au、表向き値下げでも「面従腹背」の衝撃実態
「面従腹背だ」――。
KDDIの携帯販売代理店、auショップを営むある販売代理店の幹部は、KDDI(ブランド名「au」)が3月23日から開始する格安の新料金プランpovo(ポヴォ。月間のデータ通信20GBまでで税別2480円、通話は別途)を、そう切り捨てた。
この幹部は、「表向きは政府の要請に従って安いpovoを出したが、あれはオンライン受付専用で、誰でも気軽に入れるわけではない」と指摘したうえで、「実は裏ではわれわれショップに対し、料金が高い大容量プランにとにかく加入させろ、という指示を強めてきている。利用者のことなど考えていないのがKDDIの本心だ」と話す。
衝撃的なのが、KDDIが直近に示した代理店施策の内容だ。同社は3カ月ごとに施策表を更新し、auショップを営む代理店に送っている。東洋経済はこの内部資料を入手した。
最新の施策表は「2021年3月~5月」を成績測定期間としている。そこに記されたインセンティブ評価はショップに対し、総務省の利用実態調査とはかけ離れた高い割合で客を大容量プランに加入させることを「厳命」したに等しいものだった。
実態と乖離したインセンティブ
KDDIではauショップについてdivision制度を採用しており、成績に応じてdivision1とdivision2に分けられる。いわば1軍と2軍のようなもので、成績不振が続けばdivision1からdivision2に降格する、という仕組みだ。代理店がもらえるインセンティブは運営するショップが上位に行くほど上がり、下位に行くほど下がる。
divison1は1865店が立地別に16区分のグループに分けられている(1区分当たり平均117店舗)。KDDIはここでショップ同士を激しく競わせている。
同社はauショップの成績評価として、「総合指標ポイント」というものを用いている。携帯電話の通信契約だけでなく、KDDIが「ライフデザイン商材」と称する電気や都市ガス、自転車の損害保険までが評価対象で、各項目の合計点を比較するため「総合指標」と銘打っているようだ。総合指標ポイントに紐づくKDDIからのインセンティブは代理店にとって重要な収益源となる。
この総合指標ポイントの評価項目の1つが単価の高いプラン、すなわち月間の通信容量が無制限で「使い放題」などの大容量プランをどれだけ獲得したのかを測定する「高容量プラン獲得率」だ。KDDIは60~70%程度の獲得を標準とする非常に高い水準を求め、54%未満なら「ショップ失格」の烙印を押して減点している。
KDDIはプランごとに係数を設定することで、段階的に差をつけている。プランへのKDDIの評価が細かく反映された大容量プラン獲得率によって、この項目での「総合指標ポイント」が決まる。詳細は以下の表のとおりだ。
このピタットプランは「通信料金が高すぎる」との批判を受けて、数年前に導入した目玉プランだった。それが現在では代理店のインセンティブを下げるプランになっているとは驚きだ。
大容量プラン獲得率で最高評価の75%以上の場合、「総合指標ポイント」で15点になるが、注目すべきは一番低い54%未満への配点だ。0点ではなく、-2点という設計になっている。
実は少し前までは、こうしたマイナス点の評価はなかった。「2020年9月~11月」の代理店施策の大容量プラン獲得率の配点は、最高で70%以上の14点、最低で52%未満の0点だ。それ以下は存在しない。それが前回の「2020年12月~2021年2月」の代理店施策から突如として最低点が-2点になったのだ。
KDDIがわざわざマイナスのポイントをつくったことに、前出の代理店幹部は「これは、『54%以上は必達』という、KDDIからショップへの強烈なメッセージだ」と語る。
もっとも、多くのショップは、マイナス点を回避するというレベルの目標で動くわけではない。総合指標ポイントはお店の経営に直結するため、当然ながら少しでも上の点数を狙って必死になっているところが多いという。
大きな問題は、実態との乖離だ。この指標測定において54%はあくまでも最低ラインで、60%、70%の大容量プラン獲得率を目指させている。だが、総務省の調査によれば大容量プランが必要な利用者の割合は高くない。
同省の利用実態調査では大手携帯電話会社4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)の利用者の42.8%が月間のデータ通信量が20GB以上のプランの契約をしているが、このうち20GB以上のデータ容量を使うのは11.3%にすぎないという。その一方で、49.5%の利用者は2GB未満しか使っていない。
実際に代理店幹部が、ショップに来る客の利用実態に合わせてプランを勧めた場合の「大容量プラン獲得率」がどうなるかを机上で試算してみたところ、40%を割り込んだという。これは、KDDIの基準では最低ラインの54%よりはるかに下の数字だ。
なお、電気通信事業法のガイドラインでは、「利用実態に合った適切な説明をすること」を求めたうえで、「利用者のニーズを踏まえずに特定の料金プランの推奨を行うことは不適切である」と明記している。
限界まで頑張らせる仕組み
携帯電話の通信プランばかりではなく、KDDIの総合指標ポイントは他項目がいずれもこのような厳しめの水準で設定されているという。
これらの評価の積み重ねが代理店の経営を左右するインセンティブを決めるが、KDDIでは限界までショップを頑張らせるための仕組みとして、相対評価と絶対評価の両方を採用している。
相対評価では、ショップの立地エリアごとに分けた各区分の中の全体で、総合指標ポイントの獲得点数の上位20%がSランク、その下の20%がAランク、その下の55%がBランク、その下の5%がCランクとなっている。ポイントが35点未満の場合はDランクになる。
相対評価では必ずS~Cまでのランクがつくが、それだけでインセンティブが決まるわけではない。店舗ランクに加え、「総得点がいくらだったのか」という絶対評価の指標との掛け合わせによって、もらえるインセンティブが大きく変わる設計だ。
インセンティブの一例として「auショップ総合指標支援金」(KDDIがショップに対して支払う店舗の運営費用)というものを挙げてみる。
一度でもDランクを取った場合は極めて厳しく、あらゆる継続手数料やスタッフの教育への支援金などが0円になる。しかも、KDDIの代理店施策資料には「Dランク店舗は永年にわたり店舗ランクがDランクとなります」と記されている。一度でもDランクを取れば、主要なインセンティブは二度ともらえなくなるのだ。複数の代理店幹部は、「Dランクは事実上の死刑宣告に等しい」と話す。
「オンライン専用」の杜撰
KDDIはドコモやソフトバンクが格安プランを出したことに追随し、ほぼ似たような料金プラン「povo」の導入を決めたが、2社と同様、手続きはオンライン専用となっている。つまりKDDIは、高齢者層など、携帯電話について詳しくない客層には、今後もショップを利用させるつもりだ。
ある代理店幹部は「本当に深刻な問題は料金プランではなく代理店施策にある。これまでも安いプラン自体はあった。だが、ショップは一定以上の客に大容量の高額プランに契約させないとインセンティブが取れないので、客をだましてでも高いほうのプランを売っているのが実情だ」と明かす。
KDDIに対し、「一連の代理店施策によってショップが不適切な売り方に走り、利用者が不利益を被る可能性が高いのではないか」と質問すると、「個々の内容については代理店様との施策になるため、コメントを差し控えさせていただきます」(広報)と答えるのみだった。
携帯大手3社に格安のプランを出させたことで政府は満足しているかもしれない。だが、インセンティブ目当てで販売店が顧客のニーズに沿った料金プランを提案できていない実態は変わっていない。必要以上に料金を支払い続けてきた人たちが置き去りのままだ。
政府は国民の見た目にわかりやすい料金プランの値下げという成果を追うだけでなく、こうした問題の対応に乗り出すべきだ
以上 東洋経済オンラインニュース
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