『逃ずた、逃げた』と叫ぶ、リーダーにつながり『どっちだ』、『ヌタ場の方だ』私は外
したことで動転した。暫くしてリーダーもチラッと見えた背中をめがけて撃ったが外
れた。それから10分ほどすると下の方から微かな銃声がした。
『捕れたぞ』の連絡は中継しながら私の所にも届いた。
『よかった、外した奴が捕れて』と安堵した。
山を降り、Tさんが撃った場所に集合する。遅れて私がそこに着いた。
『Tさん、ダンダン、どれ?』
『その向こう』
指差す所に行ってみると、そこには黒々とした大きな猪が倒れていた。
『これは、私が撃ったのと違う、もっと茶色だった。じゃあやっぱり外れたんだ』黙っ
ていれば誰にも判らないことだが、これがこのグループのいいところだった。もし、
これが他のグループと一緒にやっていたとしたら多分そうは言わなかったと思う。
勿論のこと、その夜の酒の肴は、撃ち取ったTさんではなく外した私だった。
銃を撃ち猪に命中した時は、速く走っていたとしてもドンぴしゃりのタイミングだか
ら、猪がそれほど速く走っているようには感じないものだが、今回のように外してし
まうと目の前には数秒もいないから、瞬間にフェードアウトしたように思える。猪は
とても速く走り動作は想像以上に機敏だということを、しっかり教育された。危ない
時は瞬発力を発揮し危機を乗り切るのだろうが、スタミナという点では体温上昇が
激しく持続性には欠けると思う。長らく猪猟をしている人の中には待ちをしていて
猪が1度も出てきたことがない人は沢山いることを考えれば、私には短期間に7度
の発射チャンスを与えられたからラッキーな方である。
猪猟で使う弾は散弾ではなく1発弾と言われるもので粒々がまとまって1発にして
あると思えばいい。猪は大物だから散弾を撃ち込んでも効き目はないから、威力
のある1発弾を使う。1発弾だから命中の確率は低くなり不安な人は、威力は減る
が数発入っている弾を使う人もいた。
不名誉なことではないが外れたのはこの1回と、後述する『夢追人、確率2/3』で
の1回、計2回だったことを明記しておく。
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