梅雨空の隙をついて
富士山を見にいってから
ちっとも母を外に連れ出し
ていなかった。
時の流れは思いの外はやい。
すでにもう秋、新しく開通した
高速道路を使えば八王子から箱根は
近いはず。紅葉とススキを目指した。
案の定、母は万全の支度で待っていた。
天気だって回復傾向の予想。
ワンパターン富士山観光からの脱却、
時間があれば富士山も回って中央道から
帰る拡大計画すら持ち出発する。
予定よりやや遅くなったのは
朝起きれなかった私のせい。
途中で事故渋滞があったけど、
そう遅くならずに箱根に着いた。
誰が悪いのか、箱根は深い霧の中。
着いていたのを忘れていた
フォグランプを点灯しながら
ゆっくりゆっくり進んだ。
やっとたどり着いた芦ノ湖は
半分霧の中だった。
意を決して山へと向かう。
大涌谷の黒たまごへと。
そこは冬の風が吹いていた。
私の行いが良いのか
奇跡的に晴れてきた。
1個で7年間寿命が延びる卵を
母は1個食べた。
「これで私は96歳まで寿命が延びた」
と言うのを聞いて、隣に座っていた
見ず知らずの人も微笑んでくれた。
僕は2個食べたし、去年も確か2個食べた。
少なく見積もって28年、
かなり長生きする事になった。
ススキをみて、さらに紅葉をみる。
以前より、少しの移動で疲れた様子が
容易に伺える様になった。
今回は車椅子から自動車への乗り降りが
とても大変そうになった。
細身なのに以外とお肉や揚げ物などが
好きな母だったけれど食は細くなり、
てんぷら蕎麦のてんぷらを
ほとんどを残していた。
4か月間、顔は見には行っても、
ちっとも連れ出していないのを反省した。
寿命は延びたのだからもっと
楽しませたいと思う。
人生の56年目の1年の半分が過ぎた。
時間はますます加速している。
色々な事がある。
先月、姉を見送った。
春に仕事からようやくリタイヤして、
旦那さんとの時間を楽しみ出した
矢先、夏に病に倒れた。
知識と経験は少しあっても
見守る事しかできなかった。
今月、幼馴染を亡くした。
1年余りの闘病の末、最後の最後まで
周りに多くを語らず、普通の生活を
心がけていた。
もっと何か出来たとも思うが、
家族が1番の力であることを
あらためて感じている。
ふと、自分の時間はあとどれ位
あるのかと考えるようになった。
自分はそうなってしまう事が
わかった時に何を思うのか。
迷惑をかけないとか、経済的な心配を
残さないとかはもちろんだけど、
結局は出来るだけ普通に同じ毎日を
送りたい、きっとそう思う。
それほどの心配もなく過ごしている
今の幸せを活かしてはいないけど、
頑張るとすぐに顎を出すから頑張り過ぎず
平坦に、もう少しだけやさしく人に接したい。
仕事の流儀なんて大それたものはないけど
そう思う。
亡くなった人の、またその人への思いは
いったいどうなっていくのだろうか。
時間を止めた人は、人の心の中で、
多くは遠く小さくなりはするだろうけれど、
きっと変化し残り続けると思う。
すべてを抱えるわけにはいかないから、
良い所を多く切り取って残す仕組みが
自然にみんなの中にあるのだと思う。
忙しくて、草臥れていると
普段なら心動くものにも動かされない。
逆に過敏に動いてしまったりもする。
本を読んだりはもちろんテレビを見るのも
少なく過ごしていた。
もう動き出すべきだ。
また立ち止まるだろうけど
動いた分だけ明るい所へ近くなると
信じている。
最近ふと観たテレビ番組と読んだ本。
「いつか、よろこびの涙に変わるように」
NHK プロフェッショナル 仕事の流儀 11/17
「ささらさや」
加納朋子 幻冬社文庫