「きゃっ!!」
振り返ると3mぐらい離れた所にブタが物言いたげに立っている。
やはり、あの時、私を見ていたのだ。
しかし、コンビニの制服でこんな所まで来てもいいのか?
あの浮浪者はブタを見て、なぜあんなに怯えて逃げたのだろうか。
それとも、ブタの方に何かが取り憑いているのが見えたのだろうか。
「そんな所に突っ立ってたら驚くじゃない!……な、何なのよ。……」
ブタはゼイゼイ言いながら、恨めしそうに彼女を凝視して微動だにしない。
顔中の大粒の汗が競争するかのように、頬をつたって地面に落ちる。
「何!? 何か言いなさいよ!」
ブタはいつものようにぼそぼそと呟く。暑い中、ほとんど聞き取れない言葉に
いらだち、今まで溜まっていたストレスを一気にぶちまけた。
「キモいんだよ!ババァ! 用がないんなら、さっさとどっかに行けよ!」
ブタは一瞬うなだれたように首を傾げた。「ふぅ~、ふご、ふぅ~、ふご」
太っていて器官を圧迫されているのか、鼻が悪いのか解らないが、正に豚の
息づかいそのものに聞こえる。状況は非常に滑稽であるが、気持ち悪さの方が
勝っていた。彼女はこの場を早く立ち去ろうと思った。ブタを無視して歩き
出そうとした時に、ブタが巨体とは思えぬ素早い動きで彼女に突進して来た。
ブタが近づくにつれ、明確になる言葉。それは聞いても意味がわからなかった。
「このぼけえええ!!なんできたんやあああ!!なんでやあああ!!」
「なぜ来た」と言う言葉の意味を考える時間などなく、ブタの形相を見た
彼女は足がすくんで逃げる事ができなかった。身構えたが遅く、状況を
把握できないまま、ブタに捕まってしまった。ブタのヌルい汗が飛び散り、
彼女の顔にかかる。強力な握力で彼女の腕をつかんでいるその手は水で
濡らしたように汗で湿っている。ブタから出る口臭と体臭はドブ川の臭い
に感じられた。彼女は不快極まりない人間に揺さぶられながら、意味不明
の恨み言を言われる。腹立たしさが体の奥から溢れ出てきた彼女は、渾身の
力を持って、ブタの腹にヒザ蹴りをする。ゲフッと喘いだ時に、唾が顔に
かかる。彼女にとってそれは効果的であった。嫌悪感に怒りが増長されて
ヒザ蹴りの応酬が始まった。怪力の女も腹を守る為に手を緩める事になる。
「てめぇ!!離せよ!キモいんだよっ!離せ!」
「ぼけがあああ!くそおおお!ぼけがあああ!」
ブタの手が彼女から離れた瞬間に、顔面に平手を打つ。唸りながらよろめく
ブタ。その隙に彼女は一目散に逃げる。顔を拭うのは汗と怒りの涙だった。
あれ? 霊じゃないの? ボスヒコ
公園を挟んだ向こうにもコンビニがある。都会にしては割と広い公園だった。
グラウンドも整備されているし、暗い所が出来ない様に照明もまんべんなく
配置されている。段ボールの家や青いビニールシートの家は比較的少ない。
私は近道と安全の為に公園の中を突っ切ってコンビニへと向かう事にした。
夜食とビールを多めに買い込んで店を出た。幾分落ち着いたが、まだ帰る
勇気がない。公園でハトのフンが付いていないまともなベンチを見つけて
ビールを呑む為に腰掛ける。一口呑んだ口当たりのよさに、ついため息が
出る。まだ夜中の1時。朝まではまだまだ時間がある。この近所に友達も
いないし、車で駆けつけてくれる彼氏もいない。やはり選択は1つだった。
ビールを1本呑み終える頃には、多少度胸も出て来た。気合いを入れて
立ち上がった。マーチを行進するかのように力強い足どりでビルに向かう。
10mぐらい先にワンカップ片手に酔っぱらっている浮浪者がヨロヨロと
歩いている。彼はにやにやしながらワンカップの中身を見ている。そして
酒を啜るように呑んだ後、私の方を見た。しばらく虚ろな目で私を見ていた
が、しだいに息づかいが荒くなってきた。少し酔っているのと、相手が
老いぼれで酔いどれなのであまり恐くはなかった。充分に逃げれる間隔で
私は足を止めた。「…はぁ、はぁ、はぁ、」浮浪者の肩が大きく動き出す。
大事なはずのワンカップを地面に落とした。浮浪者の酔いはもう醒めている。
「わっ!あああ!!やめろぉ、やめろぉぉぉぉっ!!!」
私が何をしたって言うの?
「あああ!!く、来るなっ!来るなっ!ひいぃっ!」
何!? ひょっとして、私に何か憑いているのが見えるの!?
浮浪者は足を引きずりながら逃げて行く。私はやっと彼の恐怖の対象が
自分でないのが解った。全身に鳥肌が立つ。私はゆっくり振り向いた。
ブタがいた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/22/58162cb6c49a338a82d30802b75f2147.jpg)
最初は足音の主が乗っていると思ったが、降下してきたエレベーターには
誰も乗っていなかった。今は扉が一定時間開いた後、閉まった状態でいる。
無人のエレベーターが勝手に動く理由など、考えればたくさんあるし、今は
疲れているので理由なんてどうでも良かった。家で寝ていたい…。バイトの
レベルに近い駆け出しのフリーライターにとって、“休み”などない。どんな
仕事でもやりこなさなければ即、解雇だ。しかも大事な特集ページの締め
切りが迫っている。どうしても4階に行かなければ。最悪、コンビニの前で
朝まで過ごすしかない。時間の無駄と体力の浪費なのは解っているのだが、
恐怖で何も考える事が出来ない。階段の足音、勝手に動くエレベーター、2階
の影、恐ろしい手。一気に襲ってくる恐怖現象に震えながら、外の空気を
吸おうと外に出る。あ、しまった。さっきの騒動で階段にコンビニで買った
物を置いて来てしまった。すぐに取りに行けば、おにぎりとかは少々形が
崩れているだけで食べれるだろうが……。無理だ。まだあそこには行けない。
この暑さではしばらくしたら傷んで食べれなくなる。あきらめるしかないか。
再びコンビニに行く事にした。ああいう事が起こった後では、コンビニの
明るい店内でも救われる。ここのコンビニはお酒も売っているのでビール
でも買って気を紛らそう。コンビニへ向かおうと足を向けた時、レジから
視線を感じるのでそちらを見た。ブタと目が合ってしまった。無表情な
ブタがレジの奥から私を見ている。私はさっきの安心した感情を汚された
気分になり、踵を返してしまった。何あいつ?今から出勤だったのかよ。
しょうがないか。これ以上、ヤな気分になるのは嫌だから、違うコンビニ
へ行こう。少し遠いが、気持ちを落ち着かす為にも散歩もいいだろう。
しかし、入り口でもないあの距離でこうこうと明るい店内から暗い外を見た
場合、中の物が反射して外の光景は見れるのだろうか。確かに目が合った気が
したが、私の思い過ごしかな。まさかガラスに映った自分に見とれていたのか?
どっちにしろ、今はブタの態度を受け入れる事は無理。泊まり込み1週間目。
家に帰れるどころか、散々な目に合っている。ああ、このまま家に帰りたい。
ブタは歩き去る彼女の背中をまだ見つめていた。
家でも熱中症になるんだね~。 ボスヒコ
「誰かぁぁぁぁ!!誰か開けてぇぇぇえぇええええ!!!」
上から降りて来る足音が間近に聞こえてきた。助けを求めても期待はできない。
彼女はドアを蹴った。ドアの隙間から微かに光が漏れる。彼女は2、3歩下がって
ドアに体当たりを喰らわした。ドアノブから乾いた金属音が鳴る。外れたのか?
もう足音はすぐ後ろまで来ている。階段内の温度が一気に下がった。彼女は背筋が
凍りつきながらも、最後の望みでドアノブを回した。「ガチャ」何もなかったかの
ようにドアが開き、1階玄関が見えた。彼女は素早く出て、ドアの鍵を閉めようと
焦る。「!?」 だが、鍵は閉めれなかった。ドアノブには何も付いていなかった。
鍵穴すらもないただのドアノブだったのだ。「じゃあ、さっきは!?」一瞬、頭が
混乱しそうだったのをなんとか止めて、とっさの判断で身体全体をドアに押しつけた。
あの足音の勢いではドアに衝突するだろう。そして、まだ追ってくる可能性もある。
来ない。足音は聞こえなかった。気配はない…と思う。足音の主はあきらめたのか?
それともまだドアのあちら側にいて、私がドアノブをゆるめるのを待っているのか?
ドアが閉まった理由は?閉められたとして、誰が閉めたのか?なぜ助けてくれない?
…ひょっとして、これも疲れのせいかしら。見てもいないのに見たと思い、存在
しないものに怖がっている。少し休まないとダメかな。…そうよね。追われる理由
なんてない。鍵がかかっていたと思ったのも、階段内の反響音にパニックになって
あせってたんだわ。…、私、相当疲れてんな…。こんなにドアを押さえてんのが
馬鹿馬鹿しくなってきたわ…。……いないよね。……いないいない。いるもんか。
彼女はドアから音を立てずに離れた。何も起こらない。ドアノブを穴が空くぐらい
に見つめる。動くな。動くな。動くな。彼女はもう一度、ビルの外に出ようとして
少しづつ後ずさった。2mぐらい離れた時に、エレベーターのライトが点滅した。
エレベーターが動き出して、2階から1階に下りて来る。
鍵の閉め忘れにご注意。 ボスヒコ
ますますマキコロは転がり落ちて行きます。
彼女は突然道ばたに座り込むと、うずくまりました。ボスが「気持ち悪いんか?」と聞くと、うめきながら顔を上げたマキコロが「ハッ!あそこに黒いものが、黒いものがいる!」と大騒ぎし出したのです。彼女が指差す方を見ると、なんと黒い陰が!!・・・通行人でした。
その後、カラオケ屋の店先で再度うずくまり「気持ち悪い~吐く~。おえ!出ない~」と泥酔祭り。店内に入り早速トイレに直行し、心配したミワンコが渡した烏龍茶を飲みもせず何故かコップを洗うマキコロ。家と間違えているのか(普段ならそれで良いんだよ)
その後、歌い始めると何度も同じ曲をいれ、西村君に強制的にマイクを渡し、セクシーポーズをキメようとするも指をなめ過ぎて、吐こうとしてる人みたいになっていました。もしくは指が美味しかったのか?ま、確かに美味しそうな形状ではあるけれども。
一度トイレに行くために部屋を出て、再び部屋に戻って来るとボスの隣に腰を下ろすマキコロ。が、「あれ?ミワンコさんがいない!いない!」と大慌て。あんた、さっきと違う位置に座ってるだけでミワンコはずっと同じ所に座ってんだよ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/24/f237fa4f3d17717589f0502a343d52ba.jpg)
そんなこんなでカラオケ屋を後にし、家に向って歩き始めた私達。もうマキコロは眠くてしょうがない様子。まるでゾンビか、何かのクスリをキメてる人みたいな顔でヨロヨロと後方から着いて来ます。あー、今はみんながいるから大丈夫だけど、一人だったら道ばたであろうが寝るわな。と、たまに振り向いてちゃんとマキコロが着いて来てるか確かめつつ、私達は家に帰り着いたのでした。
たぶん私が忘れてる部分や、居眠りしてて知らない部分もあると思いますが、いや~笑わせていただきました。毎度ありがとうございます。
Nikolai Kapustin / Kapustin: 24 Preludes
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