⑥孰能無惑。<韓愈・師説>
⑦対此、如何不涙垂。<白居易「長恨歌」>

解答
①豈に爾を思はざらんや。
 どうしてあなたを思わないだろうか、いや、思う。
②籍独り心に愧(は)ぢざらんや。
 どうして心に恥じないだろうか、いや、恥じないではいられない。
③吾何為れぞ不予ならんや。
 ※不予ナリ…不愉快だ。
 どうして不愉快であろうか、いや、不愉快ではない。
④敢へて教へを受けざらんや。
 どうして教えを受けないことがあろうか、いや、きっと受ける。
⑤鶏を割くに、焉くんぞ牛刀を用ひん。
 どうして牛を裂く刀などを用いようか、いや、用いない。
⑥孰か能く惑ひ無からん。
 誰が迷いがないことがあろうか、いや、誰しも迷いはある。
⑦此れに対して、如何ぞ涙垂れざらん。
 どうして涙を流さずにいられようか、いや、流さずにはいられない。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、60頁~61頁)


7使役形

使役形


使役形とは、誰か(何か)に何かを「させる」ことを表す句形。
 「―しム」と訓読し、「―させる」という意味を表す。
 使役の助字を用いる形、動詞に直接「シム」を送る形などがある。
①使役の助字を用いる形
使ム(令・教・遣)AヲシテB[セ]
【読み方】AヲシテB[セ]シム
【意味】 AにBさせる
※使役の助字は書き下し文では平仮名「しむ」に直す。
 Bが長くなったときは「Aに命じてBさせる」と訳すと文意がよく通じる。

 使大夫二人往先焉。<荘子・秋水>
 大夫二人(ににん)をして往き先んぜしむ。
 大夫二人に(王に)先立って行かせた。

【重要】「使・令・教・遣」の違い
・江戸時代の学者伊藤東涯によると、この四つの使役語の発生には次のような違いがある。
 使…人にものを言いつけてさせる。 
令…上から下に命令してさせる。
教…教え命じてさせる。(俗語に多い。)
遣…派遣してさせる。

②使役を暗示する動詞がある形
 命ジテAニB[セ]シム
 説キテAニB[セ]シム
【読み方】AニめいジテB[セ]シム
     AニときテB[セ]シム    
【意味】 Aに命じてBさせる
     Aを説得してBさせる

聊命故人書之。<陶潜「飲酒」序>
 聊(いささ)か故人に命じて之を書せしむ。
 ともかく親しい友人に命じてこれを書かせる。

説夫差赦越。<十八史略・春秋戦国(臥薪嘗胆)>
 夫差に説きて越を赦(ゆる)さしむ
 夫差を説得して越王を許させた。

③文脈から使役に読む場合
 ―[セ]シム
【読み方】―[セ]シム
【意味】 ―させる
(丈人)止子路宿。<論語・微子>
 (丈人(ぢやうじん))子路を止(とど)めて宿(しゅく)せしむ。
 (老人は)子路をとどめて(自分の)家に泊まらせた。
※述語(宿)の動作を行う者(子路)が文の主語(丈人)と一致せず、かつ主語が動作をさせる者の場合は使役に読む。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、62頁~63頁)

読解編 1 構文から読解へ


読解編
1 構文から読解へ(156頁~161頁)
〇句形や語彙の学習に加えて、構文(文の組み立て)を意識し、より的確な読解を目指す。
・漢文を読解するには、基本的な句形や常用される語彙に習熟することが必要。
 しかし、それだけでは十分ではない。
 平素の学習や読書を通して、語彙を増やし、歴史や地理などの漢文常識を身につけることも必要。
 また、訓読とは漢文を日本の文語文法を用いて翻訳する方法なので、文語文法にも通じていなければならない。
 漢文読解力とは、さまざまな分野の総合力なのである。

・そうした読解に結びつく行為の中でも、構文を意識し、文の構造をとらえることは、とりわけ大切。
 ここでは、6例の構文を取り上げてみた。
 頻繁に使われる語順の構文「C[ス]AヲBニ」、句形の区分に入りにくい構文として「A[スル]コトB」と「A[スル]ニ以テスBヲ」、文全体を見渡したときに必要な構文として、「有リ―[スル]者」と「A也、B/A者、B」、そして対句の構文である。
 もとより、これだけで漢文が読解できるわけではないが、こうした構文に注意することで、構文から読解へという読解の道筋ができる。

・漢文を一読して、こうした構文をすばやく見抜き、さらに返り点や送り仮名を省いても読めるようになれば、読解は新たな段階へと一歩前進できる。

1「C[ス]Aヲ(於・于・乎)Bニ」
【読み方】Aヲ(於・于・乎)BニC[ス]
【意味】 AをBにCする。

先納質於斉、以求見。<十八史略・春秋戦国(鶏鳴狗盗)>
先づ質(ち)を斉に納れ、以て見んことを求む。
(秦の王は)まず人質を斉に送ってから、会見することを求めた。

立祠江上、命曰胥山。<十八史略・春秋戦国(臥薪嘗胆)>
祠(し)を江上に立て、命(なづ)けて胥山(しょざん)と曰ふ。
祠(ほこら)を長江のほとりに立て、胥山と名づけた。

徙武北海上無人処。<十八史略・西漢>
武を北海の上(ほとり)人無き処に徙(うつ)す。
蘇武を北海のほとりの人がいないところに移した。

【解説】
述語となる漢字の下にある二つの名詞が、目的語(-を)と補語(…に)の役割をしている構文。
AとBは、長短さまざまな形で現れる。
・「先納質於斉~」は、置き字「於」がある形。
 「於」を挟んで、「…を…に」と送り仮名をつける。
・「立祠江上~」は、「於」がない形。
 名詞の切れ目を見きわめる必要がある。
・徙武北海上~」は、Bの部分が長く、一見Bがどこまで続いているのか、わかりにくい形。※また、述語に「与・贈・授・語・教・加」などの授与動詞がくると、「C(ス)AニBヲ」(AニBヲC[ス])の形になる場合が多い。

2「A[スル]コトB」
【読み方】A[スル]コトB
【意味】①Aするのが(は)B。
    ②(主にBに数量・程度がきた場合は)B(の数量・程度だけ)Aする。
漢軍及諸侯兵囲之数重。<史記・項羽本紀(四面楚歌)>
漢軍及び諸侯の兵之を囲むこと数重(ちょう)なり。
漢軍と(それに従う)諸侯の軍が(項羽の軍が立てこもる)これ(=垓下)を幾重にも取り囲んだ。

大丈夫之志於相、理則当然。<能改斎漫録>
大丈夫の相(しやう)に志すこと、理としては則ち当に然るべし。
一人前の立派な男が宰相を志すのは、道理として当然のことだ。

何断裂之余、尚有霊如是耶。<閲微草堂筆記>
何ぞ断裂の余(よ)、尚ほ霊なること是(か)くのごときもの有らんや。
どうして砕け残った磁器のかけらにこのような(火器を避ける)霊験があろうか、いや、ありはしない。

【解説】
・「A[スル]コトB」の「A[スル]」の用言の連体形である。
 それに「コト」を送り、その後に数量や程度・状況等を説明するBがくる。

・「漢軍及諸侯兵~」は、「囲ムコト之ヲ」と目的語を使ってAを作っている形。
 Bも「数量」一語なので比較的単純な形である。
・「大丈夫之志於相~」は、「志スコト於相ニ」と置き字+補語を伴うAであり、Bの部分は説明の文となっている。
・「何断裂之余~」は反語形の中に、「A[スル]コトB」がはめ込まれている形。
 訓点がなくても、この「A[スル]コトB」のさまざまなパターンが見抜けるようになるとよい。

3「A[スル]ニ以テスBヲ」
【読み方】A[スル]ニBヲ以テス
【意味】①AするのにBでする。BによってAする。
    ②BをAする。

策之不以其道。<韓愈「雑説」>
之を策(むち)うつに其の道を以てせず。
これ(=名馬)を鞭でうつのに名馬を扱うやり方でしない。

故賞以酒肉、而重之以辞。<柳宗元「送薛存義序」>
故(ことさら)に賞するに酒肉を以てして、之に重ぬるに辞を以てす。
わざわざ酒肉を与えてほめたたえ、それに加えて(送別の)言葉を贈る。

媼答以少年所教。<独異志>
媼(あう)答ふるに少年の教ふる所を以てす。
老婦人は少年が教えてくれたことを答えた。

【解説】
この構文では、「以」以下は手段方法や目的語を示す。
・「策之不以其道」では、「策ウツ」の手段方法が「其ノ道」で示されている。
・「故賞以酒肉~」では、「酒肉」が「賞スル」の手段方法、「辞」が「重ヌル」の手段方法として示されている。
・「媼答以少年所教」では、「答フル」ことの目的語が「少年ノ所教フル」として示されている。
・訳し方は、「BによってAする・BをAする」などと、「以」以下を先に訳した方がよい場合も多い。
 この構文は、一文の骨格となって用いられていることが多く、頻出の重要構文である。

4「有リ―[スル]者」
【読み方】―[スル]者有リ
【意味】―する者がいる。

古之君、有以千金使涓人求千里馬者。<十八史略・春秋戦国(先従隗始)>
古の君に、千金を以て涓人(けんじん)をして千里の馬を求めしむる者有り。
昔の君主に、千金で使用人に千里の馬を求めさせた者がいた。

有婦人哭於墓者而哀。<礼記・檀弓下>
婦人の墓に哭する者有りて哀(かな)しげなり。
墓の前で大声で泣いている婦人がいて、哀しそうであった。

杞国、有人憂天地崩墜、身亡所寄、廃寝食者。<列子・天瑞(杞憂)>
杞の国に、人の天地崩墜して、身の寄る所亡(な)きを憂へて、寝食を廃する者有り。
杞の国に、天地が崩れ落ちて、身の置き所がなくなるのを心配し、寝食ができなくなった者がいた。

【解説】
・文の構造がつかみにくい長い文でも、「有リ―[スル]者」の形があると、「―する者がいる」という単純な構文として読むことができる。 
・「―」にあたる部分は「者」にかかる修飾語であり、この箇所の述語になる語をしっかり押さえることが、ポイントである。
・「古之君、有以千金使涓人求~」は、「求めしむる」が述語。「~ニ有リ―[スル]者」の形。
 「~に」には、人や場所が入る。
・「有婦人哭~」は「哭」が述語。
 「有リ…ノ―[スル]者」の形で「―する…がいる」と訳すと間違えない。
・「杞国、有人憂天地~」は、「憂」「廃」と述語が二つある形。

5「A也(や)、B/A[ナル]者[ものハ](は)、B」
【読み方】Aや、B/Aは[ナルものハ]、B
【意味】①Aは、B。②Aすると、B。③Aするのは、B。

師也、過。商也不及。<論語・先進>
師や過ぎたり。商や及ばず。
師(=子張)は行き過ぎのところがある。商(=子夏)は不足しているところがある。

吾観呉之亡也、与秦之苻堅相類。<壮悔堂文集>
吾呉の亡ぶるを観るや、秦の苻堅と相類す。
私が呉の滅ぶ様子を観察してみると、秦の苻堅の場合と同じである。

彼汲汲於名者、猶汲汲於利也。<司馬光「諫院題名記」>
彼の名に汲汲たるは、猶ほ利に汲汲たるがごとし。
あの名声を得るために休まずつとめるのは、ちょうど利益のために休まずつとめるのと同じである。

【解説】
・この構文の用法は一つに限定できないが、まず主な用法として「―は」という主格の提示としてとらえるとよい。
・「師也、過。~」の「也」は「師」「商」を主格として提示している。
 これは「Aは、B」と訳す。
 Aに名詞がくることが多く、「也」は強調の働きを持つ。
・「吾観呉之亡也~」の「也」は「吾観ル呉之亡ブルヲ」を状況として提示している。
 これは「Aすると、B」と訳す。

・「者」も多く主格の提示として用いられる。「彼汲汲於名者~」では、「者」が結果を示すA「彼ノ汲汲タル於名ニ」の後に置かれ、Bでそれについて説明する形になっている。

6対句:対応する語の字数が等しく、二つの句の文法的構造が同じで、意味のうえでも関連を持つ表現をいう。

数人飲之不足、一人飲之者余。<戦国策・斉策>
数人之を飲まば足らず、一人之を飲まば余り有り。
数人でこれ(=酒)を飲むには足りないが、一人でこれ飲むには十分である。

学人者不至、舎己者未尽。<初潭集>
人に学ぶ者は至らず、己を舎(す)つる者は未だ尽くさず。
人に(頼って)学ぶ人は(道に)到達できず、自己を捨てた者は(道を)究めることができない。

人非不霊於鼠、制鼠不能於人而能於貍奴。貍奴非霊於人、鼠畏貍奴而不畏人。<胡祭酒集>
人鼠よりも霊ならざるに非ざるも、鼠を制すること人に能くせずして貍奴(りど)に能くす。貍奴人よりも霊なるに非ざるも、鼠貍奴を畏れて人を畏れず。
人は鼠よりもすぐれていないわけではないが、鼠を制することは人にはできず猫にはできる。猫は人よりもすぐれているわけではないが、鼠は猫を畏れて人を畏れない。

【解説】
・対句は本来韻文で発達した修辞法であるが、散文においても多用される。
 原則としては対応する語句の字数や構造が同じで、二句でワンセットとなる。
 ただし文章においてはその対応に多少のずれが生じることが少なくない。
・「数人飲之不足~」は、「不足」と「有余」の、「不」と「有」、「足」と「余」の「対」が分かれば読むことができる。
・「学人者不至~」も、後半を見ると「不至」に対して「未尽」となっている。
 「未」は再読文字であるが、役割は「不」と同じ否定語であり、「対」を成している。
・「人非不霊於鼠~」は相対する部分の字数や構造にずれがある。
 しかし、「鼠」を用いて「人」と「貍奴」を説明し、「人は…」「貍奴は…」という「対」を形成している。
 いわゆる「対句的な文章」である。
※文章の対句読解には、こうした「人非不霊於鼠~」のようなパターンに慣れることが欠かせない。
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、156頁~160頁、174頁)

「構文から読解へ」の練習問題


【「構文から読解へ」の練習問題】
〇現代語訳を参考にして、次の漢文を書き下し文に改めなさい。
(傍線部の返り点と送り仮名は省略してあります。)
①桓公毎質之鮑叔。<千百年眼>
 ※質…終止形は「質(ただ)す」
(これ(管仲の行うこと)を鮑叔に問いただした。)
②前人取之多、後人豈応復得。<清波雑志>
(先祖がこれ(名声)を多く獲得してしまえば、)
③老人笑而示以掌。<右台仙館筆記>
(老人は笑って手のひらを見せた。)
④非有異於向之黍稷者也。<焚書>
※黍稷(しょしょく)…キビ
(今まで食べていたキビと違ったところはありません。)
⑤公所病者陰也。日者陽也。<晏子春秋>
(あなた(=景公)が病気であるのは陰である。)
⑥遜者欲其謙退而如有所不能。敏者欲其進修而如有所不及。<金華黄先生文集>
(「敏」とは進んで学ぼうとして(それが)及ばないことがあるようだとすることである。)

【解答】
①之を鮑叔に質す。
②前人之を取ること多ければ、
③老人笑ひて示すに掌を以てす。
④向(さき)の黍稷に異なる者有るに非ざるなり。
⑤公の病む所は陰なり。(「公の病む所の者は陰なり。」も可)
⑥敏とは其の進修せんと欲して及ばざる所有るがごとくするなり。

【書き下し文・現代語訳】
①桓公毎(つね)に之を鮑叔に質す。
(桓公はいつもこれ(管仲の行うこと)を鮑叔に問いただした。)
②前人之を取ること多ければ、後人豈に応に復た得べけんや。
(先祖がこれ(名声)を多く獲得してしまえば、子孫はどうして再びそれを得ることができるでしょうか、いや、得ることはできません。)
③老人笑ひて示すに掌を以てす。
(老人は笑って手のひらを見せた。)
④向の黍稷に異なる者有るに非ざるなり。
(今まで食べていたキビと違ったところはありません。)
⑤公の病む所は陰なり。日は陽なり。
(あなた(=景公)が病気であるのは陰である。太陽は陽である。)
⑥遜とは其の謙退せんと欲して能はざる所有るがごとくするなり。敏とは其の進修せんと欲して及ばざる所有るがごとくするなり。
(「遜」とは謙虚であろうとして(それが)できていないことがあるようだとすることである。「敏」とは進んで学ぼうとして(それが)及ばないことがあるようだとすることである。)
(菊地隆雄ほか『漢文必携[四訂版]』桐原書店、1999年[2019年版]、156頁~161頁)