kiske3の絵日記

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泊まり込み 2

2006年07月26日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

人の頭を鷲掴みできるほどの大きい白い手がエレベーターの淵を握っている。
全身の血の気が引き、喉が詰まりそうなぐらい息をのむ。叫び声は出そうと
思っても出ない。恐怖が渦巻く中で彼女は失神しかけていた。ドアが閉まろうと
するが白い手が押さえていて閉まらない。その音がエレベーター内にこだまする。

ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!

気がおかしくなりそうなエレベーターの音とは反比例して、暗闇から何かが音も
立てずに浮かび上がる。ドアを押さえている手とは別のもう1本の手がゆっくり
伸びて来た。その手は白い手よりも一回り大きく、真っ赤だった。その真っ赤な
手は目があるかのように彼女を見つけると、一気に伸びて彼女の身体を掴もうと
した。とっさに彼女は後ろによけて、真っ赤な手は空を掴む。声が戻ってきた。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

思いっきり叫んでしまったので頭に血が上り、一瞬ふらついた。その時には2本の
手は消えていた。エレベーターのドアがゆっくり閉まっていく。2階に止まったまま、
彼女は放心状態でたたずむ。しばらくしてやっと我に返り、恐怖がよみがえってきた。

な、何!? 何!? 何!? 何!? 何なの!? ………。

今度は恐怖で1階のボタンを連打していた。1階に着くなり外に飛び出し、歩行者と
ぶつかりそうになる。顔がショックで歪んでいたのだろう。その歩行者は見て見ぬ
ふりして過ぎ去って行った。知らない人でも人の存在があるだけで安心した。彼女は
しばらく震えていたが、平静を取り戻しつつあった。だが、とうに終電の時間は過ぎ、
雑誌社に戻るかどうかを考えなければいけなかった。どこかのシティホテルに泊まる
ほど金銭的に余裕はない。街をぶらついて朝まで時間を潰す事も可能だったが、そんな
事をすれば身体は疲れるだけだし、明日に控えている激務にも差し支えるだろう。

結局、雑誌社に戻る決心をする。そうだ!馬鹿にされるかもしれないが、高田さんに
事情を説明して降りて来てもらおう!お詫びに夜食をおごらせてもらうって事で!
良い考えだと思ったのもつかの間、高田さんの携帯番号を知らない。しょうがないので
雑誌社に電話をかけた。……出ない…………トイレかな………シャワーかな…………。

電話は留守電に切り替わった。とりあえず、そこのコンビニで夜食でも買っておこう。
高田さんに頼まれる物はほとんど同じなので、さっさと商品をカゴに入れてレジに進む。

今日はあの「ブタ」はいないんだ。ここのコンビニで唯一ウザイやつ。歳は40手前
ぐらいで背は普通。極度の遠視なのか牛乳瓶の底のようなメガネから拡大された目が
光っている。太った身体を邪魔臭そうに動かし、「いらっしゃいませ」や「ありがとう
ございました」などの言葉は聞こえず、商品の値段をため息まじりで呟くだけの女。

私は高田さんの買い物をするのが嫌だったんじゃなくて、ここのコンビニのブタに
会うのが嫌だったのかも知れない。再び、反省をしてコンビニを出た。もう一度、
雑誌社に電話をかける。お願い、電話に出て、高田さん。つい、上を見上げて4階の
雑誌社の窓の明かりを見る。高田さんのデスクは窓際じゃないし、人影などなかった。
留守電に変わった電話を切り、1人で4階に上がる決心をつける為に冷たい缶コーヒー
を飲み干す。その時、なにげなく見た、明かりが灯っていない2階の窓に目が行った。


暗闇の中の黒い影。その影は私をじっと見つめていた。











この話の全貌をミワンコに話したところ、腰を抜かしました。     ボスヒコ
                               
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