2008年秋に端を発した世界金融危機では「米国の象徴」とされたゼネラル・モーターズ(GM)が翌年破綻した。
100年近く世界最大の自動車メーカーとして君臨した巨人が米連邦破産法11条の適用申請に追い込まれ、
米政府などからの公的支援によって辛うじて生き延びたのだ。
20年の新型コロナウイルスショックで「米国のアイコン」が行き詰まるとすれば、それはボーイングだろう。
米国最大の製造業でもある同社は創業以来、最大のピンチを迎えている。
トランプ米大統領は17日の会見で「ボーイングを助けなければならない」と表明。
ボーイング側も自社と取引先の部品メーカー向けを含め600億ドル規模の資金支援を米政府や金融機関に要請していることを明らかにした。
ここまで追い詰められた要因は、満を持して投入した小型機「737MAX」が18年10月と19年3月に立て続けに墜落事故を起こし、
運行停止を余儀なくされたことだ。そこにコロナウイルスの感染拡大による空の旅客の急減が追い打ちをかけた。
航空需要の蒸発によって、「737MAXの安全問題を解決できれば、ボーイングのビジネスはすぐにも通常の軌道に戻る」
という楽観シナリオが日に日に怪しくなっているのだ。
人の命を預かる航空機メーカーにとって、安全の確保は1丁目1番地の使命だ。
そこがなぜおろそかになったのか。この問題を追及してきた米下院の交通インフラ委員会は今月、
中間報告をまとめ、5つの要因を指摘している。
1つは最大のライバルである欧エアバスの追い上げからくる焦りだ。
エアバスが格安航空会社(LCC)台頭の波に乗って小型機の「A320」とその派生機種の受注を伸ばし、
それに対抗する「MAX」の開発や生産をボーイングは急ぎに急いだという。
昨年3月23日付のニューヨーク・タイムズ紙は「エンジニアは通常の2倍のペースで設計作業を進めるよう求められた」と報じている。
開発日程やさらにはコストをむりやり圧縮したことが、事故の背景にあるのかもしれない。
2番目は「MCAS」と呼ばれる機体の姿勢を制御するソフトウエアの設計ミスだ。指摘が事実なら、
これが墜落事故の直接的な要因だろう。
3つ目は秘密主義の企業カルチャーだ。
顧客であるエアラインや運行乗務員、規制当局の米連邦航空局(FAA)に対して日ごろから何かと「隠し事」が多く、
先の「MCAS」についてはその存在そのものをなぜか航空会社に教えていなかったという。
そして4番目と5番目はFAAとボーイングの関係性に関わる問題だ。本来なら当局の"代理人"として安全性などをチェックしないといけない「AR」と呼ばれるボーイング社員が任務を適切に果たしていなかった。
加えていわゆる「規制の虜(とりこ)」現象が起こり、ボーイング側がFAAを実質的にコントロールしていた、
という認識も示した。
雷についての安全技術について、FAAの技術専門家とボーイングの意見が対立した際に、
FAA上層部がボーイング側に同調するケースもあった。
米国内だけでも10万人以上の雇用を抱え、旅客機のほか、軍用機やミサイル、
宇宙技術まで展開するボーイングの運命を市場の成り行きに任せ、
米政府が指をくわえてみているという展開は考えられない。
他方で巨額の自社株買いを実施し、株主還元に傾斜してきた同社への公的支援については民主党を中心に反対論も根強いようだ。
視界不良のボーイングのフライトがどんな軌跡を描くのか目を凝らしたい。
ボーイングを格下げ S&P
3/17(火) 11:00配信 時事通信
【ニューヨーク時事】格付け大手S&Pグローバル・レーティングは16日、
米航空機大手ボーイングの発行体格付けを「Aマイナス」から「トリプルB」に引き下げたと発表した。
旅客機「737MAX」の運航停止の長期化に加え、
新型コロナウイルスの感染拡大による旅行需要急減が受注の遅れにつながると見込まれることが理由。
一方
エアラインも緊急事態だ
業界団体「総額21兆円必要」
世界の航空、支援急務 欠航1日1万便超
新型コロナウイルスの感染拡大で航空需要が急減し、各国が関連産業の支援に乗り出している。
各国の入国制限で世界の1日当たりの欠航は1万便を超える。航空各社の資金繰りは悪化し、
業界団体からは総額約21兆円の資金支援が必要との見方も出ている。
需要の早期回復が見込めない中、政府がヒト、モノの移動の基盤となる空のインフラへの有効な支援を打ち出せるか。
時間との勝負になっている。(1面参照)
航空情報会社シリウムの集計によると、17日の世界の欠航便数(国際・国内合計)は1万2000便を超えた。
1万便を超えるのは、中国の新型コロナの感染拡大で中国の国内線を中心に欠航が急増した2月上旬以来だ。
足元では世界で1日あたり9万便程度が運航しうち国際線が約2万3000便だった。
国内線は中国での回復などでそれほど減っておらず、欠航全体の大部分が国際便のようだ。
国際線だけでみれば半数近くが欠航になっているとみられる。
入国禁止措置が各地に広がり、欠航急増で各社の旅客収入は一段と落ち込む。
航空会社は人件費などの固定費負担が重く、需要減で資金繰りが急速に悪化する。
国際航空運送協会(IATA)は17日のリポートで加盟各社の財務力を分析し、現金で費用がまかなえるのは「多くの場合で3カ月未満」と指摘。
政府の直接的な金融支援や融資保証などが必要と訴えた。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)などによると、IATAチーフエコノミストのブライアン・ピース氏は
最大2000億ドル(約21兆5000億円)規模の支援が必要との見解を示した。
米国では10以上の航空会社や運輸企業で構成する業界団体「エアラインズ・フォー・アメリカ」が16日、
米政府に助成金支給や融資保証で500億ドル以上の支援を要請。米議会が支援の協議を始めた。オーストラリア政府は航空会社に対し、
国内線のセキュリティー費用など7億1500万豪ドル(約450億円)を還付したり免除したりすることを決めている。
航空会社の間では体力格差もある。日本経済新聞が財務力を比べるため、
主要航空会社が売上高の何カ月分の手元資金を抱えているかをQUICK・ファクトセットのデータをもとに調べたところ、
アメリカン航空(1.1カ月)、ユナイテッド航空(1.4カ月)、デルタ航空(0.8カ月)の米大手3社が1カ月程度にとどまる。
なかでもアメリカンは12月末時点で約300億ドル(約3兆2千億円)の有利子負債を抱え、
デルタなどより財務力に不安がある。
調査会社IHSマークイットによると、アメリカンのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)保証料率(5年物)は約10%に上昇した。
100ドルの同社向け債権の返済を第三者に保証してもらうのに年10ドル必要な計算だ。
独ルフトハンザ(1.1カ月)や豪カンタス航空(1.1カ月)も手元の資金は潤沢ではない。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは17日、ルフトハンザや英格安航空会社(LCC)のイージージェットなど欧州各社の格付けを引き下げた。
一方、日本航空(JAL、2.6カ月)やマレーシアのLCCエアアジア(2.2カ月)などアジア勢は相対的に手元資金が多い。
それでもJALが200億円の社債を発行するなど、各社は資金の積み上げを急ぐ
世界の航空業界の従業員数はIATA加盟各社だけで170万人以上で経済への影響は大きい。
エールフランスKLMが2000人の削減を発表。
ノルウェーのLCC、ノルウェー・エアシャトルも従業員の9割にあたる7300人を一時解雇すると明らかにした。
IATAが5日に出した新型コロナの影響額は最大1130億ドルだった。
だが17日時点で「状況は予測のシナリオを超えている」とし、リーマン・ショック時を上回る可能性も高い。
需要回復が見通せない中で各社の資金流出は続く。
(井沢真志、松川文平、黄田和宏、ニューヨーク=高橋