kiske3の絵日記

一コマ漫画、トホホな人の習性、

映画批評、恐怖夜話、あらゆる

告知をユルく描いて書いてます。

泊まり込み 1

2006年07月25日 | ボスヒコの「恐怖夜話スペシャル」

泊まり込んで今日で6日目。特集の取材や現在連載中のエッセイなどの
仕事が押して、ほぼ、着の身着のままで現在に至る。私はフリーライター
で、最近はこの雑誌社で仕事をしている。まだ愛着もわかない室内が新鮮
だったが、さすがに連日泊まり込むと見るのも居るのも嫌になる。幸い、
ここの雑誌社にはシャワールームがあるし、このビルの1階はコンビニ
なんで、下着などは変えれるので不潔ではない。しかし、後1日泊まると
1週間だ。1週間っていう言葉に滅入ってしまいそうなんで、久しぶりに
家に帰る事にした。家といっても1LDKのボロアパートだが、自分にとって
は癒しの城だ。さっさと用意をして終電があるうちに帰ろう。事務所用の
サンダルを靴に履き替えている所に編集者の高田さんに声をかけられる。
高田さんは私が靴を履き替えている所を見れば外出すると思い、自分の
買い物を頼みに来る。大体は下のコンビニでおにぎりなどの夜食を頼んで
くるのだが、はっきり言って面倒くさい。この前なんか、たまたま買うのを
忘れて帰って来たら、あからさまに残念そうな顔でため息をつかれた。いい
加減自分の物は自分で買いに行ってほしいもんだ。私は余計に急ぐフリを
して靴を履き、カバンを持った。「あれ?もう帰るの?」ほら来た。そう
なんですよ。全然家に帰ってないんです…。「次、いつ来るの」次?明日
ですけど…「そうか…、じゃ、夜食頼めないね」私は「じゃ」にカチンと
きてしまい、初めて高田さんに文句を言ってしまった。彼に嫌みの1つでも
言われると思い身構えたが、意外に素直に謝られた。拍子抜けと同時に
自分が苛立っていた事に気づき、急に恥ずかしくなった。そういえば、
高田さんも徹夜続きみたいだ。前に見た時と服装が同じなのが泊まり
込みを物語っている。あ~、なんて小ちゃい女なんだろ。私は先ほどの
失礼な態度を詫びてから、改めて夜食を買い出しに行く事を申し出た。

「すいません…。徹夜続きでヒステリックになっちゃって…。あの、
 私、買いに行ってきますんで、なんでも言ってください」

「いや、また次の時にお願いするよ。終電もなくなりそうだしね」

私は再度訊いたが、彼は手を振って自分のデスクの方へ歩いていった。
しょうがないか…。終電の時間が差し迫っているので悔やんでいる暇は
ない。猛ダッシュで部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。たかが
4階から1階までだが、苛つくぐらいに長く感じた。早く降りてよ。

チン。

2階でエレベーターが止まった。2階の廊下はなぜだか薄暗かった。

貸事務所がまだ空いているんだろうと思いながら、誰か入ってくるのを
待ったが、一向にその様子がない。私は終電への焦りでドアを閉じる
ボタンを強く押してしまった。ドアが「うるせえな、落ち着けよ」と
言わんばかり遅い反応で閉まろうとする。舌打ちをしつつ、ボタンを
連打する。エレベーターの分厚い二枚のドアがゆっくり閉まって行く。


その時、薄暗い廊下から白い手がのびてきて、ドアが閉まるのを止めた。







あ~あ、始まっちゃた。                 ボスヒコ