これにより泥出し作業ははかどり、ドンドンと前に進むことができる。穴は所々で曲
がったり上がったりしており便所まである。そこには外界であれば溜めグソと呼ば
れるマミのウンチがあった。また、何の目的で使用するのか判らない大きめの大広
間みたいなものがあり、まるで人間の住居を思わせる造りになっている。この辺りま
で掘ると息苦しい感じになり、外に出ると空気がとても新鮮に思え酸素の有り難さ
を味わうことができる。外の騒音は何一つ聞こえないから、スコップやクワで土を削
る音が響くだけである。
場所交代をしながらひたすらに掘った。穴が急に上がり細くなっている場所まで進
んできた。犬返しと言われるもので外敵が侵入してきたらここで防戦しょうというもの
で彼らの生活の知恵だ。もうすぐ目的の寝室にたどり着くことを予感させる。延べに
すると、かれこれ8〜9メータは掘った、もう6時間以上は経ち掘り出した泥は穴の周
りの雪を真砂土の色に変えてしまっている。
案の定、寝ているところは直ぐ近くで構造は犬返しと同じで多分、ここは尾根の真下
辺りになる。電池を照らし、奥を覗くと黒っぽい物が穴を塞いでいるようだ。ここで、
どうやって捕るか協議の結果、2人が何とか動ける程度の大きさの広場を確保する
ための拡張工事をすることが先決となり、最後の土方工事を進めた。寝屋の入り口
にいるマミを木に縛りつけたナイフを刺して捕ることにした。
相手は噛み付くかも知れないし鋭い爪で引っ搔くかもの、何をしてくるのか全く予測
できない。何もかも初めてのことで要領を得ないから自分たちの身の安全を第一に考
えた。尻にナイフを刺しても止めを刺せないからできるだけ心臓を狙いたいが、相手
も必死になって『フー』と威嚇の声を出したり、牙を向いたりしてくる。顔がこちらに向
かってくる度、後すざりしては又、前進する。
一進一退の攻防は人間に利があり、力尽きた先鋒は穴から引きずり出され土嚢袋に
入れられる。こうして一つ捕ると次の一匹が穴に蓋をする。中にはナイフに嚙み付く
奴、突然の珍入者を訝しがり寝呆け眼で覗く奴。寝屋は修羅場と化しているはずな
のに意外と静かで、淡々と捕られたら次の奴が穴の蓋にくることの繰り返しで、最終
的に5匹のマミを捕り、穴を出た。中は適温で空気の状態さえよければ快適だった
が雨も上がり冷え冷えとしており濡れた身体は直ぐ外温に近づいた。
マミをぶらさげて玄関に入ると妻が驚いた。マミを見て驚いたのではなく頭からつま
先までドロまみれになり沼からはい出したような汚い格好をしており、あきれて物が
言えないと言った感じ。子供が苦労して手に入れたものを母に見てもらいたくて自
慢そうに持ち帰ったが母は汚した衣服を見てそればかりを気にしている、その光景
だ。服、ズボンのポケットの中は勿論のこと、折り目から縫い目に至るまでドロ、ドロ
で服は風呂場で脱いだが、風呂場はそれだけでドロ場と化した。頭は何度も洗いや
っとザラザラがなくなった。この服やズボンを洗濯するのは大変だろうな。
マミの皮下脂肪は冬を越す為に、たっぷりと蓄えられており厚さ2〜3センチで身体
全体を覆っている。大きさは40センチ位で狸よりちよっと小ぶり。脂を切り離さないで
肉と一緒にして焼き肉にして食べる。珍味で通の人は希少価値がいことを知っ
ているので珍重される。
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