食道がんと闘う自然爺の活動

自然の中での暮らしに憧れ、自作の山小屋を起点に自然と戯れていたが、平成21年10月、食道・胃がんが見つかり手術。

『夢追人、恵曇(えとも)のイカ釣り』

2013年06月11日 18時00分04秒 | 趣味

仕立船のリスクは大きい。波浪注意報が出ない限り雨が降っても

少々波があっても出港する。場合によっては波浪注意報が出てなく船長の判断で

『今日は止めならんかね、海は荒れちょおで』と進言してくれる船頭がいる。何回か

お世話になった恵曇港の富士丸の船長がそうである。『折角来ただけん、行かい』

とだれかが言う。大体にそんな時には誰も反対はしないが弱い人は一抹の不安を

抱きながらの出発になる。

例え、船が出てから五分後に酔い帰港したとしても契約は成立するので返金され

なくても文句は言えない。しかし、気の毒がつて半額程度返してくれる良心的な船

頭も居る。船頭の進言を断わり出た日にはそれなりのお裁きを受けることになる。不

思議と船が走っている時は酔わない。沖に出るときマストにしがみついていないと振

り落されそうになったり荷物はゴロゴロ転げ回ったりする。船が波の頂上に乗り上げ

た次の瞬間、宙に浮いた船は下の支えがなくなりドスンと落ちる、その衝撃は尾底骨

を直撃する。魚は釣れない。船酔いしないため早目に食べた軽食や何もかも海の中

に、出るものがなくなり緑色の胃液が出てくる。陸が恋しい。

こんなにも人が苦しんでいるのに『行こう』と言った奴は船酔いを知らぬ男、『帰ろう

か』の言葉はなく、ひたすらに釣れない釣りに精を出している。誰だ、こんな奴を誘っ

たのはと恨めしく船辺にしがみつく。またゲロが出てくる。『もう、絶対に船には乗らん

ぞ』心に固く誓う。

さて、イカ釣りのきょうは快晴でベタ風の絶好のコンディション、一時間あまりの所でイ

カリを降す。船に弱いと言うとパラシュートアンカーを打ってくれる。船の揺れをとる為

に船の回りに落下傘のようなものを張りめぐらす。船頭は船の集魚灯に明かりをつけ

た。海面から七~八メーター下まで見える、下からはどんな風に見えるのだろか。

ポッカリと楕円の光をイカが見ているに違いない。

月夜の海は明かりが分散して少々の明かりでは効果がないそうだ。仕掛けは電気浮

木に似たゴンガラで明かりがつくようになっており、それを垂らし、糸を上下に動かし

みを感じたらスムースに巻き上げる。上げたらスミをかけられないようにソッと生簀に

れる。上手、下手はゴンガラの動かし方にあるのだろうが余り大きな差となっていな

ったような気がする。

皺の中まで日焼けした老船頭が使い古したまな板の上でイカ刺しを作ってくれる。不

揃いの素麺のようなイカ刺を山盛りにこさえて呉れる。透明に近い白で、甘みがあり口

の中で吸盤が吸いつくようだ。これは確かにうまいどんな信用出来る魚屋が『きょうのイ

カは生きがよく極上ですよ』と言っても、これに勝るものはない。

船頭は餌用のイカも切ってくれていた。

『これをつけて、置竿にしとけ鰺が釣れる』

イカを釣りながら傍らでは鰺釣りをする、結構、結構。

船辺の竿がカタカタと鳴った。急いでリールを巻く、強い引きだ。鰺に違いない。ゆっ

くりと確実に巻き上げる、三十センチは越す大鰺だ。刺身にもできる。船はイカと鰺の大

漁を土産に灯台の灯りを目指して動きだした。生きのいいイカはお手製の塩辛と洒落

てみょう。腹を開け丁寧に内臓を取り出す。墨袋を破らないように取り黄色の内臓だけを

分けておく。ゲソと切リ身の水をよく切りビンに入れ先程の内臓を破りかき混ぜる。

塩を入れ更にかきまぜ密封して冷蔵庫の中に入れて塩を回らせる。凡そ十日もすれば

自家製の塩辛の出来上がりだ。この間、辛抱よく待ち決して開けてはならない、と凝り性

のご仁の言葉。食べてみて未だ生臭みがあればもう少し時間をかける。


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