市内
京都を襲う「大借金・人口減・観光壊滅」の三重苦
古都・文教都市に特有の制約も税収増の障壁に
人口減少数「日本一」
京都市の人口は140万720人(住民基本台帳、令和3年1月1日時点)。市区町村別では全国8位の規模である。しかし、前年比では8982人減となり、市区町村別で日本一の減少数となっている。 京都市の人口の推移は以下の通りだ。
京都市の人口が長期的に減少している背景にはいったい何があるのか。2010年以降の国勢調査の結果などをベースに検証してみよう。2020年調査では、前回(2015年)調査時よりも1万293人の減少(0.7%減)となっている。
やはり人口減の大きな理由は少子化だ。2010年次(2009年10月~2010年9月)の出生者数は1万1616人だったが、2020年次(2019年10月~2020年9月)の出生者数は9548人と1万人を割り込んでいる。
一方、京都市の転入・転出者の状況を見ると、過去10年間では直近の2020年度以外、1000~2000人前後の転入超過(出ていく人より入ってくる人の方が多い)が続いている。しかし、住宅購入を検討する若い子育て世代の転出が深刻だ。
広い意味での「子育て世代」である25-44歳世代の2020年1年間の人口減少数は8501人(30代は4444人)にもなる(住民基本台帳ベース)。
- 25-29歳 0.56%減
- 30-34歳 2.82%減
- 35-39歳 2.94%減
- 40-44歳 3.90%減
当然、子ども世代の人口も減少だ。子ども人口(0-14歳)は15万7505人から15万5062人へと2443人減少(1.56%減)となっている。
20代、30代の転出先で目立つのは大阪府(20代4733人 30代2335人)、東京都(20代2806人 30代996人)、滋賀県(20代1535人 30代1022人)だ。東京都や大阪府は就職や転勤が多いが、滋賀県はより良い住宅・生活環境を求めた移住・転居が多いとみられている。
子育て世代離れの原因は「地価高騰」
2010年代以降のインバウンド拡大で京都に外国人観光客があふれる中で、ホテルの建設ラッシュや外国人による町家などの不動産取得が続き、そのあおりを受けて市内の地価が上昇し、住宅取得価格が跳ね上がってしまった。市内の住宅地の公示価格はコロナ禍で2020年こそ0.4%のマイナスに転じたが、まだまだ高い。
2021年の住宅地の平均価格は中心5区(北区、上京区、左京区、中京区、下京区)は1㎡あたり28万1000円で、コロナ禍にもかかわらず前年よりも600円アップしている。残りの周辺6区は17万800円で、こちらは下落したとはいえわずか900円のマイナスだ。
そのため、子育て世代を中心に市内での住宅購入をあきらめ、京都市内よりも地価が安い滋賀県の大津市や草津市などへ転出する動きが続いているのだ。
過去の人口動態をベースにした京都市の推計では、2035年には人口が130万人を割り込むとなっている。
三重苦の2つ目、観光客数の減少について見ていこう。
年間観光客数が5600万人(日本人+外国人)を超えていた2015年をピークに、京都の観光客数は2018年まで微減し5275万人に。2019年は5352万人に盛り返したが、コロナ直撃で2020年は統計さえ集計できない状況となってしまった。(データ出典は京都市観光協会)
市は6月に再生に向けた「行財政改革計画案」を市民に示し、8月に「行財政改革計画」を公表した。市職員の人件費削減、バス・地下鉄の「敬老乗車証」をはじめとする行政サービスの見直し、民間保育園職員の給与に対する補助金の見直し、保育所や学童クラブの利用料の改訂などで2025年度までの5年間で1600億円の財政改善を目指すといったものだ。
市が6月から7月にかけて行った市民への意見募集には、なんと9013件もの意見が寄せられた。
- <計画を全体としてみると、具体的な内容に全く言及されておらず、評価に値しない>
- <市民サービスがどうなるのかを最初に述べた方が分かりやすい>
- <市長自らが失政を認めて、市民に事業見直しへの協力を求めなければいけない>
厳しい声が目につく。コロナ禍が長期化し、先行き不透明感が強まる一方という状況だけに、市の楽観的な改革計画に市民の多くは懐疑的なようだ。
京都の控えめ?な「成長戦略」
世界の京都は、はたしてこの三重苦を乗り越えられるだろうか。
問題は、3つの危機すべてがリンクしていることに加え、長期化・拡大化するコロナ禍の終息時期がまるで見通せないことだ。市の改革計画にしても、コロナ禍の影響がなくならない限り、実現可能性はなかなか見えてこない。
市の改革計画を見ると、前述の経費削減案に加え、次のような目標が掲げられている。いずれも2033年度において、
今後5年間で財政を見直し、再建の道筋をつけたうえで、成長戦略をということなのだろう。この成長戦略で一般財源収入を100億円以上増加させる、としている。目標の数値だけをみると随分と控えめな成長戦略に思えるが、これとて本当に実現可能かどうかは未知数である。
懸念されるのは、12年後のことよりも、すでに財政難から一部の行政サービス低下が指摘されている点だ。
実際、財政難から新規受け入れを停止した市営の保育所がある。中京区の聚楽保育所だ。民間に移管予定だったのだが、事業者が辞退したため、市は新規受け入れを中止するなど混乱が続いた。市は5月議会に同保育所の廃止条例案を上程し、6月1日に市議会で可決された。
市のホームページには「京都市聚楽保育所は、令和9年4月1日に廃止します。このため、新規入所児童の受入れは行いません」と記載されている。行政サービスの低下はすでに始まっているのである。
子育てに関しては、前述のように行財政改革計画の中に、民間保育園職員の給与に対する補助金の見直し、保育料や学童クラブの利用料の改定等が盛り込まれている。子育て世代の負担増が予想される内容だ。
人口流出に歯止めをかけられるか
今後、コロナ対策にかかる費用が膨れ上がる中、インバウンド経済の回復も見込めない。市民の反対が予想される改革案の実行にはある程度時間を要するものとみられ、財政立て直しは容易ではない。
そこに行政サービスの低下や市民負担増加という事態が加われば、財政再生団体に転落した夕張市のように人口流出に拍車がかかるおそれもあり、京都市が直面する「三重苦」は負のスパイラルに陥りかねない。
京都市は行財政計画の中で「若い世代に選ばれる千年都市」の実現を掲げているが、現実は厳しい。秋にも公表されるより具体的な改革案に、市民の注目が集まっている。
了
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