内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

議論の空間の公共性を尊重するごく常識的な質問の作法

2023-12-02 23:59:59 | 雑感

 昨日の記事では質問を受ける側の態度を話題にしたが、研究発表に対して質問する側であるときに私が心掛けているのは、制限時間内で発表者が言い足りなかったと思っているであろうところを補えるような質問をすることである。論点を明確に一つに絞り、発表者が短時間で答えられるような形で質問する。そうするには、発表内容について質問する側にある程度の予備知識が必要になるが、その程度は発表が行われるシンポジウムや研究集会の専門性・レベル・参加者の顔ぶれ等によって可変的である。
 聴く側もすべて同じ分野の専門家である高度に専門的な学会での発表に対する質問は、当然それを前提とした質問に限られる。他方、聴衆が発表内容についてまったく予備知識がなく、自分もそうである場合は、いわゆる素朴な質問しかできない。それでも、発表者が答えに窮するような漠然とした質問は避ける。
 質問がより重要な役割を果たすのは、質問する自分が発表者と聴衆との中間に位置するような場合である。例えば、発表者はある分野の専門家であり、聴衆はその分野についてはまったくかほとんど知識がなく、自分はその分野の専門家ではないにしても、ある程度の知識があり、発表内容の要点は理解できる場合、質問によって発表者と聴衆と間の距離を縮め、両者の間に議論の空間を開く役割を果たすことができる。
 こういう質問は司会進行役が引き受けることが多いが、自分が上記のような立ち位置の場合、聴衆の一人であっても、議論の空間の「公共性」を尊重するのが質問のごく常識的な「作法」だと思っている。