2024年08月02日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[洋上風力発電と漁業 日本の経験#82 浮かんできた協議会の「盲点」 導入本格化する北海道]
(2023年08月04日付“朝日新聞”(日浦統)様から転載)
洋上風力発電、浮かんできた協議会の「盲点」 導入本格化する北海道
「ゼロカーボン北海道」を掲げる北海道で、大規模な洋上風力発電の導入が本格化している。導入の決め手となるのが、再エネ海域利用法に基づく「促進区域」の指定だ。一般海域を最長30年間利用できて、国の支援も望める。国は、原子力発電所のような地域の分断を招かぬよう、自治体や地元関係者でつくる法定協議会の同意を指定の要件とする。しかし、ここに来て、この合意形成手法の「盲点」も浮かび上がっている。
7月31日、北海道最南端の町、松前町で3回目となる法定協議会が開かれた。町沿岸の約3710ヘクタールに洋上風力発電所を建設することについて合意した。会議では、若佐智弘・松前町長は「人口減は深刻。気候変動で主力のスルメイカの漁獲量減少に歯止めがかからない」など実情を説明。町を「風をいかしたリニューアブルタウン」とする将来像を打ち出し、発電所が漁業の活性化や雇用創出などにつながる期待感を表明した。松前さくら漁協の吉田直樹代表理事組合長も「漁業資源を守っていかねばならない。漁業者と事業者が互いに知恵を出し合えば、共存共栄できる」と合意の理由を説明した。
意見のとりまとめではヤリイカの漁期や産卵期の2~5月は工事を休止することや、マグロの漁期にあたる7~1月は沖合での工事で振動や騒音の低減措置をとることが明記された。地域振興のための財政面でも、売電利益を地元に還元する基金の設立も盛り込まれた。
松前沖、道内初の「促進区域」へ
松前沖は今秋にも、道内に五つある再エネ海域利用法に基づく「有望な区域」の先陣をきって「促進区域」に指定される見通しだ。
北海道は全国よりも10年早いペースで人口減が進む。国が推進する洋上風力発電所の建設は、過疎化対策の側面もあり、地元では賛同意見が少なくない。道内では同じく「有望な区域」である檜山沖、岩宇・南後志地区沖でも協議会が設立されて議論が始まった。
ただ、協議会による合意形成手法を懸念する関係者もいる。
8月2日、札幌市内で開かれた道の「洋上風力推進連携会議」の会合。「知れば知るほど、不信感がどんどん募っている。本当に経済的に採算があうのか」
北海道機船漁協組合連合会の原口聖二常務理事はこう本音をぶちまけた。沖合を主な漁場とするトロール漁業の業界団体を代表して、出席した。北米で採算の悪化から欧州の風力発電事業者が撤退している例などを引き合いに、日本でも導入した後で「補償がまともに受けられるのだろうか」と疑義を呈した。そのうえで、海外のように、幅広い利害関係者が参加して、広範囲で洋上風力の開発海域を定める「海洋空間計画」を策定する手法を採るべきだと訴えた。
本来、海に区域はなく、魚は自由に移動する。ある地域で起きた沿岸漁業への悪影響が回り回って、沖合のトロール漁業に及ぶ可能性は否定できない。「なのに、我々は地元協議会には参加できない」と原口氏は憤る。
環境保護団体からは、協議会の構成員が限られている点への不満も表面化している。
環境保護団体に募る不満
昨年12月20日、北海道自然保護協会(札幌)など4団体は国と道に、石狩市沖で進む洋上風力発電所に関する協議会に、環境保護団体を構成員として参加させるよう求める要望書を提出した。
石狩市沖は安定して良質な風が吹き、遠浅の海岸をもつことから、10社が洋上風力発電所の建設を計画する道内有数の集積地だ。想定される発電容量は最大114万キロワットと、原発1基分に相当する。港湾区域内では今年1月からは、国内最大級の11万2千キロワットの洋上風力発電所の商業運転もスタートしている。
4団体は「風力発電所が計画されている海域は、2019年に石狩市が、市内を環境保全を優先すべきエリアと風力発電導入可能なエリアに分けた『ゾーニングマップ』のうち、環境保全エリアと重なる」などとして、建設中止を求めている。
法律上、協議会の構成員は「漁業関係団体や利害関係者のほか、知事などが必要と認める者」とされる。しかし、昨年末時点で、全国各地で設立されている法定協議会に環境保護団体が構成員で参加している例はなく、その後も参加例は出ていないとみられる。
どこまでを、洋上風力発電における「利害関係者」ととらえるのか。国内では初の試みだけに、試行錯誤が続きそうだ。
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