「ANA史上最長定期便」は着陸も特別? 成田から半日超 メキシコシティ空港着陸の裏側
ANAが運航する成田~メキシコシティ線は、同社史上最長フライト時間の定期便です。実はこのメキシコシティ空港への着陸、パイロットにとっても高い技術が求められることがあるそう。その裏側を聞きました。
計器より実際の速度が約30km/h速い!?
2021年3月現在、ANA(全日空)で史上最長の距離を飛ぶ路線は、成田~メキシコシティ線です。
成田~メキシコシティ間の基本マイルは7003マイル(約1万1270km)。2021年3月時点で、時刻表上の所要時間は成田からメキシコシティが12時間15分、メキシコシティから成田が14時間35分です。
しかもこの路線、ANAのパイロットの話では、メキシコシティ国際空港への着陸進入に、高い技術が求められるそうです。これは、同空港の立地条件に関係しているとのこと。
「メキシコシティ空港は富士山5合目に匹敵する、7316フィート(約2230m)にあります。標高が高い空港では、他の条件がすべて同じ場合、コックピットの計器に表示される速度が同じであっても、実際に飛行機が飛んでいる速度は、標高が低い空港と比べて速くなります。これは標高が高いほど空気密度が低いためです。メキシコシティへの着陸では、コックピットの速度計が155kt(約287km/h)を指していても、実際に飛行機が飛んでいる速度は170kt(約315km/h)になるのです」(ANAのパイロット)
この「実際に飛行機が飛んでいる速度」のことを、パイロットのあいだでは「真対気速度(TAS=True Air Speed)」と呼ぶそうですが、真対気速度が速いと、進入にどのような影響が出るのでしょうか。
真対気速度が速いメキシコシティ どのような影響が?
ANAのパイロットの話では、標高が高いメキシコシティ国際空港への着陸進入は「真対気速度が速いことで旋回半径が大きくなる、着陸の降下率が大きくなるといった影響がある」「舵の効きが鈍くなる、スラストレバーを動かした際のエンジンの追従が遅くなる」ということでした。
この空港は、北東から南西方向に2本の滑走路が並ぶレイアウトで、着陸時は南側にある長い方の3900m(南西側05R/北東側23L)滑走路に降りることが多いといいます。同氏によると、とくに南西側の「05R」に「ILS(計器進入方式)」という着陸支援装置を用いて進入するケースは、高い技術が求められるそうです。
「ILSを用いてメキシコシティ05R滑走路に着陸進入するケースでは、周辺地形の影響で110度の鋭角ターンをし、機体をILSの最終進入コースに乗せていきます。このとき、旋回半径が大きくなることを考えて、機体をコントロールすることが求められます。また、多くの空港で、ILSでの進入は3度の降下角で降りていくことが標準的です。これに対しこの、メキシコシティ05R滑走路へのILS進入では、障害物のために3.1度と、やや急な降下角となるのです。同空港は気流の悪いことが多いなか、高い真対気速度で、この降下角を降りるのは技術が求められます」(ANAのパイロット)。
ロングフライトに加え、着陸進入時のスピード、降下角、旋回――このような特殊な環境にあるメキシコシティ便に機長として乗務するには、十分な知識を有することが求められるという話で、口述審査に合格することが必要だそうです。
【了】