旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

途中下車

2017年01月26日 19時31分31秒 | エッセイ
途中下車

 先日途中下車して、子供の頃に住んでいた家の周辺や小学校への通学路を歩いてみた。横浜市立戸部小学校は、今は無い。廃校になって養老院らしきものになった。自分が通っていた半世紀前で、すでに開校百年を過ぎていた。戸部農村の寺子屋から始まったのか。校歌の中に『ネオンの巷見降ろして---』巷(チマタ)って何だよ。説明されても子供には分かんねー。何だか色っぽいものなのかな。
 自分の家は戸部七丁目で、学校からは一番遠かった。1kmは離れていた。もう少しで別の学区(平沼小学校?)だ。ちょうど通学路の中間にある亀田病院は、建て替えたらしく以前より多少ましな建物になっていた。ここには大学の時2週間ほど入院したが、その当時でも中も外もボロボロだった。でもインターンの看護婦さんは可愛いかったな。
 50年経って随分と変わった所もあり、ちっとも変っていない場所もある。全体に開発に取り残された、変わり映えのしないところが多かった。むしろ寂れた印象だ。横浜駅の東西やみなとみらいとはえらい違いだこと。そしてどの家も場所も、子供の時の印象と比べてずっと小さい。道も驚くほど狭い。毎日のように遊びに行っていた親友の家は、周辺ごとすっかり取り壊されてビルになっていた。同級生の豆腐屋の看板は、すさまじく錆びているが全く変わりがない。でも商売はやっていないし、人が住んでいるのか分からない。
 月面着陸「アポロ」という名の喫茶店は、驚いた、まだ同じ名で飲食店をやっている。少年をドキドキさせた女性のいた床屋も、いつも混んでいた小児科医院も今はない。駄菓子屋もなくなっている。子供同士で行っていた一杯40円位のお好み屋は、ヒエーまだお好み屋さんだ。一人単価数十円、数百円の商売で50年生きてきたのね。健気なもんだ、世代交代はしているだろうに。思えば昭和30年代は、路地はガキであふれていたが、今は年寄りがチラホラいるだけ。
 同級生の女の子の家はまだ昔のままだ。でも空き家のようだ。玄関のそばにピンクのビニール傘が掛けてある。この家もこんなに小さな家だったんだ。こんなに小さくて、妖精の住処だな。この家の前の空き地は、放課後の三角ベースボール場だったが、今はアパートで埋まっている。この家のお母さんには、よく麦茶やジュースを御馳走になった。この家に住んでいたきれいな女の子は、大人になって女優になった。名前を聞けば大抵の人は分かるが、ナイショ。やはり同級生の女の子の両親がやっていた銭湯は廃業していたが、背の高い煙突はそのまま残っている。お化けダンダンは健在だ。ここは高台でみなとみらいがよく見える。こんなに小さな階段だったのね。これも驚いたことに、通学路の学校近くの狭い道にある小さな銭湯は、まだやっている。風呂釜は薪で焚いているようだ。50年、この小さな商売をよく続けたものだね。今度入ってみようかな。
 同じような感想が続くが、もう少し待ちなさい。人の感傷に付き合うのは、大人のやさしさだよ。通学路とは反対側になるが、母親とよく買い物に行った平沼商店街にも行ってみた。相当寂れている。商店街の看板が錆びちゃっている。ここが賑やかだったのは戦前の話だ。母が金太郎と名付けた威勢の良い親父がやっていた八百屋は、何だか寝ぼけたような飲食店になっている。他の店も大方は廃業、変わらないのは踏切の脇の質屋くらいか。あと写真屋さんも健在、ちょっと嬉しい。確かオモチャ屋があったのはここら辺。でも記憶違いかも。古くからある天ぷら屋は健在だったが、実はこの店で食べた記憶はない。この様子じゃあ、夏の縁日はやっていないだろうな。
 かもん山公園、横浜開港の恩人、桜田門外の変で果てた井伊掃部守の大きな銅像のある公園。ここは図書館、音楽ホール、青少年センターと隣接していて中高生の頃によく通った。そんなに変った風ではない。そういやあそこで不良に絡まれた。今はどうやら、昔の子にはそんな事がよくあった。桜の頃ならともかく、今は寒いので人は少ない。ここを今回のセンチメンタルジャーニーの終着駅としよう。キリが無いからね。ここでちょっとした感動に出会った。
 かもん山公園は、丘全体が公園で天辺に銅像、中腹に池、ふもと近くに広場がある。その広場のようなスペースには砂場があり、お母さんが子供を遊ばせている。自分が頂上を目指して歩いていると、上の方から自転車に乗った少年(まだ1.2年生くらい)と、幼稚園がせいぜいの赤い服を着た女の子がかなりのスピードで降りてきた。少年が先で、女の子がやはり自転車にしがみついて、ゆるやかなカーブを通り過ぎる。少年が大きな声で言う。「僕についてきて!」「ハーイ」と女の子。恰好ええ、女の子のハーーイも良かった。っとそれだけの話。
コメント
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