
ひょっこりと杖を突いて出て来られたきみちゃん、見るとセーターは着込んでいるものの震えている。真冬に戻ったこの気温にはいかにも寒そうだ。縁に腰かけてとはいかないおしゃべりに、ストーブの前に特等席が用意された。年回忌の相談だった。
足が弱ったとはいえ、畑に出るのを楽しむおばあちゃん。道路に背を向けて草むしりしていると、「おい、きみちゃん!尻が出てるぞ」と通りすがりのおっちゃんから声がかかるのはしょっちゅうのことだ。なぜわかるかと言えば、その場によく居合わすからに他ならない。すると、頬被りした顔を向けて立ち上がり、大きな笑い声をあげ、ゴムが伸びているんだとかなんとか言いながらごそごそしだすのが常なのだ。
できれば捕まりたくない、陽気なきみちゃんは呼びとめたら人を離さない。捕まえるのがうまいから、足を止めたらいけない。足早に去る、そのかわしようがみそだ。言ってみれば勝負所だ。悪い気がしたりもしてよく立ち話する私は、それがうまいのか下手なのか…。
この凍てついたような土では畑にも見放されているし、暇なのだ。そんな彼女のお相手はバトンタッチするに限る。しばらく間をおいて、「きみちゃんか~、おおきに~」と、負けないほど大きな声を先触れに、ゆっくり杖をついて婆様が登場。
これで一件落着、私はお役御免と相成り候。
ずいぶんたくさんの人と別れた。元気に長生きせんとね~、きみちゃん。