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北方領土で「日本人」を発見 外務省要請を無視、渡航を続ける漁師に直撃 日経ビジネス 

2015-07-07 21:36:06 | 日記
2015年07月07日 日経ビジネス 鵜飼秀徳

[北方領土で「日本人」を発見 外務省要請を無視、渡航を続ける漁師に直撃]

北方領土で日本人労働者を発見――――。
日本人の入域が厳しく制限されている北方領土・択捉島の内岡(なよか)で7月4日、日本人が無許可で上陸しているのを「ビザなし交流団員」として同島を訪れていた日経ビジネスの記者が目撃した。
この60代男性は本誌の直撃取材に「何度も北方領土に上陸している。(入域するな)という外務省からの通達が来ているが無視している」と答えた。男性はロシアの水産会社に雇われ、北方領土水域で、はえ縄漁に関わっていると見られる。
外務省は日本人がパスポートを所持し、ロシアビザを取得して北方四島に入域することを禁じている。これはロシアの管轄権を認めることになるからだ。
だが、これまで「日本人が無許可で上陸している」との未確認情報は存在していた。しかし、現地には日本人は誰ひとりとして住んでおらず、上陸行為を確認することはできなかった。近年、現地で日本人に接触するのは、日経ビジネスが初めて。ここではそのやりとりの一部始終を公開する。
北方領土は戦後、ソ連自国民ですら入域が制限されていた特殊な地である。しかし、1980年代に入ると、ソ連側が日本人にビザを発給して北方領土に入域させる事例が出てきた。これを政府は問題視。再三、ソ連の不法占拠下にある北方領土への入域は、領土問題解決までの間、行わないよう国民に要請している。92年にソ連側からの提案を受ける形で「パスポート・ビザなし」による相互訪問が実施されると、政府はこの枠外の入域は認めない、というスタンスを取っている。
ビザなし訪問団員は、国会議員、元島民、学術研究者、メディア関係者などに限られる。団員は専用にチャーターされた船に乗船し、根室港から出航。国後島沖で入域検査を受けるなどの手続きを踏まなければ入域できない。仮に、船でオホーツク海を航行して北方領土に渡った場合、ロシア国境警備隊に拿捕されることになる。
ところが、記者が択捉島に着いた初日の朝、埠頭で1人の初老の男性が近寄ってきて日本語で話しかけてきた。最初は、島で土木工事に従事するアジア系の季節労働者かと思ったが、「自分は日本人だ。前立腺肥大を患っていて苦しい、あんたビザなし交流でやってきたんだろう。誰か前立腺の薬を持っていないか」と訴え始めた。
記者はすぐにカメラを回し始めた。

外務省の警告は無視
記者:あなたは、土木工事関係でこの島に入ったのか?
日本人男性(以下、男性):いや、オレは漁師だ。たまたまこの海域に用があったんだ。サハリンやらウルップやら択捉など、好きなところで漁をしている。
記者:よく、北方領土に上陸するのか?
男性:しょっちゅうさ。年がら年中、上陸する。
記者:許可を得て、ここに入っているのか?
男性:いや、日本人だという理由で、外務省は(北方領土上陸を)ダメだという。だから黙って入っている。外務省からは(渡航を禁止する旨の)内容証明が送られてくる。
記者:(通知が)何回来ている?
男性:何度も来るけど無視している。(北方領土海域で)事故を起こしたりすると連絡がくる。過去に乗っている船が浅瀬に乗り上げるなどの事故を起こしたことがある。そうすると、外務省にばれる。今は、開き直っているからいいけど。
記者:外務省からは、なんて言われる?
男性:「日本の国だけれど、渡らないで」ということ。(日露間で領土問題の)話し合いをしている最中だから、渡ってはダメということだと。(外務省には)「クソ喰らえ」って言ってやるよ。

ロシアに雇われている
記者:パスポートやビザは?
男性:あるよ、持ってきとるよ。なかったら(ロシア側に)捕まるだろう、おい。
記者:どこでパスポートのチェックをしているの?
男性:どこへでも(ロシア警備隊は)やってくるよ。湾に入ると、船の中でパスポートチェックがある。
記者:日本人は何人で入ってきている?
男性:オレ独りだ。
記者:いつからこういう手段で島に入っている?
男性:20年くらい前からだ。日本と行ったり来たりの生活をしている
記者:何を獲っている?
男性:色んなものを獲っている。はえ縄漁だから。
記者:あなたはギドロストロイ(択捉島の大手水産会社)の人か?
男性:いやギドロストロイではない。でもギドロには色々とお世話になっている。オレ、ロシアの会社の人間よ。ロシアの会社の命令で、どこ行け、そこ行けと言われたら、行かないといけないでしょ。ロシアの従業員だもん。
記者:どこの会社に雇われている?
男性:自分の会社の名前なんて分からない。どこだっていいだろう。
記者:日本の水産会社ではない?
男性:日本なんて関係ねえよ。日本人だけどロシアで働いている。出稼ぎだ、要は。
記者:あなたのほうから「雇ってくれ」と言ったのか。
男性:いや、会社のほうからだ。
記者:では、択捉島ではどこに泊まっている?
男性:自分の(所属するロシアの)船だよ。島で泊まりたければ、どこにでも泊まれるけれど。

男性はロシアの水産会社に所属していると話した。ロシア企業が日本人を雇って、北方領土へ”出張”を命じた場合、確かに入域は可能だ。こうした「抜け穴的上陸」に外務省は今のところ、打つ手はない。当地はロシアの実効支配が及び、ロシア側が入域を許可さえすれば北方領土に入ることはできる。
だが、こうした上陸が繰り返されれば、北方領土がロシアのものだ、との「既成事実」を積み重ねることにもなりかねない。領土交渉の障害にもなる。
だが、そこには大きな矛盾もある。そもそも北方領土は日本の領土だ。日本の領土に日本人が入れず、日本人以外の外国人は自由に入れるジレンマがある。近年、北方領土では韓国、中国、北朝鮮の労働者がロシアビザを取得して島に入り、土木・建設に従事している現実がある。また欧州からの旅行客も増えてきている。
こうした状況に対し、政府は打つ手がない。北方領土が占領されて今年で70年目。「ビザなし」の枠組みだけが唯一の渡航の手段だけに、高齢化傾向にある元島民からは、苛立ちの声も上がる。

「北方領土に入っているのはオレ独りだけ」
記者:出身は?
男性:北海道の霧多布。昔は漁師をやっていた。昆布漁に出ていた。漁に出るうちにロシア人と知り合いになる。そうして、「うちで働かないか」と声がかかる。
記者:ロシア語はペラペラ?
男性:ペラペラではないな。ただ、お互い漁師だとすれば、漁の話くらいは分かるな。ロシア語なんて、難しくて学校に行かなくては無理だ。
記者:島のホテルに宿泊したこともある?
男性:ない。北方四島では色んな所に泊まる。友達もいっぱいいる。
記者:国後島にも入る?
男性:あんまり入らないけどな。船を回してきた時は、入る。会社は色んなところにある。
記者:他にそういった日本人はいる?
男性:いないべ。前は船に乗っていた連中らが結構いたけどな。今は、俺一人だ。
記者:土木関係もいない?
男性:いないんでないかな。(日本人に見えるのは)韓国人じゃないかな。(岸壁工事を指差して)見なさい、このコンクリート。これ作っているのは、みんな韓国人だ。

「北方領土はロシアのものだ」
記者:北朝鮮人は?
男性:いると思うよ。
記者:日本人だけがいない?
男性:珍しいんだな。俺だけだ、って言っている。
記者:あなたが択捉島に渡ったのは何で?
男性:ここでは何にもしない。
記者:あなたの会社とギドロストロイはライバル会社?
男性:違う、違う。でも北方四島はギドロストロイがほとんど牛耳っているね。何かあったらギドロストロイだね。
記者:択捉島ではギドロストロイが何から何まで作っているんでしょう?
男性:ギドロの会長は善人だな。俺は何回も一緒に飯を食っている。奴は力がある。
記者:この海域でも、来年からサケ・マスの流し網漁が禁止されるでしょう?(2016年から排他的経済水域での流し網漁を禁止することを今年6月、ロシア上院が可決)
男性:知らねえ。オレは流し網なんてやらない。日本の連中は相当にやられてるんじゃないのか。ところで、オレ、前立腺の肥大症の薬がほしいんだよ。
記者:処方箋は?
男性:処方箋、持っているよ。持っているけど、いつ日本に帰れるか分からないから心配なの。誰か(ビザなし交流団員に薬がもらえないか)聞いてみてもらえないか。
記者:どのくらい日本に帰ってないのか?
男性:2カ月か3カ月だ。
記者:蟹を獲る?
男性:獲らない。蟹はロシアもほぼ、全面禁止だ。200カイリのサケ・マス漁なんて、今まではどんなことをしてもよかった。
記者:北方領土問題に関してはどういう考え?
男性:モスクワに行けば、北方四島なんてどこにあるか誰も知らない。ウラジオストクなど極東の一部の人間が知っているだけだ。「どこにあるのそんな島? 他人の島なら返してきなさい」って言うだけの話だ。プーチン大統領だって、返したくても返せないから泣いているんだ。
しかし、(そうしたことは)日本が受け付けないし、アメリカが受け付けないだろ。本当の話はそうだ。日本の報道も違う。こんなカスみたいな島に、ロシアのどこに収まれと言うの。クリミアだってそうだ。もともとはロシアのものだ。
記者:北方四島もロシアのものだと?
男性:ロシアのものだ。
記者:島の中はあまり歩き回らない?
男性:こんなところ、歩いてどうするんだよ。
記者:車がないとね?
男性:車なんかなくてもどうにでもできるけれど、行ったって仕方がない。熊しかいないし。
記者:(島の至る所にわいている)温泉には行かない?
男性:行かないな。ギドロストロイの船の風呂に入れてくれた方が良いな。オレはどこでも行って、頼めば入らせてくれるんだ。

男性は翌日も内岡の港に姿を見せた。悪びれる様子もなく、一部の訪問団員に語りかけるなどして、ロシア漁船に戻っていった。
北方領土問題は今秋、一つの山場を迎えようとしている。年内にも安倍・プーチン首脳会談が実現しそうだ。プーチン大統領は最近、北方領土問題に触れ、「全ての問題は解決できる。そのためにも会談は不可欠」と述べている。だが、一進一退を繰り返し、その都度、元島民ら関係者を落胆させてきた北方領土交渉の駒を、今回どこまで進められるだろうか。
元島民の平均年齢は2014年時点で80.2歳。四島で1万7000人いた島民は、現在、6500人にまで減っている。残された時間は余りにも少ない。

写真:男性が乗ってきたロシア漁船
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